幼妻と中年

Arara

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 美咲から、携帯電話の履歴を見せられ、絶句する。
 同じ番号がずらりと並んでいる。

「これは?」

「隼人さんには言って無かったけど、私も無言電話の嫌がらせを受けていたの。多分、犯人は同じ人だと思う」

 美咲の言い方だと犯人の目星がついているようだった。

「誰なのかわかってるのか?」

「うん。こっちの番号はその人にしか伝えていないから。間違いないと思うよ」

「誰なんだ?」

 美咲は俺をじっと見る。

「私の言う事を信じる? 隼人さんには、ショックな話になるかも知れない」



 美咲は、あくまで証拠はないから私の推測に過ぎないけれど、と前置きをして話す。

 美咲の口から語られた推測は、俺には到底信じられない内容だった。
 しかし、美咲がわざわざそんな嘘をつく理由などない。



 そして週末、水野夫妻宅を美咲と共に訪ねる。

「だから、犯人はおそらく田中さんなんじゃないかと思ってる」

 美咲は他にも被害者がいるはずだと言った。
 俺は密かに貿易事務部門から異動した者や退職した者数人を訪ねて、同様の被害を受けていた事実を既に確認している。

 こうして自分の口から話している今でも信じられない。
 あの田中さんが、ライバルや気に入らない人間をこんな卑劣な方法で排除していたなんて。

 旦那は実害を被った被害者でもあるので、怒り心頭で訴えてやると意気込んでいる。
 水野さんの方は驚いてはいたがなぜか思案顔で、そして、おずおずと口を開く。

「実は、第一営業部の先輩に言われたんです。なるべく目立つな、沢井教官に近付くなって。その時は意味がわからなくて、すっかり忘れてしまっていたけど、こういうことだったんですね」

「ちょっと待て。なんで俺の名前が出てくるんだ?」

「だから、言ってるじゃないですか。田中さんは隼人さんの事が好きなんですって。妻だって知らなくても一緒に住んでるだけで許せなかったんだと思うよ?」

「は?! いやいやいやいや、だって田中さん、既婚者だろ?!」

 水野さんに確認をとる。

「えっと、いえ、独身です」

「ええーっ!!」

「結婚指輪だってしてないし、料理の差入れガンガンしてアプローチしてるのに気が付かない隼人さんの方がナゾですよ」

 美咲は呆れるように言うが、俺には本当に全くそんな発想がなかった。
 アプローチしてた? 
 親切じゃなくて?

「あ! わかった! そうだ、子供だよ。子供の世話は大変だけど可愛いんだって話をよくしてたんだ。写真だって見たし」

「ああ、それは多分、子供好きアピールね」

 子供好きアピール…何だそれ。

「あ、多分、その子供って妹さんの子供ですよ。出戻ってきてるみたいなんです」

「……」

 なんかいろいろショック過ぎて言葉が出なかった。




 
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