マジック サーヴァント マイスター

すあま

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第1話 導師(Mentor)

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 第1話 プロローグ 魔法使い見習いの冒険

「“クリエイト・サーヴァント”!」

 父さんよりも巨躯のサーヴァント。それが7体、裏庭に居並び呪文により起動していく。

「よし、この岩石召使ロック・サーヴァントから振り落とされるでないぞ」

その内の1体が僕を優しく担ぎ上げてくれた。僕はその頭にしがみつく。

「では、行くかの」

 ドル師匠は、サーヴァントの背中に設えた椅子に座ると、目を閉じた。

「師匠は、サーヴァントに指示を出さなくて良いのですか?」
「ワシは感覚共有センサリー・シェアードを使い、サーヴァント達の直接操作と指示を行うのぢゃ。そうなると本体からの情報は邪魔になるのでな」
「え? サーヴァントって直接操れるのですか?」

 しがみついていたサーヴァントの頭が動き、右手が落ちないように支えてくれる状態で、左手がサムズアップした。

「サーヴァントの製作者なら、こんなの朝飯前ぢゃ」
「カッコイイ! カッコイイです! 師匠! 僕は父さんみたいに強くなりたいです! サーヴァントを使えば強くなれますか!?」
「人間よりも強くなれるから、簡単ぢゃな」
「凄い!」

 仄かに朱に染む光が照らす、森の中。起伏の激しい道なき道をサーヴァント7体が颯爽と駆け抜ける。

 あ、でもこれ運ばれてるだけだから、そんなに運動にならなくないかな?
 揺れの激しいサーヴァントの上で跳ねる体を踏ん張らせながら思う。

 そうして、どれくらい経ったか、不意にサーヴァント達は止まった。

「よし、結界を解くぞ、枝葉には気をつけるのぢゃぞ。守りきれるつもりぢゃが、危険ぢゃからの。“ウィンド・ヴォイス”」
「え? なんのことですか? 結界って?」
「ここは、もう魔物の巣のど真ん中ぢゃて」

 ドル師匠の声を発するサーヴァントが右手を前に出す。

「コマンド! “ディスペル・リング”」

 親指を水平に人差し指で真円を描くと軌跡が金色の光を残す。その金環を指で弾くと縦回転しながら1メートル先で見えない壁にぶつかって霧散した。軽い衝撃が走った。
 思わず目を瞑ってしまう。

 目を開けると、そこは父さんと来た時と変わらぬ陽光ささぬ暗い森の中。いや、何処と無くさらに陰湿な夜の雰囲気をまといつつある空気。木の枝が幽霊のように見えるあの言い知れぬ恐怖。

 そして巨大樹に及ばぬ高さの木がチラホラと見える。不自然さに気になって見ていると木の表皮に凶悪な顔が浮かんだ。

「ヒッ!」
 思わず情けない声が出て、サーヴァントの頭にしがみつく。



 そして、途方もない僕の冒険が始まった。
 その経緯をこれから話そう。



 ◆ 第1話 導師(Mentor)


 広大なミッドグランドの西側に広がる深き森エーゼルバニア・フォレスト。
 昼間、巨大樹の森は陽の光を余すことなく葉に受ける為に薄暗い。危険な魔物にとっても住処に最適でシルバーAランク(世間で言われるベテランよりも手練れ)の冒険者でも危険だと兄さんは言っていた。

 そんな深い森を休憩用にまとめた荷物と別に空っぽの大きな雑嚢を背負い、道無き道をひたすら歩く筋骨隆々の男。それが僕の父さん、ロード・ソフラト・プリムヘッツ。その父さんに僕は必死に追い縋る。普通ならアカデミーに預け入れられる7歳にこの道はキツい。

 幾ら、道中魔物に出会わない結界符を持っていても、何度か連れて行ってもらって、初めてでなくともキツいモノはキツい。日が昇る前から森に入り何度も休憩を入れて貰った。

 崖のような急勾配。申し訳程度の足がかりの木の根や石の階段。行く手に立ちはだかる巨大な木の根。それらを超え奥へ奥へ進み、半日。ようやく目的地へたどり着く。

 はじめの頃に比べれば、すぐにへばる事なく動けるが、足の痛みは酷かった。

 いつも突然のように現れる一筋の日光。ほぼ直上から、その広場を照らす陽光は、暗い森の入口に淡白い散光を伴い降り注ぎ、広場を浮かび上がらせる。その光を見ていると疲れた身体が少し軽くなった気がした。

 その広場の巨大樹は"特別"と思わせる何かがあった。居並ぶ森の巨大樹を寄せ付けず、その広場を守っている。父さんは躊躇わずに広場に足を踏み入れた。それに続いて広場に入ると視界に淡い光の幕が現れ、霧のように晴れる。気付けばただ佇んでいた巨大樹の樹肌に窓や扉、玄関の階段と花壇が現れる。

 いつ来ても森の中から見た時より暖かみがあり、迎え入れてくれてるように心安らいだ。
 その巨大樹の扉の前まで父さんは進み、ノッカーで扉を軽く叩いた。しばらくして中から、緑色のローブを着た初老の男が出てきた。その姿はまるでお伽話の魔術士そのもの。ドル先生だ。

「やぁ、ソフラト。今は、まだ瓶詰め作業中だよ。じき、終わるから少しゆっくりして行ってくれ」
「どうも、お構いなく。それと先に使い魔でお知らせした件なのですが」
 僕は手を強引に引かれ、父さんの前に立たされた。

「構わんが、その意味は理解しているのか?」
「ええ。"再戦の世代"ですし……この子は魔力に愛されているようですので。少しでも強くなって欲しいのです」
「分かった。引き受けよう。アイルス。おいで」
 ドル先生が優しく手招きした。

 父さんに背中を押され、半歩前へ送り出された。
「ドル先生、よろしくお願い、します……」

 その半歩は僕にとって、とてつもなく重く長い半歩だった。

 ◆

 昨晩の事だ。
『お前は魔法の素質があるそうだ。明日、森の奥に居るドルイドの魔術師であるドル先生のところへ連れて行くからしばらくの間、奉公して来い』と父さんに言われた。

 そのきっかけは、毎晩僕が寝ると起こる騒霊ポルターガイスト現象にあった。最初は街の司祭様に頼んでお祓いして貰った。しかし、取り憑いたとされる騒霊はどこにも見当たらない。そこで司祭様は僕の魔力量を調べた。その結果『強力な魔法の素質がある』と分かり、教会への入信を勧められた。
 けれど父さんみたいな剣士になりたい僕は頑として断る。タダ同然で僧侶プリーストになれる道を蹴ったのは頭のてっぺんを剃らなきゃいけないのもあったからだ。そんな格好悪いの絶対に嫌だ。

 父さんは村長を継ぐ以前、冒険者だった。兄さんが産まれて、母さんとプリムヘッツ村に帰って来た。そして村長を継いだ。今は、鍛えた体を活かして流通業を行っている。そのおかげで現在でも筋骨隆々でカッコいい。そんな父さんに憧れないわけがないでしょ。

 父さんのようにヤーパンブレードを変幻自在に操る剣士を目指していつか冒険の旅に出ると心に決めていた。それなのに、『魔力に愛されている』だなんて。しかも筋力ストレングスより優れている? は? 何それ剣士は諦めろって? あり得ないよ!

 それを父さんに伝えたが『魔法を極めてからでも剣士には成れるさ』と笑って諭された。

 うちは血の繋がってない子を入れて14人の大家族。
 プリムヘッツ村は小さな村だが、教会で引き取りきれない子もウチで引き取って育てている。助け合い子供の世話をしあっていた。それが当たり前の風景だった。

 父さんは、森の奥に住むドル先生から買い付けたヒール・ポーションを町の道具屋まで運搬して卸している。この流通経路は、普通の家族なら余裕の稼ぎだ。しかし毎日、14人の胃袋に食費として消える稼ぎ分は裕福とは言い難い現実を作り出し、牧場を買った時の借金も未だに返せてなかった。

 少しでも父さんたちの負担を軽くしたかった。僕は上から数えて6番目。物心ついた頃から両親を困らせる子をなだめる役目を果たしてきた。早々と自立し、冒険者になって出て行った兄の様になる。それが冒険者に、一人前の男になる最短コースと思っていた。

 魔導学園に入学出来るお金もない事は理解していた。数日間父さんは母さんと悩んだ結果、伝手のあった森のドル先生に預ける事を決めたらしい。

 騒霊現象で迷惑をかけてしまっている。それが起きてしまう自覚のない制御できない力。望んだわけでもない要らない力。それを嘆いても消えないし解決できない以上、仕方がないと納得するしかなかった。困らせたくなかった。

 だからどんな形にせよ、『剣士になる為に魔力を上手に使いこなす事』が当面の目標になった。

 ◆

 ツリーハウスの中で木製召使ウッド・サーヴァントがヒール・ポーションを持ってきた鞄類の中に詰めてくれている。その作業を待ちながら、父さんの膝の上で紅茶をちびりちびりと啜る。妹達の手前いつも我慢してた特等席。久しぶりの父さんの膝の上。次座れる事は無いかもしれないな……最後に乗った時より重くなったし。こんなんじゃ一人前は遠いかな?

 取り留めもなく冒険者になった兄の事を思い出したり、最近しっかりしてきた妹達を考えたり、自分の在るべき立ち位置やら騒霊現象など考えてたら、サーヴァント達の作業が終わる。
 父さんが冷めた紅茶を一気に煽り、僕の頭に手を置いて乱暴に、なのにどこか優しく撫で回す。それから僕を軽々と持ち上げて立たせてくれた。

「再来週また来るから、ドル先生の言う事をちゃんと聞くんだぞ」

 父さんはそう言い残して、雑嚢とその中に入れてた各所にくくりつけるための幾つかのカバンと予備のウエストポシェットを、ヒール・ポーションでいっぱいにして家族の待つ家に帰って行った。
 涙がこみ上げて来る。とにかくガマンした。

 泣くもんか。



 ◆◇◆



 弟子 1日目

 ツリーハウスの扉を開けるとリビング・ダイニングだ。父に連れられ、ここに訪れるのは何度目か。しかし、滞在時間は帰りもある為にいつも短めだった。だからゆっくりじっくり見ていなかった。

 室内は、空気の取り入れ口以外は継ぎ目のない空間で食器棚も机も椅子も部屋にある家具全てが壁や床から直接掘り出したか、生え出したかの如く存在していた。分割パーツらしさなど一切ない。それでいて装飾が施されている。小指さえ入れられそうもないとこまでも彫られている。
 いつ見ても不思議な部屋だ。

 そこかしこから、夢の中で感じるフワッとした雰囲気が感じられた。固定デザインの家具を、装飾の中を、そのフワッとした何かが流れて息衝いていて不思議な感じがした。

 その"生きた感じのする部屋"のテーブルに積まれた難しそうな本やスクロールに羊皮紙類。雑然としそうな雰囲気を醸し出しているのに床にはチリ一つ落ちていない。なんか、お母さんが掃除してる部屋で散らかしてるお爺さんみたい……。

 そんな散らかり始めたテーブルに手をつきながら、ドル先生が僕を振り返る。

「しかし、ウッド・サーヴァントを怖がっていた、あのアイルスが弟子とはのぉ」

 サーヴァントに2人分の紅茶を淹れ直す命令をした、ドル先生が呟く。僕は何も言えず、恥ずかしさで顔を赤らめた。
 ニヤリとしてから真顔になり、ドル先生は僕に宣言する。

「ワシのことはドル先生ではなく、ドル師匠とでも呼ぶが良い。アイルスよ。ヌシはこの時より魔導師見習いぢゃ」

 後ろで手を組み、ドル先生改めドル師匠は言った。

「あ、はい。ドル師匠……」

「うむ。まず、一つ目の教えぢゃ」

 ドル師匠は、右手の人差し指を立てた。とても自然で様になっていた。

「魔を扱う者、真名を名乗るべからず。アイルスが仮の名である事はソフラトから聞いて知っておる。使い魔につける名も不用意に口にせぬ事だ」
「したらどうなるのですか?」
「奴隷にされる」

 喉元からうなじへヒヤリとしたモノが通り過ぎた。
 ……なんだ? 今の。
 ドル師匠は階段側へ手をやりながら、続けて言う。

「今日から2階の1番奥の左の部屋がお前の寝る部屋だ」

 こちらの視線を確認して恐らくは、進行方向順に指を動かし言った。さっきの怖い感覚はもうない。

「荷物を置いて来るといい」
「わ、分かりました。ドル師匠」

 優しく微笑んだドル師匠に応え、2階へ上がり、廊下の奥へ進む。そして左の扉を開ける。与えられた部屋はベッドと大きめの机しかなかった。余分な物は一切無い。多分、僕の寝る時の騒霊現象対策だろう。事前に父さんから聞いたに違いない。魔法の素質の話もすれば当然か。

 いずれにせよ個室だ。今までの、男だけの大部屋生活からは考えられない贅沢だ。着替えしか入ってない自分の荷物を置くと嬉しさで小走りになって居間まで戻った。

「座りなさい」

 戻るなりドル師匠は、一言だけそう話しかけながら、左手を椅子に向ける。椅子へ座る間にメガネを外して机に置いた。

「部屋は気に入ったかね? 何もなくて殺風景ぢゃろうが、魔力をコントロール出来たら本棚と勉強机を設置しよう。さて、これから大まかな魔力の量と資質を測る」

 ドル師匠は懐からしわくちゃになった15cm四方程の羊皮紙(?)取り出し、テーブルの上に広げた。

「ここに魔法陣がある。魔力の動きを先ずは感じて見るのぢゃ。小さな彼等の囁きをな」
「ささやき?」

 ドル師匠が人差し指を口に当てて、左手をまだシワの残る魔法陣の上に乗せる。
 フワッとした息衝く何かがテーブルの中から、空気中の微量なものまでドル師匠の左手に集まってくるのが視えた・・・

「“プレス”」

 ドル師匠が一言だけ、そう言うとフワッとしたまとまりの無かったモノが左手の中心部に集まって魔法陣を走り抜けた。
 ドル師匠が左手を退けると皺一つ無くなった魔法陣が湯気を立てて現れた。

「キーワードは『プレス』。魔力が走ったのは見えたぢゃろう? やってみなさい」

 ドル師匠が懐からまたしわくちゃの魔法陣を出した。その紙が僕の手元に置かれた。……あ、これ失敗すれば帰れるんじゃないかな?

「寝る時の騒霊現象を消したければ、溢れる魂と魔力をコントロールする必要があるのぢゃ」

 あー、ビックリした。心を読まれてるのかと思った。そうだった。あれを直さないと帰っても意味がないんだった。仕方ない。やるか。
 魔法陣の書かれた紙に手を乗せた。

「!?」

 視界の景色が青白い光の粒のみで構成される風景に変わる。テーブルの縁に描かれた装飾に沿って、いや、この部屋を構成する巨大樹の腹の中をゆっくりと巡る青白い粒子。自分の手の先へ鼓動に合わせて巡る粒子と手を構成する肉に点在する粒子。ドル師匠も同様に見えた。

 それらが一瞬見えたことによる驚きと恐怖で魔法陣から手を引っ込める。
 視界が元に戻り、自分の手を見て、魔法陣を見た。

「どうした? 何か特別な世界でも垣間見えたかの? 怖がることはない才能も魔法も目的を果たす道具に過ぎん。手段に過ぎん。使いこなさなければ目的が果たされるのが遅れるだけぢゃ」

 ドル師匠がニヤリとして、こちらを伺いながら言った。そして右手を魔法陣へ向け笑いかけてきた。

 "怖い"

 今までの視界があのままにならないか? 足元の向こうまで夜空の様な視界で一生過ごさなければいけないのかとか、一瞬でとめどない思いが通り過ぎていく。

 でも、やらなければ家に帰ることも出来ないだろう。魔法陣へ手を乗せるしかなかった。

 ドル師匠も恐らく同じものを見てる。そして生きてる。大丈夫。

 魔法陣へ手を載せた。視界が青白い粒子の世界に切り替わった。

「アイルス」

 ドル師匠の優しい語り掛ける口調と共に魔法陣の手の上に手を重ねて来た。

「魔力の意思・・に感応しすぎるな。自分の意識をしっかり持つのぢゃ。ワシの顔は見えるか?」

 ドル師匠の顔が青白い粒子の世界に重なる様に見えてきた。それと同時に景色も。それは見たことの無い好ましい世界を構成する景色に見えた。この世の真実、世界の理の一端を知った様な『なんでも出来そう』な気分になった。

「“プレス”」

 口から自然にその言葉が出て来た。
 ドル師匠は笑い、優しく手を退けて魔法陣の上の僕の手を見るように促した。
 手を退けて見る。
 魔法陣を書いてあった羊皮紙(?)には一切の皺が無くなっていた。

「これはソフラトが持って来てくれたものでな。ここ10年で普及して来たパピルスと言うらしい。それを改良したものだ。欠点は皺がつくとほぼ消すことが出来ないがな」
「え、でも消えてます……」
「水気と熱を加え、程よい圧力で時間をたてると繊維質が自己修復に近い働きをするようだ。そう言う働きをする魔法陣が描かれている。これに魔力を注ぎ発動させればその通りの結果が得られるわけぢゃ。初めてと思えん仕上がりぢゃな。魔法適性はワシほどではないが優れておるの」

「何を言ってるのか、難しいことだらけで分かりません」
「分からないことはなるべく自分で調べなさい。先ずは調べ方と単語の理解からかのぉ」
「お、お願いします」

 深く考えずに答えたのは星だけしか見えない、なんとも頼りない世界への恐怖。それと同時に非日常的な自分が特別な存在である実感が心に強く残っていてドル師匠の言っている事が半分ほども理解出来なかったからだ。

「さて、今のは、魔術を応用して魔法化し、誰でも魔力を注げば発動出来るようにした。そう言う魔法陣ぢゃ。魔力量が多かったり、魔力制御が甘ければ机をも傷つけたであろう。逆に弱過ぎれば皺は修復される事なく十分に元に戻せんのぢゃが」
 綺麗に皺の伸ばされたパピルスを見せて続ける。
「ここに書いてあるルーンを覚えてもらわなければならん。出来るか?」
「……う、あ」
「ソフラトから頼まれておる以上、できなくてもやって貰うがの」

 じゃぁ、なんで聞いた。いきなり知らない言語なんて覚えられる訳ないじゃないか。

「仏頂面になったのぉ。感情を制御することも、……要するに隠すことも覚えたほうがいいのぉ。ま、それは追々教えるとして基本的な事を覚える必要もあるかの」

 そう言ってドル師匠は、2枚の魔法陣をクシャッと丸めて懐にしまう。左手だけで何やら空中を指先で突くと半透明の『箱』を幻術で作り出した。

「この世界には魔素が満ちておる。もう、お前ならばその存在を感じ、操作出来るぢゃろう」

 森の中のようなシルエットが箱の中にあり、あの星空のような青白い小さな光が無数に出現した。

「この青白い光、魔素は純粋なエネルギーぢゃ。生物は本能で魔素を体内に取り込み、魂の欠片たる意思を乗せ魔力として利用する。利用後は吐き出しておるのぢゃ」

 箱の中に犬のような動物のシルエットが現れた。青い光はそのシルエットの中に呼吸と共に吸込まれた。光は緑へと変化し巡り、体外へ吐き出された。

「そして、生物の中にも稀に魔力を操作出来る者が現れる。魔素にアテられて魔物になると言うのは迷信ぢゃな。肉体強化し、根本から肉体を改造進化した種族が魔物ぢゃ」

 犬のような動物は、幾つもの取り込んだ緑の光を強めた。角や爪が強化され筋力が膨れあがり凶暴なシルエットになった。

「さらに肉体の強化に留まらず魔力の操作は、魔法、あるいは奇跡を可能とする。世間では体内魔力は精神力の一種でマジックパワーと呼ばれておるが、厳密には違うのぢゃ」

 動物が消え、魔法使いの人物シルエットとその横にマジックパワーのステータスバーが表示される。更に黒い罰点がそこに表示された。

「ただ、判りやすくる為にマジックパワーとされておる。魔力を制御するとは"意思でどれだけの魔素を扱えるか"と言う事なのぢゃ」

 マジックパワーのステータスバーが描き変わる。太い青いバーが現れ、左から右へ緑に塗り替えられていく。青の部分が魔素で緑の部分が制御出来る魔力という事か。

「言い換えるなら魔素は物理的な質量を持った精神や意思の力で使える資源だと言う事ぢゃな」

 魔法使いが幾つか火の玉を出し、緑の部分が手から放たれる炎が出るたびに減り、青の部分が左へ進む。

「アイルスよ。先ほど青白い星の循環する景色を見たかの?」
「はい。見ました」
「あれはの魔素の抱える、何者かのかつての意思がお前に見せた景色ぢゃよ。長い間この世界の循環に戻り影響を受けた結果、意思はニュートラルになった。そのニュートラルの意思自体を我々は魂の根源『エーテル』と呼んでいる」
「エーテル?」
「そうぢゃ。そのエーテルの影響をアイルスは受けやすいのぢゃ。ワシも昔、アイルス同様にあのアレを見て驚いたものぢゃよ。魔力は魔素に意思を乗せて魔力となる。ニュートラルのエーテルを同調させるのぢゃ。同調させるより取り替えた方が早いと"パッケージ・マジック"を使う者達にはワシらのやり方は不人気ぢゃがな。怖がることは無い。知らないから怖いのぢゃ」

 魔法使いのシルエットの中に縦の虹色に変化する太めのバーが現れた。
「そして従わせられる量の"精神や意思"とは魂から使える許容量ぢゃ。魔素を従わせ続けると言う事は魂を削り続ける事になる。疲れは使っていい精神のリミッターを指す。それ以上は魂の存在を脅かすことになろう」

 バーの上端が下がると同時に、魔法使いの頭の上の横のバーの緑の比率が増加する。
 火の玉を出し続ける魔法使い。連動して横のバーの緑がなくなりそうになる。虹色のバーが半分に近くなると赤く明滅しながら減っていき、また緑の部分が増えた。しかし魔法使いのシルエットは息も絶え絶えに膝をつき、倒れた。

「さて、紅茶コレを飲むがい」

 ドル師匠は手で紅茶を飲むように勧めてくる。

「その紅茶には体内魔力回復オド・ヒールと言うワシのオリジナル魔法の発動原液を入れてある。マジックパワーの疲労回復にはテキメンというヤツぢゃな」

 紅茶を片手に『テキメン』に合わせて片目を瞑ってワザとらしいウインクをしてくるドル師匠。
 初めて見る悪戯好きな子供みたいで陽気な面に、僕は緊張が完全にほぐれた。

「オド……?」

 ウィンクが妙にジワリと可笑しくて、誤魔化す為に聞き慣れぬ言葉を繰り返す。

「"オド"とは体内の魔力を指す」

 魔法使いが拡大、体内側に青球に小さな緑球が付いている。その緑球は虹色の魂のアイコンに薄い灰色の炎の線で繋がれている。その緑の着いた青球が体内側を巡る。

「魂に意思の許容量があり、意思そのものが強き者は体外にも魔力として保有可能だ。強すぎて飛び出す。それをマナと呼んでおる」
 小さな緑の輝きが強くなり、緑球が付着した青球は体外へ出た。灰色の炎の線が薄く伸びて繋がったままだったが、しばらくして切れた。

「オドもマナも既に意思が影響し、なんらかのベクトルを持っている魔素ぢゃ」

 体外へ出ながら、何処か歪んだ青い球体はくるくると回り続け魔法使いの周りを漂う。

「オド・ヒールは体外に出てしまった意思を回収するのぢゃよ」

 青球から小さな緑球が剥離し体内へ入る。すると、灰色の燃ゆる線が繋がる。

「どうぢゃ? 理解出来たか?」
「はい。ですが、言葉に出来ない疑問が……」
「ならば、それを口に出来るまで考えるのぢゃ。午前の講義はこれまでぢゃ。では食事にしよう」

 そう言えば香ばしい香りが漂っている。

 ぐぅううう

 意識した途端、お腹が催促の抗議をあげた。

「ほっほっほっ。ちょっと興が乗ってしまったわい。すぐに支度させよう」

 ドル師匠が言った途端に左手奥の扉が開く。僕の部屋の向かいの一階がキッチンらしい。扉の向こうから濃厚なコンソメオニオンスープの香りがさっきよりも漂ってくる。
「肉が貴重での、菜食中心で申し訳ないが香辛料には事欠かぬでな。辛いのは大丈夫かの?」
「ちょっと苦手です」
「少し抑えめにはしたが、慣れてもらおうかの」
「はい」

 食事の用意はサーヴァントが行なっていたようだ。盛り付けられた皿を運んで来て、テーブルに並べていく。そのサーヴァントの足元を見ていると僕の靴に付着して部屋に落とした砂や土がサーヴァントの足に引き寄せられた。どうやら掃除機能付きの足か。あれの構造も知りたいなぁ。

小塊引寄せリル・アポーツぢゃ。便利であろう? もっとも一定の塊を越えると反応せんから、結局は、箒とちりとりは必要ぢゃがの。魔法と言えば便利な道具か武器ばかりが目立つが生活に即した道具の方がより文明的に活用出来るのぢゃよ。……もっともこのリル・アポーツも組み換えれば恐ろしい魔法になる。いずれ使い方を教えるが、覚えるのはまだまだ先になろう。さ、食べよう」

 僕は食事の前に神に感謝の祈りを捧げる為に手を組んだ。
 メインの料理は塩茹でだが薄味に調整されていた。それでいて辛い。ピクルスベースも酢の味が濃くて、とてもじゃないが美味しいとは言えなかった。
 それでも空腹が一品一品を口へ運ばせる。その中でコンソメオニオンスープはオアシスと言える絶品だった。

「アイルスよ。ピクルス和えは、ブロッコリーやニンジンと一緒に食べるのぢゃよ」

 どの野菜も苦手だ。塩茹でにされても好きに慣れない。しかも辛い。イジメだ。

「仏頂面が直らなんの。騙されたと思って全部合わせてみよ。若き探求者よ」

 そんな、世辞には乗らない。仏頂面も直さない。でも全部合わせはやって見た。

 奇跡が起こった。

 足りない塩味がキツい酢の味とバランスを取り、後から来る辛さも和らいだ。野菜のあるかどうかわからない甘さが主張してくる。肉とは違う未体験の美味しい奇跡。

「そこへスープを一口ぢゃ」

 ゴロゴロほこほこの野菜を噛み砕く。

「一つ、一つの品はマジックコマンド、味はコマンドに込められたプロセス、口に入れた時発動する完成された味が魔法と考えると似ていて面白くないかの?」

 訳の分からない充足感。

「はい、師匠」

 全然理解しないまま即答する。しばらく考えることも忘れ、この老人向けとしか思えない食事を楽しんだ。

 ◆

 食事を終え、出されたコップで口を濯いでリセットし、満腹感に任せて少しウトウトしかける。

「さて、学習ばかりでつまらんぢゃろ、食後の運動を兼ねてデザート採取に行くぞい」
「え? デザート採取ですか?」
「魔法の実践を間近で見せてやろうと思っての。さっき教えたことを思い出しながらマナの動きを見るのぢゃ」
 ドル師匠は、勝手口と思われる出入口へ踵を返した。
「あ、はい」

 慌てて返事をしてついていく。

 ◆

 リビングから勝手口を抜けると結構な広さの裏庭に出る。そこには大きな岩がゴロゴロと転がっていた。

「“クリエイト・サーヴァント”!」

 大きな岩が動き出し、人型になっていく。父さんよりも巨躯のロック・サーヴァント。それが7体、呪文によって裏庭に片膝をつき居並び、起動した。

「よし、この岩石召使ロック・サーヴァントから振り落とされるでないぞ」

その内の1体が僕を優しく担ぎ上げてくれた。僕はその頭にしがみつく。それをドル師匠は確認してから声をかけてきてくれた。

「では、行くかの」

 ドル師匠は、サーヴァントの背中に設えた椅子に座ると、目を閉じた。

「師匠は、サーヴァントに指示を出さなくて良いのですか?」
「ワシは感覚共有センサリー・シェアードを使い、サーヴァント達の直接操作と指示を行うのぢゃ。そうなると本体からの情報は邪魔になるのでな」
「え? サーヴァントって直接操れるのですか?」

 しがみついていたサーヴァントの頭が動き、右手が落ちないように支えてくれる状態で、左手がサムズアップした。

「サーヴァントの製作者なら、こんなの朝飯前ぢゃ」
「カッコイイ! カッコイイです! 師匠! 僕は父さんみたいに強くなりたいです! サーヴァントを使えば強くなれますか!?」
「人間よりも強くなれるから、簡単ぢゃな」
「凄い!」

 仄かに朱に染む光が照らす、森の中。起伏の激しい道なき道を物ともせずにサーヴァント7体が颯爽と駆け抜ける。

 あ、でもこれ運ばれてるだけだから、そんなに運動にならなくないかな?
 揺れの激しいサーヴァントの上で跳ねる体を踏ん張らせながら思う。

 そうしてどれくらい経ったのか、不意にサーヴァント達は止まった。

「よし、結界を解くぞ、枝葉には気をつけるのぢゃぞ。守りきれるつもりぢゃが、危険ぢゃからの。“ウィンド・ヴォイス”」
「え? なんのことですか? 結界って?」
「ここは、もう魔物の巣のど真ん中ぢゃて」

 ドル師匠は口を閉じている。しかしドル師匠の声をサーヴァントが発しながら、右手を前に出した。

「コマンド! “ディスペル・リング”」

 親指を水平に人差し指で真円を描くと軌跡が金色の光を残す。その金環を指で弾くと縦回転しながら1メートル先で見えない壁にぶつかって霧散した。シャボン玉が弾けるように、軽い衝撃がサーヴァント達を球状に包んで走る。
 思わず目を瞑ってしまう。

 目を開けるとそこは、今朝来た時と変わらぬ陽光ささぬ深い森。いや、何処と無くさらに陰湿な夜の雰囲気をまといつつある空気が漂っていた。木の枝が幽霊のように見えるあの言い知れぬ恐怖。

 そして巨大樹に及ばぬ高さの木がチラホラと見える。不自然さに気になって見ていると木の表皮に凶悪な顔が浮かんだ。

「ヒッ!」

 思わず情けない声が出て、サーヴァントの頭にしがみつく。

 ◆

「我が弟子ながら、トレント如きで情けない」

 ドル師匠が背中に座るサーヴァントの顔がこちらを向いて、口の辺りの空気が震えて声が響いた。ウィンド・ヴォイスって発声場所を変えられる魔法だと理解した。よく見れば空気が揺らぎ魔法陣がいくつか展開していて空気の発声と共に発動している。

「ラナイゼ・ナ・マルタニ! 今日は20個ほどいただくぞ!」
ーーふん、弱そうなのを横にやれるか?
  来るが良い!--

 葉ずれの音が辺りから聞こえた。瞬間、全方位から枝が槍のように伸びて来た。

 サーヴァントの上で恐怖に硬直した僕をボールでも扱うかの如く大きな左手が重力を殺しながら受け止め、そのごっつい両腕がガードしてくれた。死角から襲い来る枝槍に他のサーヴァントが掴むと、枝がそのサーヴァントに巻きついて行く。
 僕をガードしているサーヴァントも枝に巻きつかれ、雁字搦めになりつつあった。

「弱い部分を狙って来る事は予測しやすい。のう? コマンド! “装甲破解アーマー・ブレイク”! “欠片回転盾ビット・スピン・シールド”!」

 その時、僕は見た。分かりやすく空気を振動させているが、発動元は振動する空気じゃない。ドル師匠の口がモゴモゴ動いて、気持ち遅れてドル師匠の懐から魔法式が編み出される。すると、サーヴァントから言葉をこだまさせ、サーヴァントの周囲のマナが次々に活性化した。

 活性化したマナはサーヴァントの表面に幾何学的なヒビを入れ3mm厚ほどのタイルを作り出し剥がれた。剥がれた装甲だった黒い石の欠片を円盤状に回転させる。マナが動く一連の動作を見て何か説明出来ないことわりを理解した。

 サーヴァント達を締め付ける枝は、回転運動する黒いタイルが作り出す、両腕のラウンドシールド状の空間内から、いとも簡単に吹き飛んだ。

 ナイフの刃先のように鋭い葉の手裏剣、鉱物を取り込んだと思われる硬い殻の木の実の弾丸、鞭のようにしなり、打ち据える蔦。あらゆる波状攻撃が降り注ぐ中、ドル師匠がニヤリとしてから、目を見開く。

「アイルスよ。午後の講義を始める! 先ずは魔術師たる者、頭の使い方を覚えよ! 生物は生存本能に従って記憶する! ある程度の緊張状態が生きる為の記憶を定着させやすいのぢゃ! 更に成功した時よりも失敗し、生き残った事例がより効率の良い処理を産み出す! 行くぞ、コマンド! “遅発音響包囲ディレイ・サウンド・サラウンド”!」

 空間振動発声していた箇所のマナが増えた。しかもその魔法陣はよく見えずマナだまりにしか見えない。それが動き回っているのが見えた! 声による撹乱か!? 命を落としかねない状況下で僕の頭の中の処理は既にアップアップ状態だ。なのに! なのにだ! 講義とか無理だろと憤りを感じた!

「インパクトが強ければ記憶の定着も強い! どうしたアイルス! 余裕の無い顔だの!」

 右手方向から、真後ろから、左上方からと聞こえてくる方向も音量もバラバラに響いてくる。
 それだけで情報処理が多重化して更にイライラが募る。声の方向特定処理が勝手に頭の中を引っ掻き回す!

「戦いの中で講釈とか無茶です! 覚えられません!」

 流れ木の実が飛んで来て目の前で粉砕された。破片が目に入りそうになり慌てて顔を庇う。

「現実はお前が一人前になるのを待たぬぞ! 魔術師たる者、戦士よりも狩人よりも盗賊よりも思考をいくつも重ね、処理せねばならん!」

 枝を粉砕したサーヴァントが、仲間のはずのサーヴァントに襲いかかるが如くダイブした。すかさずサーヴァントが振り向き、両手を組むとダイブしてきたサーヴァントの右足を両手で受ける。上に向かって、受け止めたサーヴァントが両手を思い切り振り上げ、その両手に乗ったサーヴァントがものすごいスピードで縦回転しながら、跳躍して遥か頭上へ跳んで行く。その手にマナを纏わせ、林檎に似た果実がもぎ取られた。瞬間、何処へともなく果実は消えた。

 講釈と戦闘をこなして、ドル師匠の頭の中はどうなってるんだ!?

「この程度で根を上げるのはまだ早いぞ! 今一度言おう! インパクトは強ければ強いほど記憶は定着する! コマンド! “七鏡影7ミラーズ”! "オブジェクト・スピン・シールド"! “魔鞄マジック・バッグ”!」

 新たに7体のサーヴァントの分身がスピン・シールド付きで現れた。よし、もう驚かない。魔法陣を見極める!

 全身鎧を見にまとった屈強な戦士を思わせるサーヴァント。それを思いのまま、連携プレーをさせ、魔法の同時発動、遅延発動、恐らく予約詠唱発動待ちみたいな事を次々と行なって、且つ此方に講釈を垂れる言葉を発する。

 常軌を逸した戦闘講義に処理がギリギリ追いつけてない! さっきからサーヴァントの見事な連携を見ているのに理解出来なくなっている!

「そして人に限らず、生きる為に危険な狩りを行うことは、生き続ける為に回数を重ねる事!」

 ドル師匠は、そこで間を空けた。空けてくれた事で言った意味に理解が追いつく! 木を蹴り連続跳躍するサーヴァントがスピン・シールドを楕円拡大し、2、3m先の果実を落としてった。
 直後、ミラー非実体も含む防御戦闘中のサーヴァント達がその果実をさまざまな防御体勢のまま受け止める!
 まるで噂に聞いたサーカスだ!

「反復行動は記憶を定着させ易い! そして、インパクトの無い事例や少ない事例は記憶から忘却される! 考えよ! 頭をフル動員して覚えよ! 魔法を、魔法式を! 魔法陣を目に焼き付けよ!」

 全てのサーヴァントが、地上に降り、スピン・シールド以外構えの状態で動きを止めた。
 ミラーサーヴァントが解除される。

「よしよし、こんなもんぢゃろ。良い運動であったぞ。ラナイゼよ」

ーーちっ。相変わらずのバケモノぶりだな。ドルよ。--
「なに。弟子の前で少し格好付けたかっただけぢゃよ。宣言通り20頂いたし、帰るとするかの」
ーーそれならば、此方にももう少し見せ場を作れば、面白いことまで出来たのだがなーー
「いやいや、まだ弟子初日なんぢゃ、これくらいが丁度いい。では、またの。約束の結界維持は任せておけ」
ーーふむ。では友よ。近いうちになーー

 結界が張られ、暗く陰鬱なのしかかられるプレッシャーが無くなり、ただ暗いだけの森に戻る。
 直後夕焼けの様な橙色の淡い光がロック・サーヴァントの周りを仄かに照らす。
 やり取りに呆気にとられ、結界に驚かされ、言葉を失った。

「我が弟子、アイルスよ。記憶は単一では覚えにくく事案として関連されると覚えやすい。物語として圧縮した情報が扱いやすいのぢゃろうて」
「こんないっぺんに短時間で覚えられません」
「なに。基礎は覚えきるまで何度でもやるから、安心せい。では午後の一番目の講義はコレまでぢゃ。帰ってフルーツパイを作ってやろう」
「あの、果実にも目とか口があったように見えたのですが」
「植物も生きとるんぢゃ。魔物化したら当然ぢゃ。気にしてたらキリがないぞ」

 その言葉に無理やり納得して帰り道あったことを記憶の反芻をした。
 一見無茶苦茶だったが、拾えてた情報は、2度目の講義でほぼ完全に覚えてたことに驚いた。

____________________
アイルス手記:
1.頭の使い熟し方
魔術師たる者、頭の使い方を理解し使いこなす事
・生命の危機的、状況下になるほど記憶の定着率は向上する。
※気絶する場合は覚えてない等、例外になることもある。
・失敗して生存した場合改善処理が生まれ、より行動的にも知識的にも効率が良くなる。
・繰り返される事は記憶が強化され、繰り返しの少ないこと程、忘却されやすい。
・目で追い、発音し、発音した声を聞く事で頭全体を使い、且つ繰り返し効果にも繋がる。
・関連する記憶は単一で覚えるより強化される。
→以上を踏まえて静止、連続に限らず風景を音付きの一枚の絵として記憶する事が1番記憶効率が良さそうだ。

2.魔術:
・人知を超えた者との交渉する術
・光闇火水風金土の各属性の妖精と契約して使用するのが基本。
※このカテゴリに入らない妖精も存在する。
・魔法式は存在しない。召喚師とも呼ばれるが、召喚するのでは無く力を借りる魔法陣が多い。

魔法:
 『人知を超えた者』が行使していた、『魔力を利用する技術』を直接行使する行為全般。
 元々は錬金術の分野から派生し、魔法陣に力を借りるステップを魔法式でクリアする事に成功したのが始まり。
 魔術にはない無属性と階梯と言うステップを得て体系化された。
魔法道具:
 誰でもいつでもどこでも魔法を使用可能にした魔法を付与した道具。創り出せる者は一般的にはほぼ居ない。
奇跡:
 力の源は信仰心と言われてる。光の精霊が神格を持ち教会が五神を定めた。信仰心を集め、奇跡を望んだ司祭に発動を許可する世界機構を持つらしい。
____________________
 【ステータス】
 アイルス・プリムヘッツ(7歳)
 弟子初日終わり頃
 ◆才能:
 魔力制御法(獲得したばかりなので成功率一割)
 魔力最適化(用意された発動するものに限る)
 頭脳使用法
  ①記憶向上方法:習得
  ②右脳検索術(獲得したが本人気付かずに使用)
 写真記憶:習得
 ◆技能:
 観察眼
 分析、考察
 高速切替思考処理(擬似思考並列処理)
 魔力知覚(獲得)
 
____________________
 ランクについて。
 以下10段階。1ランク、Lvは15までありこのレベルはギルドと国の定めた総合レベルで戦闘死亡率を減らす目安である。その為、スキルのレベル等はここに反映されない。15Lvで上のランクへ昇格することで強さを判別している。レベルアップは試験制度。

 Gods:魔王、勇者、英雄

 ゴールド
  Aランク(Legend):勇者パーティーのNo.2~4
  Bランク(Excellent)
   :レアボス、騎士団長、有名冒険者、英雄候補
  Cランク(Special)
   :大ボス、一個大隊を任せられる騎士

 シルバー
  Aランク(Sv-Legend)
   :中ボス、魔導騎士、ベテラン冒険者
  Bランク:小ボス、中堅どころ、
  Cランク
   :冒険者での総人口最多、遺跡ゴーレム等

 カッパー
  Aランク:リザードマン
  Bランク
   :オーク、ホブゴブリン、レアクラスゴブリン
    ノーマルサーヴァント
  Cランク
   :試用期間を終えた者。駆出し~見習い
    ゴブリン、コボルド
 セラミクス(ノーランク)
  いわゆる試用期間。
   先輩と一緒に依頼を熟し、適性を見る。大抵は
  コボルドやゴブリンの退治が主で、時期によって
  は商隊護衛などの時もある。

 尚、これには昇格試験が存在するため、ランク例外は幾らでもいる。特にアイテム依存系冒険者はここに当てはまりにくい。



____
 ■登場キャラクター紹介■
 アイルス・プリムヘッツ
 種族:人間(7歳) 身長:98㎝ 体重:22㎏
 髪:白 瞳:エルフの血を受け継いだ虹彩
 ハーフエルフの母によく似た瞳を持つ。
  青地に黄白と橙白の3枚ずつ計6枚の三角アーチが
 あり、花のような模様になっている。特にこれによ
 る特殊効果はない。本人は恥て髪の毛で目を隠して
 いる。
  ドル師匠に預けられ、少々波乱な道に踏込んだ。
 子供とは思えない神童振りは玩具への愛情。

 ソフラト・プリムヘッツ
 種族:人間(40歳) 身長:182㎝ 体重:85㎏
 髪:灰緑 瞳:赤茶
  元英雄候補。武器は脇差に分類される刀。闘気の
 使い手。特技は鎧や硬い鱗の下を切る透刃スルーブレード
  嫁は冒険者仲間だったハーフエルフのマリアンナ。

 ドル師匠
 種族:ノーム(150歳) 身長:104㎝ 体重:?
 髪:白 瞳:青地に群青の輪が瞳孔を縁取る虹彩
  エーゼルバニアフォレストに居を構える伝説級の
 魔法創世を継承する魔導師。
  魔法創生を継ぎ、全ステータスが謎。自給自足と
 サーヴァントを使役してヒールポーションを大量生産
 しで外界と繋がりを持つ。

 ヘルプラス(プランク)
 種族:インプ(700歳位) 身長:9.5㎝ 体重:秘密
 髪:灰→真紅 瞳:真紅 肌:青紫→肌色 体毛:灰→黒
 体型はスレンダーCカップ。つり目美人。
  数多の生物に夢を見せ、快楽を与え、精気を喰ら
 う悪魔族のインプ。先先代辺りで捕まり強制契約。
 以来、300年ほど精力を吸っていない筈。ドル師匠は
 あまり使役をしなかった様だ。

 オマケ

 ドル式サーヴァント:先代から受け継いだ古代遺跡の本にある学問を利用した中身がオーバーテクノロジーの塊。メンテナンスとマイナーバージョンアップの楽さ加減から召使が好まれた。

 先代は他者の悪用を考慮して、自分の研究助手用サーヴァントしか作成しなかった。先先代はゴーレムのノウハウを持ち出して魔導王国を南の島に作ったが、あっさりその技術を盗まれ手痛い歴史の汚点を作ってしまった。

 その先代達を見て修行を重ねたドル師匠は個人用の召使を改造し主人の認証を行うセキュリティを搭載した。

 ゴーレムのノウハウから間接の磨耗問題を学習し、メンテを楽にする無関節ノン・ジョイントを採用した。無関節は魔法念動で支えている。その分マナコストがかかり、稼働時間に問題が出たが魔力の循環で魔力消費を抑えた設計になっている。

 いずれもソフトウェアが搭載されていて幻像管理紙面ミラージュ・コンソールで命令を書込み制御出来る。接続は感覚共有センサリー・シェアード経由なので目の中や脳内に直接ディスプレイ出来る。他人に見せる時は幻影魔法で見せることが多い。

 ◆木材召使ウッド・サーヴァント
 ※浮遊四肢型(ノン・ジョイント・タイプ)
  全体的に細身で小柄に纏まってて女性らしい流線
  型のデザイン。
  性能は以下。
  ・小塊引寄せリル・アポーツ、塵芥魔素分解炉連動。
   ※エーテル供給されれば永久稼働可。
  ・作業用アタッチメントマニピュレータ
   果物ナイフとワイヤースラッシャー、栓抜き
   ハンマー、リル・アポーツ延長チューブ
  家事全般×2台
  ヒール・ポーション工房×4台
  書庫管理×2台
  研究助手×1台

 ◆岩石召使ロック・サーヴァント
 ※浮遊四肢型(ノン・ジョイント・タイプ)
  全長2.5m。筋肉質な男性的フォルムで角張った
 デザイン。完全に荒事専用。
  本体:ニホウ化レニウム石製/装甲板:黒曜石製
  ・地球独楽オート・ジャイロを内蔵、重量制御ウェイト・コントロール
  ・装甲解除アーマー・ブレイク欠片回転盾ビット・スピン・シールド

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