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第百二話
しおりを挟む静な東門。異様な地響きを聞かせる北門。どちらのライブ会場に向かうかなんて決まってる。
オリエッタの事が心配だけど、あの娘が殺られる所は想像出来ない。特に装甲服を着たオリエッタが暴れだしたら、それを止められるのは僕の愛の力くらいだろう。 ふむ、一人だと誰もツッコミを入れてくれないのか……
心配なのはクリスティンさんの方だ。地響きと言えば黒炎竜を思い出すけど、不幸にも~では黒炎竜の心臓を止めるのに少しの時間が掛かるみたいだ。それに、この地響きはもっと大きい様な気がする。
「オリエッタ、ここにいたんですか心配しましたよ」
オリエッタは北門の城壁に備えられていたバリスタの修理をしていた。投石機なら見た事はあるけど、バリスタをこんなに近くで見たのは初めてだ。大きなボウガンなのだろうけど、これならトロールだって射ぬける。
「団長~、バリスタを使えるようにしました~」
昨日のハーピィの空爆で壊れたバリスタを直していたのであろうオリエッタは、本当に気が利くいい娘だ。だけどねオリエッタ、スク水姿で直さなくてもいいんだよ。周りの男の視線が気になる、散れ! その目を抉るぞ!
「オリエッタ、ドロンを飛ばして下さい。この音の正体を知りたい。それとその姿で人前には出ないように」
形は白のスク水だが生地が違う。少し透けて見えてしまうのは汗をかいてしまったからか。今度は色の濃い、紺色のを作ってもらおう。
「はい、は~い。装甲服に着替えてドロンを飛ばします~」
うん、やっぱり可愛い。
そうじゃなくてよ。城門の外は暗闇が広がり音はするけど姿が見えない。トロールやオーガの大軍、と言うよりもっと少ない。僕は北門にやって来たクリスティンさんを見つけ、話を聞いたが謎の音の正体は分からないと言う。
本来、僕達は対人戦がメインだから、大きいのがいてもゴーレムくらい。ゴーレムだって見る事は少ない。それよりも大きいのは……
「団長~、見えました~。北門の前方には一体だけの熱量が反応してます~」
嫌な報せだ。大軍でも嫌な報せだからどっちも同じか。僕は城壁を駆け上って暗闇を凝視している指揮官に大きな敵が一体だけ向かって来る事を伝えた。
「分からん。暗くて見えんし、大きな一体などドラゴンでも来るのか」
魔物には詳しくない僕には大きな一体の判断が付かない。態度の大きい一体なら知ってる。胸も大きいが。
地響きだけが暗闇中で存在感を現す。城壁から見る者、城門の側にいる者、全てが一つの音に集中している時に光が見えた。
暗闇の中で照らし出され、そいつが現れた。
「あっ、でっかいトカゲだ」
「サンドドラゴンだ!」
ヤバ、恥ずかしい。思わず口にしてしまったそいつがドラゴン、翼は無いけどドラゴンだ。光に浮かび上がっている姿は威風堂々。茶褐色の肌がサンドドラゴンを不気味に映し出す。
なんだよ。主役が登場するとライトアップされるのか。今度、僕にもやってもらいたい。
「魔岩が飛んで来るぞ!」
ライトアップされた主役が闇に消えて数秒後、何個のも大岩が城門を目掛けて飛んで来た。木製の城門など大岩の前では紙のごとく簡単に破られる。
なんて派手な登場なんだ! チャンピオンロードのつもりか! 舐めやがって。と、言って舐められても仕方が無い。あんなデカいトカゲにパクリと食べられたら一貫の終わりだ。
「次が来るぞ! 逃げろ!」
言われるまでもない。僕は城壁を飛び降りてオリエッタの胸に飛び込んだ。だけど、装甲服に飛び込んじゃダメだね。思ったより痛いから。次は装甲服を着てない時にしよう。
城壁には大きな岩が音を立てて突き刺さりバリスタにも直撃し跡形も無くバラバラになった。せっかくオリエッタが直してくれたのに、使う事もなく木片になる。
「あれの弱点とか知りませんか!?」
「首を落とせば死にます~」
それを弱点とは言いません。首を落として死なないのは何処かの侯爵くらいなものです。しかし困ったな。あんな遠距離からの砲撃に対処なんて出来ないよ。このまま撃たれ続けていたら城壁が持ちこたえられない。思案している中で指揮官は次の作戦を伝えた。
「聞け! サンドドラゴンは魔岩を打ち出してる。我々はコアトテミテスの内側まで来た所を叩く。それまでは隠れるんだ」
それはいい考えだけど、サンドドラゴンがコアトテミテスの中まで入ってくる保証はないぞ。僕がドラゴンだったら遠距離砲撃で終わらせる。あの巨体なら接近戦は苦手だし近くで戦うのはいいだろう。やるなら魔岩を掻い潜って接近戦に持ち込むしかない。
「オリエッタ、トロールやオーガの姿はありますか」
「全然無いです~」
これなら接近戦に持ち込んでもサンドドラゴンだけに的を絞れる。てっきり接近戦用に護衛とかしてるのかと思ったよ。これで問題は二つだけだ一つは僕のショートソードで傷を付けられるのか。もう一つはどうやって近くに寄ろうか。
「オリエッタ、何か大きな武器はありませんか。ショートソードでは傷を付けられそうに無い」
「オリちゃんのハンマー使いますか~。それともプリちゃんのハルバートの予備~」
ハンマーは無理。装甲服を使わないでバイク並み大きさのハンマーを使える貴方は何者ですか。僕より小柄で腕も細いのに、何処からあのパワーが出ているのか、そのうち体の隅々までじっくりと調べたい。
「ハルバートを下さい。これから僕達は討って出ます。クリスティンさんは軍団に馬を用意して。オリエッタは馬の速さに着いてこれますか」
「遅くなって行きます~」
「分かりました。オリエッタは城門を通れるようにして下さい。僕はバリスタの矢を拾いますので後で軍団に持たせて下さい」
バリスタの矢。矢と言っても巨大な槍の様な物だ。先端には魔法属性が付いているのでサンドドラゴンにも少しは効くかな。
「おい、お前何をやってる! 早く隠れろ」
矢を拾ってます。指揮官にしてみたら勝手な事をやってるんだから怒られても仕方が無いか。でも貴方の考えは間違ってると思うよ。
「白百合団、団長のミカエル・シン男爵です。僕達は討って出ますので力添え出来る方はお願いします」
「せ、殲滅旅団……」
白百合団です! 一応、百合の様に可憐な傭兵団なんですけど、見た目は。僕は矢を拾いながら簡単な作戦を説明したが、やっぱり受け入れてはもらえなかった。
「……団長。馬は二十ほど用意が出来ました」
いいタイミングだ。馬には二人づつ乗せ槍を持たせた。馬も槍も全員分は無いけれど乗れない者は槍を探してから追い付くように伝え、僕はクリスティンさんと騎乗の人となる。
僕にはハルバートを。使った事もないし何より重い。これ自体に超振動が付いているから攻撃力はあるんだろうけど振り回せるだろうか。
「出発!」
北門を二十騎に四十人が乗りバリスタの矢は十五本を持って出た。街の明かりが照らさなくなった所で進路を西に取り暗闇の中を早駆で進む。思っていた以上に怖い。明るいうちに外は見ているけど、暗闇の中を走るなんて考えている以上に怖かった。
オリエッタは装甲服を着込んでいるので人が走るよりも早いが馬には追い付けない。サンドドラゴンにはオリエッタのパワーが必用だろう。
サンドドラゴンが光に浮かび上がる。また魔岩をコアトテミテスの街に放っている。こちらには気がついていない。
二十騎の精鋭がサンドドラゴンに挑む。
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