勇者と狼の王女の結婚

神夜帳

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後編

第6話 満月 (R-18)

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宿の主人の心配そうな「部屋まで運びますよ」という声に、メーシェは無言で会釈して、階段をヨタヨタと重いボストンバッグを持ち上げながら登っていく。
町の中心部、メインストリートにある冒険者ご用達のその宿は、1Fが酒場と依頼の掲示場所になっていて、2Fが予約専用のギルドの重役が接待でよく使う、割と豪華なつくりのレストランのような空間、3Fから宿泊用の居室群となっている5階建ての建物だった。

メーシェが予約できた部屋は、4階の角部屋だったため、左足を引きずりながら重い荷物を持って階段を登っていくのは、ちょっと大変だったが、そんな様子を見てとれたためか、色々な冒険者達が、酒場で結婚を祝う町の人たちが、次々と「荷物くらい持とうか?」「大丈夫?手を貸すよ」と声をかけてくる。
まるで、その辺の山賊なんじゃないか?といった荒々しい風貌の大男ですら、自分より小さいメーシェに目線を合わせるために、しゃがみこんで「何階だい?盗りはしねーから、大丈夫だ。持つよ」と声をかけてくれた。

メーシェはにこっと笑うと「大丈夫です。ありがとう。その髪型格好いいですね」と一声挨拶し、よたよたと階段を登っていく。

自分の部屋にようやく着いて、渡された鍵でドアを開けようとすると、既に鍵はかかっていなかった。
おや?と思い、メーシェは念のため、護身用の短剣を太ももにマウントしていた鞘から引き抜き、慎重にドアを開けた。

「ゲッツァ…なんで、ここにいる?」

ドアを開けて目に入ったのは、黒いくせっ毛の短髪に、自分より30㎝は大きい180㎝は超えた背丈に、まさに戦うためのといった、無駄な脂肪も、不必要な筋肉もない、一見スマートながら鋼のように鍛えられた筋肉の鎧を身にまとった身体。
部屋にいるためか、いつも身に着けている軽装鎧は脱いでいて、黒いチュニックを身に着けた自分の夫の姿だった。

「メーシェ。お前に逢いに来たに決まってるじゃないか」

「あたしの足では夜の森を行くのは無理だから、明日帰ると伝えてあったはずだが?」

「あぁ、ちゃんと聞いていたよ。だけど、夫が妻に逢いに行って何がいけない?」

「ゲッツァ。あたしは、最後の務めを果たしてきたんだ。今日くらい一人で感傷に浸らせてくれないかね?」

そう言って、メーシェはドアを閉めて、ベッドの脇にボストンバッグを置くと、ニヤニヤと人を小ばかにするような笑みを浮かべるゲッツァを横目に、編み込んだハーフアップの髪を解いて、眼鏡を外して左手に持ちながら鬱陶しそうに首を振り回すと、ほぐされた髪が左右に広がる。
左手に持った眼鏡をゲッツァの横にある机に置いて、夫の小ばかにしたような笑みを見たくなかったがために、背を向けてメイド服を脱いでいく。
白いエプロンを脱いで、メイド服の背のチャックを下に降ろして…。
その一挙動ごとに、ふわっと汗の匂いと甘いメーシェの匂いがゲッツァの鼻に届く。

下着姿になったメーシェが、ふぅと感傷的なため息を一息つくと、ゲッツァが後ろからメーシェを抱きしめた。

「おい、あんたを誘惑するために脱いだわけじゃないんだが?」

「メーシェ、今日は満月だぞ?見てないのか?」

「ゲッツァ、1人で感傷に浸りたいと言ったばかりなのだが?」

「なんだ、お前、泣いているのか?」

ゲッツァがメーシェの横顔を覗き込むと、左目の端にはきらきらと輝く雫が、一滴。
こぼれそうなその雫を舐めとりたくなったゲッツァが、メーシェの頬に舌を這わせる。



「やめろ、ゲッツァ」

「夫が妻を抱いて何が悪い?」

全く悪びれない態度のゲッツァは、そのままメーシェの胸をブラの上から揉みしだく。

「やめろと言っているのが聞こえないのか、ゲッツァ?」

ゲッツァは、ブラの上から荒々しく胸を揉みしだきながら、徐々にその中に手を入れはじめ、メーシェの胸の滑らかな肌触りと弾力、そして、ところどころにある戦いの傷跡の感触を楽しむ。
撫でるように触ったかと思えば、荒々しく指が食い込み、指と指の隙間からメーシェの胸の肉が押し出され、はみ出すまで握りこむ。

「痛い!痛いだろ!ゲッツァ!」

「そうは言いながら、こういうのが好きだろ?」

見なくともニヤニヤと下卑た笑いをしているのを感じながら、メーシェは身をよじって抵抗の姿勢を見せる。
いくらか、身をよじったところで、ゲッツァが自分の首筋を甘噛みする。
歯の感触がありながらも、跡はつかないであろう甘い力加減を首に感じたかと思えば、自分の乳首をつねるようにひっぱられ、鋭い痛みが頭をつんざく。

そうかと思えば、首の後ろから、肩甲骨の周りを、やがて、背骨にそってゆっくりと下に向けて舌が張っていく感触に襲われる。

「あっ…」

首筋に歯の感触、胸からの時折の痛み、それでいて背中の自分の弱いところを、ぬらぬらと、そして舌のざらっとした感触が走っていくそれが、まるで自分が現役の戦士だった時のモンスターとギリギリの戦いによる高揚感を、嫌でも思い出させられ、命の危機を感じたときに、体が昂るように、今、まさにそれをまざまざと思い出させられている。
自分の口から出た、びっくりするくらいの女の声に、メーシェは慌てて右手で自分の口を覆う。

「ほらな。強がるなよ。メーシェ。慰めてやるよ」

そう言うと、ゲッツァはメーシェの身体を乱暴に自分の方に振り向かせたかと思うと、その流れのまま横にある机にメーシェの上半身を叩きつけ、強制的にお尻を自分に突き出させる。
邪魔な仕事用の飾り気のない下着を破り捨てると、左手でメーシェの左腕を背中にまわしたまま上半身ごと机に抑えつけ、右手で露になったメーシェの繁みに指を突っ込んだ。

「うっ…ゲッツァ…!」

メーシェが怒気をはらんだ声を上げるが、お構いなしにメーシェの中で指をかき混ぜる。

「くっ…うっ…」

メーシェは、自分の感じるところを知り尽くしている、夫の的確にポイントをついてくる指使いに、ふわふわとした感覚が頭を支配しそうになるのを、必死に耐えながら、意地でももう喘ぐものかと、口を塞いでいる自分の右手に力を入れる。

「今日は、満月なんだ。今頃、姫さんだってひーひー喘いでいるころさ…」

メーシェは、夫のその言葉を聞くと、ぴたりと抵抗するのをやめて、体中の力を抜いてだらんとさせた。
急に妻の身体から力が抜けて、まるで死体のようにぐでっとなった様に、ゲッツァは動揺してメーシェの身体を抑えつけていた力を緩めた。

その瞬間、ゲッツァは左わき腹に鋭い痛みを感じたかと思えば、気づけば床に頭を打ち付けて無様に転がっていた。
何をされたかまるでわからなかった。自分が床に寝ころんでいることから、メーシェがわき腹に肘鉄を喰らわせた後に、振り向きざまに何かしらの技で投げ飛ばされたことだけはわかった。
続けて、メーシェが無遠慮に自分に馬乗りになる。加減なくどすんと落ちてきたメーシェの全体重をお腹に受けて、たまらず呻く。

「ゲッツァ…」

自分に馬乗りになった妻の顔を見ると、目は怒気に満ち溢れ、薄く開いた口からのぞく犬歯がギラリと光ったように見えた。

「ゲッツァ、お前の初めても、満月の夜だったよな?だが、あの時のお前はどうだった?
 まるで、震える小鹿のようにビクビクしていて、ガチガチで固まって何もできそうになかったその身体を、あたしがほぐして、中に迎え入れてやったんだ…。
 乙女のように、潤んだ瞳であたしを見つめながら、ことが終わるまで黙ってされるがままだったお前が…大きく出たなゲッツァ!!!

 いいか、ゲッツァ!お前がそんな尊大な態度をとれるようになったのも、今、一族で一、二を争う実力になったのも、…あたしだ!あたしのお陰だ!!!
 あんたはね、あたしに返しきれない恩があるんだよ!ゲッツァ!!

 今だって、あたしは戦士だよ!あんたみたいに、昔のように仲間たちと一緒に剣をふるうことはできないけどね…今は…。

 今は…あんたを最強にするのが、あたしの戦いだ!あたしの戦士としての戦いなんだよ!!

 あんたも戦士なら、その意味を違えるんじゃないよ!!!」

メーシェは、興奮で耳と尻尾は逆立ち、ふぅふぅと荒い呼吸で肩を上下させている。

「…だって、満月なんだ…満月なんだよ。メーシェ…今日は満月の夜なんだ…」

ゲッツァが母親に怒られて泣きそうになっている幼い男の子のように、消え入りそうな声で訴える。というよりは、もう最後の方は泣き声だ。

「メーシェ…俺のことが嫌いになったのか?」

人を小ばかにしたような下卑た笑い顔は消え、潤んだ瞳でそう訴えかけてくる夫を見て、メーシェは、はぁと深いため息をつくと、いらいらを打ち消すようにガリガリと自分の頭をかきむしる。

頭皮がいくらか傷ついて、すーっと赤い血が、頭から流れてきて、自分の頬をつたっていき、ゲッツァのお腹にぽたりと落ちた。

怒気をはらんだ瞳はすーっと穏やかに、美しい宝石のような青い瞳を夫の潤んだ瞳に向ける。

出来るだけ穏やかに優しい声色で。

「馬鹿だね。ゲッツァ。こんな女と結婚してくれた愚かなお前を、嫌うわけないだろ」

メーシェはそう言うと、窓の方を向き、自分たちを優しく照らす満月を見上げた。

「そうだね…ゲッツァ。確かに今宵は良い満月だ…」

メーシェは、夫のモノをズボンから取り出す。
おそらく、自分を貪っていたであろう時には固く熱くいきり立っていたであろうそれは、今では申し訳なさそうにちょっとずつ小さくなっているところだった。

それを、優しく根元から上に向けて舌を這わせる。夫の甘いうめき声を聞きながら、何度も何度もねっとりと舐め、時に口に含んで転がしてあげ、元気をすっかり取り戻したことを確認すると…。

夫のモノを自分の中に迎え入れてあげた。
自分自身がまだあまり濡れていなかったせいで、圧迫感と共にヒリヒリとした痛みが頭に走る。

メーシェがゆっくりゆっくりと腰を上下に動かすと、自身の身体を守るため、そして愛する愚かな夫の泣き顔への興奮で段々と濡れてきて、痛みは徐々に消えていく。
自然と自分の瞳も潤んできて、ぽわっと上気した顔で夫を見ると、馬鹿みたいに満足そうな夫の表情があった。
あんまりに間抜けそうなその表情に、おかしくなって笑いだしそうな気ち持を抑えて、メーシェはゆっくりゆっくりと腰を振った。

気づけば、自分の色づいた艶やかな声が部屋に響いていた。
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