異世界に来たって楽じゃない

コウ

文字の大きさ
上 下
115 / 292

第百十五話

しおりを挟む
 
 コアトテミテスより西の街、フレマー。街は魔物の多い、サンドリーヌ大森林から離れているからか城壁の無い静かな街だ。
 
 
 先回りしていたのか、フレマー経由でコアトテミテスを目指していたのか、影が待っていてくれた。僕からのアクセサリーを付けて無い所を見ると、ユイナちゃん、シイナちゃん、ニイナちゃんでは無さそうだ。    ……んっ?    アイナちゃんて居なかったかな?
 
 残念だが、誰が誰だか分からない。人数分のアクセサリーは買ってあるから早くあげて、名前とアクセサリーと黒子の場所を覚えないと。
 
 「良き人……」
 
 何ヤツ、名を名乗れ!   とは、言えず。
 
 「え~と……」
 
 「レイナです良き人。お忘れですか……」
 
 嫌だなぁ、忘れてませんよ。思い出せなかっただけ。良く、ここが分かったね。いつから枕元に立ってたの。顔が近いね。唇が奪われそうだや。もっと早く起こしてくれたら一緒に寝れたのに。
 
 「ご苦労様、レイナちゃん。ハルモニアから遠かったでしょ。一緒に入る?」
 
 僕は布団を捲り挙げたが、レイナちゃんからは表情が消え、悲壮感が漂う目で僕を見ていた。君の瞳に……
 
 「お忙しい所、申し訳ありません。至急にお伝えしなければならない事があります」
 
 まさか魔物の侵攻があったとかか!?   ハルモニアが落ちたとかなら洒落にもならないぞ。僕はレイナちゃんの言葉に跳ね起きた。
 
 「実はこの街にはアイナとミイナが来ていまして……」
 
 レイナちゃんの話では三人がフレマーの街で合流してからコアトテミテスに向かうつもりが、魔物の進行で足止めにされていて一時的に宿泊をしていたそうだ。
 
 それが朝、起きたらアイナとミイナが居ない。探してみたが見付からず街の人に聞けばおそらくヴァンパイアに拐われたと言われた。
 
 コアトテミテスへの侵攻より早くヴァンパイアによる人拐いがあって、街でも被害者が出ているとの事だ。あの時の魔族、キノコカットしか印象に残っていないが、そいつとは関係が無いのだろうか。
 
 そのヴァンパイア、拐って行くのは女性のみ。そんな街とも知らずに泊まってしまった不運は横に置いておいて、人のものに手を出したらダメでしょ、ヴァンパイアさん。僕はとても不機嫌ですよ。
 
 「そいつの居場所は分かりますか?   今から行ってきます」
 
 場所は今は使われていない城跡で、ここから離れてはいない。そんな所に女の子を拐ってハーレムか!    ふざけるなよ!    羨ましいくなんかないからね。
 
 しかし、この事を白百合団に話してもいいものか?    影に対してあまり良く思って無い人もいるからなあ。憂鬱になりそうだよ。
 
 
 「知らねえな。勝手にくたばれ」
 
 これを言った人の説明はいるまい。その答えは想定の範囲内なのですよプリシラさん。想定の範囲外はルフィナだったね。
 
 「我は行くのである。血をすするとは面白いのである」
 
 ある意味想定内なのか……   他にも奪還作戦に参加してくれるメンバーばかりだが、理由は「面白そうだから」だ、そうだ。クリスティンさんには残ってもらおう。お目付け役が必要だし白百合団がこれだけ参加するならドラゴンだって楽勝だ。
 
 宿屋にはレイナちゃんも残して前に買っておいた指環を渡した。これで間違う事もない。こんな時でも喜んでくれたけど結婚指輪じゃないからね。ただのアクセサリーとして受け取ってね。
 
 僕は寝始めてから三十分後にはもう馬車の人になって、ヴァンパイアの元に向かっている。もう少し寝る時間が欲しいよ。一人で、ただ寝るだけの安眠が欲しい。
 
 さらに一時間後には古城に無事に着いた。もう少し楽しい展開も期待したけれど、平穏無事がなによりだね。コアトテミテスを守ったと言う達成感が僕のやる気を無くしてるのだろうか。だけど、古城の壊れた門をくぐった時に殺る気が舞い戻った。
 
 中庭には数十人のヴァンパイアの成れの果てが城の正面の扉に向かって立っていた。中央を空けるように壁際に寄り、ただ扉を凝視するだけだった。
 
 「これってなんッスか?」
 
 「たぶん、ヴァンパイアの下僕ね。エサにもなれず血を吸われてもヴァンパイアにもなれずでしょう」
 
 確かヴァンパイアに血を吸われると干からびるほど吸われて死ぬか、下僕程度になるか、気に入れられるとヴァンパイアにもなれるんだっけ。それに大元を倒すと元の人間に戻るんだよね。
 
 サクッと親玉倒してサクッと帰ろう。まだ夜中にもなっていないから速く倒せば多く寝れる。こいつらは無視でいいね。襲ってくる感じも無いし、僕達を無視してくれたら一時間後には人間に戻してあげるよ。
 
 そんな僕の期待も三十秒と持たずに崩れ去った。一体が気が付くと他の一体が。そうして僕達を囲むように、下僕さん達がゆっくりと集まり始めた。
 
 「人間に戻せると思うので殺しは無しでお願いします。ささっと動けなくさせるぐらいで構いませんから」
 
 「つまらんのである」
 「サクッと殺っちゃうッス」
 「ぶちっとやります~」
 
 「ダメよ。団長が殺すなって言ってるんだから」
 
 僕の言うことを聞いてくれるのはソフィアさんくらいか。他の人は減点一だな。ソフィアさんを見習え!
 
 ソフィアさんはその言葉を残して僕達の前に出て座り込んでしまった。どうしたの?    お腹が痛いのかな?    ソフィアさんは下がっていて。僕に任せてくれたら、このくらいの人数は五分と掛かりませんよ。
 
 「プラチナレーザー」
 
 ソフィアさんの静かな詠唱後に、右手の人差し指から放たれたプラチナ色のレーザーは、僕達を半包囲している下僕達の足を左から右へと全て焼き切った。
 
 「えっ!?」
 
 崩れ落ちるヴァンパイアの下僕達。そこに立ち並ぶのは足の畑、地面に横たわる体。痛みが無いのか悲鳴さえ聞こえない。聞こえたのは体が地面に落ちる音のみ。
 
 「これで動けないから邪魔は出来ませんね」
 
 くるりと振り返って笑顔で答えるソフィアさんは天使の様に輝いている。容赦の無い天使。減点一!。
 
 「まだ向かって来るのもいるである」
 
 切り離された足をものともせず、両腕を使い体を引きずりながら迫ってくるのもいた。
 
 「馬鹿ですね」
 
 またも振り返ると今度は二本の指から出たレーザーは下僕の両腕を焼き切る。なんと言えばいいのか……   まるでダルマの様に手足が無くなる下僕の一人。
 
 「こうなると可愛いものですね」
 
 いや、可愛くないから。人間ダルマなんて怖いよ。減点二!
 
 「ナイスショット~」
 
 「はいぃっ!?」
 
 オリエッタはハンマーを持ち出して転がっている人間ダルマを空高く打ち上げた。
 
 「何をシテイルノカ、オリエッタさんハ?」
 
 「団長の記憶にあった一つです~。地面に落ちてる人間を打ち上げるのです~。隅の方に退けるです~」
 
 そんな記憶は持ち合わせていません!   たぶん、ゴルフだろ。ナイスショットって言ってるし。ゴルフはボールを打つスポーツで人間を打ったりはしませんよ!   どうすれば、そこまで適当な記憶になるんですか!
 
 「オリエッタ、装甲服を着て下僕さん達を集めておいて下さい。あれなら噛まれる心配もないでしょ。ソフィアさんはここで待機していて下さい。大本を倒したら皆さんの足を治してあげて下さいね」
 
 「放っておいてもいいんじゃないですか。治すなら帰る時についでに治しますよ」
 
 それはダメでしょ。すぐに元の人間に戻るか分からないけど、戻った時に両足が無くなっていたら出欠多量で死ぬ。少なくとも痛みで泣き叫んじゃうよ。早く治してあげれた方がいいでしょうが。本当なら気絶させるくらいで良かったのに……
 
 「オリエッタ、ちゃんと体と脚は同じ人ので集めて下さいね。ソフィアさんは大戦果ですよ、後で戦時報酬を楽しみに待ってて下さいね。アラナ、ルフィナ、先を急ぎますよ」
 
 「団長のエッチ」
 「ホールインワンがしたいです~」
 
 「行くッス」
 「やっとであるか」
 
 
 もう……   早く終わらせて、寝たいよ。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

強さがすべての魔法学園の最下位クズ貴族に転生した俺、死にたくないからゲーム知識でランキング1位を目指したら、なぜか最強ハーレムの主となった!

こはるんるん
ファンタジー
気づいたら大好きなゲームで俺の大嫌いだったキャラ、ヴァイスに転生してしまっていた。 ヴァイスは伯爵家の跡取り息子だったが、太りやすくなる外れスキル【超重量】を授かったせいで腐り果て、全ヒロインから嫌われるセクハラ野郎と化した。 最終的には魔族に闇堕ちして、勇者に成敗されるのだ。 だが、俺は知っていた。 魔族と化したヴァイスが、作中最強クラスのキャラだったことを。 外れスキル【超重量】の真の力を。 俺は思う。 【超重量】を使って勇者の王女救出イベントを奪えば、殺されなくて済むんじゃないか? 俺は悪行をやめてゲーム知識を駆使して、強さがすべての魔法学園で1位を目指す。

【R18 】必ずイカせる! 異世界性活

飼猫タマ
ファンタジー
ネットサーフィン中に新しいオンラインゲームを見つけた俺ゴトウ・サイトが、ゲーム設定の途中寝落すると、目が覚めたら廃墟の中の魔方陣の中心に寝ていた。 偶然、奴隷商人が襲われている所に居合わせ、助けた奴隷の元漆黒の森の姫であるダークエルフの幼女ガブリエルと、その近衛騎士だった猫耳族のブリトニーを、助ける代わりに俺の性奴隷なる契約をする。 ダークエルフの美幼女と、エロい猫耳少女とSEXしたり、魔王を倒したり、ダンジョンを攻略したりするエロエロファンタジー。

処理中です...