上 下
59 / 144
恋人編

二人の関係1

しおりを挟む
「あの! グローリアさん! 僕はハロルド=クラプトン、クラプトン子爵家の三男です。競技大会でグローリアさんの魔法を拝見して感銘を受けました! 僕は今まで不真面目だったけど、グローリアさんの魔法を見て目が覚めたんです。僕もグローリアさんのようになりたいって思いました。これからは心を入れ替えて頑張るつもりです!」
 
 またか!
 執務の合間にちょっとローリーの顔でも覗いて来ようと学校に転移してくれば、ローリーより少し年下と思われる中等科の少年が、ローリーに熱心に話しかけていた。
 教室内はざわついていて、座っている生徒ばかりでなく、立ち歩いてお喋りしている生徒もいる様子から、どうやら今は授業中ではなく休憩時間らしい。

 で、アイツはどこに行ったのだ!
 きょろきょろ辺りを探しても教室の中に姿はなく、代わりにチラチラとローリーの様子を窺っている雄が数人目に入った。
 隙あらば自分も声をかけたいと思っているに違いない。
 
 新しい学期を迎えて、普段の学業成績や競技大会での実績が高く評価され、ローリーは飛び級をし中等科に進級した。
 これは、競技大会を観覧していた王宮関係者の圧力も作用しているのではないかと思う。
 早く卒業させて実践的に魔法使いとして働かせたいのだ。
 我が危惧していたように、案の定ローリーは観ていた者達を、あらゆる意味において魅了してしまった。
 
 実際、競技大会終了後、王宮の様々な部署の関係者がせっせと両親に接触してきている。
 本当は本人に会いたいのだろうが、学校の寄宿舎には行きづらいだろうからな。
 まずは両親を取り込み、外堀を埋めようという作戦なんだろう。
 これは、優秀な者を真っ先に得るためにツバを付けておく、いわゆる青田買いだ。
 おいしい条件をちらつかせて釣るつもりなのだろうが・・・ププ、何をしようが、無駄な努力だがな!
 もう既にローリーは我のツバまみれで、他のツバが入る余地など、これっぽっちもない。
 おまけに言うなら、顔の傷だって舐めて・・・治してやったばかりだし!

 だが、青田買いの他にも、求婚の申し込みやローリーの能力を利用したい者が面会に来たりして、腹立たしく鬱陶しいことに変わりはない。
 だが、まぁ、このような輩は権力にモノを言わせて追い払えばよいのだ。

「それで、あの、グローリアさんにご教示をお願いしたくて」

 我は結界の内側から、発せられた言葉の真意を見定めるべく目を眇めて、この前にいる若い雄を注視する。
 そう、権力でどうにでもなる大人は問題ない。
 困るのはこ奴のような、ローリーに憧憬を抱き、純粋な子供のフリをして近づいてくる年若い雄どもだ。
 ローリーもあからさまに言い寄ってくる年長者には、警戒もするし手厳しいのだが、魔法使いであるローリーを慕ってくる弟のような年若い相手には、将来有望な魔法使い候補なのだからと優しく接する。
 ローリーは全く男心を分かっておらんのだ。
 憧憬は淡い恋心のようなもの、優しくすればつけ上がり、恋心は強い恋情へ、そして下心を伴った情熱へと簡単にシフトチェンジしてしまう。
  
「ハロルド君、ありがとう! そう言って貰えて嬉しいわ。わたしもまだ勉強中の身だけれど、わたしで良ければ、」
「ちょっと待って! ああ、親分、親分が直々教えることないよ。こういうのは子分の僕に任せて?」
 
 やきもきしていれば、やっとアイツが戻って来て二人の間に割り込んだ。
 
「ね、キミ、僕が代わりにたっぷりご教示してやるから、安心していいよ?」

「え? あの、僕は、」

「僕じゃあ不服なの?」

「・・・・・・」

「あの、ハロルド君、ティムは見た目は小さいけど、魔法の腕は確かなのよ? 心配いらないわ。共に素晴らしい魔法使いになれるように頑張りましょうね!」

「・・・・・・」

 少年はがっくりと肩を落とし、礼を言うと立ち去って行った。

 男女を問わず、年少者ほどこの傾向は強いが、ローリーはハイネケン魔法学校の生徒の魔法や学業に対する意識を、競技大会以降衝撃的に一変させた。
 ローリーの魔法に感銘を受けた生徒が多いこの中等科の授業では、真剣に取り組む者が格段に増え、ティムのご教示・・・とやらの効果?なのか、能力の向上も著しい。
 
 中等科への飛び級を果たしたのは、ローリーだけでなく他にも数名いて、その中にはこの子供、ティムも含まれていた。
 ローリーにべったりくっ付いているティムを見た時には、追い払う気まんまんだった。
 だが、やめた。
 一番の理由は、まさにコレである。
 ローリーに群がってくる若い雄どもを追い払う存在が必要だったのだ。

 今までその役目を果たしていたディーンは初等科に残り、常にローリーの側に居て守ることがかなわなくなってしまった。
 黒い呪いもローリーにばれてしまった以上続けることも出来ず、困っておったところにティムが自分なら簡単に追い払えると申し出て来たのだ。
 胡散臭いヤツではあるが利害は一致して、ローリーの親分・子分の契約は有効であるから、危害を加えることもないだろうと、見逃している。
 
 授業が始まり、きりりとした真剣な眼差しで講義を聴き入るローリーを眺めながら、先日の真夜中のお出かけデートについて思いを馳せた。
 あの月夜の晩は、かなり甘い雰囲気になって、絶対にイケた!と思ったのだがなぁ。
 幻想的な月光が明るい陽光に変化するのに伴って、月の女神だったローリーは、翌朝にはすっかり塩に戻っていた。

 我とローリーの関係は、互いに番いと認識してはいるものの真の意味では番っておらぬゆえ、まだ番いではないし、その上、ローリーは、我を番いとして大切に想ってくれている事は確かだが、どうにも、番い=家族のように我を認識している感が否めない。
 ローリーがその気になるまでじっくり待つつもりであったが、有象無象の輩がローリーに様々な思惑を持って群がってくる状況においては、悠長な事を言ってはおれん。
 中にはローリーを言葉巧みに騙し、欺き、隙をついて我の元から掠奪しようとする者が現れぬとも限らんしな。
 どうにかせねばと思案するも、良い考えは浮かばず、ここはティムに任せて、執務に戻る事にした。





 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】愛され総受け女王は、20歳の誕生日に夫である美麗な年下国王に甘く淫らにお祝いされる

奏音 美都
恋愛
シャルール公国のプリンセス、アンジェリーナの公務の際に出会い、恋に落ちたソノワール公爵であったルノー。 両親を船の沈没事故で失い、突如女王として戴冠することになった間も、彼女を支え続けた。 それから幾つもの困難を乗り越え、ルノーはアンジェリーナと婚姻を結び、単なる女王の夫、王配ではなく、自らも執政に取り組む国王として戴冠した。 夫婦となって初めて迎えるアンジェリーナの誕生日。ルノーは彼女を喜ばせようと、画策する。

処理中です...