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美愚・●夢が如し
しおりを挟む外観の美しさは生物が長い時間培って来た概念とも言える。一皮剥けばそこには筋肉がびっしりと骨に張り付き機能美溢れる醜怪さを晒すだろう。
しかし、錯視を心得たメイクは正に"化ける"印象を与える。勿論骨格的な問題もあるが石でも力を加え続ければ形を変える。長い時間をかければ手術などしなくても整形は可能だ。それは遺伝子に刻まれやすくなる可能性も秘めている。
醜悪さを手に入れるのは容易だが、方法さえちゃんと知っていれば美は手に入る。それを手に入れてどうするかは本人次第だろう。
切って捨てた言い方をすれば、本命にモテなければ、美など意味は無い。
◆
03/19 16:20
旧校舎が見える雑木林側の道路
流石に校舎付近で身を隠せる場所が無く、仕方がないので反対車線側のコンビニの前の脇に止めて食事のフリして車の中でドローンの拾う音に聞き耳を立てていた、坊ちゃんの忠実なる下僕、武部は苛立っち、独りごちる。
「やれやれ、坊っちゃまの未来を脅かす不穏分子め、先手を打ったようだがこれでどうにかして証拠を掴んでやろう」
武部は鼻息荒く息巻いた。
一向に裁判の話にならず、それどころか謝罪までして来た不穏分子を注意深く観察している。何処までが本当で何処までが嘘か見極めなければいけないこの謝罪が芝居だった場合、坊ちゃんを守れるのは自分だけだと武部は言い聞かせて必ずクロであることを証明しなければと胸に決めた。
その矢先にコンコンと助手席側をノックする音が車内に響き渡った。振り返ると警官が居た。武部は焦った。何故だ。止めてからまだ5分も経っていない筈と時計を見つつ助手席側のパワーウィンドウを開ける。
「すいません、パトロール中です。コンビニの前に長時間の……」
「あ、はい、すいません! 直ぐ出します!」
武部は直ぐにエンジンをかけその場を離れてしまった。その後の会話は録音出来ず、車を何処か電波圏内に停めようと右往左往し、全て終わっていることに絶望しながらドローン回収に四苦八苦し、坊ちゃんが帰宅後に真相を知ることとなる。
「やはり探偵も雇うべきだったか……」
自称『出来る男』カッコつけることを忘れない。
◆
03/19 16:30
旧校舎裏 道路側の雑木林
「やぁ、楠井君、お困りではないかい?」
「一足遅かったね、槙野さん。交渉はだいたい8割終わったよ。もちろん良い方向に」
「おやおや、残念。エキサイティングな展開を期待していたのに」
「さては、見ていて出るタイミングを図っていたね?」
「何を仰いますのやら、私はね……否、敢えて女の振りなんか辞めよう。彼女の美しさの前には、総理大臣も大統領もその富を捧げるに違いないから! その前で僕は本当の自分を差し出す以外、彼女に見合う物を、否! それさえも等価とは言い難い! 刮目して見やれよ、諸君!」
「いやいや、言葉遣い変だから」
ツッコミはスルーされた。そして校舎の影から冗談抜きで傾国の美女が現れた。
「「「…………」」」
見たら死ぬほどの美しさと言われるドライアードもかくや。我々三人は意識もろとも言葉を奪われた。目の前に現れた存在に。頬を朱に染めた可憐過ぎる乙女が制服のスカートを左手で『きゅっ』と握り、右手を軽く握りながら所在なさげに頬に添える。
そしてトドメの視線が里原先輩に突き刺さった。
「あ……ぐぁ……」
里原先輩が左胸を抑えた。ヤバい里原先輩が視線で殺されかけている。
「あ、あの里原くん、僕、里原くんと一緒に居たい」
顔を真っ赤にした可憐な乙女が、吉田君の中性的な声で死の宣告のように宣言する。オレも香澄ちゃんがいなければ即死だった。流れ視線と死の宣告で村瀬先輩は膝をつき、辛うじて四つん這いになり意識を留めた。
奴め、なんてモノを産み出しやがったんだ。女子生徒服の吉田君は正に恋煩いと失恋を大量生産する男の娘だったのだ。
「うぅぐ……! ……喜んでーー!」
一周回って壊れた里原先輩の声が校舎裏に木霊する。
「くくく、はーはっはっはー! 吉田くん量産の暁にはクズいカスゴミなどあっと言う間に叩いてみせるわ! そして香澄ちゃんを我が手に!」
吉田君の死の宣告と里原先輩の応答に当てられ、血涙と噛み締めすぎた唇から血を流しながら槙野氏が叫ぶ。
「香澄はやらんし、吉田君は量産出来ないだろ!」
「吉田くん、カスゴミが苛めるの!慰めて~」
「壊れてやがる……! あの女はもうダメだ。よし、放置しよう。吉田君の条件は揃えたぞ。ようこそ吉田君、オカ研へ」
「……はい!」
正気度崩壊! スマイル・オブ・サキュバスが吉田君から放たれた。それを受けて里原先輩と村瀬先輩が灰になった。真っ白に放心している。メンタルシールド香澄ちゃんが無ければ以下略。
グダグダなほどに引っ掻き回されたが、オカルト研究会へ、当初の予定三名とプラス一名きっちりと入ることとなった。
_____
お読みいただきありがとうございます。
ヴァレンタインに合わせ、急ぎ投稿しました。
気に入られましたら、お気に入り登録よろしくお願いします。また感想を頂けましたら、とても頑張れます。
「マジック・サーヴァント・マイスター」「ソード・ダンサー」も並行連載してますので、そちらもよろしくお願いします。
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