48 / 292
第四十八話
しおりを挟むフクロウ団。百人を越える傭兵団で団長はダン・ラッセル。救援もしないで、我先にと戦場から逃げ出した者たち。
いつか見つけたら殺して…… 殴ってやりたい人が目の前に現れたら、どうするだろう? ちなみにこの世界の人の命はとても安い。 そして僕はチート持ち。
マクジュルの王都まで行った僕達はその日のうちにギルドから報償金をもらい装備を整えて宿でゆっくりする計画があったが、ダン・ラッセルを見つけて予定を少しだけ変えた。
「アラナ、先にこの荷物も持って帰っていて」
「何か急用ッスか」
「大した事ないよ。知り合いがいたから挨拶してくるよ。夜には戻るからベッドを暖めておいて」
今日の輪番はアラナだったか。用事を済ませて早く帰ろう。べつにダンを殺そうなんて考えてはいない。一発ぐらいは全力で殴りたいけどね。
僕はダンが三人の傭兵を引き連れて宿屋に併設された飲み屋に入るのを見届けて…… どうしたものか?
正面切って殴りに行くか? ここは宿屋だ、フクロウ団が居ないとも限らない。さすがに百人はいないだろうけど、こんな密閉空間では速さを活かす前に押し潰されそうだ。
諦めるか? 次に会えるかどうか分からないのに、逃がすのも嫌だな。それに早く帰ろう、アラナが待ってる。
宿屋のドアを開け飲み屋の方に行くとダン・ラッセルは一番奥ので飲んでいた。周りの人達は傭兵らしき武装した人もいるが殆どは一般人らしい。これで全員が敵と言う事は無くなった。
先制攻撃を仕掛けるつもりが先手はダンに取られる。奥に座っていたのは周りを見渡す為もあったのか。
「これは白百合団のミカエル・シン団長。殿のお勤めご苦労様でした。お怪我がなくて何よりです。 ほら、席をお譲りして……」
先に帰った割りには良く知ってる。本当なら懐に入って見下ろすはずだったけど仕方がない。
「お久し振りです。ラッセル殿。立ったままで大丈夫です。お気遣いなく」
座っていたら斬りにくいし殴りにくい。そして逃げにくい。ラッセルもテーブルの横に立つものだから、連れの人も立ち上がり五人でテーブルの回りで立っている姿は少し異様だ。
「失礼します」
この異様な風景に終止符を打つには座るしかないだろう。剣を右手に持ち直して敵意が無いことを示すが、敵意はいっぱいあります。
他愛もない挨拶をしてから僕から話を切り出した。さっきから、真後ろに立っているフクロウ団の団員が僕の「つむじ」を見てる様で気になるけど。
「ラッセル殿に二つ聞きたい事があります。第七部隊の後退時に何故、援護をしないで撤退したのか。もう一つは全軍撤退時に逃げ出した理由」
少し強く言い過ぎたかな、座っていた二人の傭兵が立ち上がりラッセルが座るように促していた。
「それは誤解と戦略ですよ。前者に関しては第八部隊の指揮官にしたがっただけ、後者に関してはプロメリヤの部隊が攻めて来るのが分かっていたからです」
「出来ればもう少し詳しい説明を頂きたいんですがね」
こんなので納得出来るわけがない。こっちは命がかかっていたんだ。
「その前にミカエル団長は、どのような考えで団を率いているのですか」
「どのようって……」
「私は出来るだけ団員が死なないように指揮をしています。戦争やっていて「死なない」と言うのも変ですね」
クスッと笑う子供の様な笑顔と白い歯。これに惚れる女は多いのだろうから、イケメンはムカつく。
「先ほどの説明ですが、第七が後退する時は第七部隊が他の前線部隊より突出し過ぎて援護にまわれば第七と第八が敵の投石器に喰われると進言したからですよ」
確かに突出し過ぎたかも知れない…… 敵が脆くて前線の味方の進撃が遅くなるとは思わなかった。
「二つ目ですがプロメリヤとハリヌークが手を組んでいたと見ています。プロメリヤが後退したと見せかけてマクジュルを両国で挟み撃ちする計画だったと思っていました」
「そこまで分かっていたならマクジュルに進言はしたんですか!」
「しませんよ。しても傭兵の言う事を貴族の皆さんが聴くはずもありませんしね。我々はマクジュル軍に付いて歩くだけで命を散らす事もなく、お金を稼がせてもらいました」
「そ、そんなの傭兵じゃない!」
「傭兵ですよ、我々は。ミカエル団長とは考え方が違うだけで、死んで殺してお金を稼いでいるだけの傭兵です。ただ団員が死なないように工夫をしているだけですよ」
「……」
「ミカエル団長は団員の事をどう思っているのですか」
「……」
「団員は「駒」ですよ。貴重な駒です。誰にも死んで欲しくはないですし、必要なら死んでもらう事もある駒です。必要な情報を集める事にお金を使うし助ける為に見捨てる事もしなければ生き残る事なんて出来ませんよ」
「……」
返す言葉が見つからなかった。僕は白百合団をどう思っていたのだろう。戦いを好み人の命も何とも思わない団員達。夜になれば輪番だ血だ記憶だと好き放題やったり、やられたり。
何も言わずに席を立った。言えなかった方が正しいんだろう。情けない。
宿屋のドアを抜けて外に出ると、もう暗くなって魔法で点いている街灯が幾つか見えた。
「団長。終わったッスか」
振り返らなくてもアラナの声で分かる。
「終わったよ。帰ろうか」
僕は振り替えれなかった。今はアラナの顔が見れない。僕は団長として間違っているのだろうか。みんなの命は何よりも大事だ、それは正しい。だけど駒の様に扱うなんて考えた事もない。見捨てるなんて論外だ。
ダン・ラッセルの言う事にも正しい事もある。彼だって団員の事を考えての事だろう。僕は一人一人の戦闘力に頼りすぎてるのか。あの位の殿ならやれると思っていた。
「団長、何か難しい事を考えてるッスか」
「うん? 大丈夫だよ。宿題が出ただけだよ」
宿題をもらったよ、この年になって。難しい、難しい宿題だよ。
0
お気に入りに追加
401
あなたにおすすめの小説
俺のスキル『性行為』がセクハラ扱いで追放されたけど、実は最強の魔王対策でした
宮富タマジ
ファンタジー
アレンのスキルはたった一つ、『性行為』。職業は『愛の剣士』で、勇者パーティの中で唯一の男性だった。
聖都ラヴィリス王国から新たな魔王討伐任務を受けたパーティは、女勇者イリスを中心に数々の魔物を倒してきたが、突如アレンのスキル名が原因で不穏な空気が漂い始める。
「アレン、あなたのスキル『性行為』について、少し話したいことがあるの」
イリスが深刻な顔で切り出した。イリスはラベンダー色の髪を少し掻き上げ、他の女性メンバーに視線を向ける。彼女たちは皆、少なからず戸惑った表情を浮かべていた。
「……どうしたんだ、イリス?」
アレンのスキル『性行為』は、女性の愛の力を取り込み、戦闘中の力として変えることができるものだった。
だがその名の通り、スキル発動には女性の『愛』、それもかなりの性的な刺激が必要で、アレンのスキルをフルに発揮するためには、女性たちとの特別な愛の共有が必要だった。
そんなアレンが周りから違和感を抱かれることは、本人も薄々感じてはいた。
「あなたのスキル、なんだか、少し不快感を覚えるようになってきたのよ」
女勇者イリスが口にした言葉に、アレンの眉がぴくりと動く。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
転生したら男女逆転世界
美鈴
ファンタジー
階段から落ちたら見知らぬ場所にいた僕。名前は覚えてるけど名字は分からない。年齢は多分15歳だと思うけど…。えっ…男性警護官!?って、何?男性が少ないって!?男性が襲われる危険がある!?そんな事言われても…。えっ…君が助けてくれるの?じゃあお願いします!って感じで始まっていく物語…。
※カクヨム様にも掲載しております
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる