オックルティズム・インペリウム

すあま

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レイコ・メソッド・レクチャー

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 親子。肉親、兄弟姉妹! 家族と言う最小単位の群れは、一部を除いてとても分かりやすい出自である。しかし、生を受け、自我が芽生えるまで人は非常に長い時間を要する。おまけに自立して次の世代を産むには最短でも7~9年はかかってしまう。自然界において一年で成獣する肉食獣にかかれば、良い餌食である。人類は生存確率2%を生き抜いて来た。

 しかし、我々現代人はその時代を知らない。故に紫外線浴びまくりで30にもなれば現在の外見60~70に見えるほどだった時代を生き抜いたご先祖様の生活など想像し難く、また、ご先祖様からすれば20年も生きて成人するなど気の長い話である。そんな世界から見れば、14など行かず後家扱いであろう。もしかしたらロリコンとは先祖概念の再来なのかも知れない。

 話が少し逸れた。モラルやインモラルなどは社会的なルールがあって成立つ情報である。その情報とは従来の世代から新世代へ共有すべく教育していく概念である。最小単位の家族に話を戻せば、親から子への受け継がせるべき知識は、文明が進んでも行われるべき事であり、現代では、その量は膨大である。子は真摯にそれを受け止めるべきである。しかし、膨大な知識体系は教養となり、その土台となる基礎部分は一般家庭内で色恋沙汰も含めて受け継がせる事は必要なのだろう。

が、我が国の殆どの家庭では、子孫を残す大事な事であるにも関わらず、よっぽどのことがない限り不干渉が通例である。海外ではホームパーティーなども行われ出会いのチャンスがあるが、特にそんなものの無い国内ではガツガツしたものを見下したり、チャラいナンパ師など敬遠対象で合コンなどハードルの高いイベントである。

 社会が、家庭がこぞって男女交際言語道断と謳えば、中層以下の子供達に子孫を残す権利は回りにくい。特に男子においては。親が口を出すのは最終段階に多く、殆どは手遅れである。本作の主人公がいい例である。先ずは群れの中で上位をキープ出来る為の所作を身につけさせる事が生存戦略の初手であることを認識するべきなのだ。

 何故、爪は切った方が良いのか? 何故、だらしのない格好がいけないのか? 外見所作がパートナー選びの相手への第一印象の印象操作に必要であるからにすぎず、子供の大人を見て真似る事に甘えず、諸々の理由を教えるべきなのである。

 ◆

 01/24 07:15

「ママ。アイツ、風邪かもよ」

 リビングに降りた、私は綾式 香澄 一四歳の中二。ベンチャー貿易会社を経営する父と綾式学生寮を経営する母を持つサラブレッド。容姿端麗、微乳女子。自分で言うな? でも事実だから、しょうがない。毎年イベント毎に告白されるが願い下げな連中ばかりでウンザリしてる。酷いこともされそうになることもあり、護身術で合気道を段位取得した。因みに襲って来た奴が社会的に再起不能にママがしてくれるので最近はそれが見せしめになったのか平和だ。

 平和なんだけど、半年前から入ってきたアイツ楠井 和臣は私と同じ匂いがして好かん。好かんのだけど気になる。

「あら、それじゃ、熱計って来てくれる?」
「えー、学校遅れちゃう」
「そんな恥ずかしがってると、誰かに取られちゃうぞ」
「恥ずかしがってなんか無いもん!」

 他の皆の居る前で言うなし。

「玲子さん、年頃の娘にそれはまずいっしょ」
「そうそう、ま、誰が見てもバレバレだけどねー」

 ジェンダーレスの蓮水はすみと百合気味の槙野まきのが気を使うと見せかけて追い打ちを掛けてくる。ウチの寮は特に精神的に性的に問題を抱えた学生を預かる傾向にある。その中でもアイツはマトモなのに特殊だ。一番の理由は親の知り合いの子供(つまり幼馴染)と言うことだ。
 影の薄さも、なんでも簡単にこなす癖に本気を出さない。器用貧乏の癖に! く せ に! 本気を出さない! 努力してる私から見れば、そこが特にムカつく。

「まだまだ、恋愛なんてモヤモヤしてる時期だもんねぇ?」
「違うってば!」

 私は耳まで熱くなってるのを感じながら、最後のパンにバターを塗りつけて、漫画に出てくる女子みたいに玄関へ走り出し、学校へ向かう。

 ◆

 01/24 16:30

 帰って来てから、コッソリとまた様子を見に行ってみる。男子部屋は一階で北側のお風呂場からはリビングを挟んで遠い。母の話だとあいつは病院に明日行くとか。インフルエンザかどうか分かるには熱が出てから一日経ってからじゃないと中々結果が出ないからだとか。ソッとドアに耳を当てる。物音はしない。寝ている様だ。

 その時、リビング側の引き戸がスーッと小さく音を立てた。母が半分顔を出してにま~りと音を立てずに笑っている。私をからかうネタ提供してしまったか。しかし慌てずゆっくりと母の方へ移動してリビングへ入る。

「ちょっと! いつ帰って来てたのよ!」

 喉を使わず、精一杯囁き声で怒鳴る。
 
「ついさっきよ。玄関に香澄の靴があったから、もしかしたらって思って覗いてみたの」
「ちょっ」

 恐るべし肉親の勘。

「そんなことより、ママ香澄に話があるんだけど。いい?」
「ここで済む話?」
「誰か帰って来て、香澄の色々聞かれても良いなら」
「なによ、それ」
「今風邪を引いてる誰かさんのことも含めてね、ちょっとアドバイス」
「だからぁ、それは」
「聞くだけ聞いてみたら? 決めるのはあなたよ」

 そう言われたら、真剣に聞かざるを得なかった。
 
 ◆

 01/24 16:50

 ママの部屋……つまり寝室で話す事にした。ママと居るとなんだか子供扱いされてる様でそれを人に見られるのが嫌だった。だから反抗的な反応ばかりして申し訳ないとも思うけれど、私を取り巻く独特な雰囲気と言うか環境と言うかそれらが私にいつしかママに甘えるのを許さなくなっていた。

「最近あまり話さなくなっちゃってたから、取り返しの付かなくなる前にママが出来る助言だけ、聞いてくれる?」
「助言? なに?」
「親子なのに固いなぁ。悲しくなっちゃうわ」
「そう言う風に茶化すのが、なんかイヤなの」
「あら、そーぉ?」

 素直になりたくても慣れない。解ってるけどうまくコントロール出来ない。

「ま、いいわ。ちょっとママ、『独り言』言うわね」
「私が目の前に居るのに? 話があるって言ったのはママでしょ」
「万が一誰かに聞かれた時の予防線みたいなものよ」
「もう」
「パパ、昔は和臣くんみたいになんでも本気にやらない癖になんでも出来る器用な人だったな」
「うん」
「勉強できない癖に凄く物知りでなんで勉強しないのって聞いたら、知りたいことを教えてくれるわけじゃないし無理矢理覚えなきゃいけない事に腹がたつからって」

 ママはそこですごく可愛い笑顔で笑った。パパはなかなかこの家に寄り付かないけど、ママにこんな笑顔をさせられる。罪作りな男だと思わずにはいられなかった。

「ママ、頭悪いからそれにいい答えを返せなくって、仕方ないからママ一生懸命勉強したな。パパには私が付いててあげなきゃって思い込んでね。パパも反抗期で両親の言うことなんか聞かないで夜もほっつき歩いてて、でもママの言う事は聴いてくれた」

 ママはパパのママじゃないのに、ホント、あの男許せない。

「パパの両親の代わりに誘導して……パパのママじゃないのにって思う事もあったけど……どこで育て方、間違えちゃったかな。……あ、違ったこんなこと言おうとしてたんじゃない。パパの誘導しながらママはパパがどこか行かないようにすごくすごーく頑張ったの」

「うん」

「パパの好み、フェロモンの出し方とか可愛い仕草、そして心理学、行動経済学、経営学、etcエトセトラ。とにかく凄い頑張った」

「うん」

「ママは、ちょっとパパと失敗しちゃったけど、パパの子供じゃなきゃ、香澄じゃなきゃどうしても嫌だったから、パパを手に入れる努力をしたんだよね。心理学とか学問は時間がかかるからここでは伝えきれないな。でもちょっとしたキッカケ作りとかは伝えられる」

「うん」

「今まで、香澄は男のことでトラブル多かったから、慎重になるのも分かるけど、好きかもしれない人が自分じゃない誰かの隣に行ってしまったら、どう思うか考えて欲しいかな。その上でママのこれから伝えることを自分のものにして欲しいなと思う」

「……うん……」

「一時保留するのもアリだし……」
「うん」
「『独り言』終わり。ママと話ししてくれる?」
「うん」
「やっと素直になってくれた」
「パパの事、忘れられない?」
「心配してくれてありがと。そうね。今はロクでもないけれど、パパほどのいい男はいないわ」
「ママごめんね」
「パパはきっと私たちのところに帰ってくるから、腹違いの弟か妹が出来ても許してあげてね」
「どうして、そんなこと言えるの?」
「パパを愛してるから。信じてるから。もし間違いで貴方の兄弟姉妹が出来ても神様じゃないもの。許す以外パパは帰って来られないでしょ」
「!……うん」
「それに何処の小娘にもパパに関してママの方がずっと前から努力して来たもの負けないわ」
「うん」
「その秘訣を今から、伝授してあげる。誰に使おうと貴方の自由よ」
「うん」

 私の視界は潤んでて、ママをちゃんと見れなかった。

 ◆

人物紹介

ジェンダーレスの蓮水(♂だが無性。18)
チョイ役のつもりなのであまり設定はない。短編故の悲しい設定の浅さ。

百合気味の槙野(♀だが中身は限りなくおっさん。16)
チョイ役のつもりなのであまり設定はない。短編故の悲しい設定の浅さ。
多分、香澄の風呂とか一緒に入りたがる。

パパさん(年齢不詳)
イケメン。やり手の貿易会社の代表取締役役。男は船、女は港を地で行くロクデナシ兼最強の部類に入る人誑し。



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 お読みいただきありがとうございます。
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