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第八十話
しおりを挟むリザードマン掃討戦。マノンさんの思いも、帝都への水の供給も、今日ここで終らせる。
「ソフィアさんもドロンの扱い方は大丈夫ですね。森の方を探って下さい。正面のリザードマンが余りにも少ない」
騎士達は正面に五十、森に二百を別けて前進しているがリザードマンも防護柵に隠れているのが五十くらいか。残りはおそらく森の中に待機して襲い掛かるか森の方へ迂回して騎士団の横を突くと思っている。
イザベル嬢も同じ考えの様にみえて湖畔の五十の進撃速度は遅く弓の射程に入ったら止まるだろう。その上で森の騎士を警戒させながら前進させて、横から攻められないように警戒しているはずだ。
ドロンで敵の位置が分かれば、僕達は騎士達をさらに迂回して森の方に参戦する。ほぼ乱戦になるだろうが僕達が戦っても騎士達は満足してもらえるだろう。
しかしソフィアさんから敵の報告は無かった。森に別け行った騎士達の前方にいると思っていた敵がいないなら逃げたのかも、なんて考える前にソフィアさんの索敵の範囲を広げてもらおう。報告通りの数なら後二百はいるはずだ。いったい何処に行った?
湖畔の騎士の弓が射程に入った時、大量の矢がリザードマン目掛けて撃ち込まれる。元々、リザードマンの鱗は鎧並みに強靭と言われている。その上、鎧まで着けているなんて、寒がりなのかな。イザベル嬢は矢の効き目が薄いと感じ騎士達をなお前進させた。
リザードマンからは矢も魔法も飛んでくる事は無かった。リザードマンに飛び道具無し、と見たイザベル嬢はなおも弓矢での攻撃を繰り返し矢も尽き欠けた思われた頃、湖の芦が不自然に揺れた。
「湖に敵影!」
騎兵の一人が叫ぶ。リザードマンは湖の芦に身を潜め騎士達が来るのを待っていたのだ。五十の湖畔の騎士達はいきなり湖から表れたリザードマンに横っ腹を食い破られる形になってしまった。
「騎兵で突撃する。遅れるな!」
リザードマンのさらに横を突こうとイザベル嬢率いるサムナー家の騎兵達が突撃の為に加速していった。
これで百くらいのリザードマンを確認したが、まだ足りない。後、百は何処に行った? ソフィアさんもまだ見付けられないなら森から進んだ方は順調だ。まもなく先方が集落に着くと思うがリザードマンはどうした!?
「団長。魚の臭いがするッス」
魚の臭いぐらいはするだろう湖なんだから。ここは帝都の水源で巨大な湖なんだから魚やリザードマンやマーメイドが居たっておかしかないよ。
「団長。すごく魚の臭いが向こうからするッス」
アラナさん。魚ぐらいは居るって。そう向こうのリザードマンから匂うくらいに。
「なにっ!?」
いる。いる。リザードマンが。湖を泳いで来てたのか。騎士の側面を突いて援護に回った騎兵のそのまた後ろからリザードマンが攻める作戦か! このままなら包囲されて全滅だ。包囲に包囲を被せて来るなんて、なかなか洒落た作戦を思い付いてくれる!
残念だけど百なら何とかなる、と思う。リザードマンがどれ程、堅いか知らないけど黒刀ならいける、と思う。返すのが惜しくなってきた。
「クリスティンさん、アラナ、回り込んできたリザードマンを討ちます。あれを倒せば勝てますので戦時団則を行使します。報酬はサービス二倍で」
二人の目が輝く。余程、報酬に目が眩むのね。だだ一人、ドンヨリした目の酔っぱらいがやって来やがった。
「報酬の話、ウソじゃねぇだろにゃ」
呂律が回ってませんよプリシラさん。貴方はベッドを暖めておいて下さい。その方が平和かも知れませんから。
「プリシラさん。無理はしないで下さい。後は僕達で何とかしますから」
「あ~気持ち悪りぃ。飲み過ぎたかにゃ」
「にゃ」って言うのは可愛いけど酔っぱらいが戦えるほど戦場は甘くないぞ。プリシラさんの肌に傷付く様な事があったらどうするんですか。
「つまんねぇんだよ。こんなクソみたいな仕事に飽き飽きしてるんだにゃ。ここで殺らなきゃやってらんねぇんだにゃ」
プリシラさんには窮屈な仕事だったんだね。楽な仕事で、ゆっくりという考えは無いみたいだ。
「本気ですか!? 死にますよ」
「死ぬのが恐くて白百合団なんかやってられるか」
あ~、このバカ女、最高だよ。
「プリシラさんは僕の後ろに乗って下さい。時間がありません。行きますよ」
僕はプリシラさんを馬に引き上げ後ろに乗せた。途端に変な所を触るプリシラさんの手をほどき、手を腰に回させて三騎の馬はリザードマンの迂回部隊に向かう。
リザードマンは既に隊列を組んで槍を全面に突き立てながら前進していた。リザードマンにとってはたかが三騎の人間の馬など気にする程でもない。ただし、その中の一人は最高に不機嫌で最低に酔っぱらって、女神と言えるほど美しい。
「プリシラさん!」
あのバカ、勝手に馬から跳ねて隊列の中央まで飛んで行きやがった。落ちて行った先のリザードマンは既にバラバラになって周りが囲むように槍が向けられた。
「プリシラ! 無茶しやがって! アラナ突っ込むぞ。クリスティンは外から心臓を破れ!」
プリシラさんに声が届いたのか手を上げて返事を返してから腰を曲げて吐いていた。飲み過ぎなんだよ、バカ女。そこで待ってろ。
馬を手近なリザードマンにぶつけて僕も飛び降りる。馬に乗って戦える武器など無い。その代わり不死の女王を倒した黒刀がある。
「神速!」
邪魔するな。リザードマンがどのくらい固かろうと着ている鎧が強靭だろうと俺の邪魔をするな。リザードマンの血飛沫と悲鳴が飛び交い俺は進む、プリシラさんの元へ。
「プリシラさん大丈夫ですか、一人でイクのは無しですよ」
「あ~、吐いたらスッキリした。……遅せぇんだよ、てめぇは。あたいとイキたかったら付いてきな」
「ご冗談を。イかして欲しかったら付いて来て下さい」
「クソ野郎が。先にイクんじゃねえぞ」
あぁ何と言えばいいのだろう。クリスティンさんもアラナもいたのだけど、僕にはプリシラさんしか見えて無かった。リザードマンを斬りながらもプリシラさんの事から目が離せなかった。プリシラさんも僕の事を見ている。
リザードマンの剣をかわし、斬りつけ返り血を浴びながら断末魔の中に立つ二人。目を離さなくても戦えてしまう二人。プリシラさん、貴女は最高です。
逃げ惑うリザードマンを追う必要は無かった。僕達は近付き向き合い見つめ合う。
「終わったな……」
「終わりましたね。後は……」
イザベル嬢の所に救援として向かえば終わりだと、言うより早くフルパワーの蹴りをもらった。ダークエルフは蹴りをもらって五メートルも飛ばされ、あばら骨を折られた。僕はダークエルフより重いし装備の重量もあるのに十メートルは飛ばされた。距離が倍なら折れる骨も倍。
「ぐはへっ」
カッコ悪い悲鳴を上げて地面に叩きつけられる。すかさずアラナが馬乗りになって僕を押さえつけた。
「団長、戦時報酬のファーストキスは頂くッス」
ま、待てアラナ。今のお前の状態が分かっているのか。ヌーユの殿で見せた時同じように猫目で毛が逆立ってる、牙が出てる。
「ふ、おごっ、ぶっおっ、おっご」
一分ほど口の中をねぶられたであろうか、アラナは満足そうに唇と牙を離した。僕は歯槽膿漏でも無いのに口から血を吐いた。
「満足ッス」
僕は不満足です。
「アラナはガキだな。大人のキスをよく見てろ」
プリシラさんのセカンドキスはとろける様なゲロの味がした。
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