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第25話 奪還作戦(Recapture operation.)

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 サンド・グレインのデミルアは、巨大なゴブリンを見張っている。心なしか目の下にクマが出来て、どこか気怠そうだ。2人ともオスゴブだった。しかし、何でこんなに疲れた顔をしているのかちょっと気になっていた。

 後ろから美しいメスゴブリンが現れて、向かって右のゴブの首に腕を回して抱きついたので、その疲れが何なのか何となく察した。群れを拡大させるための何かしらのコントロールを相手のボスは行なっているのだろう。

 相手は、部下の指揮を完璧に統率できていないようだ。正に好機。通路と壁の中にまで音波遮断サウンド・シャッターのスクリーン結界を見張りから5m程、離れた位置にかける。

 サンド・グレインからの視界を共有準備で待機させる。コボルド達がそれぞれ自分のヴェアヴォルフに意識を集中させるのを待つ。

 そして、オリジナルから指令が来た。

 ヴェアヴォルフと連携の為にテレパスリンクを行う。即座に視界情報を共有する。操者の想い想いの動きをデータバンクに蓄積しながら高速移動と加速魔法陣の処理を行なっていく。

 あっと言う間にヴェアヴォルフ5体ずつ、集落の広間の前後の入り口8m前に集合した。しかし、事態がその直前で一変する。

 ◆

『音は先程の破砕音は聞かせたが、そこからは遮断させてる。今は相手には聞こえない』

 集落入口の8m程手前にマーカーをつけたイメージマップをコボルド達に見せる。

『先ずは、この位置まで誰が早く着くか競争だ。先行しているコルベルトは抜きでね』
『『『『『ウォー!!』』』』』

 コボルド達は、拳を振り上げ、右足を息ピッタリにふみ鳴らし、ヴェアヴォルフを起動させた。

『進撃開始!』

 ヴェアヴォルフが一斉に走り出す。設計上付けた覚えのない形の尻尾のマジックオブジェクトが生えて、四足走行で駆けていく。ヤッパリちゃんとした尻尾無いと舵とり辛いのか。最適化はデミルアの判断だろう。

 だが、目標地点に到着する直前にゴブリン達が一斉に行動を開始した。見張りのゴブリンが地に伏せ、後ろに控えていたゴブリンが筒状の物をヴェアヴォルフに向け、魔法を放った。謎の筒は、コバルト鉱石と同じ色をしていた。そこから強力な魔法が一斉にヴェアヴォルフ目掛けて飛んでくる。

 しかも、ブレーキ直前のフル加速状態のヴェアヴォルフにだ。相対速度が音速を超えた。その衝撃がサウンド・シャッターからこちら側の洞窟内を蹂躙した。


 コルベルトが咄嗟にサンド・グレインを前方にばら撒いてくれたお陰で、ラミネート・シールドを無数に展開出来た。下側に着弾した魔法でされた・・・は、回避しにくい為に何体かのヴェアヴォルフの足に当たった。足が破損したが、マジック・オブジェクトで新たに再現したので破損箇所による支障は特に問題ない。

 問題は、ディスペル出来ない魔法分、斜めに弾くしかなかった。そのせいで殺しきれなかった弾にかすっただけでサンド・グレインが数体、物理的にバラバラに分解された。当たったサンド・グレインのデータが失われてしまった。

 広場の前後で同じ様な、まさかの待ち伏せが行われた。いや、あれだけ散々やらかしてるんだから予測すべきだったんだけどね。飛んで来て壁を破砕しまくった弾を見た。コバルト鉱石だった。飛ばして来た筒も見るとやはりコバルト鉱石製。つまりそれは……

 ◆

『全員、ヴェアヴォルフの稼働に支障は無いな?』
『問題ないコボ!』『こっちも問題なしコボ』『異常なしコボ』……

 次々と返ってくる返事。

『まだ、立つな、ちょっとヤバいかもしれない。今飛んで来た弾と飛ばした武器がコバルト鉱石で出来ている!』
『そんな!? まさかコボ!!』
『隷属化か、脅されてるかだと思う。どちらにせよ一筋縄ではいかないだろう』
『兎に角ゴブどもを無力化させてからだコボ』

 強制睡眠学習で知能を引き上げた効果が抜群に出始めてる。
『恐らく、瓦礫を退かすと第二波が撃たれるだろう』
『でも、このままでも撃たれるコボ!』
『少し予定は狂ったが、後15秒してからサンド・グレインを指弾で撃ち込め』
『それまでアイツラが待ってくれるコボか?』
『なんなら第三波まで撃たれても大丈夫だ。ヴェアヴォルフの魂さえ砕かれなきゃ幾らでも修復可能だからな』
『撃たれる方は生きた心地がしねぇコボ』
『軽口叩けるなら大丈夫だな』

 ドゴォッ!!

 瓦礫を吹き飛ばしながら拳大のコバルト鉱石が撃ち込まれた。一発目と違いこちらの速度が無いので思ったより威力はない。

『試し撃ちだな。後10秒だ。サンド・グレインをヴェアヴォルフの親指に集める。指弾準備。オートで命中させるからどっちを向いてても良いぞ』

 もうもうと瓦礫を砕いた土埃が舞う中でサンド・グレインが動く。蟻が動いている様なものだ。これを脅威と捉える奴は先ず居ない。

『よし、5秒カウントに入るぞ!』
『こちらも用意は出来ているコボ』『俺もコボ』『いつでもコボ』……
『5』

 ゴブリンの一人が焦れたのか一歩足を踏み出した。あの筒をまだ二本持っている。

『4』

 後ろのヤツらも油断なくこちらに筒先を向けて構えている。斥候役が音もなく進んで瓦礫がどかされ仰向けになったヴェアヴォルフに近付いてくる。

『3』

 土埃が治まって来た。あと数歩でヴェアヴォルフの頭に筒先が当てられそうだ。デミルアのデータはそんなに溜まってないが失いたくは無い。

『2』

 ゴブリンが立ち止まり、筒を構えた。ヤバい。ありゃ撃ってくるな。

『1!』

 ゴブリンが詠唱コードと思われる何かを口にしようとしたところでフライングしてサンド・グレインに強制睡眠×10を唱えさせた。

 それを合図にヴェアヴォルフの親指から同時に指弾が一斉に発射された。再び、状況が一気に動く。

 指弾として弾き出されたサンド・グレインが一つの親指から10体ほどバラけて洞窟内に広がってからゴブリンに目標を定めた。指弾の勢いはほぼ使えなかったが、次の瞬間、一斉にゴブリンの両手首から血が吹き出した。ゴブリンは筒を取り落としていく。それでも二発ほどコバルト鉱石弾が撃ち込まれ壁や床を粉砕した。

「イギャゥアアア!」

 痛みを訴えるゴブリンが広場の前後で一斉に叫んだ。

  ウォオオオオオオオ!!

 痛みに悲鳴をあげた敵を見てコボルド達は一斉に吠えた。その声が洞窟内に響き渡る。

『ザマを見ろコボ!』『俺たちの勝利コボ!』

 ゴブリンを下した喜びに湧くコボルド達を制止しつつ、ゴブリン達に強制睡眠をかけ、黙らせた。ゴブリン達はその場に崩れ落ちる。

 ボスと思しき奴を僕はこの時捉えていた。

 ◆

 ゴブリン達が悲鳴をあげたのを合図に、一足先にコボルド集落の床下空間に待機させていたサンド・グレイン150体を浮上させた。通路途中待機と作成を行わせていたサンド・グレインも実は全て床下に集合させ、総力戦に備えている。

 余程のことがない限り負ける事は無いだろうが念には念をと最新のサーヴァントも作成に取り掛からせてここら辺の魔力を枯渇させた。

 広場にいるコボルドを含めた全員に強制睡眠学習を敢行する。圧倒的戦力差で半数は事の成り行きを見守ることになった。



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 アイルスがやらかしてる事や本筋には出にくい情報。

 ◆パッケージ・マジック再度停止中。
 ※パッケージ・マジック詳細等は割愛。

 ・オリジナル・マジック
  物理強化
   みんな大好き物理強化です。
  これには、原子密度を魔力で誤魔化す方法と分子
  結合を補完する方法がある。分子結合を補完する
  方は通電しなくなります。電子をガッチリと軌道
  から外れない様に、誘導する為と考えられます。
  その為ガッチリ度合いの調整で励起も起こせない
  ように出来ます。ガッチリ調整は、魔素に分子が
  受けるダメージをビリヤードの玉よろしく接触さ
  せて逃します。言うなれば分子サイズの免震です。



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 【ステータス】
※変更なしの為、割愛。



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