1 / 25
第1部 勇者と狼の王女
第1話 出逢い
しおりを挟む
僕は勇者…勇者ソラ。
これから、日本で大学生活を謳歌しようというところで、ある女神に強制的にこの世界に勇者として転移させられた。
初めは、噂の異世界転移を経験して、勇者として剣と魔法の世界を冒険する興奮に酔いしれた頃もあったが、戦いが激化していくうちに、段々と故郷である日本への想いが強くなっていった。
魔王を倒しにいく過程で、帰る術は見つからないものかと色々脇道にそれた冒険もしてみたが、何も見つからない…。
最後の最後には、魔王と魔力と魔力のぶつかり合いによって生まれる魔力の奔流…そして、それによって歪む空間に転移をかけて戦ってみたものの…ご覧の通り、僕はまだ異世界にいる。
無事、魔王を打ち倒した僕達パーティは、救世の英雄として世界中から讃えられ、あらゆる国から自分の勢力に加わるよう熱いお誘いを受けたが、何も心は動かなかった。むしろ、ただただ鬱陶しくて不快なだけだ。
僕がこの地に初めて降り立った王国の王様は、自分の娘を差し出そうとした。
そこから遠く東にある帝国は、将軍の地位を差し出した。
はたまた、冒険者ギルドはギルド長の職を差し出した。
だが、どれも無価値に思えて、それどころかあからさまに政治利用しようとするその透けた心が嫌になって、気が付けば王国の首都から西に馬で5日程のところにある、片田舎といっても北西のマグディシディア公国との貿易の通り道にあることで、まぁまぁ栄えている町で、二足歩行する兎型の種族ラーラム族の女植物学者イルルーシヤと、日本を懐かしめるものを生み出したくて、桜の樹を生み出そうとしていた。
僕の魔法とイルルーシヤの異世界の植物の知識、そして世界樹の精霊イディアマモムルから分体を貰いうけ、それらしきベースの植物と掛け合わせて、誕生した桜は、町の郊外の西…隣に大森林のある土地に植えると、一週間ほどでニョニョきと伸び、立派な巨木に育った。
伸びた枝葉には、小さな桃色の花が咲き誇り、風が吹くたびにしなやかに揺れて、その桃色の花弁を散らしていく。
視界が桃色に染まり、日本を思い出して涙が出そうなのをイルルーシヤが隣にいるからと…ぐっと堪えたとき…。
後に自分の妻となる女性がそこにいた。
日の光に照らされて、潤んだ瞳はキラキラと宝石のように輝く美しい青い瞳。
凛とした佇まいを感じさせ、ぱっと見は近寄りがたいイメージを放ちながらも、その佇まいの印象とは真逆に、子供のようにきらきらと興奮した表情で桜を見つめていた。
青い瞳によく合う、瞳と同じ色のシルクのドレスは、スレンダーな彼女の身体によくフィットしていて、大きすぎず小さすぎないその胸と、きゅっとしまった腰をしっかりと主張させていた。
まさに鴉の濡れ羽色という表現が良く似合う黒い長い髪は、彼女の透き通るような白い肌をより際立たせながら、風が吹くたび、さらさらと風に泳ぎ、時折桃色の花弁を髪飾りのように絡みつかせた。
狼の耳は、ぴくぴくと興奮を抑えるように動き、尻尾もまた、ばっさばっさと左右に揺れている。
考えるよりも先に、そして、一瞬で彼女に心を奪われた。
一目惚れである。
なぜだろう…。
今までの冒険で、美しい女性は何人も僕の前に現れた。
だが、いまいち心惹かれなかった。
王様が自分の娘とくっつけようとした時も、王様とは似ていない驚くほど健康的で美しい女性だったその子にも全く食指は動かなかった。
それにも関わらず、なぜだろう…本当に何故だろう。
彼女を見ていると、胸が切なく締め付けられ、身体が熱くなり…。
気がついたら彼女の元へ駆け寄っていた。
小学生が気になる子に一生懸命アピールするかのように、強さこそが全てだ!という黒狼族の女の子だとイルルーシヤから聞いたから、ともかく魔王を倒したことをアピールして…そのままプロポーズした。
いきなり現れた男に、プロポーズされて…彼女はさぞかし気持ち悪かったことだろう。
僕が聖剣デュランダルを持っていなかったら、本物の勇者として見てもらえず、ただのやばい人として逃げ去られていたことだろう。
勇者という最強の身元保証書(?)である聖剣があって本当に良かった…。
彼女の名前はマリー。この町の西に位置する大森林をテリトリーとする、強さが全ての戦闘狂一族「黒狼族」の「王女」だった。
そして、その後、スピード結婚となり、結婚式では彼女が果たしたかったことのために、マリーと決闘することになったが、それも無事収まるところに収まった。
どきどきの結婚初夜も終えて…今日から心身ともに夫婦である。
これからどんな日々を送ることになるのだろうか…。
※ 作者コメント:勇者ソラと狼の王女マリーの出会いから結婚式、そして初夜まで読みたい方は、別途「勇者と黒狼族の王女の結婚」を是非お読みください。短編で全部で7話+エピローグです。ただし、R18であり、結婚式までのお話は一般向けですが、その後、初夜を赤裸々にしっとりと綴っています。性描写ありです。
これから、日本で大学生活を謳歌しようというところで、ある女神に強制的にこの世界に勇者として転移させられた。
初めは、噂の異世界転移を経験して、勇者として剣と魔法の世界を冒険する興奮に酔いしれた頃もあったが、戦いが激化していくうちに、段々と故郷である日本への想いが強くなっていった。
魔王を倒しにいく過程で、帰る術は見つからないものかと色々脇道にそれた冒険もしてみたが、何も見つからない…。
最後の最後には、魔王と魔力と魔力のぶつかり合いによって生まれる魔力の奔流…そして、それによって歪む空間に転移をかけて戦ってみたものの…ご覧の通り、僕はまだ異世界にいる。
無事、魔王を打ち倒した僕達パーティは、救世の英雄として世界中から讃えられ、あらゆる国から自分の勢力に加わるよう熱いお誘いを受けたが、何も心は動かなかった。むしろ、ただただ鬱陶しくて不快なだけだ。
僕がこの地に初めて降り立った王国の王様は、自分の娘を差し出そうとした。
そこから遠く東にある帝国は、将軍の地位を差し出した。
はたまた、冒険者ギルドはギルド長の職を差し出した。
だが、どれも無価値に思えて、それどころかあからさまに政治利用しようとするその透けた心が嫌になって、気が付けば王国の首都から西に馬で5日程のところにある、片田舎といっても北西のマグディシディア公国との貿易の通り道にあることで、まぁまぁ栄えている町で、二足歩行する兎型の種族ラーラム族の女植物学者イルルーシヤと、日本を懐かしめるものを生み出したくて、桜の樹を生み出そうとしていた。
僕の魔法とイルルーシヤの異世界の植物の知識、そして世界樹の精霊イディアマモムルから分体を貰いうけ、それらしきベースの植物と掛け合わせて、誕生した桜は、町の郊外の西…隣に大森林のある土地に植えると、一週間ほどでニョニョきと伸び、立派な巨木に育った。
伸びた枝葉には、小さな桃色の花が咲き誇り、風が吹くたびにしなやかに揺れて、その桃色の花弁を散らしていく。
視界が桃色に染まり、日本を思い出して涙が出そうなのをイルルーシヤが隣にいるからと…ぐっと堪えたとき…。
後に自分の妻となる女性がそこにいた。
日の光に照らされて、潤んだ瞳はキラキラと宝石のように輝く美しい青い瞳。
凛とした佇まいを感じさせ、ぱっと見は近寄りがたいイメージを放ちながらも、その佇まいの印象とは真逆に、子供のようにきらきらと興奮した表情で桜を見つめていた。
青い瞳によく合う、瞳と同じ色のシルクのドレスは、スレンダーな彼女の身体によくフィットしていて、大きすぎず小さすぎないその胸と、きゅっとしまった腰をしっかりと主張させていた。
まさに鴉の濡れ羽色という表現が良く似合う黒い長い髪は、彼女の透き通るような白い肌をより際立たせながら、風が吹くたび、さらさらと風に泳ぎ、時折桃色の花弁を髪飾りのように絡みつかせた。
狼の耳は、ぴくぴくと興奮を抑えるように動き、尻尾もまた、ばっさばっさと左右に揺れている。
考えるよりも先に、そして、一瞬で彼女に心を奪われた。
一目惚れである。
なぜだろう…。
今までの冒険で、美しい女性は何人も僕の前に現れた。
だが、いまいち心惹かれなかった。
王様が自分の娘とくっつけようとした時も、王様とは似ていない驚くほど健康的で美しい女性だったその子にも全く食指は動かなかった。
それにも関わらず、なぜだろう…本当に何故だろう。
彼女を見ていると、胸が切なく締め付けられ、身体が熱くなり…。
気がついたら彼女の元へ駆け寄っていた。
小学生が気になる子に一生懸命アピールするかのように、強さこそが全てだ!という黒狼族の女の子だとイルルーシヤから聞いたから、ともかく魔王を倒したことをアピールして…そのままプロポーズした。
いきなり現れた男に、プロポーズされて…彼女はさぞかし気持ち悪かったことだろう。
僕が聖剣デュランダルを持っていなかったら、本物の勇者として見てもらえず、ただのやばい人として逃げ去られていたことだろう。
勇者という最強の身元保証書(?)である聖剣があって本当に良かった…。
彼女の名前はマリー。この町の西に位置する大森林をテリトリーとする、強さが全ての戦闘狂一族「黒狼族」の「王女」だった。
そして、その後、スピード結婚となり、結婚式では彼女が果たしたかったことのために、マリーと決闘することになったが、それも無事収まるところに収まった。
どきどきの結婚初夜も終えて…今日から心身ともに夫婦である。
これからどんな日々を送ることになるのだろうか…。
※ 作者コメント:勇者ソラと狼の王女マリーの出会いから結婚式、そして初夜まで読みたい方は、別途「勇者と黒狼族の王女の結婚」を是非お読みください。短編で全部で7話+エピローグです。ただし、R18であり、結婚式までのお話は一般向けですが、その後、初夜を赤裸々にしっとりと綴っています。性描写ありです。
0
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説

聖女なんかじゃありません!~異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
川で溺れていた猫を助けようとして飛び込屋敷に連れていかれる。それから私は、魔物と戦い手足を失った寝たきりの伯爵様の世話人になることに。気難しい伯爵様に手を焼きつつもQOLを上げるために努力する私。
そんな私に伯爵様の主治医がプロポーズしてきたりと、突然のモテ期が到来?
エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる