99 / 144
外伝 レオンハルト編
ルカテリーナ=バークレイという麗人(あにうえ)1
しおりを挟む
俺がやり過ぎだと言ったのは、リボンを付けられた事じゃない。
兄上が金髪碧眼の、泣きボクロ付きの、色っぽい男装の麗人に変化をしたからだ。
髪や瞳の色、面影を変えるのは分かる。
兄弟だから、特に俺達9人兄弟はよく似ているから、付きまとっていた俺に似ているとなると何がしか警戒される可能性がある。
だけど、性別まで変えなくてもよくね?
ゼッタイ他人事だと思って、ノリノリで遊んでるに違いないと思った。
完敗だ。
今、目の前で繰り広げられた光景を見る限り、俺は間違っていた。
兄上が女性に変化してから今に至るまでの言動や行動は、たまたまそうしたように見えてたけど、実際は全て計算してやっていたのだ。
兄上の目的とする着地点へと、知らず知らずのうちに導かれている。
それを証拠に邪魔な男達を蹴散らし、フローラの信頼をばっちり勝ち得て、今日会ったばかりだというのにもう親友の座をもぎ取っている。
確かに考えてみれば、男嫌いのフローラが見ず知らずの男の言うことなどに、耳を貸すわけがなかった。
兄上の見事な手腕を目の当たりにして、ぐうの音も出ない。
フローラの誕生パーティーは、南国特有の大きな花があちこちで華やかに咲き誇っていて美しい、オルランド邸の前庭園で開かれていた。
軽やかな音楽が流れ、ダンスをしたり、用意されている軽食をつまんだり、談笑したりと出席者は思い思いにくつろいでいる。
主役のフローラには、既にプレゼントを渡して挨拶を済ませている人達に違いない。
俺は兄上の上着のポケットからちょこんと顔を出して、目をぐるぐる動かしてフローラの居場所を探す。
若い男が多いな。
婿候補というわけか。
男達に囲まれているフローラを見付けた。
掃き溜めに鶴のように、フローラだけが美しく輝いていた。
その顔が心なしか青ざめて、歪んで見えたとしても。
『ドレス姿のフローラはなんて綺麗なんだろう! ねぇ、兄上』
「お前なぁ、色ボケも大概にしとけよ」
兄上は俺に呆れたというような溜め息を吐くと、颯爽とフローラの元に歩いて行く。
はぁ? なんで叱られてんの俺? ただ、フローラが綺麗だって言っただけじゃん!
自分に番いがいないからって、妬かないでもらいたいんだけど!
心の中で兄上にブーたれていれば、兄上がフローラに近付くにつれて、不穏な言葉が途切れ途切れに耳に入ってくる。
「裏切り者の娘のくせに、お高くとまりやがって。美人をハナにかけてるのかも知れないが、貴族としてはとうに売れ残りだ。そんなお前のところに婿に来てやろうっていうんだ、有り難く受けろよ」
「おい、フローラ嬢に失礼だろう。フローラ嬢、あなたはとても美しい。私は年齢など気にしませんよ。是非、私を選んで下さい。私が婿に入ったら、あなたに代わって、このオルランド侯爵家を必ず盛り立てて差し上げます。女性のあなたは家に入り、跡継ぎの子供を生んで下されば良いのです」
「だいたい侯爵家とはいえ、」
な、
驚いてフローラを近くでよく見れば、蛇のような男達にねっとりと絡みつかれ、哀れにも小動物のように怯え身動きすらままならぬ様子で追い詰められていた。
「ちょっと、失礼。そこな下郎、どいて下さる?」
兄上がフローラを囲んでいる男達を掻き分け、というか強引に引き剥がし、フローラの前に辿り着く。
「あ、おい、何をするんだ」「うわぁ」「やめろ」「おい、失礼だろう」「うぎゃっ」
フローラは、囲んでいた男達をぽいぽいと投げ捨てた兄上に驚いて、目を丸くして固まっている。
兄上はにっこり笑って、フローラの前で剣士の礼を取る。
「お初にお目にかかります。私はオーティス国王妃、ダイアナ様に仕えるルカテリーナ=バークレイと申します」
フローラや周りの人間に己の身分を証明するように、オーティス国の紋章で飾られた剣を掲げた。
「あなたと同じ魔法剣士よ。女性の魔法剣士が居るって小耳に挟んで、それなら挨拶でもしていこうかしらと思って。いけなかったかしら?」
「い、いいえ! 突然だったから驚いたけど、来て下さって嬉しいわ。女性でありながら魔法剣士として王妃様にお仕えしてるなんて、素晴らしいわ。私とは違って、きっとあなたは優秀な魔法剣士なのね」
フローラは、自嘲と憧れと羨望が混じった眼差しを兄上に向けた。
「まぁ、そうね。うふっ」
そして、呆然と立ち尽くす周りの男達を無視して、兄上はフローラと二人できゃあきゃあお喋りに花を咲かせたのだった。
兄上ってば、俺の事もすっかり忘れてない?
兄上が金髪碧眼の、泣きボクロ付きの、色っぽい男装の麗人に変化をしたからだ。
髪や瞳の色、面影を変えるのは分かる。
兄弟だから、特に俺達9人兄弟はよく似ているから、付きまとっていた俺に似ているとなると何がしか警戒される可能性がある。
だけど、性別まで変えなくてもよくね?
ゼッタイ他人事だと思って、ノリノリで遊んでるに違いないと思った。
完敗だ。
今、目の前で繰り広げられた光景を見る限り、俺は間違っていた。
兄上が女性に変化してから今に至るまでの言動や行動は、たまたまそうしたように見えてたけど、実際は全て計算してやっていたのだ。
兄上の目的とする着地点へと、知らず知らずのうちに導かれている。
それを証拠に邪魔な男達を蹴散らし、フローラの信頼をばっちり勝ち得て、今日会ったばかりだというのにもう親友の座をもぎ取っている。
確かに考えてみれば、男嫌いのフローラが見ず知らずの男の言うことなどに、耳を貸すわけがなかった。
兄上の見事な手腕を目の当たりにして、ぐうの音も出ない。
フローラの誕生パーティーは、南国特有の大きな花があちこちで華やかに咲き誇っていて美しい、オルランド邸の前庭園で開かれていた。
軽やかな音楽が流れ、ダンスをしたり、用意されている軽食をつまんだり、談笑したりと出席者は思い思いにくつろいでいる。
主役のフローラには、既にプレゼントを渡して挨拶を済ませている人達に違いない。
俺は兄上の上着のポケットからちょこんと顔を出して、目をぐるぐる動かしてフローラの居場所を探す。
若い男が多いな。
婿候補というわけか。
男達に囲まれているフローラを見付けた。
掃き溜めに鶴のように、フローラだけが美しく輝いていた。
その顔が心なしか青ざめて、歪んで見えたとしても。
『ドレス姿のフローラはなんて綺麗なんだろう! ねぇ、兄上』
「お前なぁ、色ボケも大概にしとけよ」
兄上は俺に呆れたというような溜め息を吐くと、颯爽とフローラの元に歩いて行く。
はぁ? なんで叱られてんの俺? ただ、フローラが綺麗だって言っただけじゃん!
自分に番いがいないからって、妬かないでもらいたいんだけど!
心の中で兄上にブーたれていれば、兄上がフローラに近付くにつれて、不穏な言葉が途切れ途切れに耳に入ってくる。
「裏切り者の娘のくせに、お高くとまりやがって。美人をハナにかけてるのかも知れないが、貴族としてはとうに売れ残りだ。そんなお前のところに婿に来てやろうっていうんだ、有り難く受けろよ」
「おい、フローラ嬢に失礼だろう。フローラ嬢、あなたはとても美しい。私は年齢など気にしませんよ。是非、私を選んで下さい。私が婿に入ったら、あなたに代わって、このオルランド侯爵家を必ず盛り立てて差し上げます。女性のあなたは家に入り、跡継ぎの子供を生んで下されば良いのです」
「だいたい侯爵家とはいえ、」
な、
驚いてフローラを近くでよく見れば、蛇のような男達にねっとりと絡みつかれ、哀れにも小動物のように怯え身動きすらままならぬ様子で追い詰められていた。
「ちょっと、失礼。そこな下郎、どいて下さる?」
兄上がフローラを囲んでいる男達を掻き分け、というか強引に引き剥がし、フローラの前に辿り着く。
「あ、おい、何をするんだ」「うわぁ」「やめろ」「おい、失礼だろう」「うぎゃっ」
フローラは、囲んでいた男達をぽいぽいと投げ捨てた兄上に驚いて、目を丸くして固まっている。
兄上はにっこり笑って、フローラの前で剣士の礼を取る。
「お初にお目にかかります。私はオーティス国王妃、ダイアナ様に仕えるルカテリーナ=バークレイと申します」
フローラや周りの人間に己の身分を証明するように、オーティス国の紋章で飾られた剣を掲げた。
「あなたと同じ魔法剣士よ。女性の魔法剣士が居るって小耳に挟んで、それなら挨拶でもしていこうかしらと思って。いけなかったかしら?」
「い、いいえ! 突然だったから驚いたけど、来て下さって嬉しいわ。女性でありながら魔法剣士として王妃様にお仕えしてるなんて、素晴らしいわ。私とは違って、きっとあなたは優秀な魔法剣士なのね」
フローラは、自嘲と憧れと羨望が混じった眼差しを兄上に向けた。
「まぁ、そうね。うふっ」
そして、呆然と立ち尽くす周りの男達を無視して、兄上はフローラと二人できゃあきゃあお喋りに花を咲かせたのだった。
兄上ってば、俺の事もすっかり忘れてない?
0
お気に入りに追加
1,148
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
40歳独身で侍女をやっています。退職回避のためにお見合いをすることにしたら、なぜか王宮の色男と結婚することになりました。
石河 翠
恋愛
王宮で侍女を勤める主人公。貧乏貴族の長女である彼女は、妹たちのデビュタントと持参金を稼ぐことに必死ですっかりいきおくれてしまった。
しかも以前の恋人に手酷く捨てられてから、男性不信ぎみに。おひとりさまを満喫するため、仕事に生きると決意していたものの、なんと41歳の誕生日を迎えるまでに結婚できなければ、城勤めの資格を失うと勧告されてしまう。
もはや契約結婚をするしかないと腹をくくった主人公だが、お見合い斡旋所が回してくれる男性の釣書はハズレればかり。そんな彼女に酒場の顔見知りであるイケメンが声をかけてきて……。
かつての恋愛のせいで臆病になってしまった女性と、遊び人に見えて実は一途な男性の恋物語。
この作品は、小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】
高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。
全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。
断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。
【R18】愛するつもりはないと言われましても
レイラ
恋愛
「悪いが君を愛するつもりはない」結婚式の直後、馬車の中でそう告げられてしまった妻のミラベル。そんなことを言われましても、わたくしはしゅきぴのために頑張りますわ!年上の旦那様を籠絡すべく策を巡らせるが、夫のグレンには誰にも言えない秘密があって─?
※この作品は、個人企画『女の子だって溺愛企画』参加作品です。
※ムーンライトノベルズにも投稿しています。
奥手なメイドは美貌の腹黒公爵様に狩られました
灰兎
恋愛
「レイチェルは僕のこと好き?
僕はレイチェルのこと大好きだよ。」
没落貴族出身のレイチェルは、13才でシーモア公爵のお屋敷に奉公に出される。
それ以来4年間、勤勉で平穏な毎日を送って来た。
けれどそんな日々は、優しかった公爵夫妻が隠居して、嫡男で7つ年上のオズワルドが即位してから、急激に変化していく。
なぜかエメラルドの瞳にのぞきこまれると、落ち着かない。
あのハスキーで甘い声を聞くと頭と心がしびれたように蕩けてしまう。
奥手なレイチェルが美しくも腹黒い公爵様にどろどろに溺愛されるお話です。
慰み者の姫は新皇帝に溺愛される
苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。
皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。
ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。
早速、二人の初夜が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる