幼妻と中年

Arara

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無言電話3

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 オンライン研修から通常通りの研修に切り替わり、新入社員にとっては喜ばしい事であるが、感染症の予防対策に沿った研修内容や方法の構築の為、担当職員は残らず残業となった。

 今日こそは早く帰らなければ。
 悪鬼の如く雑務を処理し、帰ろうとした時だった。
 自販機の前でうずくまる女性職員を見つける。

「大丈夫ですか?」

 慌て駆け寄り、顔を見て貿易事務部の相田乙葉とわかった。

「…あ、沢井教官。大丈夫です。少し休んでいただけですから」

 俺に気付いて立ち上がるが、血色は悪く足元もふらついている。
 俺は新入社員の研修教官であると同時に、貿易事務部門のアドバイザーとして相談業務も請け負う。
 見て見ぬふりは出来なかった。
 美咲、すまん。

「…少し話そうか」

 相田さんは新入社員研修の時から、その美しさと優秀で群を抜いていた。
 昨年第一営業部のプロジェクトに抜擢された時は、生き生きとあれほど輝いていたのに、それが今は見る影もない。

 休憩室に入り座らせたが、思い詰めた顔をしている。
 さて、どうやって切り出そう。

 仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、原因はいろいろ考えられるが、今の俺にできる事は一つしかない。
 それは本人を説得して明日にでも産業医を受診させることだ。
 こういう場合、大抵本人はキャリアを気にして認めたがらないが、対処が遅れれば遅れるほど復帰するまでに時間がかかる。
 
 世間話で気持ちをほぐしてから、少しずつ聴いていくか。
 ココアを飲む相田さんの左手の薬指を見て思い出した。
 そう言えば相田は結婚したんだっけ?

「相田さん、結婚したんだよね? 今の姓は何ていう」

 と、突然相田さんがテーブルに突っ伏してうわーんと泣き出した。

 



 うーん、何というか、うーん、困った。
 理由を聴いて、何とも困ってしまった。
 社内に原因があるのなら何らかの対処のしようもあるが、まさか憔悴してる理由が夫の嫉妬とは。


 そもそもの始まりは彼女に掛かってきた無言電話で、最初は夫も美人な妻にストーカーが?!と心配していたらしい。
 しかし、無言電話以外被害はなく、また電話の回数もそれほどではなかった為、スマホの非通知拒否設定だけして警察には行かなかった。
 彼女の方に掛けられなくなると、今度は夫の携帯や会社に無言電話が掛かるようになり、嫌がらせにイライラした夫が妻の浮気相手ではないかと疑うようになってしまったというのが大体の大筋だ。

 しかし、相田さん、今は水野さんだったか、彼女には全く身に覚えがないと言う。

 何もない事をどうやって証明すればいいのかわからないんですと言って、彼女は泣いていた。


 

 
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