オックルティズム・インペリウム

すあま

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スメハラ変異

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 人は産まれてから、肉体を形作る代謝によって生かされ続けられる。エネルギーの確保とは捕食と言う形で様々な形に分解吸収され身体の形成構築と運動エネルギーを取り出す物質として吸収され、その役目を終えた物質は体外へ廃棄されて行く。

 廃棄された物質は、分解者や植物が利用し、大きな食物連鎖へ還元される。日々体から出る排泄物のみならず皮脂、皮膚、毛のどれも分解者には資源なのだ。

 これを踏まえた上で、前回までのテーマの一つとしたフェロモンは、アポクリン腺を通して汗腺途中から合流し、分泌される。廃棄物と言うには余りに中途半端な存在でもある。それ故に分解者にはとても栄養価の高い物質でアポクリン線が多ければ分解者に食われて腋臭となる原因でもある。

 汚いとは、概念であり衛生観念とは区別するべきかもしれないが『汚くしていると分解者が巣を作り易い』事を念頭に生活するべきなのだ。毛穴も汗腺も歯周ポケットも分解者には住み易い温かい隙間なのだから。因みにスポーツをする者の汗腺内の菌の生息は少ない。汗が押し流す為だ。



 何故齲蝕するのか? 何故病気になるのか? 何故禿げるのか? それは、分解者が体内に訪問したからかも知れない結果でもある。

 少し強引に話を進めよう。そして何故、恋をするのか?

 今作は『恋愛』が名目上のテーマである。が、それと同時に恋をするからには成就したい欲求が必ずあり、成就させる為には、先の虫歯、口臭、腋臭、体臭、禿げ、性病を防止する術を確立し、その技術を支配し続けなければならない。

 ありのままの自分を愛してくれる相手を選ぶ? そんな悠長なことを言って、外見から恋愛を諦めて身嗜みを怠り、婚活目前に薄らハゲの虫歯だらけで肥満の異性を選ぶだろうか? 申し訳ないが、答えは相手がよっぽどの性癖の持ち主かそのハンデを覆せる程の大金持ちでない限り、『No!』しかない。

 元来パートナーに求められるのは『優秀な子孫を残す為に健康な者、外見が良ければ尚良し』である。次の世代がよりパートナーを選びやすくする為に本能が選ぶのだから。

 人格や性格で勝負? 胸を張って人格者だと言えるのならばどうぞ、そうしていただいて構わない。そう言う評価を他人から影で得られていることでしょう。そうであれば多少のハンデを覆すこともできましょう。そうでないならば、今すぐ真剣に人生のパートナーに失礼の無いように、自身を見えない小さき敵から守る事をお奨めする。

 ◆

 03/08 14:30

 三月上旬、オカルト研究室(にあてがわれた旧校舎教室を三分割に改装した倉庫室の真ん中)にて。この日は初夏の様な暑さだった。旧校舎の為に冷暖房など無く、暑さに耐えつつゴールデンウィークのオカルト名所遠征旅行について話し合う事になっていたが……。俺、楠井 和臣はオカ研に出ていた。

「うぁー、汗でベトベトだ、気持ちわりー」
「カズ、お前、最近汗かくと臭くねぇ?」
「マジか、そんなに臭うか? シャワー浴びてぇ!」
「タオルで拭くしかねぇべ」
「オカルト研が運動部と並んでなんて恥ずかしくねぇ?」
「筋トレとオカルトでも結びつければ口実にならねぇ?」
「宗吾! ナイスアイデア! で、なんかある?」
「いや、思いついただけだから、ねぇーべよ」

「トイレでハンカチしかねーか……」
「臭えと色々嫌われるぜ?」
「女には、いい匂いかも知れないぜ?」
「なんだ、それ。こんなの好きなのか? SNSじゃ外人が作った汗の匂いで昇天しそうな顔したCM作った件で炎上してたぜ? 日本人女性蔑視だって」
「変なネタ知ってるな? フェロモンって知ってんだろ?」
「昆虫とかが雌を引寄せるってやつだっけ?」

「ファーブル昆虫記は知ってたか。蟻や蜂はそれで命令まで出来るって話だ」

「すげぇ。催眠術と併用して服従とか出来たら夢の様だな」
「いや、思い込みとかもあるからそう簡単にはいかないだろ。要は汗じゃなくて、フェロモンを嗅がせられれば良いんだよ」
「でも、その汗の匂いで台無しじゃね?」
「え? そんなに酷いか?」
「俺、偶に鼻にツンと来る女子の匂い苦手なんだよね。あれフェロモンが関係してるんじゃね? 男から嗅いだ事ねぇし」

「え、女からそんな匂いすんの?」
「肌の上や毛穴や汗腺内には常在菌が居るからな。その種類のせいだろうけどよ、そいつらが食べる物の種類で匂いが変わるんだろうよ」
「バイ菌ウンコの匂いなのかよ!」
「まぁ、そうとも言えるな。そもそも納豆もチーズもパンも発酵食品って話はカズも知ってるだろ」
「あぁ、そうか。アルコール製品もそうだっけ」
「発酵はその菌が好む環境に調整されてるけど人の肌の上とかいろんな菌が混ざる様な状況下じゃあな」

「カオス……」
「まさに」
「ヤベェ、メッサ身体洗いたい」
「なぁ、石鹸って殺菌出来ないんじゃね?」
「そういや、病院でアルコールで消毒するな……手ピカジェルってアルコール殺菌の宣伝も見たことあるな……」
「うぐぐ、洗うだけじゃ臭いの取れない?」
「だな。お前男性ホルモンとか強くなったんじゃね?」

「マジか。あれ、効いてんのか……」
「効いてる?」
「あ、いや、フェロモン強くするおまじないがあってね」
「なんだそりゃ、あんま強いと禿げるとか聞いたことある」
「マジで!?」
「確か、男特有の油が毛根の横から出てそれが粘っこくてフケをまとめて毛穴の蓋しちまうとか……あれ? フェロモンじゃなくて男性ホルモンだったっけ?」
「どっちだよ!?」
「て言うかホルモンとフェロモンの違いがよく分かりませんが」
「ファーブル読んどけよ。運ぶって意味とホルモンの造語だ」
「へぇー。ホルモンの一種か?」
「そんなところ。そんでその一種モテモテホルモンであるフェロモンを強くするおまじないをしたのさ」
「へぇー、でもそれがあったとして、誰でも出来たら皆が皆お色気ムンムンだな。」

「え? あ! そっかー!」
「なに? どうして気付かないん?」
「いや、やっちまったかなーって」
「なにが?」
「いや、まだ確証取れてないんだけどさ……実はな」


 俺は、風邪の時の事を宗吾に話した。
 試しでウィルスにお願いした事。変な声が聞こえた事を。
 ただ、まだ言いたくはなかった事まで話せざるを得なった。


「カズ……とうとうおかしくなっちまったか」
「ホントだって! そのおかげで香澄とも仲良くなれたんだからな」
「は? なんだって? よく聞こえない」
「あ、いや、忘れてくれ」
「あんなに毎日お前を罵って、学校では毎日のように告白ラッシュを受ける香澄ちゃんがフェロモンくらいでなびくわけがないだろ」
「聞こえてんじゃねーか! て言うか、なんだその情報!」
「妹がその愛しの香澄ちゃんと同じクラスでな。同一人物だったら面白いなって」
「裏取ってから言えよ!」

 その時扉が開かれ、研究会現会長が入室して来た。

「なかなか面白そうな話をしてるわね。ゴールデンウィークの話と関係あるの?」

 いかにも、『勉強ができます』『クラス委員です』『瓶底眼鏡の下は美人です』とテンプレ大安売りの二年、オカ研ヒロイン兼マドンナな会長、後藤 りく(17♀)その人である。

「あ、会長お疲れっすー」
「こんちわっすー」
「宗吾くん、私はまだ来たばかりよ。疲れてないわ」
「あ、バイトの癖っす。昼でも夜でもおはようございますって言う挨拶みたいなもんすよ」
「あら、そう。それよりさっきの話の方が聞きたいわ。ゴールデンウィーク関係なさそうだけれど」

「先輩、余裕っすねぇ。受験の対策はバッチリなんすね」
「そうよ。時間管理してるから、スケジュール通りならなんの問題もないわ。それよりゴールデンウィークの話の結果は決まってるのかしら?」
「あ、それは」
「まだ、話してなかったです」
「そう。さっき話してたのは?」

「あ、それはー」
「聞いてくださいよ、カズのやつ、なんか変なお呪いで彼女ができたらしいですよ」
「何? 呪いで彼女?」
「いや、まだ彼女って訳じゃ! 仲良くなれただけっすよ」
「でも、今は狙ってんだろ?」
「ふん。……爆発しろ。おっと。で、その呪いとやらのやり方と効果は」

「爆発しろって何気に酷くないすか? お呪いって言うのは、風邪ウィルスを食べたら免疫細胞がフェロモンを強く促す様にって、お願いを……」
「黙るが良い。受験生に喧嘩を売っておいて無自覚とはな。しかし、ウィルスにお願いだと?」
「そしたら、長い目で見て住処を増やすことになると言うことかって不思議な声が聞こえてきたんすよ」
「それで、この匂いか。取り敢えず臭いから今すぐ体を拭いて来い」

「え、やっぱり、お呪いフェロモン効いてないのかなぁ」
「ゴールデンウィークの話を先にするからさっさとしなさい」
「俺もですかね?」
「匂いの元が分からないからお前もだ!」

 何故か男性用汗拭きシートのパックを投げつけられたのを慌てて受け止めるが取落した。
 フェロモンが効かないのか、実は効いてて隠してるのか、実は先輩が男だった疑惑とか色々と疑問が浮上して混乱した俺は宗吾と憶測を話しながら男子トイレへ急いで体を拭きに行った。



 ◆

人物紹介
三上 宗吾(♂16) 一年 オカルト研究会所属の和臣の悪友。実はちょっとシスコン。

後藤 りく(♀17) 二年 オカルト研究会会長。オカルト部にする為の活動を行なっていたが在学中最期の夢も敗れつつある。大学受験に突入準備中。受験に関しては、スケジュール管理でどうにかなってると豪語している。


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 いつも、お読みいただきありがとうございます。
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