それでも今日も生きている。

UELI (ユーリ)

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蜘蛛の糸

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 蜘蛛の糸といえば、なんといっても有名なのは芥川龍之介の蜘蛛の糸だろう。私は、あの話を読んで以来、蜘蛛が殺せなくなった。自分は間違いなく地獄に落ちると思うので、そうなったときに助けてもらわないといけないからだ。

 といっても、それ以前にも蜘蛛を殺した記憶はない。生き物を殺すのは、それが小さな虫であっても抵抗がある。まったく罪悪感がわかないのは、蚊とハエくらいだろう。

 イギリスでは、家の中で蜘蛛をよく見かける。昔、話題になったセアカゴケグモのような、毒々しいものではなく、細身の足が長い全長5~6センチくらいの蜘蛛だ。蜘蛛は害虫を食べてくれるので、意外と人気者だ。イギリス人のおばちゃんと話してたら、I love spiders. と言っていた。

 最初は、悲鳴をあげて助けを求めたが、今は慣れたもので、コップと紙を用意し、まずコップで捕獲し、壁とコップの間に紙をはさみこみ、生け捕りにした状態で、家の外に連れ出しポイしてくる。非常に簡単だ。たぶん、そのあと家に戻ってきている気もするが。

 余談だが、イギリスで売ってる蟻キラーの名前はNipponだ。その意味をそのままとして受けとるなら、蟻のようにちんまいくせいにあちこちに沸いてでてくるという日本人を揶揄したイギリス人特有のブラックジョークなのだろう。

 イギリスの笑えないブラックジョークといえば、ピーター・ケイというコメディアンの番組をなんともなしに見ていたときに、Jap's eye という言葉を耳にした。私のリスニング能力は非常に低いが、日本に関連した言葉は異常によく聞き取れる。一緒にテレビを見ていた、イギリス人の当時付き合っていた彼に、どういう意味と聞いたら、ニヤついて、自分からは言えないなぁとバカにしたように笑っていた。興味のある人は、ネットでググって欲しい。日本人の目はそこまで細くないだろうと、ちょっとした憤りを感じる。

 前置きが長くなったが、生きることは、蜘蛛の糸に捉えられたちっぽけな虫のようだ。逃げようとしても逃げられず、もがけばもがくほど身動きがとれなくなる。

 一度、蜘蛛の糸にからまった蜂を見たことあるが、ものすごい勢いで逃げようとあがいていた。それが10分だったか、20分だったか覚えてないが、動かなくなるまでただじっと見ていた。ジジッという羽音をたて激しく飛び立とうとしていた。最後は、みすぼらしく、蜘蛛の糸にからめとられ、いつくるかわからない死の瞬間をただ待つだけだった。

 蜘蛛の糸、それをしがらみと呼ぶのかもしれない。若いとき、自分は自由だと思った。なんでも手に入ると思える若さがあった。今の自分は、蜘蛛の糸にからめとられたちっぽけな虫だ。手かせ、足かせに縛られて、私はもう自由に飛ぶことはできない。捉えられたまま、最後の瞬間を待つだけだ。
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