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アウェイの洗礼
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「かーちゃん、オレ仙台に行っていいかな」
ハルは藤堂監督の誘いにすっかり乗り気になっていた。ハルの実家は定食屋を営んでおり週末は繁盛していつも人手が足りないので、ハルはしょっちゅう接客をやらされている。
「なに馬鹿なこと言ってんの。休みの日はお店手伝って貰わないと、、」
いつもかーちゃんの口癖かの様に聞かされているが、今回ばかりはハルは一歩も引かずに最終的には条件付きで仙台に行くことに決まった。
◇◇◇
監督の車で山形自動車道に乗って2人で2時間弱のドライブの予定だ。この機に監督にじっくり今回のことを教えて貰おうと思っていた。
「ところで何でお前がついて来るんだ」
ハルの隣りには幼なじみでチームのマネージャーのアオイが座っている。ちなみにアオイはクラスの女子の中で一番強いんじゃないかとオレは思っている。
「だって、せっかくハルのカッコいいところが見れるんだし、いいじゃん」
いつもそう言ってアオイは何処にでもついて来る気がしているが、今回かーちゃんが果たした条件だから仕方がない。アオイはいつもオレのプレーに口を出してきて、しかもそれが図星なもんだから敵わない。でも本当によく観察していると思う。そもそもアオイはそんなに勉強熱心だったかなあ。
窓からは雪を被った春先の月山の峰々がオレたちを見つめている。
◇◇◇
「やっぱ、ジュニアはレベルが違うな」
ここはJリーグのエボルタ仙台の育成チームとなっており東北地区から集まった精鋭たちが活躍している。特にあの10番はずば抜けている、前線への飛び出しがとにかく速い。藤堂監督は自身の分析眼ですぐさまチームの状況を把握した。
「これからハルが参加するのはあのチームだ」
全員が5、6年の上級生で構成されている選抜チームだ。正直ワクワクして仕方がない。オレの実力が何処まで通用するのか試してやろうと思ってここまでやってきたのだ。
ピッピーー。
けたたましいホイッスルと共に7対7の紅白戦が始まった。オレはいつものボランチのポジションでゲームに参加しているが、何かしっくりこないとこがある。
どうやら練習生のオレには積極的にパスを出そうとしないようにも感じるシーンが増えてきた。オレ以外は全員育成のメンバーだから、確かに普段の練習通りのパスワークの息が合っている。
でも、これは確かに連係が取れている様に見えるが枠にハマり過ぎて攻撃への転換に遅れているんじゃ無いか。もっと伸び伸びとやっても良いんじゃないかな、そんな事を考えながらプレーをしているその時、
「よしっ、チャンスだ」
すかさず相手のトラップが半歩大きくなったところにカットに入りボールを奪うと、1タッチして右足で相手の僅かな隙間を突く強烈なスールーパスを前線に送り込んだ。
「長いんだよ」
センターフォワード小室の走り出しが遅れ、一歩分追い付けずタッチラインを割った。
──何かが噛み合わない。どうしたらいいんだ。
ハルはアウェイの洗礼に戸惑いを隠せない。
To be continued.
ハルは藤堂監督の誘いにすっかり乗り気になっていた。ハルの実家は定食屋を営んでおり週末は繁盛していつも人手が足りないので、ハルはしょっちゅう接客をやらされている。
「なに馬鹿なこと言ってんの。休みの日はお店手伝って貰わないと、、」
いつもかーちゃんの口癖かの様に聞かされているが、今回ばかりはハルは一歩も引かずに最終的には条件付きで仙台に行くことに決まった。
◇◇◇
監督の車で山形自動車道に乗って2人で2時間弱のドライブの予定だ。この機に監督にじっくり今回のことを教えて貰おうと思っていた。
「ところで何でお前がついて来るんだ」
ハルの隣りには幼なじみでチームのマネージャーのアオイが座っている。ちなみにアオイはクラスの女子の中で一番強いんじゃないかとオレは思っている。
「だって、せっかくハルのカッコいいところが見れるんだし、いいじゃん」
いつもそう言ってアオイは何処にでもついて来る気がしているが、今回かーちゃんが果たした条件だから仕方がない。アオイはいつもオレのプレーに口を出してきて、しかもそれが図星なもんだから敵わない。でも本当によく観察していると思う。そもそもアオイはそんなに勉強熱心だったかなあ。
窓からは雪を被った春先の月山の峰々がオレたちを見つめている。
◇◇◇
「やっぱ、ジュニアはレベルが違うな」
ここはJリーグのエボルタ仙台の育成チームとなっており東北地区から集まった精鋭たちが活躍している。特にあの10番はずば抜けている、前線への飛び出しがとにかく速い。藤堂監督は自身の分析眼ですぐさまチームの状況を把握した。
「これからハルが参加するのはあのチームだ」
全員が5、6年の上級生で構成されている選抜チームだ。正直ワクワクして仕方がない。オレの実力が何処まで通用するのか試してやろうと思ってここまでやってきたのだ。
ピッピーー。
けたたましいホイッスルと共に7対7の紅白戦が始まった。オレはいつものボランチのポジションでゲームに参加しているが、何かしっくりこないとこがある。
どうやら練習生のオレには積極的にパスを出そうとしないようにも感じるシーンが増えてきた。オレ以外は全員育成のメンバーだから、確かに普段の練習通りのパスワークの息が合っている。
でも、これは確かに連係が取れている様に見えるが枠にハマり過ぎて攻撃への転換に遅れているんじゃ無いか。もっと伸び伸びとやっても良いんじゃないかな、そんな事を考えながらプレーをしているその時、
「よしっ、チャンスだ」
すかさず相手のトラップが半歩大きくなったところにカットに入りボールを奪うと、1タッチして右足で相手の僅かな隙間を突く強烈なスールーパスを前線に送り込んだ。
「長いんだよ」
センターフォワード小室の走り出しが遅れ、一歩分追い付けずタッチラインを割った。
──何かが噛み合わない。どうしたらいいんだ。
ハルはアウェイの洗礼に戸惑いを隠せない。
To be continued.
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