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見下し
しおりを挟む生まれながらにして奇形、病弱な個体は群を生かす為の生贄、所謂「蜥蜴の尻尾切り」にされる。生物学上オメガ個体と言うが、このオメガ個体は後天的に怪我を負ったり、病気になった場合でもその地位に追いやられる。
また、優れた子孫を残す為、強い個体のオス又は、美しいメスは群のヒエラルキーの上位に位置する。ここに、優れた遺伝子を追い求めたい衝動とオメガ個体に落とされる恐怖の二つの感情が生まれる。
上位に食い込めない中層個体は、下層個体をオメガ個体へいつでも落とせる予備としてキープしたいと考えるだろう。自分がそれ以上地位を落とさない安心の為に。そこで中層仲間は下層個体を操作し最も底辺をオメガ個体へと導く様に行動する。具体的には『コイツはイジメて良い』と少し行動するのだ。イジメの発明である。肉食動物も居る広大な土地で草食動物なら顕著にこれらの行動があらわれるだろう。
不慮の事故で中層からいきなりオメガ個体になるケースもあり得るのが現実だ。そうした動物の歴史が本能にイジメの原因「蜥蜴の尻尾切りに落とされる恐怖」が刷り込まれている。
ところで人は己を磨くことが出来る。他者を見下し己の下にしようと貶める行為は動物と同じ本能に支配されている状態だ。上を目指すなら、見下す行為は停滞を招く。立ち止まった時こそオメガ個体に落とされるかも知れない事を肝に銘じるべきだ。
◆
01/25 18:30
綾式寮 六号室(楠井自室)
速読術を敢行しながら、脳味噌の仕様について少しばかり調べた。少しと言ったのは、ガッツリ読みでは無くキーとなる単語を拾っているだけだから。記憶する経過と忘れる仕組みや体が使うエネルギーなどだ。
筋肉を長く動かすのに必要なのが脂肪分だ。他にも色々必要だけど詳細はまた今度。それより脳がエネルギーとするのはブドウ糖のみ。これ超重要。脂肪からは栄養素は作れないが、ビタミンから糖分まで使われなかったら全て脂肪になる。
脂肪になる前に脳味噌でブドウ糖はなるべく使い切るのがベストだなぁなどと思いながら記憶のプロセスなんかも読んでいく。生き残る為の行動を修正して学習する事が記憶のコンセプト。死なない程度の失敗の繰り返しが効率の良い動作や環境適応の体の仕組みにフィードバックされていった。
ガラパゴス島の独自進化や教えても居ないのに親と同じ動作をする虫なんかが良い例だ。つまり『記憶する』は生き残る為の武器だと証明されている。同じ動作は記憶されやすく、あまり同じ動作をしない場合は淘汰、いや忘却される。
復習と、怒りや悲しみや楽しいと言った感情物質が伴う事柄は、記憶に残りやすい。特に戦闘モードの記憶は結構な確率で記憶される。以上のことから緊張感を持ってか楽しみながら、記憶する数を稼ぐの二択が記憶する上での絶対条件となる。
数を稼ぐについては、指でなぞりながら、または書きながら、声を出して耳で聞くこの工程で三通り且つ脳の機能ほぼフル動員させる事になるので血中のエネルギーを使いまくる事にもなる。
頭を使った後は軽くコンビニまで買い物程度のジョギングかウォーキング。多少の気分転換が切り替えに良い。兎に角、速読術で反射神経を酷使してるので長時間保つのは難しい。気分転換もいいが……そこで集中力が関係して来る。
集中力持続のゾーンは体内の水分量がキーとなる。筋トレを行い筋肉を増やす事で筋肉の持つ水分保持量を底上げして集中力の長時間化を見込む。ゾーンを出来るだけ長くさせる事が出来る下地作りからを考えると文武両道は偶然にも良いと証明されたのだ。まるで農民の和食だ。
ゾーンさえ意識的にコントロール出来るようになれば、今からでも学力を底上げしていくことは可能だろう。
さて、コレについても微レ存オカルトを行使してみよう。ゾーン・コントロールをする為の効率の良い自己改造……よし、決めた。
「ゾーンに入り易くなる情報を手繰り寄せ易くしていきたい。これは、引き寄せるで有名な右脳の細胞にお願いしよう」
『まぁ、良いでしょう』
「……やるのは結局自分なんだけどね」
こうして、頭デッカチのガリ勉では無くパランスを目指す事になった。
◆
03/08 15:10
旧校舎を利用した部活棟二階 男子トイレ
「吉田君、真偽の程は後にしよう。大丈夫。まずは先輩方の問題から片付けましょうか?」
「あぁ!? テメ、何仕切ってんだ?」
「いえ、仕切ってる訳ではなく、何やらもめ始めてた様なので、解決のお手伝いをと思ったまでです」
「誰の所為でややこしくなってると思ってるんだよ!」
「お言葉ですがそれを大元凶の先輩が言いますか? あぁ、それからこのムービーの利用方法は弁護士へ提出します。警察へ出しても事件が起こった後じゃなきゃ、動いてくれませんからね。このまま弁護士事務所へ行くつもりであることを宣言します。先輩方の先程の言質も入ってますし裁判でもこのムービー使うことになると思います」
「てめっ」
「分かった、ここは一旦下がってやるからそいつを公開とか弁護士のとこに持ってたりすんな、コイツは誤解されやすいんだ。吉田悪かったな」
「交渉相手は僕でいいんですか? そちらのメリケン先輩は敵認定してるようですから間違いではないような状況ですが、もう一度言いますよ。僕はまだ敵ではありません。吉田君の味方でもありません。ただ、世間の皆様に弱者から搾取する事がまかり通っているかもしれない状況をジャッジしてもらおうと思っているだけです。これを弁護士に持っていき、弁護士に相談する最終決定は現状、誰が握ってると思いますか?」
「言葉遊びかよ!?」
「駄目だわ、村瀬。コイツここで潰すわ」
メリケン猿が殴り掛かろうとしたが武道家先輩が止めに入る。
「オメェ何止めてんだ! こんな奴に舐められたまま下がれるか!」
「待て待て、里原!」
「僕は敵だと言う決定でよろしいですか?」
「オメーは敵だ!」
「待て! 今のはなしだ!」
「黙ってろ!」
武道家先輩がメリケン猿に殴られた。痛そう。殴られる瞬間メリケンサックの右手を武道家先輩が左手で包んでたのを見逃さなかったけど。怯んだ武道家先輩を振り切り物凄い殺意で大振りのメリケンパンチが迫る。
恐怖が腹の底を撫でた。理性でそれを無視してメリケンのはめられた右手を左手で迎えに行って、そのまま力に逆らわず殴られた瞬間にまた後ろへ飛ぶ。吹っ飛んだフリして受け身を取り、ゴロゴロと転がりつつ勢いを殺す。見た目には派手に見えるが無傷で済むスタントマンの手法だ。
手放した携帯が廊下の隅まで飛び、カラカラと音を立てて滑って行った。
「楠井! 大丈夫か?」
「見てろって言ったのに」
三上に笑いかけ、言いながら、携帯を拾う。
「仲間がいやがったのか」
「まぁ、居たとしてなんですか? 無抵抗の僕を三度も攻撃して来た貴方方には法的裁きをしっかりと受けてもらいますよ。少年保護法がちゃんと機能するといつまでも思わない方がいい」
「いや、俺は謝罪する。お前の敵にはならない」
「村瀬! やっぱり裏切るんだな! ダチだと思ってたのに!」
「里原、二度も避けて無傷のコイツを見て何も思わないのか?」
「うるせぇ! 殴れもしない腰抜に舐められっ放しにしとけるか!」
「敵として殴ったのですから、今のムービーは僕が当事者として使いますね」
「ま、待て」
「村瀬! テメ、ビビってんのか!」
「ま、今後の連絡でも楽しみに待っていてください。吉田君、話があるので今日は一緒に帰ろうか」
「馬鹿か! このまま帰すかよ!」
「村瀬先輩、メリケンサック先輩が帰してくれそうに無いですがどうしますか? 敵にならないと言いましたが、二発殴った事実は無くなりませんよ。一発は帳消しにしましたが」
「分かった。里原、ココは下がるんだ」
武道家先輩こと村瀬先輩がメリケン猿を羽交い締めにする。先輩を忘れてる? どうして敵に敬う必要があるのだろうと自分に言い訳しながら、吉田君を手招きした。
「村瀬先輩、ありがとうございます。さ、吉田君、帰ろうか」
「村瀬、てめえ覚えとけよ。晶もだ! お前ら全員覚えとけよ!」
「おお、怖い。僕への脅迫が確定でしょうか。あぁ、吉田君、気にすることはない。メリケンサック先輩の立場が悪くなるだけだからね。既に裁判経験者にメールもしたし」
そう言い、まずは鞄を取りに部室へ向かった。あ、オカ研のゴールデンウィーク旅行までに解決するかなぁ? 後、藤先輩には悪いけど、今日はキャンセルだなぁ。
廊下を折れてオカ研の部室へ向かいながら、メリケン猿の行動から生きてきた環境を想定する。ふと口をついて呟いてしまった。
「あの人は一体何に怯えてるんだろうね」
「怯えてる?」
「怯えてたりすると攻撃的になるんだ。知られて不利になる事とか、威嚇し続けないと下に見られるとか」
「昔は里原君、優しかったんだ」
「彼が?」
「吉田に?」
「彼が変わり始めたのはいつから?」
◆
人物紹介
楠井 和臣(♂15~16) 高一(早生れ) 綾式寮在住オカ研所属オカルトマニア。特段取り柄のないフツメンだったが、自己改造に成功して自信が付いてきたのか少々大胆な行動を起こすようになった。
三上 宗吾(♂16) 高一 オカ研所属の和臣のシスコン悪友。吉田君と同じクラス。今回もほぼ空気。
吉田 晶(♂16) 高一 S属性を自動で刺激する天然Mオーラを放つ、いじめられっ子。同時に母性本能もくすぐる、天性のオバサマキラー。ただし、同年代の女子には気持ち悪いと罵られ、嫉妬の対象となる。今回、空気。
村瀬 薫(♂17) 高三 空手を嗜んでいたと思われる。グレ気味目立ちたがり屋でも自分の名前は嫌い。多少理知的。左耳にピアス。赤T。バンドしたいけど友達居ないのが彼の不幸。
里原 秀雄(♂17) 高三 ネグレクトの家庭育ち。力こそが全てを地でいく野生児のようで都会育ちの自己中心的性格。憧れのキャラクターは北斗の拳のラオウ。吉田君とは実は幼馴染み。
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