上 下
143 / 144
外伝 レオンハルト編

エピローグ2

しおりを挟む
 初めて会った時は贄の巫女であった。

 我は荒ぶる神と呼ばれておるが、荒ぶりたくて荒ぶっておるわけではない。
 力が身の内に溜まってくると、勝手に暴発するのだ。
 だから、なるべく山の中でじっとしておるが、我慢できなくなると爆発する。

 その巫女はその身の内に我を鎮める力を持っていた。
 我の声も聞く事が出来た。
 頭も良かった。
 力が溜まってきたら、海に島を浮かべるといいと巫女は言った。
 我らは楽しく暮らした。 
 やがて巫女は年老いて、死ぬ間際に、絶対に生まれ変わってくるから、それまで大人しく待ってるのよと言った。
 だから我は大人しく待った。
 巫女に教えられたように、島を浮かべて待った。
 
 次は王女だった。
 山にやって来て、ここで我と暮らしたいが、王女という立場からそれが出来ない。
 だから、我に山から出て王宮へ一緒について来いと言った。
 我に否はなかった。
 王女と王宮で楽しく暮らした。
 やがて、王女は年老いて、また我に生れ変わってくるまで大人しく待つように言い置いて死んだ。
 大人しく待てと言われたけど、大嵐を起こしてしまった。
 
 次は、魔法使いだった。
 山にやって来て、山で暮らすのはつまらないから、一緒に旅に出ようと言った。
 我に否はなかった。
 魔法使いと一緒なら、どこにいたって楽しいに違いない。
 でも、楽しい時はあっという間に終わってしまう。
 魔法使いは、また我に大人しく待つように言う。
 我は、大人しく待てない、待つのは嫌だと言った。
 魔法使いが死んだら、大暴れしてやると魔法使いを脅した。
 魔法使いがいないこの世界なんて、もう壊してしまってもいいんだと訴えた。
 すると魔法使いは、壊してしまったら、生れ変わる事も出来なくて、二度と会えなくなってしまう。
 我に会えなくなるのは嫌だと泣いた。
 我も会えなくなるのは嫌だから、我慢して待ってると言うと、魔法使いは安心して眠りについた。
 悲しくて、寂しくて、暴れるつもりはなかったけれど、大雨が降って、大洪水を起こしてしまった。
 魔法使いが知ったら、我を叱るだろうけど、死んで我をひとりにするのが悪いのだ。

 次は貧しい農民の娘だった。
 深いけがを負って、山に着いた時には、虫の息だった。
 せっかく生れ変わったのに、ごめんねと農民の子は我に謝って死んだ。
 あっという間の事だった。
 農民の娘の魂が霧散していく。
 我は霧散していく魂の欠片を集めて肉体に戻そうとしたが、欠片は跡形もなく消えてしまった。

 農民の娘はいくさに巻き込まれて、けがを負って死んだ。
 農民の娘は我に大人しく待つように言わなかった。
 我は、いくさを起こした人間達にいかずちを落とした。
 いくつもいくつも落とした。
 それでも怒りは収まらず、あちこちの山が火を噴き、多くの街が灰に飲み込まれた。
 農民の娘は死んだ。
 他の人間も皆死ねばよい。

 寂しくて、農民の子が生れ変わるのを待てなかった。
 この世界を創った我なら、農民の子もきっと作れる。
 器は出来たが、いつまで経ってもいのちは宿らなかった。


 我は山を出た。
 待っていては、また会う前に死んでしまうかも知れない。
 農民の子の魂の気配を捜して、彷徨った。

 今度も農民の子だった。
 母親の腹にいる時から、我には分かっていた。
 でも、農民の子は赤ん坊から幼子になっても、我が分からないようだった。
 人間は脆弱ですぐに死んでしまうから、常に気を付けていなければいけない。
 我は、農民の子について回って、害を為す者を懲らしめた。

 農民の子が山に捨てられた。
 我が復讐しに行こうとすると、農民の子が我を止める。
 農民の子が我に話しかけてくれたのは、それが初めてだったから、我は驚いた。
 やっと我を思い出してくれたのだ。
 我は喜んだ。

 ところが、農民の子は我に、我が何者で、どうして自分に纏わりついて悪いことばかりするのだと怒った。
 我は、ただ農民の子を守りたかっただけだと答えた。
 農民の子は、ため息を吐いて、あっちへ行けと言った。
 言われた通り、少し離れる。
 すると、もっとあっちへ行けと言う。
 仕方がないので、もう少し離れる。
 農民の子は、またため息を吐いて、今度は自分が歩いて行ってしまう。
 我は追いかけた。
 付いて来るなと言われたけれど、山の中には危険がいっぱいだ。
 我が追いかけると、農民の子は逃げる、追いかける、逃げるを繰り返しながら、我はだんだん嬉しくなってくる。
 また、この山の中で二人楽しく暮らせばいい。
 我は、獣から守ってやれるし、食べ物も与えてやれる。温かい寝床も用意してやろう。
           
 ところが、農民の子は、一日中膝を抱えて座り込んでいる。
 我が話しかけても、心を閉ざして何も答えてくれない。
 それでも我は、一生懸命話しかけた。
 これまでの事を話して聞かせた。
 我が荒ぶる神であった事、農民の子が我を鎮めてくれるお陰で、我は暴れないでいられる事、巫女だった時の事、王女だった時の事、魔法使いだった時の事を話して聞かせた。
 楽しい思い出ばかりなのに、何故か雨が降った。

 農民の子は、そんな事は知らないし、私には関係ない迷惑な話だと言った。
 そして、我のせいで、村の人達に嫌われ、親に捨てられたのだと泣いて我を責めた。
 我は、また農民の子と楽しく暮らしたかっただけで、悲しませるつもりはなかった。
 我は、済まなかったと謝った。

 


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。

[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。

ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい えーー!! 転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!! ここって、もしかしたら??? 18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界 私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの??? カトリーヌって•••、あの、淫乱の••• マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!! 私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い•••• 異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず! だって[ラノベ]ではそれがお約束! 彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる! カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。 果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか? ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか? そして、彼氏の行方は••• 攻略対象別 オムニバスエロです。 完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。 (攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)   

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

【R18】愛するつもりはないと言われましても

レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─? ※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。 ※ムーンライトノベルズにも投稿しています。

奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました

灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き? 僕はレイチェルのこと大好きだよ。」 没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。 それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。 けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。 なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。 あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。 奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

処理中です...