幼妻と中年

無言電話1

　外出自粛中にあんな娘が沢井君の家に入り込んでいたなんて！
　食事に誘ってもそっけない返事だったのは、この姪のせいだったのだと得心がいった。
　沢井君はとても優しくて、困っている人間を放っておけないから。
　しかも、姪のくせに隼人さんだなんて生意気な！
　叔父さんって呼びなさいよ！

　華やかさは無かったけど、色白の可愛い子だった。
　美しさに恵まれなかった自分は、美しい女を見ると劣等感と同時に激しい嫉妬心が湧き起こる。

　就職の為に田舎から出て来たものの、内定取消しに遭って沢井君の家で間借りしながら就活中という話だった。

　姪と言えど、目障りな存在には違いない。
　早く出て行って欲しいが、感染症禍の中、早々にいい就職先が見つかるとも思えなかった。

　だから、いい話があったら連絡してあげると言って、電話番号を聞き出した。
　
　東京はとっても怖いところなのよ。
　田舎の小娘にはさっさと実家に帰ってもらいましょ。



　男どもは、美しい女にばかり優しくする。
　仕事でミスをしても大目にみたり助けてやったり、チヤホヤ甘やかすから、能力も無いのにどんどんつけ上がる。
　
　そんな女には、誰かが世間の厳しさを教えてやらなければいけない。

　ふふふ、なかなかしぶとい女だったけどそろそろかしら？
　無視しようとしても、内側からじわじわと心身を蝕んでいく。
　心的ストレスを抱えてこの激務には耐えられない。

　察しのいい者は早い段階で異動願いを出して出て行くけれど、鈍チンのお馬鹿さんは病んで退職しないとわからないみたい。

「水野さん、大丈夫？　顔色が悪いようだけど」

「少し寝不足なだけで…大丈夫です」

　目の下にはクマがくっきり、髪もあんなに艶やかだったのに、せっかくの美人も台無しね。

「そう？　本当に？　無理してない？」

「はい、お気遣いいただき、すみません」

「具合が悪かったら本当に休んでいいのよ？　仕事なんてどうとでもなるんだから。あなたの体の方が心配なの」

「ありがとうございます。本当に大丈夫です」

　大きな案件を手掛けて、天狗になっていた女が徐々に憔悴していくのを見るのは実に爽快だった。

「そう？　じゃ、申し訳ないけど、その書類今日中に仕上げてね」
　
　ああ早く潰れて出て行ってくれないかしら。