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第9話 接触(Contact)
しおりを挟む「グ(オ)、グルグァルヴァ(オレつよいコボ)、グロロガブリ(オマエひとかみひっさつコボ)」
コリー顔が、思い出した様に何かを唸った。恐らくさっきヘルが警告に使用した言語だろう。ヘルと漫才してた所為で警戒態勢など既に解いている。リルナッツは毛を掴んでぶら下がったままだ。この今の微妙な気持ちも向こうに伝わってる筈だが。
「はっはっ! アイルス、『お前なんか一撃必殺だ』とか言われてんぞ」
ヘルは、何がおかしいのかゲラゲラと笑いだした。
正直せめて、この時ヘルが笑っていなければ冷静さを保てたと思う。
父さんと並ぶ剣士、またはそれ以上になるのが夢だった。その僕を見て、相手が『一撃で倒せる雑魚が』と言われたと勘違いした。拡大解釈だった。
僕の心は熱さで訳が分からなくなった。
『父さんと並ぶ資格がない』と拡大解釈された思いは自分の核になる夢を初めて馬鹿にされたと思った。我ながら勘違いが過ぎてて恐ろしい。
「危害は加えるつもりはないってのも理解できないお前が……!」
『待てっ本体!』
『冷静に考えろ!』
『早合点するな!』
次々に流れてくる並列思考の自分達の制止を振り切った。
「へっ?」
「グァ?」
右前脚の毛を掴みぶら下がっていたリルナッツが後ろに両足を振る。振り子の要領でたっぷり遠心力を乗せてから思いっきり両手で毛を引っ張ってものすごい勢いで空中を跳ね上がった。
コリー顔の鼻先の空中へ躍り出る。計算してなんかいない。感覚だけで物理運動に魔力操作を乗せ操った。
跳躍の勢いが無くなっていく。その最中、全身をひねり、空中で横倒しにさせながら鼻先に上から回し蹴りのモーションに入った。各関節のブーストさせる念動オプションも発動させて。
「笑うなぁ!!」
『『『やめろ!』』』
その瞬間全てがスローモーションの様に見て取れた。感覚共有でリルナッツだけを動かすなんてそんな器用な真似を出来ない。それ故、感情に任せて自身の身体もぶん回した。
僕自身の身体がどうなろうと気にせずに繰り出したリルナッツの回し蹴りがコリー顔の鼻先に決まる。念動制御動作の高速回転回し蹴りは鼻の肉を小指の先程を抉り飛ばし、鋭利な刃物で切ったかのような傷を作った。それと同時に、僕はもんどりうってる状態で叫んで居た。
「ギャイン!! キャイン! キャイン!」
コリー顔は突然の鼻先の出来事に悲鳴をあげ、慌てて鼻を抑える。が、ボタボタと血が遅れて溢れ出てきた。それでも落ちたリルナッツを睨みながら、取り落とした鉱石ナイフを拾う。
「笑ってねーし、笑ったの俺様だし、先に手ェ出しちまうし」
「はっ!しまった!」
『だから、やめろと……』
『やってしまったことは仕方ない』
『早く傷の手当てを』
怒りで茹だった頭が蹴ってスッキリした。そこにヘルと並列思考からの冷静なツッコミと対処指南。
冷水を浴びせられた様に急速に温度が冷めて行くのを覚える。なんで僕は一瞬でキレたんだ!? 間抜けにもキレた理由がこの時は思いつかない。
兎に角、傷を癒してやらなければと思い、『申し訳ない』『ごめん』と心の中で超謝罪しながら立ち上がり、ヒールしようとリルナッツを近づけさせた。リルナッツを犬みたいな足で踏まれた。
しまった身動き出来なくなった。ここで待機させてるもう一体のリルナッツを動かしても火に油だろう。コリー顔は鉱石ナイフをこちらに向け、今更、なんのつもりだ的な凄い勢いで膨れる憎悪をぶつけて来た。まずい。
「ちょっ。ヘル、見てないで助けてくれよ」
「なんで私が? 私何にもしてないしー、手ェ出したのアイルスだしー」
「協力しないとココから出られないぞ」
「別に久々の外だし、何処でもいいよねー、あのクソジジィがいなきゃさー」
「仕方ない、……手当てしなきゃ死ぬぞ? 手当てさせろ。お前が俺に勝てない事は今の一撃でわかったろ。抵抗するな」
言葉を口にする事でイメージを具体的にしてコリー顔に思念を送る。ビクッとして僕を見るコリー顔。持ってる鉱石ナイフが震え、足も震え出す。溢れ出す血の勢いが治まって来てる。普通の人ならひっくり返って気絶してるだろう。腐っても悪魔族と言ったところか。
「早くしろ、死にたいのか? ナイフを手放せ」
「通訳なしに脅しとか、お前、ホントに悪魔じみてるな」
「ヘルは後でお仕置きな」
「ホント!? さっきのとでご褒美とお仕置き両方だぞ!」
こいつにどうやったらお仕置きが出来るだろうか? と片隅で考えて夫婦漫才が始まりそうなのでツッコミはやめた。
とにかく、ナイフを捨てるイメージを送り続け、ヒールで治すイメージからバッテンを上書きして、そこから骸骨とその頭に輪をつけて羽をつけ、上に羽ばたきながらあげる。
「“癒しの光よ、彼の者の傷に宿り、治せ……ヒール”」
あえて詠唱を口にし、魔法陣も目で捉えられる様にして、さっき激しく転んで擦りむいたトコでヒールをして見せる。
「“癒しの光よ、彼の者に宿り、治せ”」
指先に魔法陣を見せて発動準備の状態にする。
「……ッャワッ、キャワン!」
コリー顔は来るなの意思と共に悲鳴にも似た声をあげ、そしてナイフを振り回した。
「頼むよ。死なないで欲しいんだ」
懇願とともに抱きしめるイメージを送る。この時、小さい頃に隣で飼われてた大型犬の背に乗せてもらって抱きしめてた思い出が蘇った。
コリー顔の瞳がグリンと上に回り内瞼が下がる。出血多量の為に意識が遠のいたのだろう。
シャリーーン!
金属を多く含む、鉱石ナイフが足下の岩石に当たって涼やかな音がし、洞窟内に木霊した。それと共に駆け寄り崩折れるコリー顔の鼻に指先を接触させヒールを発動。抱きとめる。血が衣服にべったりと付く。
2㎜幅の抉れた深い傷は綺麗に治ったが血が足りないのだろう。もう一段階上のヒールが必要だ。
「ま、合格。途中で投げ出したり強制的に押しつける様なら死なない程度には助けてやるつもりだったが、アイルス、ここからはこのヘルプラス様がお前を全面的にバックアップしてやる」
「え? 何? 試してたの?」
「ったりめーだ。お前がもし使い魔で初対面で気に入るかどうかも分からん奴に仕える気になるか?」
「確かに。でも、さっき好きって」
「みてくれはな! 行動の伴わない外見のいい奴なんざ世間には掃いて捨てるほど居る。ほら、そいつの一族のお出ましだ。どうするんだ? そいつを折角助けてなんだが血塗れじゃ、袋叩きコースしかないぞ。タダでさえ頭の悪い連中なんだからな」
「なら、頼むよ。全員にテレパスは繋げられる?」
「そりゃナンセンスだ。さすがに魔力量がなくなりかねん」
「じゃ、まずはこのコリー顔の意識を覚醒させるまで治せないかな?」
「まぁ、可能だけど、ややっこしかならないか?」
「彼を納得させて仲間にしたい」
「納得じゃない。説得な。まぁ、どうやるつもりか知らんが全面的に助けるって言っちまったしな。“命の精霊よ、汝が主人の魂と共にあれ、代謝向上”」
弱々しかった鼓動が力強く脈打ち始め虫の息だった呼吸も元気になっていく。
「光属性の活性化魔法だ、覚えたか?」
「あ、ゴメン、作動したのに何処かコマンド文が悪かったみたい録れてない」
「早く直しとけ後でイメージで送ってやるから、次は、ちゃんと録れよ。さすが、腐っても悪魔族、回復が早い。起きるぞ」
視線をヘルからコリー顔に戻すと目を開けた。
「良かった! さっきはゴメン! バカにされたと思ったんだ」
「"うおーん、キャイン、ガルルルグルぐおー"」
「それ、通訳してくれてんの?」
コリー顔は目をパチクリさせた後、バッとばかりにアイルス達から跳び退いた。
「通訳してやったのに面倒だな。“伝心同期”」
ヘルの呪文で発動しっぱなしで繋がってた個々のテレパスが同じレイヤレベルでつながれた。
____________________
アイルス手記
◆パッケージ
The staircase 1st.(第一階梯)
★1 ヒール 光属性(肉体・生)
★1 サモン・ゴースト 闇属性(精神・死)
★1 マジック・シールド 無属性
★1 防護 無属性
★1 誘眠暗示 闇属性(精神)
★1 麻痺暗示 光属性(肉体)
★1 魔力印 光属性
★1 静寂 風属性
★1 音源遅延 風属性
生活魔法Lv
★1 発火 火属性
発火 悪魔版
★1 純水 水属性
★1 静電気 雷属性
★1 土壁 土属性
★1 鉱脈探知 金属性
パッケージ漏れ? 未完のパッケージ魔法。
★0 有機物特定 無属性
基本の書の巻末に挟んだ切れ端に走り書きしてあった。
水素から酸素迄の物質を特定出来る魔法。
The staircase 2nd.(第二階梯)
★2 クリエイト・サーヴァント 無属性
The staircase 3rd.(第三階梯)
★3 以心伝心 闇属性(精神)
★3 念動 闇属性(精神)
★3 伝心同期
コマンド
魔法にならないレベルの魔法式の元、以下はその主。
・結界
・念動
・圧縮(物理)
・拡張(物理)
・電子化
・陽子化
悪魔族の魔法について
・魔法式も魔法陣も似通ってはいるが全く別物の
魔法体系?
・ヘルの魔法メモ
透明化
念動力
敵意察知
危険予測
魔力印
※僕の作ったものと根本的に違うらしい。
物体引寄
自動追尾
魅了
代謝向上
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【ステータス】
アイルス・プリムヘッツ(7歳)
弟子32日
◆才能:※更新なし
アカシック・リーディング(無自覚)
最適設計演算
魔力補助精密動作筋肉制御
失敗検証
検証データ予測演算
◆才能→技術化(ユニークスキル)※更新なし
魔力制御法+魔法最適化→
マジカル・オプティマイザ:Lv 3/??
頭脳使用法:Lv 27(並列処理により上限解除)
記憶向上+関連記憶→
フラッシュ・デフラグ・フロー
動的空間把握処理能力+予測演算+
動体視力処理速度連動加速→
フラッシュ・シミュレータ
夢想実現化演算→
ブレイク・ダウン・マイル・ストーン
※頭脳使用法で纏められているのでLv 表示なし
◆技能:
見稽古(分析、考察)Lv 1
標準語(会話、読み書き)
遺跡語(読み書き)
精霊語(読心会話)
高速切替思考処理
並列意識連携処理 Lv1
魔力察知 Lv 3
魔法式改造 Lv 4
魔法上級改造(並列連動式等)Lv 4
混成魔法 Lv 5
物理造形設計技術(木材、石材)Lv 3
研磨整形技術 Lv 5
※関節部分の精密さを追求した結果。
スキルカスタム Lv1 New
魔術:
クリエイト・オブ・サモン・マナ・サークル
風の精霊召喚
魔法:
★1(第一階梯)パッケージ習得完了
※精霊関連除く
ライト 光属性
周囲を明るく照らす魔法。蝋燭の4倍の明度10分。
マーカー(ライト派生)
明度なし。反射発光。
インフラ・レッド・ビジョン(ライト派生)
遺跡の知識を取り入れた光の魔法の応用。可視光
域外の光を知覚、視界に反映させる。熱源知覚も可
能とする優れもの。赤外線が届くなら、ほぼ気付か
れることなく知覚可。
幻影生成 (ライト派生)
ドル師匠がやっていたのを真似たもの。
物質強化
分子補強
※劇中未登場:パッケージを最適化した強化魔法。
★外 体系外魔法
思い込み魔法
記憶圧縮
再監者顕現
並列人格顕現
記憶複写
主記憶管理処理
複記憶保管処理
運動能力限定解除
ドルイド・マジック:
植物取込共生
イービル・マジック
サプレッション→コマンド化
追加オリジナル・マジック
テレパス2
マジック・パワー・リバイバル・サプレッション
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いつもお読みいただき、ありがとうございます。
応援ありがとうございます!
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