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第百十一話
しおりを挟む埃っぽい家の中に倒れている。激戦を潜り抜けた僕は、右足を剣で貫かれ動けなくなっているんだ、バカヤロー!
「プリシラさん大丈夫ですか。動けますか」
「あぁ、死ぬかと思ったぜ。アラナはどうした」
「こっちで倒れています。たぶん気を失ってるだけですよ」
僕も少し気を失ってたようだ。昨日の記憶が曖昧だから。それよりも終わったのか!? 皆は無事か!? 僕は起き上がろうとして足に走る痛みで昨日の事を少しずつ思い出してきた。
そうだ、戦争は終わりだ。少なくとも僕達の勝ちだ。死を巻き散らかしてトロール、リッチ、黒炎竜さえも八つ裂きにした竜巻は最後には僕を標的に動き出したんだ。
「プリシラさん、アラナ、もう終わりです。止めましょう。トロールもリッチも黒炎竜もみんな死んでますよ」
リッチさんの防御魔法も黒炎竜さんの硬い鱗も、あの二人の前では無駄に等しかった。時間が経つにつれて疲れてくるどころ、よりテンションが上がり、更に上がり、モード・ツーで二人を相手に戦う事となった。
「ゲヘヘヘヘッ」
「ニャハハハッ」
無理だ。怖い。もう目が逝ってる。話し合いで何とかなると思えない。彼女たちを信じて武器を捨てて話し合う? 馬鹿か! モード・ツーを使ってなかったら死んでるって。
「そんなに殺りたければ僕も本気で行きますよ」
何故にこうなる。敵は魔物のはずなのに。いくら本気でとは言っても斬るのは不味い。いや。斬ってしまいたいと思う事もあるけれど、それは不味い。僕は魔剣コアトテミテスを逆刃にして構えた。
モード・ツーなら勝てる。なにせ残像が見えるくらいだから。たぶん勝てるかな……
両刀のアラナが先行して向かって来た。右を盾で受けるのと同時に左は剣で受けた。超振動を全開で発動させバランスを崩した所へ、左肩を狙っての抜刀は避けられ逆に右からの突きが飛んで来た。
僕はそれを盾で上から潰す様にして前のめりに体勢を崩させたアラナ首筋に、一撃を加えようとすると、アラナは更に前にかがんで避けた。
だが悪手だ。これでアラナの視界には僕の下半身しか映らない。返す刀の柄で後頭部を狙ったが、アラナの腰すれすれにプリシラさんのハルバートが飛んで来た。
盾で左から来るハルバートが見えなかったが、何とか盾の超振動で防いだ。プリシラさんのハルバートの威力を相殺する事は出来ず、僕は後ろに飛ばされた。
ハルバートの反動を利用してか、プリシラさんはアラナを飛び越え上段からのハルバートの一閃を体を捻って避けた僕は、振り返りざまにプリシラさんの右肩を狙う。
こいつはもらった! 地面に食い込んだハルバートをそのままに、斬り付けた魔剣をアラナが両刀で防ぐ。
こいつらいつの間にコンビネーションが出来るようになったんだ。そう言うのは僕以外で使ってくれよ。
強い。本当に強い。僕のモード・ツーが出てないんじゃないかと思ってしまう。モード・スリーなんてあるのかな。心の持ちようでツーなんて言ってるけどスリーがあるなら出さないと。
僕達は再び構える形になった。次で決めたい。魔物の進行を討ち果たし、こうして戦う理由なんて無いんだよ。お前ら後で絶対、鳴かす。
またしてもアラナの突撃で剣を交える。今度は右手一本。出せる最高の神速で迎え撃ち、跳ね揚げ出し所へ超振動の盾で押し潰す。盾を構えた時に見えた。プリシラさんが上段から振り下ろすハルバートを。
ハルバートは長い斧の様な物だ。先端には槍のように尖っているが鉄製の大きく重たい武器だ。全力で打ち込まれたら盾が持つかも分からないし、腕の方まで怪我をする。振り下ろすハルバートを見て後方に逃げる事を選択した。
だが、逃げればアラナに当たる。斧の部分は当たらなくても、鉄製の柄がプリシラさんのパワーで頭に当たれば死にかねない。僕は逃げるより盾と剣で受けることを選んだ。
ポワーン。
やられた。全力で打ち込んで来ると思ったハルバートは簡単に止められ僕の両手は上段で構え、胴の部分に大きな隙が出来てしまっていた。
アラナはそれを見逃さずに斬りかかってくる。胸の革鎧を真っ二つにして、僕の胸に大きく傷を付け血が吹き出た。
寸前で後退しなければ胴体が切り離されてた。僕の後退を見越してかハルバートを捨て眼前に躍り出たプリシラさん。気が付いた時には宙を舞って、家の扉を破壊して床に投げ出された。
蹴られたか。裂かれた革鎧の上から蹴られた僕は、湖畔の時に蹴られたより強く遠くに飛ばされた。骨は折れてない。たぶん粉砕だ。
床に張り付いた時に意識が遠くなる。僕は負けた。モード・ツーが効いていたか分からないけど二人に負けた。薄れ逝く意識の中で僕は敗北悟った。
ドスッ!
意識が一瞬にして戻る。アラナがソードガントレッドを僕の右足に刺し床まで貫通させたからだ。ここまでするのか!? 痛みで我に返るが、返りたくない、このまま意識を深淵の彼方にやりたい。
「団長はここまでしないと安心できないッスからね~。ニャハハハ」
「よくやったぞアラナ。ミカエル! 喰らってやるぞ! 千切れるまで喰らってやる!」
僕の首を絞めながら言わなくても聞こえてますよ。顔が近い。牙が怖い。首に刺さる爪が痛い。あぁ、もう……
「プリシラさん大丈夫ですか。動けますか」
「あぁ、死ぬかと思ったぜ。アラナはどうした」
「こっちで倒れています。たぶん気を失ってるだけですよ」
死ぬかと思ったのは僕の方だ! お前、僕のバスターソードを「わざと」間違えて足に刺さった剣をえぐっただろ! 覚えているぞ。
足を貫かれて動く事も出来ずに僕は戦時報酬を払ったんだ。トロールやリッチを相手に無傷な僕もこの二人を相手に死にかけた。プリシラさんからは爪が出て牙が出て、生きているのが不思議なくらいだよ。
「プリシラさん、そろそろこれを抜いてもらえませんか」
僕は起き上がれないので足下を指差した。床まで貫通したアラナのソードガントレッドは僕の血を吸い出欠多量で死にそうです。
「こんな所にいたのか。怪我は無いか」
この声は…… もう疲れて考える事も出来ない。
「ローズ、こんな所で何やってんだ」
ローズ、白薔薇団のローズさんか。防衛戦に参加してたのか。どうしてここにいるんだ。オーガはどうなった。
「オーガの残党探しだよ。街の半分は崩壊したけど全滅させたぜ。今は残党がいねえか探してるんだ」
良かった。街は残念な事になったけど勝てて良かったよ。あぁ、本当に良かった。あぁ、本当に足が痛い。
「ローズさん白百合団の……」
「ご苦労なこったな。あたいらは早々に終わらせて喰らってたぜ」
「たいしたもんだ。食い意地がすげぇ」
「お前らも喰ってくか。朝食ならここにあるぜ」
「いいのか。遠慮しねぇぜ」
「遠慮するなよ、戦友」
「ありがたいぜ、戦友」
馬鹿ですか? 馬鹿なんですね、あなた方も。裸で串刺しにされている人の隣で交わす会話ですか? 痛いんですよ。串刺しなんですよ。血が出てるんですよ。肋骨は粉砕されてるんですよ。
分かりますか? 集中治療室に入ってもいいくらいなんですよ。何で増えてるんですか。リースさんや魔法使いのノーラさんとニコールさんまで当然の様に僕を囲んで見下ろしてるぞ。まるでアステカの生け贄の気分を味わってる感じだよ。
「暴れるようなら刺さってる剣をえぐりな」
てめぇ、死ね。マジ、死ね。絶対、死ね。
「ミカエル団長、あたいらはプリシラとは違うぜ。優しくしてやんよ」
優しくしてね。怪我人だから……
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