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第21話 刺客とヴェアヴォルフ2(Assassins and W erewolf 2)

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 ヘルのガディエスがホブゴブリンの木の根の攻撃を避ける度、木の根の先端に洞窟の壁3~5cm大程が削られ、くっついて行った。

『空間魔法か! あのサイズじゃ、一撃で半身を鞭の一部にされちまう!』
『コルベルト、アイツの目を引き付けろ。防御で様子を見ながら、足止めをしろ』

 イメージ視界にルインズ・ブックスで拾い上げた脳神経図をプロポーション調整して重ねる。

『まだ、予測なんだけど、この左肩に通ってる線をヒートライン刺して切断出来る? 多分左腕が動かなくなると思うんだ』
『動作制御線か? 首からヤっちまえよ』
『切った後クリエイトサーヴァントされたら多分また動く。実験も兼ねてみたい』
『戦闘中に悠長な!』

 ヘルのガディエスがまた、避ける。既に木の根から伸びる欠片の鞭は1mを越した。洞窟内で振るうには無理のある長さだと言うのに、その欠片鞭は生きている蛇のように動いた。

 ヘルがガディエスを大きくジャンプさせる。着地点が容易に予測出来る動きだった。着地までの滞空時間で相手の予測行動を誘う。

『アイルス、念動で慣性進路の変更を頼む。ちょっとディスペルを試してみる』
『分かった』

 言葉ではない思考による意思疎通。ほぼ一瞬でやり取りが済む為滞空時間という短い時間で何がしたいか何を分担して行うか分かり合える。

 ホブゴブリンが木の根を振るい、鞭状になった岩の欠片が波打ちガディエスを捉えようとする。念動で進路を変えず、更に飛距離を伸ばして予測よりも遠くへ飛ぶ軌道を取らせる。

『おい! それじゃあ追加で追いかけられかねない!』
『さて、何連撃を軌道変更に使ってこれるかな!』

 デミルスにも命令して、左へ軌道変更を行わせる。その勢いで壁を蹴り、念動も合わせ更に左へ……つまりホブゴブリンへ突進した。その蹴った壁を鞭が打った。

『ちっ! コイツはマズい』
『何が?』
『アイツの魔法、解呪出来ない!』
『なに!?』

 既に目の前に迫るホブゴブリン。左肩の神経を見定める。穿った鞭は左へ大きく跳ねた。その先端に新たに連なる欠片。ヘルから送られてくる視界イメージのその欠片には魔法陣が半分・・刻まれていた・・・・・・

『そうだ、あの場所にディスペルの魔法陣を蹴った瞬間に刻んだ。案の定そこを穿ってきたのに、ヤツの増える欠片の空間魔法が解除されない』
『無効化出来ない魔法?』
『俺様とは違うもっと高位の言語で構成された魔法だ!』
『見たい。その根源……見たい!』

 その思いを裂帛の気合として、左肩に到達したガディエスの右手に針の如く収束したハイヒート・ライン・バリアを突き刺す。そして神経を切断する。直後に左腕が垂れ下がる。しかし引き戻された鞭が制御を失い、自重でブレ始めた。

『ヤバい逃げろ!』

 神経切断の結果を観察していた僕は予測通りで安堵していた分反応に遅れ、ヘルの視界イメージが鞭を捉えていたのに、その瞬間はなにも出来なかった。デミルスがガディエスをジャンプさせた。しかし、鞭の軌道はランダムになった分だけ大凡の回避となる。避けきれないと思った瞬間コルベルトのヴェアヴォルフが信じられない速度で飛んで来た。

 背中に打ち付けられる衝撃。痛くはないが投げられたのかと思うほどだった。ヴェアヴォルフの左手の中にガディエスが受け止められていた。
 コルベルトのヴェアヴォルフに視点を切り替える。暴れる鞭がヴェアヴォルフの左足踵を叩き、続く破片がホブゴブリンの胸を穿った。ヴェアヴォルフの左足踵(作業形態時の足先)とマジックオブジェクトの爪の根元が欠片となって鞭に連なっている。ホブゴブリンの胸の肉も同様に。

 ヴェアヴォルフが体を丸めて転がり勢いを殺した。ヴェアヴォルフが立とうとすると傾いた。このままでは、膂力によるスピードに支障が出る可能性がある。

 ホブゴブリンが抉れた胸の内臓をそのままに立ち上がった。血は吹き出ていない。空間は切り取って見えるが繋がっていると言う証拠だ。左手がビクンッと痙攣すると鞭を拾い上げ、右手に木の根を突き刺した。血が吹き出たがすぐに固まり木の根と同化した。

『ありゃ、マズくないか?』
『そりゃ、マズいに決まってる。化け物が進み、魔法を無力化出来ない以上ホブゴブリンの息の根を止めることをお勧めしとくぜ』
『しかし……向こうもこちらの解呪が出来ない可能性は?』
『最悪の場合を考えろ。これは殺し合いなんだぞ。生易しい対応は死を意味する』
『くっ……生け捕って解析したい……』
『本音が出てるぞ。この解析バカアナライズ・クレイジー
『隠すほどのものでもない。更に時間は稼げないか?』
『まだ何か、生かそうってのか!?』
『いや、解呪されるなら投射魔法も効かないだろ? 折角だから、考えた酷い手をやってみようかと思ってね』
『なんだ、アイルス。人間らしい・・・・・邪悪な・・・感じがするぜ・・・・・・
『やだなぁ、ヘル。悪魔族ほどじゃないよ』
『はは、まぁ、悪魔族が悪いと都合のいい教会ほどじゃないから、安心しろよ』

 僕は、これについて返せる答えを持ち合わせて居なかった。光の民が悪魔族と戦争を長期に渡り行なっている根幹の問題の一つと思しき事に。歴史の正確な記述を見つけられてないからだ。

『……ま、まぁ、用意する。この場はもう少し頼む』
 意識を戦線から離脱させる。

 ◆

見えざる敵インビジブル・エネミーを視界に捉えた』

 赤い光が洞窟を4足で走るヴェアヴォルフを通して見たチャウチャウ・フレイラーの視界に入った。急制動かけつつ早速フレイルを構え、ハルバード・トップが壁に突き刺さる。構わず、チャウチャウは左から右へ一線、振り抜いた。壁から破片が出ることはない。それどころか振り抜く抵抗さえも、まるで何も持っていないかのような軽々しい身振りだった。

 しかし、赤い光の真横の壁からハルバード・トップが突然現れ赤い光を穿ち、反対の壁にベシャッと叩きつけた。

 種明かしは、空間魔法でハルバード・トップを振るう寸前、壁の中と異相空間を入れ替え、壁から出た座標で空間魔法を解いた。正直、重力魔法をまだ取得していないため、マジックオブジェクトだけでは打撃武器の長所が活かせない。中がスカスカの木槌並みの打撃などとてもじゃないが期待出来る威力など出ない。そこで、視界に入った距離分伸ばして遠心力の運動エネルギーを叩きつける事に思い至った。出会い頭の一撃だけしか使えないけど、上手くいった。

 ヘルの真似事スリープで完全に眠らせる様にヴェアヴォルフに命じる。こっちはあっさり片がついた。
『そいつの見張り頼んだぞ』
 チャウチャウ・フレイラーに依頼した。

 ◆

 僕は、サンド・グレインの作業状況を見る。ぶっちゃけ強度とかどうでも良い。出来ればコバルト鉱石で作りたかったが"動作データ"の収集が現段階では優先的だ。今後の大立回りにも役に立つだろう。居残り組で128体、岩塩採掘組で32体程。戦闘支援には十分だが、防御、見張りやマッピング要員には足りない。仕方ない。

『クフィーリア! 記憶の件は後回しだ。こっちの座標観測に手を貸してくれないか!』
『え? 今度は、なんですか?』
『サンド・グレインはここからはデグレーション版としてデミルア・インジェクションで止めて、記憶系コピーは後回し。クフィーリアには座標観測を行なって貰う』
『はいはい、全く魔法以外で精霊を実体化もせずこんな扱き使われるなんて500年で初めてですよ』
洞窟ここを出られたら空だろうと巨大樹の梢だろうと飛んでやるから』
『100回はしてもらわないと』
『わかった』
『やったー! この気持ち悪いヒョロッとしたヤツの座標を見てれば良いのね』
『そう、空気の流れ観測で、よろしく』
『任せて! ただ見て情報共有するだけなんてお茶の子さいさいです♪』

 そして八体のサンド・グレインを選出し、スタートダッシュの体制でその場に待機。ホブゴブリンの首の後ろ側の座標をガディエスとヴェアヴォルフの視界から観測。クフィーリアの視界感覚処理を重ねる。三点観測でも動作が速いと難しい。なので、即断即決で見極めなければならない。

 動く目標座標をリアルタイムで更新させて行く。各デミルアへコマンド内容を伝達。待機サンド・グレイン八体に連携コマンドの開始タイミングを同時にした。

 ◆

『お待たせ。一応ゼロって聞いたら頭を伏せて』
『早かったな。コルベルトの奴以外と頑張ってるぞ。生死を問わないなら、いつでも……ハッ』
『ヘル、意外に余裕あるな。こんな時に下ネタ思い付いたって気持ちを漏らすな』
『どうでも良いですけど、早くしてくれませんか!』

 コルベルトが夫婦漫才スイッチが入りそうな僕らに悲鳴を上げて割り込んで来る。見ればヴェアヴォルフの左手が無い。無くなった左手は鞭に並んでいた。よく見ればアタフタしてるヴェアヴォルフの動きに合わせた様な動きを左手がしている。面白いと一瞬思ったのは内緒だ。

『ごめんごめん、ゼロの前にスリーツーワンを言うよ。行くよ。スリー! ツー! ワン! ゼロ!』

 ヴェアヴォルフが頭を伏せたその瞬間、壁からホブゴブリンの首の高さの幅3m内をサンド・グレインが八本の軌跡を残して通過した。その軌跡に首は当たらなかった。通過したと瞬間、八体のサンド・グレインが首に不可視にしたマジック・オブジェクトで作ったワイヤーを巻きつかせ、取り付いた。それと同時に計24回のスピリット・スキャンをホブゴブリン一体に放つ。次にテレパスを僕自身とホブゴブリンに繋がせる。思った通りマジック・キャンセラーやカウンターが機能せずにかかる。

『こんにちは。こちらはコボルドの集落を解放したい。そちらのやりたいことはなんだ?』
 呼びかけながら、八体同時にホブゴブリンに強制睡眠学習をかけさせる。内容は僕がドル師匠から正しいと思える事に正しく力を使う為の人格者に必要な教わった記憶だ。それを超加速再生の夢で追体験させる。もっと教養とか知識とか強制的に記憶コピーさせられたら楽なのだが本人の同意無しでは追体験が関の山だ。

『……だれダ? きさまハ』



 ____________________
 アイルスがやらかしてる事や本筋には出にくい情報。

 ◆パッケージ・マジック再度停止中。
 ※パッケージ・マジック詳細等は割愛。

 ・オリジナル・マジック
  異相空間通路
   【ヴィッセシャフト】を理解した者なら一度は
  やる空間魔法の通り道。意外なほど穴だらけな分子の穴
  はある法則状、規則正しく並ぶ。で、あるならば。その
  穴に合わせて、分子以下の規則配列を空間魔法で配置。
  これで見た目は衝突しても物理的にすり抜け、あたかも
  違う次元を回廊として使用しているように見せる魔法。
  分子の穴など、魔素の塊のマジックオブジェクトなら
  ば、すり抜けるのも容易。サンド・グレインは、分子を
  原子レベル以下のサイズに空間魔法配置を行うと言う
  ぶっつけ本番の実験だった。

  空間応力利用
   圧縮と膨張がテーマであれば、空間自体にも圧縮が
  掛けられる。これまで同様結界に空間魔法の要素を織
  り交ぜて圧縮して戻る力で弾き飛ばされる。
  ※今までの加速にコレが上乗せされた。

  強制睡眠学習中の夢の再生速度最高速設定について
   夢で記憶の追体験させる魔法の再生速度を1.5倍、
  2倍、3倍と徐々に上げて最終的に加速処理クロック・アップも使って
  1024倍速で処理させる。最初に暗示をかけるプロ
  セスと共に追体験へ入る。その途中から加速につい
  ていけなくなるので加速処理で情報処理を助ける。
  最終的に15分で10日と半日強相当の時間を確保で
  きる。5回の反復追体験とするなら51時間の勉強量
  を刷り込ませられる。否応無く頭の中に叩き込める
  が、体内の糖分を急激に使わせる為、急性低血糖症
  になり行動不能になる可能性もある。従って、今の
  ところ10分程度迄の実施としている。

  ※この加速処理で起こる糖分不足は今の所解消方法
   が物理的なものしか無く、実用的でないと判断。
   実戦で使えれば強力な武器になるが残念である。

____________________
 【ステータス】
※変更なしの為、割愛。

 ◆デミルアから搭載された手動コマンド・パネル

 コマンドエディタ画面
 ====命令編集====
  簡易命令編集
 >表示箇所:左上手前
  動作編集:パンチ
  魔法編集:雷弾サンダー・ブリッド
 ==============

 パネルの表示基本箇所は8箇所。前方へ尖るような楕円のごとく視界を妨げない簡易コマンドパネルを用意。最大7つ、やろうと思えば処理的に可能な範囲で同時の命令がこなせる。

 ====[詳細編集]攻撃/基本動作====
 一連動作No.1名称 パンチ
 メイン
  左パンチ
  連動動作選択枠
  連動動作選択枠
 サブ
  右パンチ
  連動動作選択枠
  連動動作選択枠
 ◆◆◆(未開放)
  ◆◆◆(未開放)
  ◆◆◆(未開放)
  ◆◆◆(未開放)
 補助処理
  索敵
  目標固定
  ◆◆◆(未開放)
 ====[詳細編集]基本動作====
  ラン
  ジャンプ
 >パンチ
  キック
  登攀クライミング
  投擲スローイング
  耐衝撃防御姿勢(しゃがみ)
  耐衝撃防御姿勢(腕部脚部盾化・左右)
  連携動作1
  連携動作2
  ◆◆◆(未開放)
  ◆◆◆(未開放)
  魔法連携動作1
  魔法連携動作2
  ◆◆◆(未開放)
  ◆◆◆(未開放)
 ====魔法編集====
  目視:周辺探索
  魔力観測:使用禁止ディセイブルドゥ
  目視:索敵
  魔法:使用禁止ディセイブルドゥ
  物理:潜伏
  魔法:使用禁止ディセイブルドゥ
  物理:待機
  魔法:思考詠唱待機
  ◆◆◆(未開放)
 ===========

 選択時にメッセージが出て選択を促すQ&A形式で編集が可能。動作データが揃えばもっと色々追加していける。
 魔法はいずれ仮魂接続でなく、正式に魂接続した者のみ編集可能の許可を出そうか検討している。

 ====魔法詳細編集1====

     光
     △
     火
 土   ▲   水
  ▼  無  ▼
   ▶︎   ◀︎
 金属     風
     ▽
     闇

 例:風属性選択時
 =====魔法詳細編集2(左側)=====
 ・バキューム
 >エア(ウィンド)
 ・バースト
 ・サンダー
 =====魔法詳細編集2(右側)=====
 >攻撃効果:エッジ/ストーム
 ・サイズ :Minーー◆ーーMax
 ・効果範囲:S/M/L
 ・目標誘導:視点/害意
 ・持続時間:▼0010▲ ▼sec▲
 ・威力上限:自動調整/残魔力量
 =============



_____
お読みいただき、ありがとうございました。
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