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納得できない3(1)
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大和は野球部には戻らないと明言した。
だから、俺はもう野球部の件はすっかり済んだものと安心して、また、普段どおりの休み時間を、つまり三年一組のメンバーだけで、いい感じに格闘技談義なんかをしながらまったりと過ごすつもりだった。
なのに、なのに、あれからというもの、康平とかいうヤツがしょっちゅう3の1に入り浸って、野球部のことを大和に相談している。
女房役だかなんだか知らないけど、大和は野球部には戻らないと言ったのに!
おまけに、アイツが大和に球を受けてくれって強請るもんだから、大和は俺を捨てて体育館ではなくグラウンドへ行ってしまう。
俺は大和と一緒に新しいプロレス技を研究する昼休みを、何よりも楽しみに学校に来てるのに!
今日も、青木が踏んばったが、約束しちまったから悪いなと言って俺達を捨てて行ってしまった。
大和がいないと、なんか技研究もする気がおきない。
がっかりして机に突っ伏していると、青木が俺に謝った。
「ごめん、だめだった」
「いいよ、気にしなくて。大和は幼馴染のご機嫌とりで忙しいんだ。俺達クラスメイトよりも、あっちの方が大事なんだよ」
「そんなに拗ねるなよ。俺達だけでもいいじゃないか、な?」
「そうだよ、いこーぜ! ほら!」
石井と小出が落ち込む俺に気を遣って、優しい言葉をかけてくれる。
気持ちはすごく嬉しかったけど、とてもそういう気にはなれなかった。
教室でうじうじしていると、二人組の男が扉から教室を覗き込んで、きょろきょろ誰かを捜す素振りを見せる。
まただ。
「大和か?」
俺は机に突っ伏したまま、二人組の男に声をかけた。
「あ、うん」
「康平ってヤツとグラウンドに行ったぞ」
「康平と?! そうか、やっぱ噂は本当だったんだな! サンキュー! 行ってみるよ!」
嬉しそうな声を上げて、二人は走り去った。
あの日以来、こうやって大和を訪ねて来るヤツ、多分同小出身者、が急増した。
男だけでなく女子もやって来る。
俺達がそれを不思議そうに眺めていたら、大森が事情を話してくれた。
大和は小学校時代、男女問わずモテモテの超人気者だったらしい。
『功ちゃんはね、俺達の小学校ではヒーローだったんだよ。強くて優しくて、何でもできて、何より功ちゃんといると楽しいことばかりでさ、毎日学校に行くのが楽しくてしようがなかった。功ちゃんがいるクラスでは虐めも起きないし、みんな功ちゃんが大好きだったんだよ。だから、あの事件の後、あんなふうに悪口を言われたり、根も葉もないひどい噂が流れたりしたのが本当に信じられなかった。いくら訂正しても、同小以外の人は誰も信じてくれないし、そのうちに功ちゃん自身が心を閉ざしてしまって、俺達、本当にどうしていいのかわからなかったんだ。だから、きっかけは高岡さんなんだろうけど、こっち側に引き戻してくれた河合達には、俺達本当に感謝してるんだ』
大森の言った通り、俺達に礼を言って行く者も少なくない。
感謝されて悪い気はしないけど、俺はなんかショックだった。
狂犬大和の真実は、俺だけが知っていると思っていたから。
だから、俺はもう野球部の件はすっかり済んだものと安心して、また、普段どおりの休み時間を、つまり三年一組のメンバーだけで、いい感じに格闘技談義なんかをしながらまったりと過ごすつもりだった。
なのに、なのに、あれからというもの、康平とかいうヤツがしょっちゅう3の1に入り浸って、野球部のことを大和に相談している。
女房役だかなんだか知らないけど、大和は野球部には戻らないと言ったのに!
おまけに、アイツが大和に球を受けてくれって強請るもんだから、大和は俺を捨てて体育館ではなくグラウンドへ行ってしまう。
俺は大和と一緒に新しいプロレス技を研究する昼休みを、何よりも楽しみに学校に来てるのに!
今日も、青木が踏んばったが、約束しちまったから悪いなと言って俺達を捨てて行ってしまった。
大和がいないと、なんか技研究もする気がおきない。
がっかりして机に突っ伏していると、青木が俺に謝った。
「ごめん、だめだった」
「いいよ、気にしなくて。大和は幼馴染のご機嫌とりで忙しいんだ。俺達クラスメイトよりも、あっちの方が大事なんだよ」
「そんなに拗ねるなよ。俺達だけでもいいじゃないか、な?」
「そうだよ、いこーぜ! ほら!」
石井と小出が落ち込む俺に気を遣って、優しい言葉をかけてくれる。
気持ちはすごく嬉しかったけど、とてもそういう気にはなれなかった。
教室でうじうじしていると、二人組の男が扉から教室を覗き込んで、きょろきょろ誰かを捜す素振りを見せる。
まただ。
「大和か?」
俺は机に突っ伏したまま、二人組の男に声をかけた。
「あ、うん」
「康平ってヤツとグラウンドに行ったぞ」
「康平と?! そうか、やっぱ噂は本当だったんだな! サンキュー! 行ってみるよ!」
嬉しそうな声を上げて、二人は走り去った。
あの日以来、こうやって大和を訪ねて来るヤツ、多分同小出身者、が急増した。
男だけでなく女子もやって来る。
俺達がそれを不思議そうに眺めていたら、大森が事情を話してくれた。
大和は小学校時代、男女問わずモテモテの超人気者だったらしい。
『功ちゃんはね、俺達の小学校ではヒーローだったんだよ。強くて優しくて、何でもできて、何より功ちゃんといると楽しいことばかりでさ、毎日学校に行くのが楽しくてしようがなかった。功ちゃんがいるクラスでは虐めも起きないし、みんな功ちゃんが大好きだったんだよ。だから、あの事件の後、あんなふうに悪口を言われたり、根も葉もないひどい噂が流れたりしたのが本当に信じられなかった。いくら訂正しても、同小以外の人は誰も信じてくれないし、そのうちに功ちゃん自身が心を閉ざしてしまって、俺達、本当にどうしていいのかわからなかったんだ。だから、きっかけは高岡さんなんだろうけど、こっち側に引き戻してくれた河合達には、俺達本当に感謝してるんだ』
大森の言った通り、俺達に礼を言って行く者も少なくない。
感謝されて悪い気はしないけど、俺はなんかショックだった。
狂犬大和の真実は、俺だけが知っていると思っていたから。
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