幼妻と中年

Arara

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「私は知らない。妹が勝手にした事よ。私には関係ないわ」

 非通知でかけていた携帯番号は木塚佳恵の名義だった。
 美咲の携帯の履歴にはしっかり番号が残っていたが、それは非通知の信号が判別出来ない古い機種だったため、番号がそのまま通知されていたという話だった。

「往生際が悪いな。電話会社がこの近くの基地局から頻繁にかけられてるって言ってるんだ」

 統括本部長が、なかなか認めようとしない田中さんに業を煮やして、言い放つ。

「悪者はいつも私なのね! 会社の為にどれだけ頑張ってもプロジェクトに抜擢されるのは容姿の優れた者ばかり。私には地味な仕事しか回ってこない! 私が力を発揮するには、そうするしかなかった! 全ては会社の為よ! どうしてそれがわからないの? なんでわかってくれないの?」

 田中さんの主張は論理的ではなかったけれど、田中さん自身が優秀で会社の為に尽力してきたのは真実だった。

 俺の判断は正しかったのか。
 こんなやり方じゃない、もっと違うやり方があったのではないか。
 それ以前に、もし俺が田中さんの気持ちに気付いていたら、こんな事にはならなかったのかも。
 後悔が尽きる事はなかった。

「話は署で聴かせてもらいます」

「正しい評価が出来るのは沢井君だけね。他の男は全員色ボケの馬鹿ばっかり!」

 声を荒げ泣き喚く田中さんの両脇に警察官が立ち、連れて行かれようとした時、美咲がすたすたっと前へ進み出て行く。

「田中さん、私、隼人さんの姪ではなくて、妻なんです。正直に言えなかったのは、私のせいで隼人さんの信用を失うわけにはいかなかったから。嘘をついてごめんなさい」

 美咲は深々と頭を下げた。

「妻?! こんな小娘が?!」

 田中さんは絶句して、それは真実なのかと俺をキッと振り返った。

「黙っていてすみません。美咲は俺の妻です」

 俺の言葉を聞いた田中さんは、狂ったように笑い始める。
 そして俺を見据えて言った。

「沢井君、ガッカリだわ。あなたも所詮ただの男だったってわけね」

 田中さんは、心底嫌気がさしたような軽蔑の眼差しを俺に向けた後、警察官と共に部屋を出て行った。

 何とも言えない後味の悪い空気感の中、美咲はニッコリ笑って言った。

「隼人さん、田中さんにすっかり嫌われたみたいで、良かったですね!」

 けろっとした美咲の言い草に思わず怯んでしまう。
 これがジェネレーションギャップってヤツ?
 一抹の不安を感じた日となった。
 



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