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第二十六話
しおりを挟む「これから長脚の点検になります。たぶん修理になると思うからそのつもりで」
久しぶりに三人揃った第七班。魔石の塊を積み込んでから一緒に仕事はしていたけれど、変な薬のせいか記憶が薄くなってる。
僕達は城船の後方左舷側の長脚の保守点検に来たが、あの塊を乗せてから故障箇所が増え、「わんこ蕎麦」の蓋を閉める余裕が無いくらい忙しい。
「第一関節問題無し…… と、しておこう。次は第一ブロックの内部と第二関節ね。安全帯の確認と安全帽はちゃんとベルトを絞めてね」
何時いかなる時も安全第一。怪我をしたって今なら後回しにされかねない。命綱を安全帯にかけて力を入れて確かめる。これで二メートルまでは落ちたりはしない。もし落ちたとしても、ウエストがしまって朝食をリバースするくらいだ。
「先に出るから。後から来てね」
脚を折り曲げて点検を待つ長脚。この高さから見る風景は木々を上から見るので嫌いじゃない。見る分にはいいが、降りるとなると股間がキュッとなる。
梯子を伝い、第一ブロックのハッチまで。ボルトを外して中に入れば解析をするまでも無く、一部が溶け出し煙を出していた。
ここまで壊れていたらユニットを全て交換するのだが、使える所は使いたいと言う勿体無い精神が、二人に仕事を増やした。
「一応、解析ね。使えなかった部分は消失、復元ね」
「「はい」」
大きなユニットだし二人だけに任せては時間がかかる。決して修理を遅らせて魔導都市で合コンをしたいと思ってる訳ではない。これは二人を成長させる為に仕方がなくやってる事だ。
「それと二人で一つじゃなくて、一人で一つのユニットを診てね」
だから僕は先に爪先の方まで長脚を見に行こう。僕が帰って来るまでに終わっていたら合格点だ。と、思ったけど、この先で壊れた脚部があったら時間がかかる。僕は真剣な二人をおいて次のユニットに向かった。
第二関節から下の爪先のまで、壊れていたり基準を満たしていないユニットはいくつもあったが、二人が解析をしているユニットほど壊れている所はなかった。
自分的に競争もあったし、勿体無い精神は横に置いて、解析をして不具合が有ればユニットを丸ごと消失させ復元して作り直した。小ユニットを単体で作ると組み合わせるのは手作業だからね。僕ちゃん、手が汚れるのキライ……
「終わった?」
自分的勝負は僕の勝ち。今は小ユニットを組み上げている途中の様だ。二人とも整備士とは手を汚してなんぼのモノだよ。
「な、なにか合わなくて……」
珍しく単体の答えはローラから。サラは器用に組み合わせているが、双子でも違う所があるみたいだ。僕は優しい眼差しでそれを見た。
「このユニット…… 違うんじゃない? 第二関節の下のじゃないかな」
「あっ!」
違うブロックでも似たようなユニット。それは「ふくらはぎ」にあたる第二ユニットの部品だ。僕も全てを覚えている訳じゃないが、間違う事はたまにある。そんな時はバレ無いうちに直してしまおう。
「……すみません」
「いいよ、第一ユニットの設計図は覚えてる?」
「……すみません」
「それなら設計図の場所は覚えてるかな? 設計図の棚の三・三・二・……」
「五です」
「アハハッ、僕も覚えて無かった。そこから持って来て。見ながら錬金しよう」
「すぐに取って来ます!」
設計図が頭の中に入ってなければ、見ながら錬金すればいいだけ。謝る必要なんて無いのに真面目なローラちゃん。
「班長、すみません」
「気にしてないよ。サラの方は問題なしかな」
「はい、大丈夫です…… あ、あの…… 班長は設計図を記憶しているんですか?」
「全部じゃないけどね。一度、作った物なら忘れないくらいかな」
「どうやって!? ……す、すみません。どうやったら覚えられるのでしょうか」
「僕は設計図を覚えている訳じゃないんだよね。復元する時の魔力の流れを覚えているんだよ。歌を聞いて音程が外れると分かるじゃない。そんな感じで魔力の流れ方を覚えてユニットを作り上げるんだよ」
「でも、ユニットの数は百や二百じゃないですよ!」
「うん。そんな時は大きく覚える様にしているよ。この第二ブロックのユニットは小ユニットで十ユニットに別れているでしょ。それを一つ一つの魔力の流れじゃなくて、第二ブロック事の流れを掴むんだよ。それをもっと大きくして長脚全ての流れを掴むと、変な音程があれば気が付けるし直せるよ」
「長脚を全てですか……」
「うん。慣れが怖いから、たまに設計図を見直すけど」
「勉強してるんですね……」
「人それぞれ、やり方が違ってくると思うけど、覚えるまで勉強しつづける事かな」
「そうですか……」
何だか湿った話になってしまった。こんな雰囲気は苦手だよ。説明をラップ調に言えば雰囲気も明るく出来たかな。
「セイ・ヨーォ……」
「班長……」
「なんでしょう?」
今のは聞かなかった事にしてくれ。恥ずかしくて顔から火が出でオイルに引火しそうだ。
「私とローラには属性があるんです。魔導師を目指した事もあるんですけど、適正が低くて魔導師にはなれなかったんです。それで錬金術師に……」
この世界の人は多かれ少なかれ魔力を持っている。その殆どが無属性の人だが、まれに属性持ちも現れる。その中でも適正の高い人だけがなれる魔導師。だからエリート意識が高いのは分かるが、魔導師だけが魔法を使える訳じゃないんだ。
魔導師を諦めて錬金術師に。良くある話だ。だからか、錬金術師は魔導師に下に見られる。ウィザードのパイロットと整備士。どちらが映画の主役になれるかなんて決まってる。
「錬金術師だっていい仕事だよ。物を作るのって楽しいよ」
「分かってます。錬金術師の仕事が大切な事は…… ただ諦めきれなくて……」
「適正って上げられないの?」
「あ、上げられるって聞いてます。それで毎日、練習はしているのですが……」
「それでユニットの作りが疎かになって、錬金術師しとして仕事に迷い、魔導師も諦めきれなく練習をしていると……」
「……はい」
しまった! 不意に言った言葉で核心を突いてしまった。年頃の女の子は傷付きやすいから、もう少し言葉を選べばよかった。
「適正があるってだけで普通の人とは違うんだし、練習しだいで適正もあがるんでしょ? 整備の仕事を疎かにされたら困るけど、フォローくらいなら出来るから頑張ってみたら」
「でも……」
「大丈夫だよ。僕の魔力量はそこら辺の人とは桁が違うからね」
「でも、錬金術師のみなさんからはどう思われるのか……」
「それも大丈夫じゃないかな? ラウラ親方は雷系の属性持ちだし、むしろ錬金術師から魔導師になれたなら、みんなが喜ぶと思うよ。適正で外されたとしても努力で魔導師になったって、注目の的になるかもね」
「いいんでしょうか……」
「いいんじゃない。二足のわらじは大変だと思うけど、たった一度の人生なんだから悔いの無いようにしないとね」
「は、はい!」
いい返事だ。これで何か迷いが晴れたなら二人にとっていい事なんだろう。 ……やっぱりラップ調で話してみたい。新しい文化が始まるかもしれないから。
「セイ・ヨーォ……」
「班長、戻りました」
被せちゃダメだよ。まだ、何も言い終わっても無いのに。ハッチの方を見ればローラの姿が。もしかしたら、ラップバトルをしたかったのかな? それなら相手になろう!
「班長、森の色が変わって…… ぎゃふっ!」
「ぎゃふっ!」の声にどう合わせようか再びローラの方を見れば姿が無い。 ……ぎゃふっ! って、まさか落ちたのか!? 命綱は着けていただろうな!
僕はダッシュでハッチに向かって下を見た。そこには…… そこだけじゃなく、いくつもの城船の脚にまとわりつく軟体生物の姿が。
「ランド・オクトパス!」
土蛸。蛸のクセに陸上で生きる肉食のヤバいヤツ。その蛸の足の一本にローラが捕まれていた。
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