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第1部 勇者と狼の王女
第19話 尊厳と力
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①
黒狼族と町の戦士達が、デーモンへと変貌したデミエルフの軍勢と炎の精霊の放つ苛烈な攻撃をさばいていると、夜空に一瞬眩い光。
何事かと、後衛が空を見上げると、そこには巨大な魔法陣が出現していた。
出現させたのは、魔王を倒したパーティにいた救世の大魔法使いリーヴ。リーヴは目をつぶり集中し、念じ、魔法陣に全魔力を注いでいく。
「いいか。敵は…デミエルフ、魔神、プトーネ、人間に悪意を持つ精霊だ…」
リーヴは、体中から自分を成り立たせている大事な、決定的な何かが濁流のごとく魔法陣へと流れ込んでいくのを感じる。自分の中が急激に空になっていく…。もし、自分の肩に勇者がよこした風の精霊シルフがいなければ、墜落の心配をしなくてはいけなかったところだ。
リーヴは発動に十分な魔力を魔法陣に注ぎ込んだと実感すると、目を開き、穏やかに、静かに言った。
「降りそそげ…。我が敵のみを屠る暖かな雪よ…」
トリガーワードに反応して、夜空に浮かぶ巨大な魔法陣が鋭い光を一瞬発したかと思うと、魔法陣から白い雪のような小さな丸い塊が、ふわりふわりと大量に降り注ぐ。
その白い雪のようなものは、お互いの距離をきっちり上下左右1mに保ちながら、地面へ、森へ、中空へと、魔法陣より下にある空間のありとあらゆるところに降り注いだ。
町の戦士達のうち後衛の魔術師がわけもわからないといった風に
「なにこれ?雪?春なのに?」と不審そうに言うと
「でも味方の魔法…だよね?なんだろ?雪みたいのがきっちり間隔を保って並んでる…」と他の戦士達も警戒しながら言った。
気づけばもう自分たちの周りにも、雪のようなものがびっしりと1m感覚で浮かびながらも、空間中に敷き詰められていた…。
魔法陣はその役目を終えたかのように、ゆっくりと色を薄くしながら空から消えていく。
「おーい。ソラぁ。あとは任せるぞぉ…」
「あぁ、ありがとう。リーヴ」
リーヴが魔力を使い果たして、肩にとまっていたシルフに補助されながら緩やかに地面に向かって落ちていった。
その場に残された雪のような真っ白い丸い塊は、やがて発光し、まるでサーチライトのように自分の周囲にぐるりと光をあてながら、回転したかと思うと…。
一拍おいて…。
まるで豪雨のように、白い細い光線、レーザーのようなものを一斉に発射し始めた。
「わっわっわっわぁーー!?」
黒狼族も町の戦士達も驚いて、一瞬パニックになりながら頭を抱えながら地面にふせようとするが…。
「あれ?なにこれ?当たらない??」
白い雪のようなものから発射されるレーザー様のものは、まるで一つ一つすべてが生きているかのように、自分たちの身体には絶対に当たらないように、果てには木々の幹や枝にすら当たらないように軌道を変えていき、眼前のデーモンや炎の精霊たちだけを撃ちぬいていく。
撃ちぬかれた敵は、精霊はすりガラスを爪でひっかいたかのような耳障りな高音を発しながら消滅し、デーモンは、身体を小さな穴だらけにしながら、やがて腕は落ち、足はもがれ、頭を吹き飛ばされ地面に崩れていく。
まるで自動砲台だ。
敵味方を識別し、弾自体も味方に当たらないように軌道を変える細いレーザーを放つ自動砲台が、1mごとに360度、魔法陣のあった場所から下を中心に直径1㎞敷き詰められているのだ。
レーザーのようなものは、秒速何十発と雪のような丸い玉から放たれ続け、まさに…スコールである。
黒狼族や町の戦士達が、視界を白く輝くスコールに…しかも、上からだけでなく、左右からも降り注ぐ、輝く豪雨のような光景に呆気に取られて呆然とする。
自分たちが何もしなくても、次々と敵が打ち倒されていく。
「なぁ。こんな魔法を使うなんて…あの魔法使いはリーヴじゃないのか?」
「あぁ、救世の大魔法使い…伊達ではなかったな…」
「待って!だんだんと球体が小さくなっていくよ?これが効果時間なのかしら?」
戦士達がリーヴの存在に気づき、口々に伝説を目の当たりにしたそのすごさを興奮気味に話していると、一部の人間たちが球体が徐々に小さくなっていくのに気が付いた。
恐らく、球体そのものが砲台であり弾倉なのだろう。レーザーを放つたびにエネルギーを消費し小さくなっていく。
撃ち尽くした時、その球体が消滅することは誰にでも想像がついた。
②
「ちょっと!ちょっと!ちょっとぉぉお!」
プトーネが空中に現れた巨大な魔法陣を見たとき、身体が瞬時にぞくぞくと震えて、震えが頭の上から首筋、腰まで到達したときに、ここにいてはまずい!という直感が頭に走る。
剣を構えて迫りくる女騎士を風圧を使った壁で、時間稼ぎをしながら急速に後退しようと身構えたが、逃げようにも女騎士の猛追は想像以上で、後退しても後退しても食らいついてきた。
やがて、自分の周り360度に雪のような真っ白い球体が、ふわりふわりと降りそそぎ、空間をびっしり敷き詰められたとき、目の前の空間が闇に歪んだかと思うと、青い色の髪色で、仮面をつけ黒いローブを着込んだ女が、空間のゆがみから飛び出してきて、自分と女を中心に360度に光の盾を展開した。
「エウメネ!?」
エウメネと呼ばれた女が展開した光の盾は、女騎士の剣も完璧に防ぎきり、更に球体からスコールのように降り注ぐレーザー様の光線も防いだ。
「プトーネ。あれはまずいわ。撤退するわよ」
「良かったぁ…。あたし、光の盾使えないのよね…」
「知ってる。でも、見て。並の術師の光の盾じゃ意味なさそう」
プトーネがちらりと地面に目を向けると、デーモンたちが光の盾を展開しているが、それはあっさりと貫かれ、そもそも貫かれなくても360度から降り注ぐレーザーは防ぎきれず、次々とバラバラにされて崩れ落ちていく。
光の盾はかなりの防御性能を持つが、通常は、自分のかざした手を中心に最大でも身長と同じ高さの長方形の盾を展開するのが限界である。それに対して、エウメネが展開した光の盾は、自分と仲間を中心に半径1mをすっぽりと光の盾で覆い、レーザーも貫通させないことから、かなりの実力者であることがうかがえる。
「ちょっとぉ!そこの女ぁ!いつか借りは必ず返すからねぇ!!!」
プトーネが女騎士に、いかにもな負け犬セリフを吐くと、二人の身体が闇に包まれ、やがて消えた。
③
何やらいかにもな雑魚キャラの遠吠えを聞かされたが、そんなことはどうでもいい。
僕は、この魔法の効果が消える前にと、一気に魔神に接近する。
魔神の身体から、炎の精霊がいくらか射出されようとしが、瞬時に丸い玉から発射されたレーザーのような魔法に貫かれ、耳障りな高音を発しながら消滅していく。
『その剣の輝き!数多の精霊を引き連れるその様…!貴様!?勇者だな!』
僕が魔神を攻撃範囲にとらえたところで、魔神が何やら喋り出したかと思うと、その背中から生えている大きな羽を広げて巨体を浮かしていき…こちらに向かって急スピードで向かってくる。
「飾りじゃないのか!?その羽!」
僕のそばをその巨体が通過した際の風の奔流で、ややバランスを崩しながら態勢を整えて魔神と向き合う。
白状すると僕は飛行魔法は苦手だ。魔法の無い普通の世界で生きてきた僕にとっては、生身の人間が何もなしに自由に飛行するイメージができない。正確には、イメージはできるが飛んでいる状態に信頼を寄せられないといったところか…。そのため、風の精霊に補助してもらわないとまともに飛べない。
魔王を倒す旅路の経験で、いくらかはましにはなっていると思うが…。
未だに激しく降り注ぐレーザーの雨は、魔神の身体にも今この時も撃ち込まれ続けていて、炎の精霊を射出してもすぐに討ち果たされるからか、もう射出する様子は無かった。
「悪いが、一気に仕留める!」
僕が魔力を聖剣にこめ始めると、魔神は炎のブレスを僕に向かって吐きかける。
灼熱の炎は、降り注ぐレーザーの雨でやや勢いを減衰させながら、僕に到達する前に炎の精霊のカグナとフレイの魔法で相殺される。その様子を見た魔神が、哀しそうに大笑いした。
『やはり…やはりな!お前の聖剣に我が妻が閉じ込められていると思って、ここまで来てみれば…!その精霊の顔は全く見覚えがない!それどころか、我はどこで生まれた?何のために生まれた!?…簡単なこと…!紛い物だ!笑え!勇者!今となっては、貴様との戦いが私のすべてだ!!』
カグナとフレイが人工的と言っていたこと、減衰しない魔力を感じて、薄々わかってはいたが、この戦いのためだけに生み出された人工的な炎の精霊、森を制圧する理由を無理やりすりこまれて、周りの人間嫌いの炎の精霊たちを同調させ、自分に取り込むことに特化された素体…。同情の余地はあるが…。同情したところで、この魔神は止まらないだろう。この森を制圧することが存在意義だからだ。
「僕にできることは、僕の最大の技で君を討つことだけだ」
『それは重畳!魔神イフリータ…この姿を貴様の記憶に刻み込んでくれる!!』
イフリータが僕の上空へ飛翔し、炎の吐息を降り注ぐたび、カグナとフレイが相殺しながら、飛んでくる爆風を光の精霊であるウィルとアルテラが光の盾で防いでくれる。
「君は優しいな」
『なに!?』
「空に戦いの場を移してくれたおかげで、僕は周りの影響を考えずに済むよ」
『ただ、雑兵に邪魔されたくなかっただけだ!』
「シルフ戻ってこい!」
リーヴにつけていたシルフを呼び戻した僕は、そのまま技の準備に入る。
結婚式の時に放った技は、マリーを侮って力をセーブしたわけじゃない。
自分の魔力のみで向かってくるマリーに対して、敬意を表し僕自身の魔力だけで立ち向かった結果である。
精霊たちは、周りの人達を守ることに専念してもらった。
そうさ…。
これが本来の僕の持ちうる実戦的な技の中で最高の…。
「フレイ!メキレウス!シルフ!ディボラ!アルテラ!アマナキ!」
僕の呼びかけに応え、
風の精霊シルフが、炎の精霊フレイが、氷の精霊メキレウスが、大地の精霊ディボラが、光の精霊アルテラが、闇の精霊アマナキが、互いに手を取り合いながら、僕の頭上で円形に陣を組む。
途中、イフリータが尻尾で僕を薙ぎ払おうとしたので、紙一重で躱しながら剣先を尻尾にそっとあてると、イフリータ自身の力も相まって、尻尾の大部分を切断する。
やがて、精霊同士が自分の反属性となる精霊と力を敢えて拮抗するように魔力をこめると、こめられた魔力は徐々に白く輝く丸い玉となる。
丸い玉は、プラスとマイナスの力が打ち消し合うギリギリのバランスで拮抗しあうエネルギー体となり、時折表面を小さくスパークさせながら、聖剣の刃に宿った。
「イフリータ。君のことは忘れない。僕にできることはそれだけだ」
『ふっ…』
イフリータは鼻で笑うと、静かに魔力を自分の口先にため始めた。
自分が消滅しても構わないとばかりに、莫大の魔力が次の炎のブレスのためにためこまれていく。
イフリータに突き刺さっていたリーヴの魔法も、雨が止むように徐々にやんでいき…。
静かに僕たちは機を見合い始めた。
黒狼族と町の戦士達が、デーモンへと変貌したデミエルフの軍勢と炎の精霊の放つ苛烈な攻撃をさばいていると、夜空に一瞬眩い光。
何事かと、後衛が空を見上げると、そこには巨大な魔法陣が出現していた。
出現させたのは、魔王を倒したパーティにいた救世の大魔法使いリーヴ。リーヴは目をつぶり集中し、念じ、魔法陣に全魔力を注いでいく。
「いいか。敵は…デミエルフ、魔神、プトーネ、人間に悪意を持つ精霊だ…」
リーヴは、体中から自分を成り立たせている大事な、決定的な何かが濁流のごとく魔法陣へと流れ込んでいくのを感じる。自分の中が急激に空になっていく…。もし、自分の肩に勇者がよこした風の精霊シルフがいなければ、墜落の心配をしなくてはいけなかったところだ。
リーヴは発動に十分な魔力を魔法陣に注ぎ込んだと実感すると、目を開き、穏やかに、静かに言った。
「降りそそげ…。我が敵のみを屠る暖かな雪よ…」
トリガーワードに反応して、夜空に浮かぶ巨大な魔法陣が鋭い光を一瞬発したかと思うと、魔法陣から白い雪のような小さな丸い塊が、ふわりふわりと大量に降り注ぐ。
その白い雪のようなものは、お互いの距離をきっちり上下左右1mに保ちながら、地面へ、森へ、中空へと、魔法陣より下にある空間のありとあらゆるところに降り注いだ。
町の戦士達のうち後衛の魔術師がわけもわからないといった風に
「なにこれ?雪?春なのに?」と不審そうに言うと
「でも味方の魔法…だよね?なんだろ?雪みたいのがきっちり間隔を保って並んでる…」と他の戦士達も警戒しながら言った。
気づけばもう自分たちの周りにも、雪のようなものがびっしりと1m感覚で浮かびながらも、空間中に敷き詰められていた…。
魔法陣はその役目を終えたかのように、ゆっくりと色を薄くしながら空から消えていく。
「おーい。ソラぁ。あとは任せるぞぉ…」
「あぁ、ありがとう。リーヴ」
リーヴが魔力を使い果たして、肩にとまっていたシルフに補助されながら緩やかに地面に向かって落ちていった。
その場に残された雪のような真っ白い丸い塊は、やがて発光し、まるでサーチライトのように自分の周囲にぐるりと光をあてながら、回転したかと思うと…。
一拍おいて…。
まるで豪雨のように、白い細い光線、レーザーのようなものを一斉に発射し始めた。
「わっわっわっわぁーー!?」
黒狼族も町の戦士達も驚いて、一瞬パニックになりながら頭を抱えながら地面にふせようとするが…。
「あれ?なにこれ?当たらない??」
白い雪のようなものから発射されるレーザー様のものは、まるで一つ一つすべてが生きているかのように、自分たちの身体には絶対に当たらないように、果てには木々の幹や枝にすら当たらないように軌道を変えていき、眼前のデーモンや炎の精霊たちだけを撃ちぬいていく。
撃ちぬかれた敵は、精霊はすりガラスを爪でひっかいたかのような耳障りな高音を発しながら消滅し、デーモンは、身体を小さな穴だらけにしながら、やがて腕は落ち、足はもがれ、頭を吹き飛ばされ地面に崩れていく。
まるで自動砲台だ。
敵味方を識別し、弾自体も味方に当たらないように軌道を変える細いレーザーを放つ自動砲台が、1mごとに360度、魔法陣のあった場所から下を中心に直径1㎞敷き詰められているのだ。
レーザーのようなものは、秒速何十発と雪のような丸い玉から放たれ続け、まさに…スコールである。
黒狼族や町の戦士達が、視界を白く輝くスコールに…しかも、上からだけでなく、左右からも降り注ぐ、輝く豪雨のような光景に呆気に取られて呆然とする。
自分たちが何もしなくても、次々と敵が打ち倒されていく。
「なぁ。こんな魔法を使うなんて…あの魔法使いはリーヴじゃないのか?」
「あぁ、救世の大魔法使い…伊達ではなかったな…」
「待って!だんだんと球体が小さくなっていくよ?これが効果時間なのかしら?」
戦士達がリーヴの存在に気づき、口々に伝説を目の当たりにしたそのすごさを興奮気味に話していると、一部の人間たちが球体が徐々に小さくなっていくのに気が付いた。
恐らく、球体そのものが砲台であり弾倉なのだろう。レーザーを放つたびにエネルギーを消費し小さくなっていく。
撃ち尽くした時、その球体が消滅することは誰にでも想像がついた。
②
「ちょっと!ちょっと!ちょっとぉぉお!」
プトーネが空中に現れた巨大な魔法陣を見たとき、身体が瞬時にぞくぞくと震えて、震えが頭の上から首筋、腰まで到達したときに、ここにいてはまずい!という直感が頭に走る。
剣を構えて迫りくる女騎士を風圧を使った壁で、時間稼ぎをしながら急速に後退しようと身構えたが、逃げようにも女騎士の猛追は想像以上で、後退しても後退しても食らいついてきた。
やがて、自分の周り360度に雪のような真っ白い球体が、ふわりふわりと降りそそぎ、空間をびっしり敷き詰められたとき、目の前の空間が闇に歪んだかと思うと、青い色の髪色で、仮面をつけ黒いローブを着込んだ女が、空間のゆがみから飛び出してきて、自分と女を中心に360度に光の盾を展開した。
「エウメネ!?」
エウメネと呼ばれた女が展開した光の盾は、女騎士の剣も完璧に防ぎきり、更に球体からスコールのように降り注ぐレーザー様の光線も防いだ。
「プトーネ。あれはまずいわ。撤退するわよ」
「良かったぁ…。あたし、光の盾使えないのよね…」
「知ってる。でも、見て。並の術師の光の盾じゃ意味なさそう」
プトーネがちらりと地面に目を向けると、デーモンたちが光の盾を展開しているが、それはあっさりと貫かれ、そもそも貫かれなくても360度から降り注ぐレーザーは防ぎきれず、次々とバラバラにされて崩れ落ちていく。
光の盾はかなりの防御性能を持つが、通常は、自分のかざした手を中心に最大でも身長と同じ高さの長方形の盾を展開するのが限界である。それに対して、エウメネが展開した光の盾は、自分と仲間を中心に半径1mをすっぽりと光の盾で覆い、レーザーも貫通させないことから、かなりの実力者であることがうかがえる。
「ちょっとぉ!そこの女ぁ!いつか借りは必ず返すからねぇ!!!」
プトーネが女騎士に、いかにもな負け犬セリフを吐くと、二人の身体が闇に包まれ、やがて消えた。
③
何やらいかにもな雑魚キャラの遠吠えを聞かされたが、そんなことはどうでもいい。
僕は、この魔法の効果が消える前にと、一気に魔神に接近する。
魔神の身体から、炎の精霊がいくらか射出されようとしが、瞬時に丸い玉から発射されたレーザーのような魔法に貫かれ、耳障りな高音を発しながら消滅していく。
『その剣の輝き!数多の精霊を引き連れるその様…!貴様!?勇者だな!』
僕が魔神を攻撃範囲にとらえたところで、魔神が何やら喋り出したかと思うと、その背中から生えている大きな羽を広げて巨体を浮かしていき…こちらに向かって急スピードで向かってくる。
「飾りじゃないのか!?その羽!」
僕のそばをその巨体が通過した際の風の奔流で、ややバランスを崩しながら態勢を整えて魔神と向き合う。
白状すると僕は飛行魔法は苦手だ。魔法の無い普通の世界で生きてきた僕にとっては、生身の人間が何もなしに自由に飛行するイメージができない。正確には、イメージはできるが飛んでいる状態に信頼を寄せられないといったところか…。そのため、風の精霊に補助してもらわないとまともに飛べない。
魔王を倒す旅路の経験で、いくらかはましにはなっていると思うが…。
未だに激しく降り注ぐレーザーの雨は、魔神の身体にも今この時も撃ち込まれ続けていて、炎の精霊を射出してもすぐに討ち果たされるからか、もう射出する様子は無かった。
「悪いが、一気に仕留める!」
僕が魔力を聖剣にこめ始めると、魔神は炎のブレスを僕に向かって吐きかける。
灼熱の炎は、降り注ぐレーザーの雨でやや勢いを減衰させながら、僕に到達する前に炎の精霊のカグナとフレイの魔法で相殺される。その様子を見た魔神が、哀しそうに大笑いした。
『やはり…やはりな!お前の聖剣に我が妻が閉じ込められていると思って、ここまで来てみれば…!その精霊の顔は全く見覚えがない!それどころか、我はどこで生まれた?何のために生まれた!?…簡単なこと…!紛い物だ!笑え!勇者!今となっては、貴様との戦いが私のすべてだ!!』
カグナとフレイが人工的と言っていたこと、減衰しない魔力を感じて、薄々わかってはいたが、この戦いのためだけに生み出された人工的な炎の精霊、森を制圧する理由を無理やりすりこまれて、周りの人間嫌いの炎の精霊たちを同調させ、自分に取り込むことに特化された素体…。同情の余地はあるが…。同情したところで、この魔神は止まらないだろう。この森を制圧することが存在意義だからだ。
「僕にできることは、僕の最大の技で君を討つことだけだ」
『それは重畳!魔神イフリータ…この姿を貴様の記憶に刻み込んでくれる!!』
イフリータが僕の上空へ飛翔し、炎の吐息を降り注ぐたび、カグナとフレイが相殺しながら、飛んでくる爆風を光の精霊であるウィルとアルテラが光の盾で防いでくれる。
「君は優しいな」
『なに!?』
「空に戦いの場を移してくれたおかげで、僕は周りの影響を考えずに済むよ」
『ただ、雑兵に邪魔されたくなかっただけだ!』
「シルフ戻ってこい!」
リーヴにつけていたシルフを呼び戻した僕は、そのまま技の準備に入る。
結婚式の時に放った技は、マリーを侮って力をセーブしたわけじゃない。
自分の魔力のみで向かってくるマリーに対して、敬意を表し僕自身の魔力だけで立ち向かった結果である。
精霊たちは、周りの人達を守ることに専念してもらった。
そうさ…。
これが本来の僕の持ちうる実戦的な技の中で最高の…。
「フレイ!メキレウス!シルフ!ディボラ!アルテラ!アマナキ!」
僕の呼びかけに応え、
風の精霊シルフが、炎の精霊フレイが、氷の精霊メキレウスが、大地の精霊ディボラが、光の精霊アルテラが、闇の精霊アマナキが、互いに手を取り合いながら、僕の頭上で円形に陣を組む。
途中、イフリータが尻尾で僕を薙ぎ払おうとしたので、紙一重で躱しながら剣先を尻尾にそっとあてると、イフリータ自身の力も相まって、尻尾の大部分を切断する。
やがて、精霊同士が自分の反属性となる精霊と力を敢えて拮抗するように魔力をこめると、こめられた魔力は徐々に白く輝く丸い玉となる。
丸い玉は、プラスとマイナスの力が打ち消し合うギリギリのバランスで拮抗しあうエネルギー体となり、時折表面を小さくスパークさせながら、聖剣の刃に宿った。
「イフリータ。君のことは忘れない。僕にできることはそれだけだ」
『ふっ…』
イフリータは鼻で笑うと、静かに魔力を自分の口先にため始めた。
自分が消滅しても構わないとばかりに、莫大の魔力が次の炎のブレスのためにためこまれていく。
イフリータに突き刺さっていたリーヴの魔法も、雨が止むように徐々にやんでいき…。
静かに僕たちは機を見合い始めた。
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