上 下
138 / 144
外伝 レオンハルト編

結婚1

しおりを挟む
 俺の失態?のせいで、貴族令嬢としては不名誉な烙印がフローラに押されるところを、母上が王家や教会に圧力をかけてくれたお陰で、フローラと俺の結婚は異例の早さで認められた。
 そして、準備期間のない挙式に右往左往する中、母親のいないフローラのために母上がドレスの準備や挨拶状の作成などの世話をせっせと焼き、無事に今日の日を迎える事が出来たのだった。

 フローラと和解した父親のルシオは、同僚のマティアスとして式に列席している。
 ルシオから事情を聞いた母上は、脅したか懐柔したか、その両方かは定かではないけれど、ポルトにおけるルシオの汚名を返上させ、オルランド家の名誉を回復させた。
 つまり、十数年前の隣国の襲撃はルシオを象った魔族、魔物の神の仕業で、ルシオは魔族に捕らわれの身でありながら竜族に協力し、この度の魔族退治の際、命を落したという事にしたのだ。

 今後、ルシオは竜王国の母上の元で生活する。
 ルシオは魔族の目覚めを恐れて死ぬ事を希望していたが、母上はただで殺すのはもったいないと言って、実験、研究材料になる事を命じた。
 ルシオが母上に切り刻まれないよう祈るばかりである。
 
 また、隣国、つまり砂漠地帯を含む魔族の国は、竜王国の所有権放棄により、ポルトの国に併合された。
 そして、領主にはルシオの功績をもって、オルランド家が任命され、というか魔物の神の土地には誰も近寄りたがらなかったし、実際、魔素の濃いあの土地を管理出来るのは、今のところ俺達くらいしかいない。




「フローラ、どうした? 何か気になる事でもあるのか?」
「あの、・・・ううん、何でもない」
 
 ちらちらと後ろを気にするフローラに問いかけたが、黙ってしまった。
 まぁ、今は挙式中、集中した方がいい。
 俺にとっては別段、意味はないけど。
 神が認めようが認めまいが、俺達は番いだ。


「混沌を司る原初の神カオスを追いやり、この世に秩序をもたらした地母神ガイアのもと、二人の婚姻を認めます」

 貴族の婚姻を結ぶ役目を請け負う枢機卿の厳かな声が大聖堂に響いた。

  
 
「おめでとう、レオン、フローラ」

 式後のレセプションパーティで、皆にお祝いの言葉をもらう。
 適当に挨拶を返していると、突然フローラが立ち止まった。
 眉を八の字にして、拳を握り締め、今にも泣き出しそうな顔つきをしている。

「フローラ、一体どうした!?」

 声をかけても、何か思い詰めているようで、フローラには俺の言葉が聞こえていないようだった。
 フローラの視線の先を見れば父上と母上がいつものようにいちゃいちゃしているだけで、特別に何があるというわけでもない。
 二人が俺達の視線に気付いて、こちらにやって来る。

「ち、」

 すると突然、俺が挨拶をする前にフローラが父上の前に飛び出して、食ってかかるように言う。

「ち、義父上様、酷いですっ!! あんまりです!! どうして義母上様をお連れ下さらなかったのですか!! レオンと私の結婚式なのに!! どうしてっ、どうしてっ、」

 父上の顔を睨み付けていたかと思うと、その瞳に涙が盛り上がり、今度はわああああああああああと、顔を覆って泣き出した。
 三人で顔を見合わせた。

「母上、もしやフローラにその姿の事、話してなかったのですか?」

「んーっと、どうやらそうみたい? だって、王家と北の土地の事で話し合ったり、結婚の準備があったりで、とにかく忙しかったのよ! 忘れても仕方ないでしょ!」

「分かってるよ、母上を責めてるわけじゃない。母上がこの結婚において多大に尽力してくれた事は、俺もフローラもすごく感謝してるし。ただ、フローラはずっと挙式の時から思い悩んでいたみたいだから」

「え!? 母上!? 母上様?!」

 フローラが涙に濡れた顔を上げて、母上を見る。

「フローラ、ごめんねぇ」

「母上が公の場に出る時は、大抵こっちの姿なんだ」

 母上は、ハイネケン家特有の銀髪に紫の瞳を持った、ぼんきゅっぼんのゴージャス美女に変化へんげしていた。

「本当の姿だと、アルがロリコンになっちゃうでしょう? ありがとう、私の為に怒ってくれたのね。フローラは優しい子ね」

 母上とフローラは二人で抱擁し合い、泣いて崩れたフローラのお化粧を直してくるわと、父上と俺を残して二人仲良く行ってしまった。


「もう、始まったか」
「え?」
「レオン、我はそなたの味方だ。愚痴が言いたくなったら、いつでも聞いてやるゆえ安心して良いぞ」
「愚痴?」
「そのうち分かる」

 ???
 父上は奇怪だ。生粋の竜族である父上の思考回路はイマイチよく分からない。
 隣に立つ父上をじっと眺める。
 実年齢は千年近いのに若々しく、黙っていれば、美丈夫で威厳があってカッコいい。
 小さい頃の俺は、優しくて頼もしい父上が大好きで、膨大な魔力には憧れと羨望を抱き、竜王国を救い繁栄をもたらした偉大な黒竜王が己の父である事をどれほど誇りに思っていたことか。
 あ、そうだ。父上の顔を見ていて思い出した。

「そうそう、父上ってば、いつの間に十番目の弟を作ったのさ。俺、全然知らなかったよ」

「弟?」

「あのくそチビ、兄である俺に対して、生意気な口をききやがって。でも、アイツには助けてもらったからさ、お礼も言いたいし、今どこにいるの? 黒い髪に緑の瞳のチビ、そう言えば名前は?」

 ん? あれ? 俺達兄弟の人型は黒い髪に黒い瞳のはず・・・あれ? おかしいな。
 でも、緑の瞳は母上の瞳にそっくりだったけど・・・
 ???う~ん???

「我は、そなたの弟など作った覚えはないぞ? ま、ま、まさか、我の知らぬ間にローリーが浮気して、そなたの弟を産んだのか?! そうなのか!? レオン、答えよ!! そうなのだな!?」
 
 えーーーー!! なんでそうなるの!?

「ち、ち、違う違う!! ご、ごめん、父上! 俺の勘違いだ! そうか、あれは夢だったんだ! 俺、死にかけて、ヘンな夢を見たんだ。そうだよね、弟なんていなかった。おかしな事を言ってごめん! 母上が、浮気なんてするはずないし!」

「浮気・・・ローリーが浮気・・・」

 俺の勘違い、間違いだったと何度言っても、父上は全然聞いてくれない!!
  
「竜族は番いとしか子を為せぬが、人間は違う! まさか、我以外の雄と番って子を?!」

 や、やばいやばいやばいやばい・・・
 げっ、本当に雲行きが怪しくなってきた。
 どうしようどうしよう。
 ああ、まずい、黒雲が渦を巻き始めてるし!!

 パーティーの参加者達も異様な空模様に騒ぎ始める。
 母上が慌てて戻って来た。

 父上は早速、戻って来た母上に浮気をして弟を産んだのかと、問い詰めていた。
 母上は、何を馬鹿な事を言ってるのよと父上を叱りつけながら、原因はお前だったのねと俺を睨みつける。
 はい、その通りでございます、申し訳ございませんと顔に表し謝った。

 母上に一刀両断されても、くどくどと浮気を疑う父上と渦を巻く黒い雲を見比べ、母上は竜王国で待っているわとフローラに挨拶をすると、父上を引っ張って帰って行った。
 
 

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

呪われ侯爵のお嫁様★嫁いだら溺愛が始まるなんて聞いてない★

cyaru
恋愛
呪われ侯爵として有名なブレッドマン侯爵家のジンジャーの元に嫁ぐ事になったパプンキン子爵家のホリー。 ホリーの父親が賭け事をするのに借りた金が原因でホリーが嫁ぐ事になってしまった。 「すまない!」詫びる父にホリーは「謝ったところで父さんの涙と謝罪に銅貨1枚だって払ってくれる人はいないわ」と腹を括る。 このブレッドマン侯爵は王家も必要最低限しか王城に呼ばない悪魔に呪われた侯爵として有名で、公の場に出る時は仮面をつけている。素顔を見ると呪われると忌避されているのだが…。 生活の内情を知ってびっくり。ジンジャーの使ったものは全て廃棄していると言う。 ホリーの貧乏魂が叫ぶ。「捨てるなら、くれ!」 なのにジンジャーは「夫の使ったものを欲しがるとは」…「違ぁう!!」 ホリーは経費削減大作戦を展開しつつ、ジンジャーを見ても触れても呪いなんかないと皆に知ってもらうべく奮闘するのだが―― そして突然始まるスピンオフはジンジャー&ホリー夫婦が全力サポートする恋物語!! (こちらのヒロインはケイトリン) ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★タグの①は本編、②はスピンオフ ★10月11日投稿開始、完結は10月14日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

みられたいふたり〜変態美少女痴女大生2人の破滅への危険な全裸露出〜

冷夏レイ
恋愛
美少女2人。哀香は黒髪ロング、清楚系、巨乳。悠莉は金髪ショート、勝気、スレンダー。2人は正反対だけど仲のいい普通の女子大生のはずだった。きっかけは無理やり参加させられたヌードモデル。大勢の男達に全裸を晒すという羞恥と恥辱にまみれた時間を耐え、手を繋いで歩く無言の帰り道。恥ずかしくてたまらなかった2人は誓い合う。 ──もっと見られたい。 壊れてはいけないものがぐにゃりと歪んだ。 いろんなシチュエーションで見られたり、見せたりする女の子2人の危険な活動記録。たとえどこまで堕ちようとも1人じゃないから怖くない。 *** R18。エロ注意です。挿絵がほぼ全編にあります。 すこしでもえっちだと思っていただけましたら、お気に入りや感想などよろしくお願いいたします! 「ノクターンノベルズ」にも掲載しています。

【完結】オトナのお付き合いの彼を『友達』と呼んではいけないらしい(震え声)

佐倉えび
恋愛
貧乏子爵家の三女のミシェルは結婚する気がなく、父親に言われて仕方なく出席した夜会で助けてもらったことをきっかけに、騎士のレイモンドと大人の恋愛をしていた。そんな関係がずるずると続き、四年が経ってしまう。そろそろ潮時かと思っていたころ、レイモンドを「友達」と言ってしまい、それを本人に聞かれてしまった。あわや『わからせ』られてしまうかと身構えていたら、お誘いがパタリと止み、同時にレイモンドの結婚話が浮上する。いよいよレイモンドとの別れを覚悟したミシェルにも結婚話が浮上して……? 鈍感な我がままボディヒロイン×冷静沈着な計算高いどSヒーロー。 *ムーンライトノベルズにもタイトルを少し変更してR18版を掲載

妊娠中、息子の告発によって夫の浮気を知ったので、息子とともにざまぁすることにいたしました

奏音 美都
恋愛
アストリアーノ子爵夫人である私、メロディーは妊娠中の静養のためマナーハウスに滞在しておりました。 そんなさなか、息子のロレントの告発により、夫、メンフィスの不貞を知ることとなったのです。 え、自宅に浮気相手を招いた? 息子に浮気現場を見られた、ですって……!? 覚悟はよろしいですか、旦那様?

【R-18】【重愛注意】拾われバニーガールはヤンデレ社長の最愛の秘書になりました

臣桜
恋愛
札幌の飲食店でマネージャーをしていた赤松香澄(あかまつかすみ)は、バニーガールの格好をするよう強要されセクハラを受けていた時、ファッションブランドChief Every(チーフ・エブリィ)の社長で、世界長者番付にも載る億万長者。テレビなどメディアにも出る有名人の御劔佑(みつるぎたすく)に助けられた。それだけでなく、御劔の会社で秘書として働くようスカウトされてしまう。熱心に口説いてくる佑に、香澄は心を動かされ、彼と共に東京に向かう事を決意した。東京での秘書生活を経て、佑とも心を通わせ婚約し、お互いの両親とも挨拶をする。いざ彼の母方の実家であるドイツに向かうとそこで香澄に災いが降りかかり――? 佑の従兄である奔放な双子・アロイスとクラウスにも振り回される日々。帰国したかと思えば会社内でのいびりがあり、落ち着いたかと思えばまた新たなトラブルに巻き込まれて――? いちゃいちゃしながら世界を回りつつ、ヒロインの香澄が色んなトラブルに遭い、二人で乗り越えてゆく大長編です。 ※ 未熟な挿絵もついております。 ※ ムーンライトノベルス様、エブリスタ様にも投稿させて頂いております。 ※ ラブシーン(程度の強弱はありますが、こちらで甘い雰囲気と判断した箇所)には☆を、挿絵のついている回には※をつけています。香澄が少し可哀想な目に遭う回は、★をつけます。 ※ 表紙はニジジャーニーを使用しました。

【R18?】あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜

鷹槻れん
恋愛
ノックもなしにドアが開いて、全裸の男が入ってきた。そんな出だしから始まるちょっぴり不思議なドタバタなオフィスものラブコメ♥ --------------------- 荒木 羽理(あらき うり)/25歳は青果専門に扱う商社『土恵商事(つちけいしょうじ)』の経理課で働くTL小説の執筆が趣味の、猫好きなOL。 屋久蓑 大葉(やくみの たいよう)/36歳は、羽理には直接関わりのない雲の上の総務部長。 ある夏の日の夕方。 羽理は仕事帰り、家の近所の神社で催されていた夏祭りで、たまたま見付けた可愛い猫のお守りに一目惚れ。 「あなたに良縁結びますニャ!」と書かれたパッケージを見て、軽い気持ちで「お願いしますニャ!」と願掛けしたのだけれど――。 ※ちょっぴり不思議な現代モノオフィスラブ!? ※BL的な雰囲気がちらほら。 ※レーティングはお守り程度です。 (執筆期間:2022/06/25〜) --------------------- ○表紙絵は市瀬雪ちゃん(https://x.com/yukiyukisnow7?s=21&t=QMTHZgxLmWb6bE3RZSSmJA)に依頼しました♥(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○公開後に加筆修正する場合がございます。 ○素人が趣味で書いている無料小説です。ヒーローとヒロインにはそれなりに思い入れがあります。どうか優しい気持ちで見守ってやって下さい♥ ---------------------

処理中です...