異世界に来たって楽じゃない

コウ

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第七話

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 ソフィアさんと腕を組んで待ち合わせ場所まで降りて行く。待っていたのは心臓麻痺。
 
 
 「ぐはっ!    クリスティンさん、ごめんなさい。許して……」
 
 デートに遅刻されれば誰でも怒るだろうが、ここまで直線的に怒られると死ねる。プリシラさんさえ、僕より早く来ていたんだから仕方がないと思うけど、やはり痛いんだよ。
 
 「彼女はダークエルフなのである。この砦の偵察に来たようである。仲間はいないのである」
 
 先に心配してくれよ。苦しんで、のたうち回ってるんだから。マイペースなのはオリエッタだけで充分だ。それとオリエッタさん、馬車から僕の上着を持ってきて。
 
 「クリスティン、そのくらいにしておけ。あたいだって一時間も待たされてるんだ!」
 
 それは一時間も遅刻してるんだろ。自慢になるか!    クリスティンさんもプリシラさんに言われたら従うのか、心臓麻痺に満足したのか、僕を解放してくれた。
 
 「て、偵察なのにプリシラさんを射った理由は?    げふっ」
 
 「獣に人が襲われていたからである。    ……大丈夫であるか?」
 
 ダークエルフ、初めて見たけど顔がボコボコで良く分からなかったな。エルフとは肌の色が違うくらいで良く知らないから、後でもう一度見てみようか。 
 
 しかし獣に襲われていたってのは酷いな。プリシラさんが傷付くよ。 あの時、首は締められていたんだけどね。
 
 「そのダークエルフの名前と所属先は?    いまはどこにいるの?」
 
 「名前はルネである。所属先はハッキリしなかったのであるが、ハスハント商会の名前は出たのである。ルネは他の女と供に地下牢に入れてあるのである」
 
 ハスハント商会の名前が出るとは思わなかった。戦争になると知って情報集めか。それとも戦争を長引かせるためか。
 
 「んっ?    他の女ってなに?」
 
 「恐らく娼婦か奴隷である」
 
 そっち系の女の人ね。邪魔だし逃がすか、ここで働くか、僕の為だけに働くかにしてもらおう。
 
 「ソフィアさん、地下の女性を任せます。ルフィナは少し休むように。アラナとオリエッタは門の修復をして下さい。プリシラさんは酒を抜いて、クリスティ……」
 
 タイミングがいいね。なぜかいいタイミングで打つ心臓の鼓動。不整脈で打つのは止めて欲しいよ。僕は長生きしたいんだから。
 
 「ク、クリスティンさんは別の仕事があるので着いてきて下さい」
 
 全員に指示を出し、中央広間には二人きり……    そこで寝込んでるヤツは数に入れなくてもいいだろう。この後、何が起こるだろう事をシッテイル筈のクリスティンさんは無表情だ。
 
 手を引いて部屋に行った方がいいのかな?    それとも言葉だけでもいいのだろうか?    無表情のクリスティンさんはどちらを喜ぶのだろう。
 
 手を繋ぎたいが、心臓麻痺は嫌だ。僕は「行きましょう」と、だけ伝えて先に歩き出す。クリスティンさんも後から着いて来る気配を察し、これで良かったと思った。
 
 不意に引かれる左手。強く握る訳では無く、申し訳なさそうに軽く触れる感じと心臓麻痺。思わず右手を心臓に当て痛みを堪える。
 
 クリスティンさんは愛情表現が滅茶苦茶ヘタだ。言えば済むし、立ち止まって居てくれたら手を繋いだだろう。人を引き止める為に心臓麻痺は止めてくれ。僕は改めてクリスティンさんと手を繋いで歩いた。
 
 クリスティンさんは良く言えば静かな人だ。何を考えてるか表情では読み取れない。だからと言う訳では無いが僕の小さなエスが沸き上がる。
 
 僕は腕を折られたり、身体を切られたり、薬を盛られたり、血を抜かれたりするがエムでは無い。どちらかと言えばエスなのだろう。
 
 どエス、では無いけれど、傭兵をやってればエスにもなる。出来ればプリシラさんにもエス気を発揮したいが、間違いなく反撃される。
 
 クリスティンさんやソフィアさん、オリエッタは静かなタイプだから、たまにエス気を出したりはするが、やり過ぎたりはしない。
 
 ある程度、お互いが理解した上でのエスなら愛情表現の一つとして見てくれたら嬉しい。理解を越える範囲に行った時、僕はソフィアさんにペティナイフを食い千切られそうになった。
 
 ここは慎重に。限界ギリギリまで粘ってみたい。昨日から何度も心臓麻痺を喰らって僕のクリスティンさんに対するエス気が沸き上がってるんだ。
 
 僕はクリスティンさんを部屋に通すと壁に押し付け強引にキスをした。プリシラさんもそうだが、クリスティンさんは僕より少し背が高い。下から押し上げる様に胸を揉み、心臓麻痺。限界が近いなぁ。
 
 「ク、クリスティンさん……    もう少しお手柔らかに……」
 
 僕が離れると、クリスティンさんは歩きながら服を脱ぎだしベッドに向かった。もう少し雰囲気を作ってからの方が良かったかな。でも、僕のエス気は止まらないぜ!
 
 後ろから強引にベッドに押し倒す。ボトムスを脱ぎパンツを飛ばして自慢にもならないペティペナイフをクリスティンさんに突き立てる前に、心臓麻痺。今度のは痛い。裸で床を転げ回る。それを感情の無い目で見下ろすクリスティンさん。そんな瞳も綺麗だ。
 
 「……どうぞ」
 
 今度は自らベットに手を付きお尻を付き出すクリスティンさん。さっきのはダメで、今ならいいのは何故だ!?    何か違う事があるのか?
 
 僕は心臓の痛みを押さえて立ち上がる。舐めんじゃねぇぞ、クリスティン!    鋼鉄のペティナイフを突き立ててやる!    痛みを堪え、クリスティンさんのお尻に手を置いて後ろから一気に突き刺した。    
 
 部屋に響く「パンッ」とした肉と肉がぶつかる音。そしてペティナイフに絡み付く甘く暖かい感触は無い。あれ?    続けてもう一度、今度は外さねえ!    ど真ん中目掛け突き刺すペティナイフに感触は無く、音だけが響いた。
 
 おかしい……    どうした相棒。僕はゆっくりと離れると、あのトロールの様な力強さと、ドラゴンの様に火を噴く鋼鉄のペティナイフは、レベル一のスライムの様に頭を下げていた。
 
 相棒ぉぉぉ!    レベル一のスライムではスーパーモデルのクリスティンさんに襲い掛かる事も出来ず、僕は心臓を押さえベットに倒れ込んだ。
 
 
 
 砦の長の部屋には資料や報告書があり、無力感に絶賛襲われ中の僕と、少しでも元気をもらおうとアラナを呼んで資料の検分を始めていた。そして重要な書類を見付けたのはアラナだった。
 
 「団長、援軍が来るみたいッス。数は、「さんじゅう人」ほどで、「よていどおり」の「えんぐん」みたいッス」
 
 「いつ来るか書いてある?」
 
 「予定では明日ッス」
 
 明日か。タイミングが悪かったな。ハールトーク伯爵の本隊は五日後に着予定だったのに。もしかしてハメられたかな?
 
 それはないか。百人で守る砦を落として三十人の援軍はないな。派兵の為の増援かな。三十人ならプリシラさん一人でも大丈夫だからね。
 
 そう言えばプリシラさんのドレス姿は良かったなぁ。 今度、みんなに着てもらおう。クリスティンさんは一番に似合うだろうな。出来れば背中が大きく空いたのが好みだ。
 
 ん?    あのドレスはどこから持って来たんだ?    奴隷にドレスは必要ないし、娼婦なら自前のを持って来る。まさか……    長の趣味。それも無い。    
 
 砦の中庭に行くとプリシラさんとソフィアさんが話をしていたのを見付け、僕はそっと近付き「膝カックン」をしたら本気で殴られた。 
 
 「プ、プリシラさん、昨日のドレスってどこにあったんですか?」
 
 ソフィアさんは少して驚いてプリシラさんの方を見ていた。プリシラさんがドレスを着た時に居なかったんだね。あれはね、本当に良かったよ。
 
 「プリシラさんドレスを着たんですか? 私も着たかったです」
 
 ソフィアさんのドレス姿も見たいけど今はドレスの出所が気になる。ソフィアさんには純白のドレスが似合ってると思うよ。清楚な感じが……    今はドレスの出所だ。
 
 「なんだ、もう一度、見たいのか?  サイズが小さかったけど、なかなかの物だったろう」
 
 あの小ささがエロチックで魅力アップだった。ウエスト、ヒップがキツかった様だけど、プリシラさんは脂肪じゃなくて筋肉だからね。    ……じゃなくて出所が気になるの。
 
 「あれはワインを飲んだ隣の部屋にあった物だよ。他にもあったから、後でもう一度着てやろうか」
 
 何故にあるんだ?    しかも砦の長の隣の部屋に。もしかして……    隠れた趣味。女装癖。癖になって止められないとか。僕も新しい事にチャレンジしてみようか。
 
 「今回の攻略で女を斬りましたか?」
 
 「……たぶん斬ったと思うぞ。鎧を付けていても切り味で分かるからな」
 
 長の隣の部屋にドレスを持った兵隊がいるか?    今回は奇襲に近い形で攻めたから簡単には逃げられないはず。
 
 「ソフィアさん地下の女達はどうなりましたか?」
 
 「ほとんどが砦を出ました。あのダークエルフも出で行きましたよ」
 
 しくじったか!?     慌てて地下で残った女達の所に行ったがそれらしい人物は居なかった。僕が探しているのは、あのドレスのサイズの女。そこのオバチャンは違うから出ていって構わないよ。
 
 「慌ててどうした?」
 
 「失敗しました。あのドレスは砦の長の娘のだと思います。服の派手さから言って若い娘。長の隣にあった事から重要な人物。たぶん砦の襲撃があった時に、ここに逃げ込んで娼婦にでも化けていたんでしょう」
 
 基本的に傭兵は娼婦には手を出さない。勿論、お金を払ってからは手を出すが、後々お世話になるのに殺したりはしない。
 
 「仕方がないさ。人質に出来なくても問題ないだろう」
 
 何をやってるんだ僕は。プリシラさんのドレス姿に見とれて考えが吹っ飛んでた。こんなんじゃ団長失格だ。辞表を受け取ってくれ、頼むから。
 
 「せっかくあるドレスだ。後でみんなで着ようぜ」
 
 考えを切り換えよう。クリスティンさんのドレス姿……    で、無くて、これからの事を。明日には三十人ほどの敵が来るんだから。
 
 「敵が来ました~」
 
 相変わらず軽い感じで話すオリエッタには緊張感が欲しい。オリエッタにはフリルの付いた可愛いドレスを見付けよう。可愛いは正義だ。
 
 「予定より早いですね。数はどれくらいですか?」
 
 「おおよそ三百ほどです~」
 
 「えっ!」
 
 予定は明日で数は三十ぐらいだろ。なんで十倍もいるんだ。もしかして、アラナは字が読めないとかか!?    なんか言い方も変だったし、数を間違ったのか!?
 
 「皆を中央広場に集めて下さい。敵は一気に来ますよ」
 
 
 これは逃げだな。攻めるのなら二百ぐらいまでなら何とかなるけど守りは数が劣るだけ穴が開く。空いた穴から攻め込まれても僕は剣は振るえない。

 
 
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