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第百十五話
しおりを挟むコアトテミテスより西の街、フレマー。街は魔物の多い、サンドリーヌ大森林から離れているからか城壁の無い静かな街だ。
先回りしていたのか、フレマー経由でコアトテミテスを目指していたのか、影が待っていてくれた。僕からのアクセサリーを付けて無い所を見ると、ユイナちゃん、シイナちゃん、ニイナちゃんでは無さそうだ。 ……んっ? アイナちゃんて居なかったかな?
残念だが、誰が誰だか分からない。人数分のアクセサリーは買ってあるから早くあげて、名前とアクセサリーと黒子の場所を覚えないと。
「良き人……」
何ヤツ、名を名乗れ! とは、言えず。
「え~と……」
「レイナです良き人。お忘れですか……」
嫌だなぁ、忘れてませんよ。思い出せなかっただけ。良く、ここが分かったね。いつから枕元に立ってたの。顔が近いね。唇が奪われそうだや。もっと早く起こしてくれたら一緒に寝れたのに。
「ご苦労様、レイナちゃん。ハルモニアから遠かったでしょ。一緒に入る?」
僕は布団を捲り挙げたが、レイナちゃんからは表情が消え、悲壮感が漂う目で僕を見ていた。君の瞳に……
「お忙しい所、申し訳ありません。至急にお伝えしなければならない事があります」
まさか魔物の侵攻があったとかか!? ハルモニアが落ちたとかなら洒落にもならないぞ。僕はレイナちゃんの言葉に跳ね起きた。
「実はこの街にはアイナとミイナが来ていまして……」
レイナちゃんの話では三人がフレマーの街で合流してからコアトテミテスに向かうつもりが、魔物の進行で足止めにされていて一時的に宿泊をしていたそうだ。
それが朝、起きたらアイナとミイナが居ない。探してみたが見付からず街の人に聞けばおそらくヴァンパイアに拐われたと言われた。
コアトテミテスへの侵攻より早くヴァンパイアによる人拐いがあって、街でも被害者が出ているとの事だ。あの時の魔族、キノコカットしか印象に残っていないが、そいつとは関係が無いのだろうか。
そのヴァンパイア、拐って行くのは女性のみ。そんな街とも知らずに泊まってしまった不運は横に置いておいて、人のものに手を出したらダメでしょ、ヴァンパイアさん。僕はとても不機嫌ですよ。
「そいつの居場所は分かりますか? 今から行ってきます」
場所は今は使われていない城跡で、ここから離れてはいない。そんな所に女の子を拐ってハーレムか! ふざけるなよ! 羨ましいくなんかないからね。
しかし、この事を白百合団に話してもいいものか? 影に対してあまり良く思って無い人もいるからなあ。憂鬱になりそうだよ。
「知らねえな。勝手にくたばれ」
これを言った人の説明はいるまい。その答えは想定の範囲内なのですよプリシラさん。想定の範囲外はルフィナだったね。
「我は行くのである。血をすするとは面白いのである」
ある意味想定内なのか…… 他にも奪還作戦に参加してくれるメンバーばかりだが、理由は「面白そうだから」だ、そうだ。クリスティンさんには残ってもらおう。お目付け役が必要だし白百合団がこれだけ参加するならドラゴンだって楽勝だ。
宿屋にはレイナちゃんも残して前に買っておいた指環を渡した。これで間違う事もない。こんな時でも喜んでくれたけど結婚指輪じゃないからね。ただのアクセサリーとして受け取ってね。
僕は寝始めてから三十分後にはもう馬車の人になって、ヴァンパイアの元に向かっている。もう少し寝る時間が欲しいよ。一人で、ただ寝るだけの安眠が欲しい。
さらに一時間後には古城に無事に着いた。もう少し楽しい展開も期待したけれど、平穏無事がなによりだね。コアトテミテスを守ったと言う達成感が僕のやる気を無くしてるのだろうか。だけど、古城の壊れた門をくぐった時に殺る気が舞い戻った。
中庭には数十人のヴァンパイアの成れの果てが城の正面の扉に向かって立っていた。中央を空けるように壁際に寄り、ただ扉を凝視するだけだった。
「これってなんッスか?」
「たぶん、ヴァンパイアの下僕ね。エサにもなれず血を吸われてもヴァンパイアにもなれずでしょう」
確かヴァンパイアに血を吸われると干からびるほど吸われて死ぬか、下僕程度になるか、気に入れられるとヴァンパイアにもなれるんだっけ。それに大元を倒すと元の人間に戻るんだよね。
サクッと親玉倒してサクッと帰ろう。まだ夜中にもなっていないから速く倒せば多く寝れる。こいつらは無視でいいね。襲ってくる感じも無いし、僕達を無視してくれたら一時間後には人間に戻してあげるよ。
そんな僕の期待も三十秒と持たずに崩れ去った。一体が気が付くと他の一体が。そうして僕達を囲むように、下僕さん達がゆっくりと集まり始めた。
「人間に戻せると思うので殺しは無しでお願いします。ささっと動けなくさせるぐらいで構いませんから」
「つまらんのである」
「サクッと殺っちゃうッス」
「ぶちっとやります~」
「ダメよ。団長が殺すなって言ってるんだから」
僕の言うことを聞いてくれるのはソフィアさんくらいか。他の人は減点一だな。ソフィアさんを見習え!
ソフィアさんはその言葉を残して僕達の前に出て座り込んでしまった。どうしたの? お腹が痛いのかな? ソフィアさんは下がっていて。僕に任せてくれたら、このくらいの人数は五分と掛かりませんよ。
「プラチナレーザー」
ソフィアさんの静かな詠唱後に、右手の人差し指から放たれたプラチナ色のレーザーは、僕達を半包囲している下僕達の足を左から右へと全て焼き切った。
「えっ!?」
崩れ落ちるヴァンパイアの下僕達。そこに立ち並ぶのは足の畑、地面に横たわる体。痛みが無いのか悲鳴さえ聞こえない。聞こえたのは体が地面に落ちる音のみ。
「これで動けないから邪魔は出来ませんね」
くるりと振り返って笑顔で答えるソフィアさんは天使の様に輝いている。容赦の無い天使。減点一!。
「まだ向かって来るのもいるである」
切り離された足をものともせず、両腕を使い体を引きずりながら迫ってくるのもいた。
「馬鹿ですね」
またも振り返ると今度は二本の指から出たレーザーは下僕の両腕を焼き切る。なんと言えばいいのか…… まるでダルマの様に手足が無くなる下僕の一人。
「こうなると可愛いものですね」
いや、可愛くないから。人間ダルマなんて怖いよ。減点二!
「ナイスショット~」
「はいぃっ!?」
オリエッタはハンマーを持ち出して転がっている人間ダルマを空高く打ち上げた。
「何をシテイルノカ、オリエッタさんハ?」
「団長の記憶にあった一つです~。地面に落ちてる人間を打ち上げるのです~。隅の方に退けるです~」
そんな記憶は持ち合わせていません! たぶん、ゴルフだろ。ナイスショットって言ってるし。ゴルフはボールを打つスポーツで人間を打ったりはしませんよ! どうすれば、そこまで適当な記憶になるんですか!
「オリエッタ、装甲服を着て下僕さん達を集めておいて下さい。あれなら噛まれる心配もないでしょ。ソフィアさんはここで待機していて下さい。大本を倒したら皆さんの足を治してあげて下さいね」
「放っておいてもいいんじゃないですか。治すなら帰る時についでに治しますよ」
それはダメでしょ。すぐに元の人間に戻るか分からないけど、戻った時に両足が無くなっていたら出欠多量で死ぬ。少なくとも痛みで泣き叫んじゃうよ。早く治してあげれた方がいいでしょうが。本当なら気絶させるくらいで良かったのに……
「オリエッタ、ちゃんと体と脚は同じ人ので集めて下さいね。ソフィアさんは大戦果ですよ、後で戦時報酬を楽しみに待ってて下さいね。アラナ、ルフィナ、先を急ぎますよ」
「団長のエッチ」
「ホールインワンがしたいです~」
「行くッス」
「やっとであるか」
もう…… 早く終わらせて、寝たいよ。
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