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風邪4

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「んぐーんぐー」

 ップハー、ハアハア。

「抵抗するから苦しいんだ。もっと力を抜け」

 息ができなくてもがいていたら、まるでそれが私のせいであるかのように大和くんに咎められた。

 前振りもなく、いきなり引っこ抜かれるかと思うくらい舌を吸われたら、誰だってそうなるのでは?!
 しかも、キスされた(キスだよね?)理由がわからない!
 
 何が何だかわからないショックで硬直してる私に、大和くんが再び顔を近づけてくる。
 ちょっと、待って待って待って待ってよー!
 スローモーションで近付いてくる唇に向かって、叫んだつもりだったけれど、声になっていなかった。
 すんでのところで顔を背けてかわすと、じっとしていろと頭をがっちりと押さえられてしまう。

「お前の風邪を俺にうつすんだから」

「えっ、ちょっとまっ」

 うつすって?!!
 止める間もなく、再び口を塞がれる。

「息は止めるな。ほら、もう一回するぞ」

 じたばたしていたら一旦は離れてくれたけど、頭は依然ホールドされたままで、まだ終わりじゃないみたい。

「あの、うっ」

 押し退けようとしても、大和くんの体は全然ビクとも動かない。
 息継ぎみたいな休憩はくれるけど、止めてくれる気配は微塵もなくて、断続的に繰り返されるその行為に私はすっかり疲労困憊してしまう。
 
「最初からそうやって力を抜いていれば良かったんだ」

 抵抗する力が一ミリもなくなった私に、大和くんが勝手な事を言う。
 強引に口を割って入ってくる舌に、甘えん坊の黒いラブラドール、ラッキーの熱烈な歓迎を思い出した。
 従兄の家に遊びに行く度に、押し倒して顔中を涎まみれにしてくれたっけ・・・
 かるーく現実逃避しながら、とにかく今は息を吸う事だけに集中して、しのぐしかないと思った。

 ラッキーもしつこかったけど、大和くんはもっとしつこかった。
 もちろん、大和くんに悪気はないのはわかってるけど、解放された時にはもうぐったり。
 ただ、大和くんの言葉に耳を傾ける。

「これでもう大丈夫だぞ。お前の風邪は俺が貰ってやったからな。親父がこうやって母親の風邪を治してたのを思い出したんだ。信じられないかも知れないけど、薬なんかよりよっぽど効くんだぜ」

 どうやら、大和くんは私の風邪を治してくれようとして、キスしたっぽい。
 風邪を他人に移せば治ると本気で信じてるみたい。
 よく耳にするけど、風邪は移るだけで治ったりはしないのよね。
 だって、風邪は本人の体力というか、免疫力で治るんだもん。
 大和くんには申し訳ないけど、それは自分が一番良くわかってた。
  
「ちなみに、親父の血筋は風邪で寝込むほどヤワじゃねーから、俺の心配はしなくていい。まあ、たとえ寝込んだとしても、お前の風邪を治してやれるなら、それも本望ってもんだ」

 だけど・・・
 大和くんがニカッと笑って優しい言葉をかけてくるから、私は何も言えなくなってしまう。
 これまでだって、親切にしてくれた人はたくさんいたけど、大和くんみたいな人は初めてだった。
 鈴ちゃん達が大和くんを今でもヒーローと呼んで、大好きな理由がわかった気がした。

  

 大和くんの温かい手が心地良くて、だんだん眠くなってくる。
 うつらうつらしていたら、大和くんが突然ベッドから立ち上がった。

「つ、つまり、兄ちゃんがチューしたのは、お前の風邪を治してやりたかったからで、チューがしたくてやったわけじゃない。そこはわかってくれ、な! 本当に、そんなつもりはなかった。だから、兄ちゃんのこと、怒ったり、キライになっちゃダメだぞ! いいな! じゃあ、また明日来るから!」

 驚いて目を開けた私に言い聞かせるように言うと、何か急ぎの用事でも思い出したのか、慌てて部屋を飛び出して行く。

 そんなムキになって言わなくてもちゃんとわかってるのにと思っていると、大和くんが言い忘れたと再び戻って来る。
 
「明日は、お前の好きな白くまアイス買ってきてやるから、おとなしく寝てろよ」

 そして、おでこにチュッとキスを落とし、帰って行った。




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