異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第二十二話

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 依頼の演習の事が心配になってきた。記憶では演習地に行くと言って反乱貴族の屋敷に向かうはず。
 
 
 僕達が集合場所に集まると他の傭兵団やらフリーの傭兵。冒険者らしき人もいて全部で百人ほど集まり、国家騎士団の約五十人も含めて演習地に向かった。
 
 貴族の屋敷の数キロ手前で本当の事を話されたが、断ったのはフリーの何人かで人数的に変更は少なく僕達は陣の左翼をフリーの傭兵達と組ながら進み、中央と右翼は他の傭兵団が受け持っていた。国家騎士団は中央の後ろ。先陣は使い捨ての傭兵と決まっているからね。
 
 進撃が始まると先方で爆発が起こった。幸にも白百合団のメンバーに怪我人は出なかったが爆発の仕方が気になる。
 
 「地面がいきなり爆発した」
 
 所々で聞こえる声から判断すると貴族様は待ち受けていたようだ。ご丁寧にも地面に地雷を撒いて。これで向こうも戦う気があるのが分かった。白百合団が喜ぶ姿が目に浮かぶ
 
 「ルフィナ、ゾンビを出して道の確保をして下さい」
 
 「そんな事をしたらゾンビが爆発するのである」

 喜ばないのが一人いたか。その為のゾンビだろうに。人の命よりゾンビが大事なんて変わってるよ。人間を先に歩かせる訳にいかないでしょ。
 
 「後で作らせてあげますよ。地面の仕掛けを排除しなくてはいけません」
 
 他の傭兵団はボロボロになるだろうけど仕方がない。左翼と、国家騎士団があれは地方貴族くらいなんとかなるだろ。僕達はルフィナが思っていたより多くのゾンビの屍を辿って屋敷までたどり着き、「話が違うのである!」と、ルフィナに胸ぐらを捕まれた。
 
 
 屋敷に着いたのは僕達、白百合団の七名と無傷の十名と怪我をしたけどソフィアさんに治してもらって、直ぐに戦線復帰させられた有給を貰えなかった八名の計二十五名。
 
 地方貴族と思って舐めていたかな?    この位の貴族なら傭兵を入れても百名ぐらいの戦力と思っていたのに。でも、残った兵力でも充分、鎮圧が出来そうだね。しかし、屋敷を囲むように三メートル近い壁が立ちはだかる。
 
 「オリエッタ。この壁、何とかなる?」
 
 「はい~。問題ないです~。■■■■・大鎚」
 
 僕一人ならこれくらいの壁なら飛び越えられる。だけど、壁の向こうで一人ぼっちは嫌だ、寂しい。オリエッタは召喚の錬金術を行い、人が持てそうもないくらい大きなハンマーを持ち出した。
 
  なぜ持てる、その大きさ。オリエッタの身長よりも長く先端はバイク並みの大きさのハンマーを軽々と降り下ろして壁を破壊した。原付……    原付二種くらいか。
 
 錬金術は現代科学の理解を越える。オリエッタの力もそうだけど、「そんなものだ」と、自分に言い聞かせるのが異世界生活の適応力だな。
 
 壁が破壊されて一番に突入したのはフリーの傭兵達。この世界でも一番槍は報償の対価になるので誰でも狙うが僕達は一番槍を狙ってない。僕は怖いから、皆は殺したいからで価値観がずいぶんと違うようだ。
 
 もちろん、頂いたお金の分以上の働きをするつもりだ。現に壁を壊したのは白百合団だからね。壁の中に突入した傭兵達は、敵を見付ける事が出来ずにキョロキョロ辺りを見渡すばかり。
 
 「取り合えず中央と合流しますか」
 
 「「うおぉぉ~!」」
 
 五月蝿いし白百合団に言ったんで、あなた達は勝手にやってくれ。僕はいつの間にかこのグループのリーダーになってる。先頭を切って走る若い傭兵。歳も変わらないくらいなのに元気だなぁと、感心するよ。
 
 僕達は後ろから付いて行く。オリエッタなんか仕事をした気でいるので面倒くさそうに付いて来るんだよね。ハンマーが重いとかは関係ないと思もう、危機意識を持ってもらいたい。
 
 プリシラさんは退屈そうに欠伸をしアラナは注意力散漫。神速を得てから一緒に戦うのは二度目だけど、大丈夫か心配だ。
 
 「オリエッタ、そのハンマーは重くないかい?   手伝おうか? 」
 
 「大丈夫です~。見た目ほど重くは無いです~」
 
 言ってはみたものの「お願いします」と言われたら「やっぱ無理!」と答えるしか無いくらいのハンマーを持ったオリエッタの足取りは、軽いとは言いがたいが皆と同じ速度で走っている。
 
 「団長はこの後はどうなると思いますか~」
 
 「側面には地雷を仕掛けていますからね。正面に兵力を配置で当たりだと思います。このまま行けば後ろか横を突く感じで勝負は決まると思いますよ」
 
 地方貴族くらいに大勢の傭兵を雇う力は無いだろうから力押しでも勝負は決まったと思うけど、準備のいい魔法の地雷が気になる。
 
 「……それなら仕事は終わりです~。 戦時団則を行使したいです~」
 
 何言ってんの?    今の状況が分からないの?    今は二十五人の一団で敵に回り込んでいる最中なんだよ!    ロープで縛って放置してやろうか!?
 
 「オリエッタ、まだ戦闘中ですから後にしましょう」
 
 「私の仕事は終わったです~」
 
 「ほら見えて来ました。あそこで戦ってる味方を助けましょう」
  
 中央の正門付近では傭兵と貴族の軍が、この館の軍勢と戦って、壁沿いを走って来た僕達は側面から攻める形になった。
 
 「今日は私が独占です~」

 そう言うと二人で後ろの方を走って、「ゴールは一緒に」と、誓い合ったオリエッタは急に速度を上げ全員を追い越し一人で敵陣に突き進んだ。
 
 オリエッタが一振りする度に鎧が砕け人が飛び地面が割れ、まるで爆弾を振り撒いている様だった。オリエッタってこんなに強かったのね。ただの「少しだけ変わった」錬金術師だと思ってた。
 
 敵と味方の間を割るように通ったオリエッタの後は、敵も味方もズタボロ状態。オリエッタ、味方を殴るのは止めようね。
 
 「終わったです~」
 
 僕はせっかく買った剣を振るう事も無く、オリエッタ以外は「つまんねぇ」と毒づき貴族の反乱は、ほぼオリエッタの力のみで鎮圧されるかと思った。
 
 この貴族の反乱、表向きは反乱だが裏の顔がようやく出て来てくれてプリシラさんは大喜び、終わって戦時団則を主張したいオリエッタは不満毛だ。
  
 右翼側から出て来たオーガ。何で貴族の屋敷にオーガいるのか、そんな事を考えるより先にオーガの雄叫びが邪魔をした。
 
 「左翼、五人で隊列を組んで下さい」
 
 左翼側の簡易リーダーになってしまった僕は傭兵のうち十人を選んで隊列を組ませてオーガを迎撃しようとしたが……
 
 「行くぞ!    おら~!」
 
 誰が言ったかは振り向くまでもない。やっとの出番かとプリシラさんとクリスティンさん、アラナは呼応して突撃していった。
 
 僕は団長だ。団長なので命令を出せる立場なのに無視して突っ込むなんて、このくらい予定の範囲内ですけどね。
 
 「ソフィアさんは怪我人の介護に回って下さい。特にオリエッタがやったであろう味方を優先で」
 
 コクりと頷くと小走りで正門の方に駆けていくソフィアさんは可憐だ。ずっと後ろ姿を見ていたくなる。出来ればローブを取った姿が所望です。
 
 「ルフィナは行かないの?」
 
 「おかしいのである。オーガがこんな所にいるはずがないのである」
 
 鋭い!    記憶では楽勝のはずなのにオーガが居たなんて聞いてないし白百合団はともかく傭兵あたりは苦戦するだろう。
 
 「どう思う?  貴族の味方をしてるみたいだし」
 
 「殺してから調べればいいである。■■■■・毒の吐息」
 
 ルフィナの口から紫色の霧がオーガに向かって吐き出された。もちろん周りの味方を巻き込んで……    お前もか!
 
 「な、何やってんの?!   味方を巻き込んでどうするの」
 
 「当たる味方はいないのである」
 
 確かにプリシラさん達は避けたけどね。そう言う問題じゃないだろ!    いつか助けてもらうかも知れない味方に毒を浴びせるなんて……
 
 「危ねえだろ、ルフィナ! 」
 
 ほら、怒られた。後でフォローしないからね。プリシラさんは怒ると怖いんだよ。でも、こっちのフォローはしないと。
 
 「ソフィア、ソフィアさん。こっちを先に治して。    ──それと左翼の生き残りは倒れている人を回収して連れて来て下さい」
 
 「あのオーガはなかなか頑丈である」

 確かに頑丈だ。ルフィナの毒の吐息に人間は擦っただけで倒れているのにオーガはまだ戦っている。プリシラさんと互角に。
 
 互角?    おかしい。プリシラさんなら優位に戦っていけるのに。クリスティンさんに迫ろうとしているオーガは胸を押さえながらもゆっくり近付き、アラナにおいては苦戦しているようだった。
 
 何合か打ち合い、最後には力負けしたプリシラさんがバスターソードごと弾け飛ん出来て、大股開いて尻餅を着いた。女の子としては、ちょっと恥ずかしい。
 
 それにしても、プリシラさんが力負けするのは初めて見た。打ち合いの時の破片か、プリシラさんの頬を傷付け血が流れた。
 
 怒りがふつふつと沸き上がる、あぁダメだ、我慢が出来ない。俺の女に傷を付けるなんて!
 
 
 「クリスティン、アラナ。引け!   邪魔だ! 」
 
 あぁ、我慢が出来ない。プリシラに傷を付けた事を。こいつら全員ぶち殺す!
 
 
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