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第1部 勇者と狼の王女
第3話 愛する者にしたいこと~勇者の場合~
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①
魔王を打ち倒し、パーティの仲間達がそれぞれの故郷へ帰っていったあの日。
ある夜の街の宿の一室で、パーティの大魔法使いリーヴが僕に言った。
「ソラ、お前が女に惚れたら、してもらいたいことより、してあげたいことを考えろ」
「どういうことだ?」
「大体、男が女に惚れると、抱きしめたいだの、膝枕してもらいたいだの、料理をふるまって欲しいだの、甘えさせて欲しいだの…、自分の欲望ばっかりで頭がいっぱいになっちまう」
「確かに…」
「だが、それじゃあ、長続きしねぇ。お前がこの女とは死ぬまで添い遂げたいと思える女に出逢ったのなら、考えろ。お前がその女に何をしてあげたいのかを。それが浮かばないようじゃ、すぐ別れることになる」
「なるほど…さすが、リーヴ。今となっては、救世の女たらしと言われているだけのことはあるな」
「ふふふ…自慢じゃないが、俺は別れてもその女と信頼ある友達関係を続ける自信がある」
「それは…すごいな…」
「すごいだろ!」
そう言って、リーヴはケラケラ笑った。男である僕ですら好印象を抱き続けられるこの男は、町ゆく町で必ず一夜を共にする女性を見つけ出し、全力で愛していったが、女に恨まれたり刺されたりなんてことはなかった。
日本で生を受けていたら、歌舞伎町NO1ホストとして君臨しそうなほどの美貌で、なよっとした体からは想像もできないほど強力な魔法が連発される。
魔法のみの戦いで決闘したら僕は、リーヴには勝てないだろう。
髪は金髪でそれほど長くないが、なんとなくホストっぽい雰囲気があるかもしれない。優しそうな大きな目と女装すれば男とはわからないであろうその姿から、繰り出される激しい戦闘方法のギャップがより女性を惹きつけている。
さすがに、魔王の左腕とまで呼ばれた魔族の女まで口説きはじめ、一度裏切ったときは、細胞一つも残さず滅してやろうと思ったことはあったが、なんだかんだで丸く収まったから良しとしよう。
それだけ頑張って口説いた魔族の女とはどうなったのかというと、魔王を倒した後は別の女に早くも乗っかっていたが、だからといって魔族の女と別れたというわけでもないようで、特に魔族は強ければ何でもよいというスタイルらしく、ずるずると表現して良いのかわからないが、未だにたまに会っては愛し合っているようだ。
まぁ、人間に危害を加えることなく、仲間にも迷惑をかけずに愛し合っているのなら、僕が関知することではない。
②
無事初夜の営みを終えた僕は、寝室のベッドでマリーより先に目が覚めた。
カーテンを閉めた窓から、わずかに朝日が差し込んできている。
「うーん、してあげたいことか…」
僕はぼそっとつぶやいて、隣ですやすやと眠る妻のマリーの顔を見つめる。
目を閉じているから、その美しい青い瞳が眺められないのが残念だが、長いまつ毛に、穏やかな寝息を漏らしている小さな可愛い唇を眺めては、悶えたくなる衝動に駆られる。
マリーと手を握りたい。
マリーと抱きしめ合いたい。
マリーと一緒にご飯を食べたい。
マリーと一緒に外でデートがしたい。
色々な欲求が、僕の中から沸いてくるが、これは全て、僕がしてもらいたいことだ。
僕がマリーにしてあげたいことじゃない。
難しい…。
リーヴ…僕には難しいよ…。
悩んでいると、僕の頭の中の疑似リーヴが囁いた。
『そもそも、お前はしてあげたいことが浮かぶほど彼女を知っているのか?』
確かに、そうだ。
僕は一目惚れでスピード結婚してしまったため、彼女のことをまだよく知らない。
彼女が、ある訳から、戦士になりたかったのに戦いからも狩りからも遠ざけられ続けていたこと、そしてその欲求を満たしてあげたことで、僕に感謝したこと。
誇り高いこと。
恥ずかしがり屋なこと。
笑顔がとってもかわいいこと。
とっても良い匂いがすること。
手がしっとりしていつまでも握っていたくなること。
その他にもいろいろ浮かぶが、確かにもっと彼女をたくさん知る必要がある。
「マリーともっと向かい合わなきゃ」
すると、また疑似リーヴが囁く。
『焦りは禁物だぜ!一緒にちょっとずつ進みな!』
ありがとう、疑似リーヴ。お前のお陰で、色々見失わずに済みそうだ。
「じゃあ、まずはどうしようか…そうだ」
『お?』
「甘やかそう。マリーを毎日とことん甘やかそう…とろっとろになるまで甘やかそう。甘やかしながらマリーのことを知って…そして、僕がしてあげたいことをどんどんやるんだ」
『なぁ、それって…』
「わかってるよ。僕が見たいんだ。とろっとろに甘やかした時に、彼女がどんな表情をするのか」
『お前…』
「わかってる。こじらせてるのはわかってる」
『それがお前のしてあげたいことなら、まぁ、いいじゃないか。ありがた迷惑にならないように、時々我に帰ることだな』
「あぁ…」
ありがとう。本当にありがとう疑似リーヴ。
本物のリーヴは今頃どうしているか、また違う女を口説いているんだろうな。
魔王を打ち倒し、パーティの仲間達がそれぞれの故郷へ帰っていったあの日。
ある夜の街の宿の一室で、パーティの大魔法使いリーヴが僕に言った。
「ソラ、お前が女に惚れたら、してもらいたいことより、してあげたいことを考えろ」
「どういうことだ?」
「大体、男が女に惚れると、抱きしめたいだの、膝枕してもらいたいだの、料理をふるまって欲しいだの、甘えさせて欲しいだの…、自分の欲望ばっかりで頭がいっぱいになっちまう」
「確かに…」
「だが、それじゃあ、長続きしねぇ。お前がこの女とは死ぬまで添い遂げたいと思える女に出逢ったのなら、考えろ。お前がその女に何をしてあげたいのかを。それが浮かばないようじゃ、すぐ別れることになる」
「なるほど…さすが、リーヴ。今となっては、救世の女たらしと言われているだけのことはあるな」
「ふふふ…自慢じゃないが、俺は別れてもその女と信頼ある友達関係を続ける自信がある」
「それは…すごいな…」
「すごいだろ!」
そう言って、リーヴはケラケラ笑った。男である僕ですら好印象を抱き続けられるこの男は、町ゆく町で必ず一夜を共にする女性を見つけ出し、全力で愛していったが、女に恨まれたり刺されたりなんてことはなかった。
日本で生を受けていたら、歌舞伎町NO1ホストとして君臨しそうなほどの美貌で、なよっとした体からは想像もできないほど強力な魔法が連発される。
魔法のみの戦いで決闘したら僕は、リーヴには勝てないだろう。
髪は金髪でそれほど長くないが、なんとなくホストっぽい雰囲気があるかもしれない。優しそうな大きな目と女装すれば男とはわからないであろうその姿から、繰り出される激しい戦闘方法のギャップがより女性を惹きつけている。
さすがに、魔王の左腕とまで呼ばれた魔族の女まで口説きはじめ、一度裏切ったときは、細胞一つも残さず滅してやろうと思ったことはあったが、なんだかんだで丸く収まったから良しとしよう。
それだけ頑張って口説いた魔族の女とはどうなったのかというと、魔王を倒した後は別の女に早くも乗っかっていたが、だからといって魔族の女と別れたというわけでもないようで、特に魔族は強ければ何でもよいというスタイルらしく、ずるずると表現して良いのかわからないが、未だにたまに会っては愛し合っているようだ。
まぁ、人間に危害を加えることなく、仲間にも迷惑をかけずに愛し合っているのなら、僕が関知することではない。
②
無事初夜の営みを終えた僕は、寝室のベッドでマリーより先に目が覚めた。
カーテンを閉めた窓から、わずかに朝日が差し込んできている。
「うーん、してあげたいことか…」
僕はぼそっとつぶやいて、隣ですやすやと眠る妻のマリーの顔を見つめる。
目を閉じているから、その美しい青い瞳が眺められないのが残念だが、長いまつ毛に、穏やかな寝息を漏らしている小さな可愛い唇を眺めては、悶えたくなる衝動に駆られる。
マリーと手を握りたい。
マリーと抱きしめ合いたい。
マリーと一緒にご飯を食べたい。
マリーと一緒に外でデートがしたい。
色々な欲求が、僕の中から沸いてくるが、これは全て、僕がしてもらいたいことだ。
僕がマリーにしてあげたいことじゃない。
難しい…。
リーヴ…僕には難しいよ…。
悩んでいると、僕の頭の中の疑似リーヴが囁いた。
『そもそも、お前はしてあげたいことが浮かぶほど彼女を知っているのか?』
確かに、そうだ。
僕は一目惚れでスピード結婚してしまったため、彼女のことをまだよく知らない。
彼女が、ある訳から、戦士になりたかったのに戦いからも狩りからも遠ざけられ続けていたこと、そしてその欲求を満たしてあげたことで、僕に感謝したこと。
誇り高いこと。
恥ずかしがり屋なこと。
笑顔がとってもかわいいこと。
とっても良い匂いがすること。
手がしっとりしていつまでも握っていたくなること。
その他にもいろいろ浮かぶが、確かにもっと彼女をたくさん知る必要がある。
「マリーともっと向かい合わなきゃ」
すると、また疑似リーヴが囁く。
『焦りは禁物だぜ!一緒にちょっとずつ進みな!』
ありがとう、疑似リーヴ。お前のお陰で、色々見失わずに済みそうだ。
「じゃあ、まずはどうしようか…そうだ」
『お?』
「甘やかそう。マリーを毎日とことん甘やかそう…とろっとろになるまで甘やかそう。甘やかしながらマリーのことを知って…そして、僕がしてあげたいことをどんどんやるんだ」
『なぁ、それって…』
「わかってるよ。僕が見たいんだ。とろっとろに甘やかした時に、彼女がどんな表情をするのか」
『お前…』
「わかってる。こじらせてるのはわかってる」
『それがお前のしてあげたいことなら、まぁ、いいじゃないか。ありがた迷惑にならないように、時々我に帰ることだな』
「あぁ…」
ありがとう。本当にありがとう疑似リーヴ。
本物のリーヴは今頃どうしているか、また違う女を口説いているんだろうな。
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