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第3章 星に願いを
第19話 自分の味方
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辺りはすっかり暗く、まだ生き残っているわずかな街灯の明かりが蠢いているソレを時折照らす。
特に損傷が見受けられない洋風の一軒家に、宮本は逃げこむように押し入った。
鍵のかかっていなかった仰々しい装飾のドアを力いっぱい閉めて、がちゃりと鍵をかける。ドアの外からカリカリと何かがひっかく音と、複数のうめき声のような音が聞こえてくる。
玄関で靴を乱雑に脱ぎ散らかして、奥のリビングへ入り、中に誰もいないことを確認すると、リビングのドアを閉め、ソファの上で身体を投げ出すように寝そべった。
肩は未だに上下に激しく揺れて、心臓はばくばくと胸をうちつけている。
なんとか身体を落ちつけようと、深い深呼吸をして、ふーっと息を吐きだすと肺が少し痛むような気がした。
額から流れてくる汗を手で拭って、そのまま目頭を押さえる。
タカクラデパートから今までのことを思い浮かべる。
女を殺した…。
ゾンビを犯した…。
何なんだ一体。一体何が起きている?自分はこんな人間だっただろうか?
『やったったーらったったー!』
急にリビングのTVがついて、どこか聞き覚えのあるフレーズが聞こえてきて、びくっとして身体を震わせてソファから飛び起きた。
「なんだお前?どこから来た?」
よく見ると、小さな5歳にもならないだろう男の子が、TVの前でちょこんと座りながら画面を見ていた。
「お兄さんこそ誰?ここ僕のお家だよ?」
「そうか…。親もいるのか?」
宮本が問うと、子供は黙って首を横に振って玄関の方を指さした。
外に出ていったということだろうか?こんな小さな子供を置いて?
食料でも探しに行ったのか?
宮本が指さされた方をぼんやり眺める。今、自分が閉めたリビングのドアを。
すると、ドアがガチャリと音を立てて開いた。
男が二人入ってきた。
1人は、自分と同じ年くらいの若いスポーツ刈りのランニングウェアを着たスポーツマンっぽい男、もう一人は随分とお腹が出ていて、白いシャツをきっちり黒いズボンに入れているサラリーマン風の男。
二人の男は口をそろえて
『あっ、宮本みーっけ』
と言った。
怯えながら「僕を殺しにきたのか?」と宮本が問うと、二人の男は目を見合わせ、きょとんとした表情を見せたかと思うと
「俺らが?なんで?」
と言った。
「僕を探しに来たんじゃないのか?」
「そうだよ。探してたよ。いなかったからさ」とスポーツマン風の男、「駄目ですよ。単独行動は。危ないですよ」とサラリーマン風の男が言う。
「ほらっ、一緒に帰ろうぜ?」
「…帰っていいのか?」
「なんで?」
「…女を殺した…騒いでいたろう?」
「まぁ、しょうがないよな。わかるよ。俺もあいつは殺してやろうかと思ったこと何度もあるしよ」
「…どんな罰があると思う?」
「そうですねぇ…。多田さんのことですから、いきなり極刑は無いと思いますが…」
「…なんでこうなったんだ…僕はこんなことをする人間だっただろうか?」
宮本たちの会話にTVの音声が被さる。あまりの音量にTVの画面に視線をやる。
白い犬、鴉、赤い兎、黄金の狐の3等身の可愛い動物たちの3Dアニメが画面に映っている。
『神様が困ってる助けなきゃわん!』と犬の使徒。
『人間さんはどうして争ってしまうんだコン』と狐の使徒。
『僕たちはこーんなに仲が良いっていうのにねぇ』と兎の使徒。
『神様が言っていた「愛」ってそもそもどういったものなんだカァ?』と鴉の使徒。
『まずは、「愛」がどんなものなのか、見に行ってみようよ』と兎が言うと
『『『そうだぁ!それが良い!』』』と3匹も賛同しました。
3人の男と小さな子供がTVの画面に釘付けになる。
「懐かしいなぁ。ちっちゃいころによく見てた。まだこの番組やってるんだなぁ」
スポーツマン風の男が腕を組みながら、懐かしそうに眼を細めて言った。
続けて、サラリーマン風の男が言う。
「宮本さん、多田さんと平野さんに謝りましょう。誠心誠意謝れば、彼らも許してくれますよ」
「…そうだろうか…」
「千鶴を助けるためだったんだもんな。しゃーないしゃーない」
「…そうだ。千鶴ちゃんを助けなきゃ…」
「千鶴さんは、今でもあの男に囚われていますね。助けに行くなら多少の武装は必要でしょう」
「武装!?そんなもんどこにあるんだ!?包丁でも持って行けとでもいうのか!?」
宮本がいら立って叫ぶと、スポーツマン風の男がまぁまぁと手をかざし、
「冷静になれよー。千鶴はよぉ。きっとお前の助けを待ってると思うぜ。まずは、千鶴とさしで話せればいいんだけどよぉ」
「…そうだ。千鶴ちゃんと話をするんだ…。二人きりで…」
千鶴のことを頭に思い浮かべる。助けなくては…話をしなくては…千鶴ちゃんは僕の助けを今でも待っている。
この二人は味方なのだろうか?
緊張のせいか、まぶたがぴくぴくと痙攣するし、目がかすむ。
二人の男の顔が一瞬、のっぺらぼうのように真っ白な顔に、目の位置に黒い丸い点が2つあるだけの化け物に見えてドキリとするが、あらためてよく見ると二人は優しそうに微笑んでいる。
「疲れていますね。まずは休みましょうよ」
サラリーマン風の男がソファに座るよう手で促してきた。
※:次回第20話は5月28日(日)20時ごろ投稿予定
よろしければお気に入り登録よろしくお願いいたします。
特に損傷が見受けられない洋風の一軒家に、宮本は逃げこむように押し入った。
鍵のかかっていなかった仰々しい装飾のドアを力いっぱい閉めて、がちゃりと鍵をかける。ドアの外からカリカリと何かがひっかく音と、複数のうめき声のような音が聞こえてくる。
玄関で靴を乱雑に脱ぎ散らかして、奥のリビングへ入り、中に誰もいないことを確認すると、リビングのドアを閉め、ソファの上で身体を投げ出すように寝そべった。
肩は未だに上下に激しく揺れて、心臓はばくばくと胸をうちつけている。
なんとか身体を落ちつけようと、深い深呼吸をして、ふーっと息を吐きだすと肺が少し痛むような気がした。
額から流れてくる汗を手で拭って、そのまま目頭を押さえる。
タカクラデパートから今までのことを思い浮かべる。
女を殺した…。
ゾンビを犯した…。
何なんだ一体。一体何が起きている?自分はこんな人間だっただろうか?
『やったったーらったったー!』
急にリビングのTVがついて、どこか聞き覚えのあるフレーズが聞こえてきて、びくっとして身体を震わせてソファから飛び起きた。
「なんだお前?どこから来た?」
よく見ると、小さな5歳にもならないだろう男の子が、TVの前でちょこんと座りながら画面を見ていた。
「お兄さんこそ誰?ここ僕のお家だよ?」
「そうか…。親もいるのか?」
宮本が問うと、子供は黙って首を横に振って玄関の方を指さした。
外に出ていったということだろうか?こんな小さな子供を置いて?
食料でも探しに行ったのか?
宮本が指さされた方をぼんやり眺める。今、自分が閉めたリビングのドアを。
すると、ドアがガチャリと音を立てて開いた。
男が二人入ってきた。
1人は、自分と同じ年くらいの若いスポーツ刈りのランニングウェアを着たスポーツマンっぽい男、もう一人は随分とお腹が出ていて、白いシャツをきっちり黒いズボンに入れているサラリーマン風の男。
二人の男は口をそろえて
『あっ、宮本みーっけ』
と言った。
怯えながら「僕を殺しにきたのか?」と宮本が問うと、二人の男は目を見合わせ、きょとんとした表情を見せたかと思うと
「俺らが?なんで?」
と言った。
「僕を探しに来たんじゃないのか?」
「そうだよ。探してたよ。いなかったからさ」とスポーツマン風の男、「駄目ですよ。単独行動は。危ないですよ」とサラリーマン風の男が言う。
「ほらっ、一緒に帰ろうぜ?」
「…帰っていいのか?」
「なんで?」
「…女を殺した…騒いでいたろう?」
「まぁ、しょうがないよな。わかるよ。俺もあいつは殺してやろうかと思ったこと何度もあるしよ」
「…どんな罰があると思う?」
「そうですねぇ…。多田さんのことですから、いきなり極刑は無いと思いますが…」
「…なんでこうなったんだ…僕はこんなことをする人間だっただろうか?」
宮本たちの会話にTVの音声が被さる。あまりの音量にTVの画面に視線をやる。
白い犬、鴉、赤い兎、黄金の狐の3等身の可愛い動物たちの3Dアニメが画面に映っている。
『神様が困ってる助けなきゃわん!』と犬の使徒。
『人間さんはどうして争ってしまうんだコン』と狐の使徒。
『僕たちはこーんなに仲が良いっていうのにねぇ』と兎の使徒。
『神様が言っていた「愛」ってそもそもどういったものなんだカァ?』と鴉の使徒。
『まずは、「愛」がどんなものなのか、見に行ってみようよ』と兎が言うと
『『『そうだぁ!それが良い!』』』と3匹も賛同しました。
3人の男と小さな子供がTVの画面に釘付けになる。
「懐かしいなぁ。ちっちゃいころによく見てた。まだこの番組やってるんだなぁ」
スポーツマン風の男が腕を組みながら、懐かしそうに眼を細めて言った。
続けて、サラリーマン風の男が言う。
「宮本さん、多田さんと平野さんに謝りましょう。誠心誠意謝れば、彼らも許してくれますよ」
「…そうだろうか…」
「千鶴を助けるためだったんだもんな。しゃーないしゃーない」
「…そうだ。千鶴ちゃんを助けなきゃ…」
「千鶴さんは、今でもあの男に囚われていますね。助けに行くなら多少の武装は必要でしょう」
「武装!?そんなもんどこにあるんだ!?包丁でも持って行けとでもいうのか!?」
宮本がいら立って叫ぶと、スポーツマン風の男がまぁまぁと手をかざし、
「冷静になれよー。千鶴はよぉ。きっとお前の助けを待ってると思うぜ。まずは、千鶴とさしで話せればいいんだけどよぉ」
「…そうだ。千鶴ちゃんと話をするんだ…。二人きりで…」
千鶴のことを頭に思い浮かべる。助けなくては…話をしなくては…千鶴ちゃんは僕の助けを今でも待っている。
この二人は味方なのだろうか?
緊張のせいか、まぶたがぴくぴくと痙攣するし、目がかすむ。
二人の男の顔が一瞬、のっぺらぼうのように真っ白な顔に、目の位置に黒い丸い点が2つあるだけの化け物に見えてドキリとするが、あらためてよく見ると二人は優しそうに微笑んでいる。
「疲れていますね。まずは休みましょうよ」
サラリーマン風の男がソファに座るよう手で促してきた。
※:次回第20話は5月28日(日)20時ごろ投稿予定
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