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出会い編
魔獣狩り1
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「魔獣を狩りに行きたい」
あまりにも唐突な話で、我もディーンも顔を見合わせた。
「魔獣だと?」
「なんでわざわざ魔獣など狩りに行くのだ」
「カネが欲しいんだよ!」
夕飯を前にローリーはカネはいらないとハッキリ言った。
今後一切他の料金も取らない。
その代わりに、と言われたのが先ほどの言葉だ。
「道案内を請け負っておいて、こんな事を頼むなんてあつかましいとは思うけど、オレ、ほら、カネの亡者だからさ、魔獣を狩って魔石を取りたいんだ。3人でパーティを組んで、狩った獲物は山分けだ。オレだって馬鹿じゃない、アルとディーンがかなりの手練だって見込んで話をしているんだ。ちゃんと最初の予定通りにレノルドにも届ける。少し寄り道をするとでも思ってくれればいい」
まあ、我もディーンも大剣を腰に差しているしな、否定のしようはない。
「しかし、魔獣狩りとは。危険じゃないのか? お前、やったことあるのか?」
ディーンの言う事はもっともなことである。
道を襲ってくる魔獣を打ち払うのとはわけが違う。
人間のテリトリーを出て、何も情報がない相手の土俵で闘わねばならない。
魔石は確かに高価でカネになる。我は誰よりもよく知っている。
「そうだ。ディーンの言う通り危険過ぎる。魔石が欲しいなら、我がその辺の小石を拾ってちょいちょいっと、」
「アルベルト様」
言いかけて、ディーンに遮られた。
「アルベルト様は黙っていて下さい」
そうだった。宰相のエルランドに旅の間、魔法を使ってはなりませんと言われていた。
特に人間に見つかる事のないようにと。
竜族がおとぎの国の住人になって久しいが、開国より、つまり番いを人間の国に求めるようになって三百年、人間との交流がある限り、我ら竜族の存在の気配を完全に消し去る事は難しい。
特にイシュラムでは、薄々感づいている者も口には出さぬが、いるだろう。
我らは過去の惨劇を再び起こすような、悪夢ような事態は避けねばならぬ。
「はぐれのブラックと、小さな群れのジャイアントボアは狩った事がある」
ローリーがぼそっと答えた。
「しかし、何故急にそんなことを言い出したんだ? いや、俺は別に魔獣を狩りに行くのが嫌ってわけじゃないぞ? 理由を教えてくれるか? 教えるなら俺は行ってやってもいい」
おい、勝手に何を言ってるんだ。ローリーを危険に晒す気か!
「カネが必要なんだよ。できるだけ早く。あればあるだけ良い」
「何のために?」
「何のためだ?」
「・・・・・・」
ローリーは、黙って俯いてしまった。言いたくはないようだ。
我はローリーを危険な魔獣狩りに行かせたくはない。
だが、ローリーの頼みは聞いてやりたい。力になってやりたい。
理由は分からないが、こんなに小さいのに健気に頑張っているのだ。
「ろ」
我はローリーが可哀想になって、理由は言わぬとも魔獣狩りに一緒に行ってやるぞと言いかけたのだが、ディーンに物凄い形相で睨まれて、我は黙った。
「両親を救うためだ。両親を救うためにカネがいる、それだけだ」
ローリーは顔を歪ませ、絞り出すように声を出し答えた。
「病気なのか? それで医者にかかるのにカネが必要なのか?」
「・・・病気じゃないけど、まあそのようなものだ」
「じゃあ、急に言い出したのは?」
「医者ではないけど、治せる人の手掛かりが見つかったから」
「あの商隊か!」
「うん。でも、もう言わないぞ。これでお終いだ。行ってくれるか?」
ディーンは腕を組み暫く考え込んだ後、ゆっくりと答えた。
「良し、分かった。いいだろう、行ってやる」
「我も行ってやるぞ」
ローリーの親を救う為ならば、致し方ない。
我が行って、ささっと魔獣を倒してささっと魔石を取ってくればよいのだ。
ローリーに怪我などさせるわけには行かぬからな。
「すまない。ありがとう。それで、さっそくだけど、明日は魔獣狩りのためにこの道を外れて山の中に入る。当然、魔獣避けの結界も無い。でも、そのへんはオレがなんとかするから」
「で、何を狩るつもりなんだ?」
「ブラックウルフかジャイアントボア、レッドグリズリーなんかもいいかも知れない。三人いれば、少々でかい群れも狙える。でかい群れには主のようなのがいるからな。魔石も良いものがとれるはずだ」
「作戦は何かあるのか?」
「オレが探知魔法で、手頃な群れを見つける。見つけたら、氷魔法を群れ全体にかけ、動きが鈍ったところで、アルとディーンが首を落とす。レッドグリズリーは火魔法で洞窟からあぶり出し、同じく氷魔法で動きを鈍らせ首を落とす。レッドグリズリーの巣になっている洞窟を一つ知ってる。前は一人だったからやめたけど、三人ならいけるかも知れない」
夕飯を食べ、明日に備えて早く休む事にする。
ディーンがふと気付いたように聞く。
「なあ。ここは結界を張る魔石、どこにあるんだ? 昨日みたいに魔力を注入しに行かなくてもいいのか?」
「ああ、ここには無いんだ。必要が無いんだよ」
「必要が無い? どういうことだ?」
「ここに、魔獣は来ない。ここの奥に泉の淵があるんだけど、神域っていうのかな、よく分からないけど、誰も近付くことが出来ないんだ。そこで女神が水浴びしているところを見た人がいるとかいないとか。それが、ここを女神の泉って皆が呼ぶ所以だよ。そのせいかどうかは知らないけど、魔獣もこの近辺には近寄らないんだ」
「へえー、女神ねぇ、そんな事もあるんだな」
「アル? 難しい顔してどうしたのさ」
「アルベルト様?」
「・・・・・・」
あまりにも唐突な話で、我もディーンも顔を見合わせた。
「魔獣だと?」
「なんでわざわざ魔獣など狩りに行くのだ」
「カネが欲しいんだよ!」
夕飯を前にローリーはカネはいらないとハッキリ言った。
今後一切他の料金も取らない。
その代わりに、と言われたのが先ほどの言葉だ。
「道案内を請け負っておいて、こんな事を頼むなんてあつかましいとは思うけど、オレ、ほら、カネの亡者だからさ、魔獣を狩って魔石を取りたいんだ。3人でパーティを組んで、狩った獲物は山分けだ。オレだって馬鹿じゃない、アルとディーンがかなりの手練だって見込んで話をしているんだ。ちゃんと最初の予定通りにレノルドにも届ける。少し寄り道をするとでも思ってくれればいい」
まあ、我もディーンも大剣を腰に差しているしな、否定のしようはない。
「しかし、魔獣狩りとは。危険じゃないのか? お前、やったことあるのか?」
ディーンの言う事はもっともなことである。
道を襲ってくる魔獣を打ち払うのとはわけが違う。
人間のテリトリーを出て、何も情報がない相手の土俵で闘わねばならない。
魔石は確かに高価でカネになる。我は誰よりもよく知っている。
「そうだ。ディーンの言う通り危険過ぎる。魔石が欲しいなら、我がその辺の小石を拾ってちょいちょいっと、」
「アルベルト様」
言いかけて、ディーンに遮られた。
「アルベルト様は黙っていて下さい」
そうだった。宰相のエルランドに旅の間、魔法を使ってはなりませんと言われていた。
特に人間に見つかる事のないようにと。
竜族がおとぎの国の住人になって久しいが、開国より、つまり番いを人間の国に求めるようになって三百年、人間との交流がある限り、我ら竜族の存在の気配を完全に消し去る事は難しい。
特にイシュラムでは、薄々感づいている者も口には出さぬが、いるだろう。
我らは過去の惨劇を再び起こすような、悪夢ような事態は避けねばならぬ。
「はぐれのブラックと、小さな群れのジャイアントボアは狩った事がある」
ローリーがぼそっと答えた。
「しかし、何故急にそんなことを言い出したんだ? いや、俺は別に魔獣を狩りに行くのが嫌ってわけじゃないぞ? 理由を教えてくれるか? 教えるなら俺は行ってやってもいい」
おい、勝手に何を言ってるんだ。ローリーを危険に晒す気か!
「カネが必要なんだよ。できるだけ早く。あればあるだけ良い」
「何のために?」
「何のためだ?」
「・・・・・・」
ローリーは、黙って俯いてしまった。言いたくはないようだ。
我はローリーを危険な魔獣狩りに行かせたくはない。
だが、ローリーの頼みは聞いてやりたい。力になってやりたい。
理由は分からないが、こんなに小さいのに健気に頑張っているのだ。
「ろ」
我はローリーが可哀想になって、理由は言わぬとも魔獣狩りに一緒に行ってやるぞと言いかけたのだが、ディーンに物凄い形相で睨まれて、我は黙った。
「両親を救うためだ。両親を救うためにカネがいる、それだけだ」
ローリーは顔を歪ませ、絞り出すように声を出し答えた。
「病気なのか? それで医者にかかるのにカネが必要なのか?」
「・・・病気じゃないけど、まあそのようなものだ」
「じゃあ、急に言い出したのは?」
「医者ではないけど、治せる人の手掛かりが見つかったから」
「あの商隊か!」
「うん。でも、もう言わないぞ。これでお終いだ。行ってくれるか?」
ディーンは腕を組み暫く考え込んだ後、ゆっくりと答えた。
「良し、分かった。いいだろう、行ってやる」
「我も行ってやるぞ」
ローリーの親を救う為ならば、致し方ない。
我が行って、ささっと魔獣を倒してささっと魔石を取ってくればよいのだ。
ローリーに怪我などさせるわけには行かぬからな。
「すまない。ありがとう。それで、さっそくだけど、明日は魔獣狩りのためにこの道を外れて山の中に入る。当然、魔獣避けの結界も無い。でも、そのへんはオレがなんとかするから」
「で、何を狩るつもりなんだ?」
「ブラックウルフかジャイアントボア、レッドグリズリーなんかもいいかも知れない。三人いれば、少々でかい群れも狙える。でかい群れには主のようなのがいるからな。魔石も良いものがとれるはずだ」
「作戦は何かあるのか?」
「オレが探知魔法で、手頃な群れを見つける。見つけたら、氷魔法を群れ全体にかけ、動きが鈍ったところで、アルとディーンが首を落とす。レッドグリズリーは火魔法で洞窟からあぶり出し、同じく氷魔法で動きを鈍らせ首を落とす。レッドグリズリーの巣になっている洞窟を一つ知ってる。前は一人だったからやめたけど、三人ならいけるかも知れない」
夕飯を食べ、明日に備えて早く休む事にする。
ディーンがふと気付いたように聞く。
「なあ。ここは結界を張る魔石、どこにあるんだ? 昨日みたいに魔力を注入しに行かなくてもいいのか?」
「ああ、ここには無いんだ。必要が無いんだよ」
「必要が無い? どういうことだ?」
「ここに、魔獣は来ない。ここの奥に泉の淵があるんだけど、神域っていうのかな、よく分からないけど、誰も近付くことが出来ないんだ。そこで女神が水浴びしているところを見た人がいるとかいないとか。それが、ここを女神の泉って皆が呼ぶ所以だよ。そのせいかどうかは知らないけど、魔獣もこの近辺には近寄らないんだ」
「へえー、女神ねぇ、そんな事もあるんだな」
「アル? 難しい顔してどうしたのさ」
「アルベルト様?」
「・・・・・・」
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