幼妻と中年

無言電話2

　いい気味。
　それもこれも、上の人間が能力ではなく容姿で抜擢するからこうなるのよ。

　その点、沢井君は公平だった。
　先輩先輩と私を慕ってくれて。
　見つけたのは私が先なのに、同期のあの貪欲な女に横から奪い取られた時には、どれだけ悔しい思いをしたか。
　沢井君が忙しく海外を飛び回っている時に、有る事無い事吹き込んで別れさせたけど、あの時のような失態はもう演じない。
　沢井君に近付く女は誰であろうと排除してやる。

　沢井君を近くに置いておきたくて、貿易事務部門のアドバイザーに推薦したけど、そのせいで沢井君に色目を使う若い女狐が後をたたない。
　ちょっと優しくされたからって、好意を持たれてるとか勘違いする女ばかりでホント困るわ～。
　
　私もいい加減そういう女達を蹴散らすのにも疲れたし、沢井君もいい歳なんだから、そろそろプロポーズしてくれてもいいのに。
　愛だの恋だの、私達には恋愛関係などという次元の低い関係性はもう必要ない。
　長い人生を互いに助け合って生きる為、私達は結婚するべきなのよ。
　私は仕事上のパートナーとして、ずっと沢井君をサポートしてきた実績がある。
　信頼関係は既に結ばれているし、一番の理解者である私が沢井君の妻に最も相応しい。

　グズグズしてる沢井君を急かしたくて、既成事実を作りたかったのに、あの姪がいたせいで失敗してしまった。
　薬の効き目は十分試せたから、今度こそ上手くやってみせる。

　さて、そろそろトイレに行く時間ね。
　バッグから小型の携帯を取り出しポケットに忍ばせる。

　無言電話に耐えかねて、番号を変えたと連絡してきた。
　生意気言っても、まだ子供なのね。
　私を信じ切ってて、疑いもしない。
　
　新しい番号に掛ける。
　繋がったのを確認して電話を切った。
　非通知拒否設定はまだしていないようね。
　出来ない機種なのかしら。
　
　最近は簡単に非通知拒否設定とか出来ちゃうし、公衆電話も数がめっきり減って、無言電話をかけるのにも一苦労する。
　私だって忙しい身なのに、まったく面倒な世の中になったものだわ。