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風邪3

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 愛美を寝かせて布団を掛けてやる。

「大和くん、ありがとう」

 素直な愛美は、煽ってやれば簡単に落ちた。
 思惑通りになって良かったと思う反面、少し惜しい気もする。
 俺は別にあのままでも良かったのだ。
 学校など行かずとも、それなりに楽しい時間を二人で過ごす自信はある。
 
「いいんだ。俺達、家族だろ?」

 頭を撫でてやると、愛美がはにかんで笑う。

「家族っていいね」

 だが、その言葉を聞いた瞬間、ああ、やっぱり、これで良かったのだと思った。
 愛美の信頼を裏切らずに済んだ。

 独りよがりな兄ちゃんでごめんな。
 これからは愛美の幸せを一番に考えるから。

「ああ」

 俺は、愛美が俺を家族として認め、信頼の気持ちを寄せてくれたのがとても嬉しかった。
 



 頬を赤らめた愛美は殊更可愛いなと思う。
 目が離せなくて、至近距離から食い入るように愛美の顔を眺めてしまう。
 顔もパーツもみんな小さいのに、まつげだけは結構長い。
 赤ん坊みたいに、すべすべのふっくらした頬や唇は柔らかそうで・・・

 あーくそっ!! こねくり回して、頬ずりして、チューしてぇ!! 

「大和くん?」
 
 チューしちゃ駄目かな? 駄目かな? 駄目かな?
 自然な愛情の表現だと思うのだが。
 外人の双子なんて、よくいちゃついてるし。
 でも、兄ちゃんうぜーとか、キモいとか、愛美に思われたら生きていけない。
 
 でも、困った。愛情が溢れて止まんねぇ。
 抑えきれず、とりあえず髪をクルクル指に絡めてみたり、頬をつついたりして、愛情を小出しに発散してみる。

「あ、あの、大和くん?」

「ん?」

「あんまり触ると風邪が移っちゃうよ」

 頬をぷにぷにするだけでは満足できず、つい親指の腹で唇をなぞったり、つまんだりしてしまった。
 だが、愛美の言葉に俺はひらめいた。

「愛美、舌を出せ」

「え?」

「ほら、早く!」

 怪訝な顔をする愛美を急かす。
 思いついたアイデアはとても魅力的で、抗う事など不可能だった。

「どうして? 恥ずかしいよ、そんなこと!」

「いいから! 悪いようにはしないから、兄ちゃんの言う事をきけ!」

 ええぇーと愛美は不満そうだったが、半ば強引に説得すると俺の指示通り舌をチロっと出した。

「そんなんじゃ駄目だ。もっと、前に突き出すように出すんだ」

 プレッシャーをかけると、愛美はしぶしぶ舌を前に突き出した。
 うごめく赤い舌に一瞬ドキリとしたが、その突き出された舌先に吸い寄せられるよう近付き、口に含んでチュッと吸い上げる。
 ひとくちで止めるには、愛美の舌はうま過ぎた。
 舌を引っ込められないよう顎を押さえ、深く口づけて愛美の舌を貪る。


 ・・・・・・

 ちょっと調子に乗りすぎたかな。
 愛美は焦点の定まらない目でぼーっと俺を見上げている。
 優しく頭を撫でてやりながら、俺は大義名分の言い訳を愛美に言い聞かせた。
 
「これでもう大丈夫だぞ。お前の風邪は俺が貰ってやったからな。親父がこうやって母親の風邪を治してたのを思い出したんだ。信じられないかも知れないけど、薬なんかよりよっぽど効くんだぜ」

 医学的根拠はまったくないけど、真実だった。
 大和家七不思議のひとつである。
 俺自身が実証したことはないけど、たぶん大丈夫だろう。

「ちなみに、親父の血筋は風邪で寝込むほどヤワじゃねーから、俺の心配はしなくていい。まあ、たとえ寝込んだとしても、お前の風邪を治してやれるなら、それも本望ってもんだ」

 
 再びそのぷっくりとした唇に吸い寄せられそうになった時、自分の下半身がかなりマズい状態になっているのに気付く。
 そんなつもりはないのに、勝手に興奮してビンビンになっていた。
 下心なんて、これっぽっちもないはずなのに!!

「つ、つまり、兄ちゃんがチューしたのは、お前の風邪を治してやりたかったからで、チューがしたくてやったわけじゃない。そこはわかってくれ、な! 本当に、そんなつもりはなかった。だから、兄ちゃんのこと、怒ったり、キライになっちゃダメだぞ!」
 
 チューはしたかったけど、そういう性的な意味のチューじゃないし。
 あくまでも、愛情表現としてのチューだし。
 心の中で御託を並べてみるも、己の浅ましさが恥ずかしくなり、俺はそそくさと部屋から逃げ出した。
 
 
 

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