11 / 77
第11話 従属(Subordination)2
しおりを挟む『んじゃ、名前を授けようね。……コルベルトでどう?』
『良い名前じゃなぁい。あなたが羨ましいわぁ』
ヘルが、間髪入れずにワザとらしく、名前を誉めちぎる。コリー顔に、にこやかな顔を向けながら。無言の圧力だ。
『え?じゃぁヘル改名す……』
『この名前で気に入っておるぞ』
ニッコリとしてこちらを見る。
『あぁ、そう。……怖っ』
そんな呟きをスルーしてヘルはコルベルト(仮)に話しかけた。
『こんな良い名前をつけて貰ったんだから断るなんてことはなかろうな? コルベルト』
ヘルさん脅迫じみてますよー。
ていうか名前で呼んでるし。
む? 自動翻訳されない。
『あ、ありがたき幸せコボ』
『……脅迫にしか見えないなぁ。まぁ、この際贅沢も言ってられないけど。ヘル、コルベルトの仲間を引き入れたい。ここの全体構造を把握出来れば早く地上に出られるかも』
『そうだな。その方が早いな』
『いつもの口調に戻ったね。交渉頼んでもいい? またハゲザルとか言って敵対行動されるのもかったるいし』
『な! 丸投げ!?』
『ちょっと、この先のこと考えて文献漁りたい。あとコボルド達の生態とか習性とか知ってること教えてくれない?』
『なんか、イキナリ態度横柄になったな。アイルス』
『ほらほら、僕になったコルベルトが見てるよ、威厳保たないとヤバいんじゃないの?』
『あ、まぁ取り繕っても仕方ないよ。見ての通りの仲だ。マスターは寛大でいてくださる』
ヘルは、明らかに取り繕ってコルベルトに出来るだけ尊大な態度をとる。
『……ヘル、コボルド達って何が好物で何が得意で何が苦手?』
『食べ物は知らん。それはコルベルトに聞いた方が早かろ。種族特性は犬よりかは劣るがカナリアよりも鼻がいい。特技は特殊能力"コボルドの呪い"によるコバルト鉱脈の生成。苦手なのは、多分光。これも詳しくはコルベルトに聞けばいい』
『聞いてくれないのか? 嫌われてる相手だって言ってんじゃん』
『コボルド如き、逆らったら俺が殺してやる』
『だから殺すなって。じゃ、コルベルトは何が好物で何が嫌い?』
『え? ……勝つのが好きだコボ。負けることが嫌いだ……ですコボ』
考えながら、思考会話に言葉が乗ってくる。
この世界でコボルドは種族的に強くない。肉体的にも魔法的にも。
彼の持つ負けず嫌いは生存本能から来るものだろうが残酷な現実を突きつけられていない若さだということとか。子犬って言われてたし。
『ふむふむ。そうか。まぁ生きてればそれは普通だよね。じゃぁ、食べ物とかは?』
『食べ物ですかコボ? スライムの#核__コア__とかカニとか好きですコボ。ヒカリタケ、ウドとか野菜が嫌いですコボ』
『そっか。キノコとかって野菜なのか。カニとかエビってコルベルトの家族とか仲間はみんな好きかな?』
『多分、好きコボ』
『眩しいのは嫌い?』
『それって何コボ?』
『……よし、ある程度分かった。覚える魔法のレパートリーが増えそうだ。コルベルトはヘルの言うこと聞いとけばいいよ。ただ、地上に出るのは協力してね』
『……』
コルベルトの口が半開きで目が点になっている。
やり辛い。
『返事をせぬとは不敬であろう。ハイで答えよ』
『う、ぁ、ハイコボ』
『持ってる特殊能力”コボルドの呪い”ってなんなのか教えてくれない? ヘルは詳しそうだから、教えたくないなら無理に君の持ってる情報を吸い上げることはしないよ』
『う?』
コルベルトは戸惑いを隠せず思考会話も定まらない言葉を発する。
『直ぐに信じて貰うのは無理か。ヘル、教えてくれない?』
諦めの気持ちを隠さずに、顔は表情を浮かべる事なく、コルベルトに視線を向けたまま言う。
『イエス、マスター。粘土や土砂をコバルト鉱石に変える呪いで、いつの頃からかコボルド達に与えられたと聞く。コルベルトの持つナイフもそうして作られた筈』
『へー』
態度は慇懃無礼だが気にすることなく感心して、コルベルトのコバルト・ナイフを見る。
『"コボルドの呪い"の物質変化は古代錬金術が求めた金を錬成する力に似ている。出来上がるのはすべてコバルト鉱石で利用価値は低く加工が難しい金属の為ドワーフも敬遠する金属らしい』
『加工し辛い? 硬いの?』
『鉄のような加工技術では難しいと言う意味かと。鍛治技術が進歩していれば可能かもしれません』
『それは、良い事を聞いた。当面はサーヴァントの資材にコバルト鉱石を作ってもらおうか。硬そうだし、今までの強化してる分の魔力が浮きそうだ。ヘル、コルベルトのコバルト鉱石を作成する報酬を何か考えようか。大量に作らせたい』
コルベルトを余所に話を進める。粘土で加工した物が簡単に鉱石になるなど夢のような能力だ
『ハイハイ、まだ先の褒美をもらってませんけど、あげるあげる詐欺だけはやめてくださいよ。なんでも言う事をきかせられる奴隷なんかと一緒にされては、堪ったものではありません』
『あ、じゃぁ、ナデナデしてあげよう』
すかさず、頭を撫でて耳を撫でる。
『バカにしてるんですか! そ、そそそんなんで……耳はもっとして』
『よし、また今度。上手くしてくれたら、後でたっぷりご褒美あげるからさ』
『ホントか!? 絶対だぞ!!』
超嬉しそうだ。この考えもテレパスで筒抜けのはずだ。
嘘などつき難い状況下だから本気でご褒美を考えてる事も。きっと嬉しいのだろう……。耳がいいとは思わなかったが、もう少し突っ込んだナデナデはアリかもしれない。
『お腹とか』
思った瞬間ヘルの尻尾がピンと跳ね上がったのが目の端に映ったが見ないふりをした。
『じゃ、ちょっと、師匠の本を漁るから、しばらくの間、よろしく頼んだよ』
『ハイ♡ ごゆっくり♡』
ヘルが甘ったるい声をかけられながら、僕は壁際に座る。
◆
壁際の適当な岩に座ると意識を自身の三人に向ける。因みに此方にはテレパスリンクしてない。
『やけに静かじゃないの』
『ん? 三人で話し合ってね』
『そう。本体には外の世界とのコミュニケーションは任せる事にした』
『そ。なんせ外見てたら勉強進まないし、下らない交渉事は任せようって決めたんだよ』
『なるほど』
自分自身とほぼ同じ思考をする三人が話し合うというのもアレだけど見下すデメリットを知った今見下して来る外的要因には関わらない事が一番の時間的コストがかからない。
『安心しなよ。いざとなったら魔力吸い上げて干からびさせた上で全てを薙ぎ払うからさ』
『冗談でもしないでください』
『冗談ではないよ。本体』
『我々は本体と違って感情に左右されない』
『更に本体が滅びれば我々の存在理由と自由が損なわれるなら、本体を生かす為の最終手段は考えるのは当然だ』
『え? 真面目に言ってるの』
『うん。だからさ外交頑張ってね』
『……なんてこった』
『まぁ、寝れば頭良くなるんだから問題ないでしょ』
『いや、寝るのを待つより、今すぐ、記憶を統合しよう』
『賛成だけど、定着プロセは?』
『そっちは寝てる時しか出来ないしな。後回しでいい』
本体の僕が本人でこの三人も僕なのだが、誰が誰の発言か分からなくなってきた。兎に角今は気にしたら負けだと思う事にした。
いや、それはどうでも良い。目的を果たす手段なのだから。記憶統合とは別にまとめ役が必要だ。いちいち混乱する会話よりスムーズだろう。欲しいのは現時点を切り抜けられる手段の最短をはじき出す知識だ。
『まぁ、そんな話はそれまでにして、ちょっとこっちで見つけたモノを見てくれない』
どうせ統合したら、また個性は僕になるのだからと思いつつも仮でフェオと発言する僕に名付ける。
『どうしたの、フェオ』
『その名前付け、意味あるのか? なら、僕はソーンが良いな』
『じゃぁ、僕はアンスール』
『そんなのどうでも良いよ、それよりこっちのが重要!』
フェオが発言したのと同時にイメージが流れて来た。
____________________
速読技術
●反射神経は秒速を越えて運動情報を処理する。
通常、運動は小脳により制御されているが、総
合的に状況を
理解し、判断するのは大脳である。で、あるなら
ば、短時間であれば情報処理に特化しての読書も
可能である。それには次の事に特化して行えば、
知識を貯めることは可能だ。
・物語は不向き。専門書や論文、参考書など情報の
塊に限る。物語は感情が処理を遅くする為。
・接続詞は無視し、主要な情報を拾う。
本の重要な部分さえあれば後は余計な情報。
・心で読まず、目で処理する。
脳内で言葉を再生する時間は処理が遅くなる。
・長くて15分程度で行い、5時間以内に5~10分程
度仮眠を取ること。睡眠が記憶を定着させる。
・最低でも一日一回行い続けること。
習うより慣れろが早く処理させるコツ。
____________________
『『『!』』』
『どう?』
『こんな方法が!』
『よし、すぐやろう』
『でも睡眠時間はどうする?』
『そこはローテーション組んで記憶させるデバイスと統合をやろう。寝足りなかったら疲労回復のスペル構築する』
『オッケー、僕も出来るだけ寝る時間作る』
古代書にまさかこんな手法が書いてあるとは思いもよらない収穫だ。
『それと、今回見つけた一番使えそうな魔法組んどいた』
『はいコレね。コッチは統合済だから』
またイメージが流れてくる。圧縮凍結と膨張加熱?
『ナニ? コレ』
『ヴィッセンシャフトの応用魔法。精霊の大凡やってる原理で作ったから、寝れば解る』
『解った。先ずは記憶統合するよ』
そして、僕はキッカリ10分仮眠を取った。
____________________
アイルス手記
◆速読術
ルインズ・ブックにあった本の一つに載ってい
た、情報処理特化読書術。データの塊向け。多分
慣れれば物語も消化は処理部分が早くなる分高速
化する。
◆ヴィッセンシャフトの応用魔法
圧縮凍結と膨張加熱
物質は圧縮すると温度が上がる。物質と共に熱
エネルギーが集まる為だ。圧縮した熱エネルギー
を魔力変換で奪うと圧縮状態で安定する。空気も
氷に出来る。その逆に膨張させると熱エネルギー
が足りず温度が下がる。その際、加熱は生活魔
法ヒートのエクストラ・ヒーターと言うオリジナ
ルコマンドで加熱し安定させる。攻撃に使うな
ら、冷却も加熱も不要だ。
ステータスは更新がないので、割愛。
_____
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる