オックルティズム・インペリウム

すあま

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傷み心

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傷み心


 群れを構成する以上、トップになれない者達が居る。そして、更に底辺に落とされた者達も生存し続ける。仕方ない事なのだろう。栄光を掴む者の影には必ず敗者がいる。

 貶める者と貶められる者。努力して這い上がる者も居るだろう。しかし、努力しても勝ち上がれない者もいる。

 今回の話は勝ち負けに関わらない悲しい夢を見た悲しい男の子の物語。その彼は何をどう選択したのか。正解は一つではない故に答えの見つからない問題達が複雑に絡み合う方が世の中には多く、これはほんの一例にしか過ぎない。

 ◆
 01/25 19:30

 綾式寮 六号室(楠井自室)

 今から追い付くには遅すぎるスパート。しかし、お手軽速読を手に入れた今、復習に割ける時間の短縮と習慣化への行動パターンを調べ尽せば、マイルストーンを完成させられる考えに至った。

 熱のせいもあったかも知れない。あり得ないほどのゾーン突入でその後もネット検索による、自己改造の情報をあさりまくった。結果、習慣化と復習の効率化のキーワードを拾う。

 それは、まとめると授業終了時、学習事項を目で追い、出来れば口にして耳で聞く。出来るだけ早く。書くことも大事だが、コレを二回行えばデバイスユーズド視点で六回の体験となり、記憶に定着させやすい。家に帰ってからもやれば、現在進行中の勉強に関する部分の補完はされる。今までの補填時間を稼げるだろう。

 次に習慣化についてまとめるとスモールステップ化、ポジティブシンキング、アクティブトリガーなどが出て来た。つまりは『絶対失敗し得ない程度の目標を息をするように動作して些細な成功体験をする』を毎日行う事だ。

 コレを知る前に、成績をあげる為のセットメニューみたいなものを漠然と考えていたが、チマチマと出来るものに変更した。そして、単語カードと付箋とインターネットキーワード検索を体系化した。

 ネットゲームの広告にフラフラとなりかけるが、俺にはなりたい自分の像があった。それに成れることを知ってしまった今では、そこに割ける時間の余裕が無かった。

 ◆
 十二年前

 里原と吉田

 ある小さな町に、とても可愛らしい子が越してきた。名前はアキちゃん。その子は、流行りの魔法少女グッズを持って女の子達と遊んでいた。

 その子に一目惚れした男の子が現れる。

「アキちゃん、大きくなったらオレと結婚してくれ!」

 戸惑うアキちゃん。頬を赤らめ俯きながら、口を開いた。
「どんな事があっても、嫌いにならない?」
「なるもんかよ!」

 その発言は、後々、彼にとって重いクサビとなっていく運命にあったがそんな事はこの頃の二人には関係なかった。



 十一年前

 勢い良く一目惚れした彼は小学生に上がる直前、級友達にアキちゃんの事で馬鹿にされる。

「お前、アイツと付き合ってんの? アイツ男だぜ?」
「うるせぇな、でも可愛いだろ!」
「でも、男じゃん。オカマって言うんだぜ!」
「アキちゃんはオカマなんかじゃない!」
「でも、男が男を好きなのはホモって言うんだぜ!」
「ホーモハラ! ホーモハラ! ホーモハラ!」

 級友達の残酷な唱和は、決定的に運命を狂わせた。

「ホモちゃうわっ!」
「じゃぁ、男らしいとこ見せろよ!」

 追い討ちの言葉が彼の中の『愛しのアキちゃん』を、『強制舎弟の立場』へと変えてしまったのだった。




 現在、里原 秀雄

 そう、勢いに任せて告白した。アイツは快く返事してくれてその日からこの世の春を味わった。しかし、それは同時に苦い思い出の始まりだったのだ。
 俺は吉田が男であるのが許せなかった。

 身勝手と言われようとも、この衝動はどうしようも出来なかった。

 ◆
 03/08 19:07

 里原家 秀雄自室

 質素な作りではあるが、選りすぐりの材質で設えた部屋で、秀雄の趣味の物がそこ彼処に飾られた高校生らしい部屋だった。しかし、少しだけ変わった事があるとすればそれほど広くない部屋に教育係がいる事だった。

 素行の悪い秀雄を見かねて父親がつけた者だった。かれこれ秀雄との付き合いは十年近くなる。不良の様な態度でも本当にグレなかったのは、この教育係の賜だったと言えよう。

 不良グループと付き合わず、皆勤賞とくればただ態度の悪い学生だが、吉田に対する執着は並々ならぬ物があった。吉田が本当に不良グループの標的になった時もあった。吉田がいない時を見計って不良グループに襲い掛かった。忍ばせていたメリケンサックと偶々通り掛かった村瀬とでどうにかなった。

 あの時から村瀬とは腐れ縁だ。不良グループは馬鹿ばかりだったのと普段からの素行で今回の様な話にはならなかった。今回は明らかに相手が悪い。隠キャで目立たず、相手の情報がそれしか無く、悪質ギリギリとは言えど、いきなり弱みを握られた。

 裁判などと口にするヤツに会ったことなどないのだ。とにかく相談相手が欲しかった。なので教育係の武部を呼んだのだ。

「武部、探偵と弁護士を雇えないか?」
「秀雄様に許されている財源からは、普通の雇用も厳しい状況です。ご友人との交際費を考慮すると絶望的ですが、それを理解しての発言でしょうか?」
「お前も俺を馬鹿にするんだな」

「いいえ、事実を述べ、質問しただけです」
「ふん。モノはいいようだな。聞いてみただけだ。安い探偵に依頼を2、3出すことは?」
「ギリギリ可能かと思います。ただし足下を見られる覚悟はおありですか?」
「足下?」

「依頼は一つの上、三ヶ月分の交際費を取られる交渉を仕掛けられると予測します」
「交渉に武部がついて来た場合は?」融通が多少効く程度でしょう」
「よく分からん」
「つまりは、盗聴などの機器を使って危ない橋を渡ってくれるかくれないかの違いが出て情報の精度が変わるのではないかと。若しくは情報の精度を落とした依頼結果で二回分等考えられます」

「それは、武部の知ってる探偵に当てはまるか? 私の知り合いに探偵など居りません」
「なら、気に食わないが親父の伝手を当たるか」
「探偵を?」
「弁護士だ」
「一体何があったのですか?」
「敵が現れた」
「敵?」

「アイツを潰さないとこちらが社会的に潰される可能性がある」
「秀雄さんは、その方に何をしたのですか?」
「そいつには何もしていない。吉田を俺がいじめてたとして、突っかかって来たんだ」
「では吉田さんにどの様な事をして勘違いされたのですか?」
「アイツから物を借りようとしただけだ」
「カツアゲを?」

「違う! その……フリだ……」
「良い加減、吉田さんへの付き合い方を変えられた方がよろしいかと存じます」
「武部に何が分かる!」
「ジェンダーレスの苦しみも吐露される時代になったと言うのは時折耳に入ってくる事位は」

「俺は、そんなんじゃねぇ! そんな型に嵌めて見んな」
「他人の評価を気にする必要はないですよ。誰も他人を正しく測れなどしませんから、知らない一面や秘密は誰しもありますしね」

「とにかくアイツを黙らせたい。力尽くでもだ」
「すでに弱みを握られておいでですか?」
「誤解だけどな」
「殴ったりしてませんよね」
「それがどうした?」

 武部は大きな溜息を吐いた。

「相手は何か言ってましたか?」
「裁判とか録音とか……」
「殴らなければ、逆に脅迫であげられたかもしれませんね」
「なに!?」
「まずは、相手の素性を調べるとこから始めましょうか……その前に……」

 秀雄はこの後、仕方なく事を詳しく話すことになった。言いたくないことも含めて。

 ◆

人物紹介
武部たけべ(♂外見37歳)
 ネグレクト気味の両親が秀雄の為に雇った教育係。
優秀な教員だったらしい。

吉田よしだ あきら(♂16) 高一
 S属性を自動で刺激する天然Mオーラを放つ、いじめられっ子。同時に母性本能もくすぐる、天性のオバサマキラー。幼少の頃は男の子より女の子に囲まれて一緒に遊んでいた。

里原さとはら 秀雄ひでお(♂17) 高三
 アキちゃん時代の大事な想いも環境も力が無ければ守れないとクラスメイトをしばき倒し、ラオウ至上主義に目覚めてしまった問題児。



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