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第十五話:大切な人
しおりを挟む俺は絶望から抜け出すことが出来ず、自分ばかりを責めてていた。
カナは俺の後を追って部屋まで来ていたが、声をかけられるまで気付けなかった。
「ヤミ…。」
カナは自分も同じ経験をしていたが、なんて声をかけていいのか分からずに俺の名前だけを呼んだ。
「俺…村を出る時約束したんだ。父さんみたいな強い男になって帰ってくるって。帰ってきたらこの村を守るんだってそう決めてた。なのに…なのに父さんに強くなった俺の姿見せられなかった。俺はさ、違う世界から来た人間だけどさ、それでも…この世界に生まれて、父さんとお母様に愛情込められ育ったんだ。父さんには剣を、お母様には魔法を教えて貰って、返しきれないくらいの恩があったんだよ。まだ何も…何も返せてない…。」
俺は話している内にまた涙が溢れ、泣き崩れた。
その姿を見たカナは何も言わず俺の隣に座って、肩を抱いてくれた。
「私もね、同じようなことを思ったよ。全然何も返せてないって。でもね、まだバーデン村の人たちは生きてるって知って、少し気が楽になったんだ。たしかに、もう両親には会えないけど、大切な人がまだいるから。両親を守れなかったからこそ、今いる大切な人のたちは守ろうって決めたんだ。だから私は冒険者になった。そして、大切な人が増えた。それはあなただよ、ヤミ。私はね、ヤミがチームに誘ってくれて嬉しかったんだ。私のことを奴隷上がりとして見るんじゃなく、私を私として見てくれる人がいるんだって。文字が読めない私に文字を教えてくれたり、住む場所のない私を部屋に入れてくれたり、こんな私と一緒にいてくれたりって、ヤミには感謝しかないの。ヤミにも大切な人がいるでしょ?」
「いる…まだいる…。村のみんながいる…。でも…また守れないかもしれない…。そしたら大切な人がいなくなる…。」
「私がいるよ。私じゃ足りないかもしれないけど、それでも私はずっと一緒にいる。だからずっと私を守ってよ。私がヤミを守るから。」
カナは優しく俺を抱きしめ、頭を撫でてくれた。
悲しみは消えない、だけど少し気持ちが楽になった。
いつまで悲しんでてはいけない、大切な人を守らないといけない、それが父さんとの約束だから。
だけど、今だけは、今だけは少し泣かせてと心の中で呟き、カナの胸の中で泣き続けた。
「落ち着いた?」
「ごめんな、情けない姿みせて。」
「情けなくなんかないよ。泣きたい時は好きなだけ泣いていいよ。私がそばにいるから。」
「ありがとう。」
俺はこの悲しみは忘れられないが、今いる大切な人を守るためにランク6魔獣竜王を倒すため、立ち上がった。
俺はまだ目が赤いまま部屋を出て、護衛隊を集めてもらうようにフィンおじさんにお願いした。
「俺がもっと早く着いていればこんな事にならなかったかもしれない。本当にすまない。だけど、村は絶対に守る。だから竜王がどこにいるか教えてほしい。」
「ヤミは悪くない。」
「俺たちの力が足りなかったんだ。」
「こちらこそすまない。」
俺が深々と頭を下げると、護衛隊の皆はそれぞれの思いを言った。
護衛隊の人の話だと、竜王は俺が魔法の練習に使っていた森にある大きな洞窟にいるようだ。
俺たちは竜王を倒すため、森の方へと向かったのだが、洞窟で想定外のことが起こるとは思っていなかった。
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