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利己と善悪と美醜(self-interest and the good and evil and beauty and ugliness.)
しおりを挟む『……だれダ? きさまハ』
ゴブリナ・クイーンは驚きのあまり、答えてしまった。超古代式迎撃魔法を易々と突破する存在を無視できなかったのだ。
『誰何して、名乗らずか。光の民への侵攻の礎作りなんだろうけど、こちらへ寄越してる、お前の配下は全てこちらの捕虜として迎え入れている。集落から手を引いて欲しい』
こいつは、馬鹿なのか? いや。ただの馬鹿ならば超古代式迎撃魔法を突破など出来よう筈がない。
『何処ノ馬骨カ知ランガ、使イ捨テノ駒ゴトキニ、手心ヲ加エル甘チャンニ従ウ道理ハナイ。喰ラエ、記印』
効くかどうか怪しい賭けだったが、それで奴はテレパスを切断した。
敵は超古代式の解除はほぼ出来ないと確定した。恐らく迎撃魔法は身代わりを使って来たに違いない。まさか八掛けを突破されるとは思わなかったが、敵方のコボルドの精神は随分と削れた事だろう。
しかし、たったの十匹程度のコボルドを捉えられずにこうもゴブリン共が狩られようとは。しかも姿を見せずに狩られている。生きているようだが。
あの妙な極小人形とコボルド型の人形は侮れない。いったいどんなアーティファクトなのか探らなければ。
◆
岩塩採掘組は今頃になって強制睡眠学習から二人目が目覚めた。弓を運ぶ移動に思ったより時間がかかった為だ。ヴェアヴォルフの作成は変わらず遅々としている。
弓を運んできたリルナッツは二体。サンド・グレインの作成を行なっている。魔力枯渇問題から、サンド・グレインを作成後30cm程の間隔を開けて移動しながら作成する。
128体作るまでに岩塩があると思われる広場まで来てしまった。一段落したので三人目を強制睡眠させた。
それから少しして、岩塩採掘組の方にも何者かが接近してきた。岩塩の地層がむき出しになった広場のもう一つの入り口からそれは現れた。透明さ加減は先のハルバードヘッドで昏倒させた奴ほどではない為、サンド・グレインの魔力感知でも余裕で察知出来た。
正体は雌ゴブリン。魔力感知で見てたので、大体のシルエットから雌と分かった。姿を消して物音を立てずに動く斥候と#魔法士_メイジ__#の職能を持った雌ゴブリンだ。一体どんな環境下に居たら、そんなのが出来るのか。
ディスペルはかからない気がするのでまたオーバーフローから強制睡眠学習を仕掛ける事にする。問題は、学習後コボルドには外部デバイスドライブが魂仮接続され、大脳皮質の補完がなされる。が、ゴブリン供は敵なので同意が得られない。となれば魂仮接続など出来ないし、技術流出を考えればつけたくない。知識は勿論、知能にも差が出るのは明らかだった。
もし、ゴブリンが仲間になる事があれば、その差が原因で後でモメることになるだろう、と少し思い悩んだ。まぁ、その時に考えよう。
そして、サンド・グレインが静かに待機してるフィールドへ雌ゴブリンは踏み入れた。
背後から10体のサンド・グレインが一斉に後頭部目掛けて跳躍。スピリット・スキャンと迎撃魔法衝撃相殺を同時発動し、更に一体が一拍遅れて強制睡眠学習を追加で行った。
直ぐに倒れこんだ雌ゴブリンが姿を現わす。先の透明ゴブリンは昏倒しても魔法が解けなかったが、此方は、やはりレベルが低かったのだろう。そしてその顔を見て驚愕する。
「ゴブリン? なのか?」
言ってしまってから、隠密行動中である事に気付き、口を抑える。
『どうした。急に喋って。どうせ場所はバレてるとか思ってる? ヤツの配下にはその事を知らない可能性があるならリスクは抑えとけよ』
『すまない。ちょっとゴブリンに思えない程の美少女だったので思わず声を上げてしまってね』
言ってから、サンド・グレインの視界を並列思考達にしか公開してない事に気付く。その視界をピックアップしてヘル達に見せた。
『は? ゴブリンが美少女って何言ってんだ? ってええええ!?』
視界イメージには、可憐と言っても差し支えのないゴブリン美少女と言うレア存在が映っていた。
『なんだこの希少な生き物。持って帰って奴隷に叩き売ろうぜ』
『否々、兎に角、未知数の敵だ油断は出来ない』
『平気だって片っ端から眠らせりゃいいだろ』
『そりゃ、そのつもりだけどディスペル出来ないから油断するなって言った口の言うことじゃない』
『敵のボスだけ油断しなきゃいい』
『でも、敵のボスも配下にしたゴブリンの感覚を共有が出来るようだよ』
さっきのテレパスの感覚とゴブリンの魂をスキャンして分かったから答える。半分以上確信していたことだ。こちらが出来ることは向こうも出来るを失念し、話し合えると勘違いしたけれど。
『ちっ、流石に警戒するか。』
『そりゃ、ゴブリン九人も捕らえたしね。しかも見られたのは攻撃されたリルナッツとガディエスとヴェアヴォルフ。不気味に感じるかもね』
『でも、魂に記しはつけられた。油断しないかなー。しないか』
『しないでしょ。見下してたコボルド達に一勝も出来てない。ホブゴブリンさえ姿を見れただけなんだから。ヘルならどうする?』
『うーん。昔の俺様なら殺しに行くよなぁ。使い潰して終わるな……こんな洞窟に居るのなんて頭の悪い魔物だと思ってたしな』
『参考にならない』
聞くのが無駄だったか。そう思った直後にヘルが続ける。
『でも今なら、相手の出方を伺う。目的まで喋っちゃうお間抜けさんが相手と思って手薬煉引いてガディエスとヴェアヴォルフを奪うことを考えるかなー』
『ふむ。やはりプロテクト強化必須かな……』
『奪われる可能性があるなら当然だな。然もあっちの魔法をディスペル出来ない事は魂の記しでバレてるしな』
『それに、これから会うゴブリン達と総力戦になる可能性が高い。コボルドを救出させるサンド・グレインと想定するゴブリン20~40体全員を安全に昏睡させる為のサンド・グレインの数。単純に見積もっても100体程、足りない』
魔素が底をつくほどなら、当然エーテルも足りなくなってくる。その都度、低級ゴーストを召喚し、分解してエーテルは確保出来ている。が、魔素はその一定のフィールドから枯渇するとなかなか確保出来ない。低級ゴーストの魔力ではカバーが難しい。少し考えれば解る、迂闊にもほどがある弱点だった。
『その100体ってのはいつ出来る?』
『1、時間……欲しいところかな』
『なんでそんなにするんだよ。今までそんなかかってねーじゃん』
『確かに大目に見てるが、色々コピーが終わってない。ガディエス位にはスピリット環境整えたいんだよ』
『そりゃ、やりたいだろうが理想より現実的に考えろ。コボルドのジジィや子供が人質でいるんだろ。モタモタして誰か死んだら指揮に関わるぞ』
『指揮?』
『ゴブリンだって仲間や肉親を殺されれば、感情が沸き起こる。悲しみ、嘆き、怒り、憎しみを見てきた。何度もな。コボルド達を御したきゃ、そう言うのも分かるようにならなきゃいけないんだよ』
『ゴブリン、も?』
『お前、少し様子が変だな』
『そうかな? なんて言うかまだ充分な実績らしい実績を出してないから、心のどこかで怖いんだと思う。多分』
『あんだけのアーティファクト・サーヴァントを作り出してオマケにホブゴブリンさえ倒しといて、今更?』
『いや、敵のボスを倒せるかなって思って』
『……あの可憐な顔したゴブリンを見たからか?』
『……』
この答えに僕は頷く以外応えられなかった。外見の美醜がこんなにも僕自身の敵に対する憎しみや闘争心を鈍らせる事に戸惑ってしまっていた。ホブゴブリン相手にはどんな攻撃も出来た。殺す事も躊躇わず出来ると思う。
それがどうだ? あの美しい顔のゴブリンと敵対し攻撃する可能性を考えると色々と意思決定をしたくなくなる。この心の動作処理に困ってしまっていた。敵のボスも綺麗な女の人の声だった。僕の見ていた世界の全てが憂鬱に彩られ始めた。
____________________
アイルスがやらかしてる事や本筋には出にくい情報。
◆パッケージ・マジック再度停止中。
※パッケージ・マジック詳細等は割愛。
・オリジナル・マジック
空間応力加速について
Spatial stress accelertion
これを作ったは良いのだが名前に良いのがなく
結局はに示すモノに落ち着いた。連続して魔法陣
を前方に作り、通過時に解放発動すると連続加速
も可能になる。ルインズ・ブックに似た様な記述
で物理学者G.E.ウーレンベックの理論からなる構造
不明のカタパルトがあったが何もかも不明の為、
参考にならなかった。
衝撃相殺
デミルス内でカウンターマジックを受けてしば
らく動けなかった、火器管制の要求で作られた
衝撃相殺魔法。原理はヴォイド・ハウリングを
魔素レベルで行なっているだけ。
____________________
【ステータス】
※変更なしの為、割愛。
_____
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