竜王様のヘタレな恋 ーR18バージョンー

魔法学校編

座敷わらし？

「あ、座敷わらし！」
　　　
　ティムの声にみんなが反応して、指を差した方向を一斉に振り向くも、姿はすでに消えていた。

「くそっ、残念！」
「あーん、見れなかったー」
「僕、ちらっと見れたかも！　ティムくらいの男の子だった！」
「私も見たわ！　顔は分からなかったけど、頭は黒かったと思う！」

　クラスメイト達は口ぐちにしゃべり出し、見えた見えなかったと大騒ぎだ。
　今、このクラスでは座敷わらしを見つけるゲームがすごく流行っていて、というのも、どうやらこの座敷わらし、わたし達を気に入っているようで、かなりの頻度でこのクラスに出没する。

　一番最初の目撃証言は、クラスメイトの女の子のひとりが、上級生にからまれていた際、突然つむじ風が吹いたと思ったら小さな男の子に腕を引っ張られ、上級生から助けられたというものだった。
　すると、その子供なら見かけた事があると、実は私も、僕も、と似たような話が続出し、その子供が噂の座敷わらしではないかという話になったのだ。
　助けてもらったり、目撃した人間にはなにかしら良いことがあったとかで、座敷わらしは今やクラスで超人気のラッキーアイテムになっている。
　残念ながら、わたしはまだ一度もお目にかかれていないけど。


「そうかやっぱりいたんだ！　俺、なんとなく気配を感じてたんだよなー」

　ロイが言うと、レーナがロイの首を絞めて揺さぶった。

「もう、だったら教えてよ！」
「ぐぇ、や、やめ、て、だって、騒いだらせっかく来てくれたのに、逃げちゃうだろ！」
「えー、だけど私も見たいよぉ」

　ロイもレーナと同じ１７歳で、二人は仲良しで、いつもこうやってじゃれ合って遊んでいる。
　二人に限らず他のクラスメイト達も、このクラスにいる時はみんなくつろいだ様子で楽しげだ。

　わたし達新入生は特別に、中等科や高等科の授業も、先生の許可が出れば受けられるため、ほとんどの者が各々希望の授業を選択し受けている。
　ところが、初等科のしかも平民が同じ授業を受けることに不満を持つ上級生も多く、優秀な新入生を妬っかんでいるとしか思えないけど、追い出そうと陰湿な虐めや嫌がらせをしてくるのだ。
　　　
　もちろん、ハイネケン伯爵家令嬢のわたしには、内心ではどう思おうと、表立って手を出してくる馬鹿はいない。
　まあ、実技演習の時に、失敗したように見せかけて攻撃してくるくらい？
　当然、七年間実践で鍛えたわたしに、クズ貴族のへなちょこ魔法が通用するはずもなく、返り討ちにしてやるけど。
　そう、二度とそんな気を起こさないように、完膚無きまでに。
　
　だから、わたしがいれば助けてあげられるのだけれど（っていうか、もう懲りてわたしに手を出すとは思えない）、わたしのいないところでされてしまうため、どうすればいいのか頭を悩ませているところだ。
　ただ、悪口を言われたり、無視されたりするくらいならほっとけばいいだけだけど、教科書がなくなったり、制服が裂かれたり、脅されたり暴行まがいの行為があったり、お母様も対策はとってくれているものの、相手も巧妙で、そして貴族と平民という身分もあってなかなか現状を打開出来ないでいた。


「ディーンは見れた？」
「え？　あ、いや」
　
　座敷わらしがクラスに来た時は、大抵ティムが見つけてみんなに教えてくれる。
　わたしも見つけようとして、本当は魔法は授業以外では使ってはいけないことになっているけれど、こっそり探知魔法で探してみた。結果、駄目だった。
　やっぱり、子供の神様だから、ティムみたいに純粋で小さな子供にしか見えないのかしら。

「あーあ、わたしも見たいなー。ねえ、ティム、今度座敷わらしが来たら、こっそりわたしに教えてね？　ん、あれ？　これ・・・」

　机の上にふと目を戻すと、髪留めが目に入った。
　手にとってじっくり眺める。やっぱり、わたしのみたい。

「この前の魔法演習の時間に失くしたのだけど、誰かが見つけてここに置いてくれたのかしら」

　ティムがわたしの座っている席に歩いて来て、思わせぶりに言う。

「うーん、たぶんだけど、座敷わらしがここに来たのは、それをリアに届けるためじゃないかな？」

「え？　そうなのかな？　そうだったら、すごく嬉しいかも！！　あ、あの、ありがとう！　座敷わらしさん！」

　姿は見えないけれど、まだいるかも知れないと思って、一応お礼を言った。
　超ラッキーアイテムの座敷わらしが拾ってくれた髪留めなんて、すごく良いことありそう！

「つけてあげる」

　ティムはわたしからさっと髪留めを取り上げ、遠慮する間もなく髪留めをわたしの頭につけた後、優しくするりと髪を一撫でしていく。

「え？　あの、あ、ありがとう」

　髪に触れられてゾワっとした。
　こんなふうに触れるのは、異性ではもうアルだけだから、男の子であってもなんだか気持ち悪い。
　でも、ティムは親切でしてくれただけだし、他意は無いのだからとスルーしようと思った時、あ、あれ？　
　子供らしくニコニコ笑っているティムが、一瞬ニヤリとしたような気がした。
　き、気のせいよね？
　
「どういたしまして！」

　お手伝いをお母さんに褒めて貰ったかのようにティムが元気に答えた。

「お、おい！　何してるんだよ！」

　ディーンが先ほどの行為を咎めて大声を出す。

「え？　何？　髪を触っちゃ駄目だった？　だってすごく綺麗な髪だったから。リア、ごめんなさい」
　
　謝るティムはしょんぼりしていて、先ほどの不敵な気配はなく、やっぱりわたしの勘違いだったみたい。
　でも、まあ、ここにやきもち焼きのアルがいなくて良かった。
　子供でも関係なくやきもちを焼いて、ティムを威嚇するだろうし、わたしも酷い目に遭うのは間違いない。
　先日なんて、犬に口を舐められただけで、わたしはアルに顔中を舐められるという事態に陥った。
　
「あ、うん」

「あ、座敷わらし！」　突然ティムが叫んだ。

「え？　どこどこ？」

「かと、思ったけど、気のせいかな」

　きょろきょろと辺りを見回してティムが言った。

「なーんだ、残念」
　
　がっかりと肩を落としていると、突然バリバリという雷のような轟音が外のほうから聞こえた。
　え？　何？　雨降ってないよね？　快晴の青空だけど、今の何？
　みんなもどうしたどうしたと騒いでいる。

「屋外の演習場で、誰かが魔法をぶっぱなしたんじゃない？」

　ティムがくっくっと笑いを堪えながら言った。
　でも、しばらくして堪え切れなくなったのか、ぶーっと吹き出し、何故かゲラゲラ大笑いしている。

「ティム？　どうしたの？　大丈夫？」
「あ、う、うん、もう愉快過ぎて、僕笑い死にしそう。リアには本当に感謝しているよ」


　？？？







　◇◇　◇◇　◇◇


「おい、ディーン！　なんでティムには黒い呪いが発動しないんだよ。あれは完全にアウトだろ！」

「・・・・・・」