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2 突然の訪問者
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だるい。
なんだこれ。
今日は特に日の光が強く感じる。朝方は澄んだ空気で少し涼しいと感じていたというのに、太陽の奴ときたら、嫌がらせのように俺を照らしやがる。ほんと暑すぎて作業中の畑いじりが嫌になるな~!!
「テオ兄、テオ兄ー!!」
そんな事を考えていると、まだ家の中でパンを無心で頬張っていたはずのシアンの声が突然、畑にいる俺の方まで届いた。声というよりも叫びに近いかもしれない。その後も何度も繰り返し俺を呼び続ける叫びに似た声を目で辿って、我が家に向かって問いかけた。
「どうした! シアン!」
「テオに……」
「シアン!?」
突然、家の中からシアンの声が聞こえなくなった。こういう時の嫌な予感というのはよく当たるものだから、よくない想像が頭を駆け巡る。パンを食べて喉を詰まらせたとか、過去の事でトラウマがあって、それがフラッシュバックしたとか、色々と想像してしまうのである。
「……ん?」
想像が止まらない脳内に、視覚からの違和感が伝わってくる。それはシアンの声に集中していた為に気づく事が出来なかったものだ。再び一瞬だけだが目線を動かした時にそれをしっかりと認識する事が出来た。我が家の構造は俺が今いる畑側には窓が一つあるのだが、そこから玄関側へと右に目線を移した時、俺が畑に向かう際に閉めた玄関扉がなんと開いていた。扉は最大限に開かれていて、まるで誰かを迎え入れたように見えるのだ。
「侵入者……?」
畑仕事をしていた俺に気づかれないように音を立てずに侵入したという事だろうか? しかし、あの玄関扉は古くてガタがきているから、かなり大きな音が毎回開閉するたびに鳴るのである。これを音も立てずに開けたという事はかなりの手練れかもしれない。
早足で玄関へと向かい、深く息を吐いた。かがんで、扉から少し身を乗り出して家の中を確認すると、シアンが床に倒れているのが見えた。シアンは俺が畑に行く前に座っていた椅子の側に倒れている。そのシアンの側に見知らぬ女と男の二人組が立っていた。女性の方はロングの髪を一つ結びにしており、片手に何かの液体が入った瓶を持っている。そして、男性の方はオールバックの黒と白の髪が特徴的だった。厳つくはないものの、何となくだが細マッチョというのはあれの事かと納得してしまう程の体型だった。彼らはずっとシアンを見つめながら会話をしているようだ。
気を抜いている。
俺は緊急時のためにと隠していた短剣を懐から取り出し、二人組の侵入者の背後へ近づいた。そうして、そのまま短剣を振り下ろそうとした。
が、しかし、それは失敗に終わったらしい。しっかりと右手に握っていたはずなのに、いつの間にか短剣は弾き飛ばされたらしく家の床につき刺さっていた。しかも、かなり離れた場所に。
「凄いなー、秒で弾き飛ばされたわ」
俺の短剣を弾き飛ばしたのは女性の方だった。
「……テオ、テオだわ!」
「……お前、生きていたんだな!」
「はい?」
「行方不明になってから、ずっと俺たちはお前を探していたんだ。この山の麓で「似ている人がいる」と聞いてさ」
なんだって?
「そうなの、それでここに来てみたら、男の子がいたから驚いてつい……」
「シアンは?」
「この子、シアンって言うのね……大丈夫。気を失ってるだけだから」
「……よかったぁ……」
シアンが無事ならいい。それ以上の事はないはずだ。話は一旦、シアンをベッドに運んでからでも許されるだろう。そう考えて、二人組に声をかけた。
「なぁ、一旦、シアンをベッドに運んでもいいか?」
「えぇ、大丈夫よ」
〇●〇
俺はシアンを運んだあと、訪問者の二人に座ってもらい、水を出した。
「はいよ」
「ありがとう」
「ごめんね、家に勝手に入ってしまって」
二人は少し改まった表情で俺に今までの事を話し始めた。
「俺たちは四年前のあの日、突然いなくなったお前を見つける為に情報を集めていた。最近になってこの付近での目撃情報が増えたもんだから、今日は二人で来てみたんだ。そしたら…本当にお前がいた」
「そう、こんなに素晴らしい事はないわ……テオ、貴方今まで何をしていたの?」
「…えっと、その、今から俺が言う事はお二人さんからしたら信じられないかもしれないんだけど…」
二人は顔を見合わせて、俺が次に何を言うのかと耳を澄ませていた。
「その、俺は、19歳の夏…ある日、目が覚めてからすべての記憶をなくしていて…」
「…つまり」
「君たちが俺の事を知ってくれているのはとても嬉しいんだが、残念なことに俺に記憶がないもんだから…そのだな、君たちの名前も、素性も、関係性もなにもかも知らないんだ。ごめん。感動的な再会にならなくて…」
「「……」」
二人は少し沈黙した後、俺に向かって微笑みながら口を開いた。
「なら、またやり直せばいい」
「じゃあ、自己紹介が必要だわ」
「ありがとう、助かるよ」
「ロゼ、俺からでいいか?」
「いいわ」
「俺はアーサーだ。オール騎士団に所属しているだけのただの騎士だ。好きな事は甘いものをたらふく食べる事だ。よろしくな」
アーサーか、甘いものが好きなんて、意外だなぁハハハ!
「一応言っとくが、テオ、お前と同い年だ」
「えぇ? 何となく年上かと思っていたんだが……」
「記憶がなくても同じことを言うんだな、ハハ!」
「えぇ……?」
アーサーは爽やかでいて、豪快に笑うらしい。その姿はまさに好青年と言えるのかもしれない。もし俺が女性だったなら、きっと惚れてるかもしれない。これを言ったら馬鹿みたいだと後でシアンに言われそうだ。
「もう、テオが混乱してるじゃない~!」
「はいはい、もう何も言わないよ」
「じゃあ、次は私ね! 私はロゼよ。国立研究所で薬草の研究をしているの。昔は冒険者だったわ。だから体術とかは心得てるつもりよ。まぁ、私もただの研究者ね! よろしく!」
「凄い経歴だな……あれ、年齢は?」
「ロゼは俺たちの二つと「あー!!!! シアン君が起きたわよ!!!!」……気にしてんだな、年齢」
「アハハ、何が?」
「シアン、起きたか。もう大丈夫だよ」
シアンはロゼの言った通り、寝室からちょうど出てきたところだった。少し怖がっている様子だったが、俺たちの和やかな雰囲気に気づいたらしい。
「……お姉さんたちはテオ兄の友達なの?」
シアンが自ら他人と交流を図ろうとしているなんて……きっと俺の顔は感動で気持ち悪い事になっているに違いない。何故なら、シアンがこちらを向いてからずっと怪訝そうな顔をしているからだ。この顔は許してくれ。ほんとに。
「そうよ、シアン君。私はロゼ、隣の男は……」
「アーサーだ」
「初めまして……」
「ふふ、かわいい!」
シアンは前髪をいじっている。
「……血は繋がってるのか?」
アーサーが小声で俺に耳打ちする。俺は首を横に振り、それを否定した。まぁ、なかなか聞きにくい事ではあるよな。
その後も軽く世間話を色々と話していたが、やっぱり俺の記憶が戻りそうな感じもなく、そのまま昼時になっていた。アーサーとロゼが「そろそろ帰る」と言うので、コップを片付け、玄関先で二人を見送る事になった。
「じゃあ、また来るよ。次は知り合いだからな? 襲うなよ~?」
「襲わねぇよ!? 俺の事、蛮族だとでも!?」
「ハハ、とにかく元気でいろよ!」
「そうね、またすぐ来るから、シアン君と仲良くね!」
「分かってるよ」
「じゃあな」
「またね」
「あぁ」
二人はゆっくりと森の中へと姿を消した。そっと側にやってきたシアンと手を繋ぎながら、俺はゆっくりと扉を閉めた。
なんだこれ。
今日は特に日の光が強く感じる。朝方は澄んだ空気で少し涼しいと感じていたというのに、太陽の奴ときたら、嫌がらせのように俺を照らしやがる。ほんと暑すぎて作業中の畑いじりが嫌になるな~!!
「テオ兄、テオ兄ー!!」
そんな事を考えていると、まだ家の中でパンを無心で頬張っていたはずのシアンの声が突然、畑にいる俺の方まで届いた。声というよりも叫びに近いかもしれない。その後も何度も繰り返し俺を呼び続ける叫びに似た声を目で辿って、我が家に向かって問いかけた。
「どうした! シアン!」
「テオに……」
「シアン!?」
突然、家の中からシアンの声が聞こえなくなった。こういう時の嫌な予感というのはよく当たるものだから、よくない想像が頭を駆け巡る。パンを食べて喉を詰まらせたとか、過去の事でトラウマがあって、それがフラッシュバックしたとか、色々と想像してしまうのである。
「……ん?」
想像が止まらない脳内に、視覚からの違和感が伝わってくる。それはシアンの声に集中していた為に気づく事が出来なかったものだ。再び一瞬だけだが目線を動かした時にそれをしっかりと認識する事が出来た。我が家の構造は俺が今いる畑側には窓が一つあるのだが、そこから玄関側へと右に目線を移した時、俺が畑に向かう際に閉めた玄関扉がなんと開いていた。扉は最大限に開かれていて、まるで誰かを迎え入れたように見えるのだ。
「侵入者……?」
畑仕事をしていた俺に気づかれないように音を立てずに侵入したという事だろうか? しかし、あの玄関扉は古くてガタがきているから、かなり大きな音が毎回開閉するたびに鳴るのである。これを音も立てずに開けたという事はかなりの手練れかもしれない。
早足で玄関へと向かい、深く息を吐いた。かがんで、扉から少し身を乗り出して家の中を確認すると、シアンが床に倒れているのが見えた。シアンは俺が畑に行く前に座っていた椅子の側に倒れている。そのシアンの側に見知らぬ女と男の二人組が立っていた。女性の方はロングの髪を一つ結びにしており、片手に何かの液体が入った瓶を持っている。そして、男性の方はオールバックの黒と白の髪が特徴的だった。厳つくはないものの、何となくだが細マッチョというのはあれの事かと納得してしまう程の体型だった。彼らはずっとシアンを見つめながら会話をしているようだ。
気を抜いている。
俺は緊急時のためにと隠していた短剣を懐から取り出し、二人組の侵入者の背後へ近づいた。そうして、そのまま短剣を振り下ろそうとした。
が、しかし、それは失敗に終わったらしい。しっかりと右手に握っていたはずなのに、いつの間にか短剣は弾き飛ばされたらしく家の床につき刺さっていた。しかも、かなり離れた場所に。
「凄いなー、秒で弾き飛ばされたわ」
俺の短剣を弾き飛ばしたのは女性の方だった。
「……テオ、テオだわ!」
「……お前、生きていたんだな!」
「はい?」
「行方不明になってから、ずっと俺たちはお前を探していたんだ。この山の麓で「似ている人がいる」と聞いてさ」
なんだって?
「そうなの、それでここに来てみたら、男の子がいたから驚いてつい……」
「シアンは?」
「この子、シアンって言うのね……大丈夫。気を失ってるだけだから」
「……よかったぁ……」
シアンが無事ならいい。それ以上の事はないはずだ。話は一旦、シアンをベッドに運んでからでも許されるだろう。そう考えて、二人組に声をかけた。
「なぁ、一旦、シアンをベッドに運んでもいいか?」
「えぇ、大丈夫よ」
〇●〇
俺はシアンを運んだあと、訪問者の二人に座ってもらい、水を出した。
「はいよ」
「ありがとう」
「ごめんね、家に勝手に入ってしまって」
二人は少し改まった表情で俺に今までの事を話し始めた。
「俺たちは四年前のあの日、突然いなくなったお前を見つける為に情報を集めていた。最近になってこの付近での目撃情報が増えたもんだから、今日は二人で来てみたんだ。そしたら…本当にお前がいた」
「そう、こんなに素晴らしい事はないわ……テオ、貴方今まで何をしていたの?」
「…えっと、その、今から俺が言う事はお二人さんからしたら信じられないかもしれないんだけど…」
二人は顔を見合わせて、俺が次に何を言うのかと耳を澄ませていた。
「その、俺は、19歳の夏…ある日、目が覚めてからすべての記憶をなくしていて…」
「…つまり」
「君たちが俺の事を知ってくれているのはとても嬉しいんだが、残念なことに俺に記憶がないもんだから…そのだな、君たちの名前も、素性も、関係性もなにもかも知らないんだ。ごめん。感動的な再会にならなくて…」
「「……」」
二人は少し沈黙した後、俺に向かって微笑みながら口を開いた。
「なら、またやり直せばいい」
「じゃあ、自己紹介が必要だわ」
「ありがとう、助かるよ」
「ロゼ、俺からでいいか?」
「いいわ」
「俺はアーサーだ。オール騎士団に所属しているだけのただの騎士だ。好きな事は甘いものをたらふく食べる事だ。よろしくな」
アーサーか、甘いものが好きなんて、意外だなぁハハハ!
「一応言っとくが、テオ、お前と同い年だ」
「えぇ? 何となく年上かと思っていたんだが……」
「記憶がなくても同じことを言うんだな、ハハ!」
「えぇ……?」
アーサーは爽やかでいて、豪快に笑うらしい。その姿はまさに好青年と言えるのかもしれない。もし俺が女性だったなら、きっと惚れてるかもしれない。これを言ったら馬鹿みたいだと後でシアンに言われそうだ。
「もう、テオが混乱してるじゃない~!」
「はいはい、もう何も言わないよ」
「じゃあ、次は私ね! 私はロゼよ。国立研究所で薬草の研究をしているの。昔は冒険者だったわ。だから体術とかは心得てるつもりよ。まぁ、私もただの研究者ね! よろしく!」
「凄い経歴だな……あれ、年齢は?」
「ロゼは俺たちの二つと「あー!!!! シアン君が起きたわよ!!!!」……気にしてんだな、年齢」
「アハハ、何が?」
「シアン、起きたか。もう大丈夫だよ」
シアンはロゼの言った通り、寝室からちょうど出てきたところだった。少し怖がっている様子だったが、俺たちの和やかな雰囲気に気づいたらしい。
「……お姉さんたちはテオ兄の友達なの?」
シアンが自ら他人と交流を図ろうとしているなんて……きっと俺の顔は感動で気持ち悪い事になっているに違いない。何故なら、シアンがこちらを向いてからずっと怪訝そうな顔をしているからだ。この顔は許してくれ。ほんとに。
「そうよ、シアン君。私はロゼ、隣の男は……」
「アーサーだ」
「初めまして……」
「ふふ、かわいい!」
シアンは前髪をいじっている。
「……血は繋がってるのか?」
アーサーが小声で俺に耳打ちする。俺は首を横に振り、それを否定した。まぁ、なかなか聞きにくい事ではあるよな。
その後も軽く世間話を色々と話していたが、やっぱり俺の記憶が戻りそうな感じもなく、そのまま昼時になっていた。アーサーとロゼが「そろそろ帰る」と言うので、コップを片付け、玄関先で二人を見送る事になった。
「じゃあ、また来るよ。次は知り合いだからな? 襲うなよ~?」
「襲わねぇよ!? 俺の事、蛮族だとでも!?」
「ハハ、とにかく元気でいろよ!」
「そうね、またすぐ来るから、シアン君と仲良くね!」
「分かってるよ」
「じゃあな」
「またね」
「あぁ」
二人はゆっくりと森の中へと姿を消した。そっと側にやってきたシアンと手を繋ぎながら、俺はゆっくりと扉を閉めた。
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