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第二百五十九話
しおりを挟む僕がドゥイシュノムハルトに来た目的はメリッサ・マロリー侯爵を安全なクリンシュベルバッハにお連れする事。
「馬車の揺れが… 響きますぅぅ」
侯爵特権なのか、僕達が乗っている箱馬車には席が前後に二つずつ。大きさは普段乗っている大型の馬車とサイズが同じなのに、侯爵様ともなると馬車から違うね。しかも、箱形だから外からは見られないしクッションも別格だった。
と、言っても馬車は馬車。エアサスが付いてる訳でも無いので車輪から椅子に、椅子からクッションに、クッションから僕に、僕から僕の上にお乗りになっているメリッサ様のある一部に振動が伝わり、僕は座っているだけで楽なものだ。
「メリッサ様。この先に川が流れております。そこで一度、身体をお洗いになった方がよろしいかと……」
「ミカエルさまも、いっしょに… あぁ… はぁん…」
着ている服は馬車に乗った時には脱いでいた。脱いではいたが、もう何の液体か分からないほど、クッションを濡らし二人はベトベトになって馬車内の湿度は上がりっぱなしだ。
護衛の騎士団の何名かを先に行かせ場所の確保を頼み、僕は近くなって来た所でメリッサ嬢の両手をシートに着かせ、後ろからのフィニッシュを中に放った。今日も絶好調だ!
馬車が着くと、メリッサ嬢は裸のまま歩き出した。僕は慌ててメリッサ嬢のドレスを着させようとしたが、大事な所を隠すだけで着ようとはしなかった。
それがいい! それでいい! これも着エロの一部として認定しよう。ドレスで胸や大事な所を隠してはいるが、背中からお尻までは見えちゃってる。
その歩く姿は「淫靡」と言っても過言では無い。子供だと思っていたが、かもし出す雰囲気が妖女と思えるくらいだった。
サキュバスのリアも同じような雰囲気を出す時はあるが、あちらは魔力を使っての事だろう。メリッサ嬢は天然素材だ。養殖より天然の方が美味しいに決まってる。
いや、僕が育てたとしたら養殖になるのか。たった一日で育つなんて、どっかの大学もビックリだ。今度、教壇に立とうかな。女の子限定で、手取り足取り腰取り。
僕達が水浴びをしている間に、馬車の中はすっかり綺麗になっていた。シートカバーが掛けてある所を見ると、落ちないシミが出来てしまったのだろうか。
「お乗りくださいメリッサ様。少々、遅れております」
ちなみにドゥイシュノムハルトからクリンシュベルバッハまでは、馬を飛ばして一日で着くのを、僕達は二日目の夕方に着く予定だ。こんなに時間がかかるとは…… ナニをしてたっけ?
クリンシュベルバッハまでの二時間は、メリッサ嬢は大人しく僕の前に座り込み、大人しく相棒をしゃぶっていた。僕は外の流れる景色とメリッサ嬢を見ながら、「将来はアシュタールに行くのもいいかな」って思い始めた。
クリンシュベルバッハの街の城門を越えると違和感を覚えた。別にメリッサ嬢が歯を立てた訳では無く、短期間に上達した事に他に男がいたのか!? と、言う不信感でも無い。
「騎士が少ない……」
街の住人は増えて、壊れた街中の改修も進んでいる様だったが、騎士の姿は見れなかった。少しぐらいの傭兵とケイベックの騎士が見れるだけで、ハルモニアの騎士は居なかった。
「そんな事ないです。いっぱい出ました」
確かに出してしまったが、今はその話をする場合じゃない。お掃除するように舐められると、また勃ってしまうじゃないか…… 今はその話の場合じゃない。
「メリッサ様。服を着て下さい」
「着てますよぅ」
僕は僕の作った着エロを直して、正しい公爵令嬢としての服装に整え、口を濯いでもらい、少し多目の香水を掛けてもらった。
不信に思いながらもクリンシュベルバッハの跳ね橋にたどり着いたが、城からも大きな声もしなければ気配さえも感じ取れなかった。そして僕は気が付く。これはニュータイプとしての勘が冴え渡ったと言ってもいいだろう。
サプライズだな。きっと城内に騎士団が待っていて僕をビックリさせるつもりに間違いない。僕とメリッサ嬢を祝って驚かすつもりだ。
誕生日は教えた事は無い。他に祝い事も思い付かない。そうなれば、この戦が終われば僕とメリッサ嬢が婚姻する事が決まっている事のサプライズパーティーを用意しているんだ!
……どうしよう。こんな時は大袈裟に喜んだ方がいいのだろうか? それともクールに「ありがとう」ぐらいの事を言って終わらせてもいいのだろうか?
手品のタネを知ってしまってから驚くのもマジシャンに悪い気もするけど、せっかく用意してくれたサプライズに驚かないのも悪い気がする。
リアクションが大事だ。例え分かっていたとしても、僕の驚き喜ぶ顔が見たいだろう。エンターテイナーとして場を盛り下げる事は出来ない。
「御者さん。跳ね橋を渡らず馬車を停めて下さい。何かあったら全力で逃げろ!」
一応ね。メリッサ嬢を襲う事は無いとは思うけど、ここまで不自然なのは何かあると見ておいた方がいい。五十からなる騎士団が守ればで壁外まで逃げるれだろ。
跳ね橋を歩いて渡るとフリートヘルムが出迎えてくれた。「ご苦労様です」と社会人としてのマナーを守っても、フリートヘルムは沈黙をもって迎えてくれた。
城の中庭まで歩いて来ても沈黙は続き、騎士も一人として見えなかった。これは城の中で待ち構えているのかな? クラッカーとかは驚くから少な目にして欲しいけど。
城の扉が開くと、中からアンネリーゼ女王陛下自らが駆け寄って来た。これでヤバい方のサプライズは無さそうだ。人質に取られたら不味い人を前面に出す訳が無い。
駆け寄って来られる女王陛下に対して僕は両手を広げて迎え入れたが、僕の寸前で息を切らしながら「ユーマバシャールが出陣しました!」と僕の開いた両手は空をきった。
「サプラ~イズ……」
僕に取れるリアクションはこれくらい……
「いったいどういう事ですか!?」
「ユーマバシャール殿がアンハイムオーフェンを攻略しに行った、という事ですな」
やっと喋ったと思ったら、それか! お前は話してないで、お茶と風呂の用意でもしてろよ。僕は長旅で少しベトついているんだから。
「女王陛下が許可を出した訳では無いですよね。陛下はアシュタールの援軍を待つと言われた!」
「も、もちろん許可など出しておりません。いつの間に騎士団を動かしていたのです」
美人の言う事は全面的に信用する事にしている。だからアンネちゃんは嘘は言って無い。少しきつく言ってゴメンね。愛しているよ。
「フリートヘルム、どれくらい連れていったんだ?」
「およそ八百。親衛隊からも流れております」
女王を守らず何処にいくねん! でも八百か。ゴブリン主体で五百くらいだったかな? アンハイムオーフェンを落とせない数じゃない。
このまま落としてしまってくれても構わないが、罠があったら困る。ユーマ君は死んでくれても構わないが、八百を失うのは困る。命令系統の混乱は一番困る。
……よし! 助けない! 勝手に死にに行っちゃったんだもん。シンちゃん面倒な事は嫌いだし、アシュタールの援軍が来るまでは夏休みだし、この間にパーマをかけて、髪の毛を染めて、ちょっと日焼けして黒くなって休み明けの学校でデビューするのもいいな。それと…… それと、彼氏にヴァージンあげてもいいし…… きゃ、言っちゃった。
「ユーマバシャールを連れ戻して下さい。今回の事はそれなりに考えての事だと思います。彼を助けてあげて下さい……」
嫌です。僕は一度、彼を見逃して助けた恩があるんです。恩返しもされて無いし、勇者の職を解こうした男を助ける謂れはありません。
「女王陛下……」
項垂れてしまうアンネちゃん。何だか僕が悪い事をしている気分だ。 ……仕方がねぇなぁ。女性の悲しみに暮れる顔は見たくないんだよ。あっ、言っときますけどね、一言でも口答えしたら手足をぶち折って連れて帰りますからね。
「女王陛下、お任せください。この勇者ミカエル・シン、女王陛下の為ならば、どの様な事でもいたしましょう」
でもこの場合は逆じゃねえの?
「どんな事でもしますから、万引きの件は親には言わないで下さい」
「どんな事でもするんだって?」
「お願いします。両親には黙っていて下さい」
「……それじゃ、服を脱ぎな!」
「えっ!? そんな……」
「いいのか? 両親や学校にバラされても。ハルモニア学園の娘だろ。お嬢様学校の生徒が万引きなんてな…… クラスのみんなに知れ渡ったらどうなるんだろうな!」
「わ、分かりました……」
アンネリーゼは制服のブレザーを脱ぎ……
「(待たせたな!)」
遅い、遅いよナレーション・スネーク! いい声だけどツッコミが遅いよ。かなり妄想しちゃったじゃないか。でも、脱いでからでも良かったかな。
「勇者様と今後の件について話しておきましょう。女王陛下は執務室にお戻りください」
こっちもいい声だ。妄想の世界から引き戻すには充分だ。だが、コイツには聞かないといけない事がある。
アンネリーゼ女王陛下が城内に戻ると、取り残された男が二人。やっと二人きりになれたね。お前には一つ聞きたい事があるんだ。
「知っており申した」
こいつも超能力者かな。聞きたい事を話してくれるなんて。それだけに悪気が無いと言うことか。
「いくらなんでも八百の軍が動いて、お前が知らない訳がないよな。消極的加担て、言ったところかな」
「恐縮です」
「何で行かせた! 罠かも知れないんだぞ!」
「ユーマバシャール殿がアンネリーゼ様への忠誠を忘れたからでございます」
「何をいってるんだ!? ユーマバシャールの忠誠心ならハルモニアでも随一だろ!」
「昔は…… で、ございます。アンハイムオーフェンが落ちてから、少しずつですがアンネリーゼ様への忠誠に陰りが落ちましてございます」
アンハイムオーフェンとユーマバシャール。繋ぐ所はセリーナ・ハッセ騎士団長か。ユーマバシャールの妹とか。あの人はアンハイムに最後まで残って戦ったんだ。おそらく死……
「ユーマバシャール殿はアンネリーゼ様への忠誠よりアンハイムオーフェンへ心が傾いたようで御座いますね。今更、行った所で妹殿は生きてはいたしませんのに」
あれからどれくらい経つだろう。ハルモニア本陣に帰投していないと言う事は、おそらく亡くなっている。最後まで戦ったアンハイムの街を、ユーマバシャールが取り返したい気持ちは分かる。
「ユーマも生きているとは思ってないさ。ただ妹が守りたかった街を取り返したいだけだよ」
「それで軍務を放棄し、アンネリーゼ様を守護する役目を手放したのですかな。元よりアンネリーゼ様への忠誠心を忘れた輩など死んでもらって結構で御座います」
「忘れちゃいないさ。ただ前に進む為に必要だったんだろ」
「はははっ、そのくらいの為にアンネリーゼ様を捨て街を取るのですか? くだらないですね」
「笑うなよ。男が命を賭けてもやり遂げたい事なんだからさ」
「……人間とは面白いもので御座います」
いつか、お前にも分かる時がくるよ。
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