ファンタジスタ 〜アオの奇跡〜

戦慄のゴール

──後半15分、東山小対新庄小の決勝戦は0-1で新庄小リードのまま終盤を迎えています。
新庄小エースの成宮を中心としたコンパクトなパス回しに、東山小のイレブンは全くと言っていいほど手が出ない状況です。

「へへっ、このまま逃げ切るんだ」

成宮が余裕の笑顔を見せながら、時間を弄ぶ。

そこに東山小のサイドバックの武藤がひさびさのパスカット。なんとか前に蹴り出すのが精一杯か。右ウイングが何とか追いつきフワッと力の無いボールを中に入れるがそこには誰もいない。

その瞬間、

「ゴ、ゴール、、」

膠着状態を破ったのは東山小4年、後半残り5分から途中出場のハルだ。右サイドからのセンターリングに見事に追いつき、左足からの豪快なボレー弾を決めた。

「どうしてアレが決められたんだ、、」

ゴール前のセンターバック2人を一瞬で交わしたと思ったら、相手選手はハルのポジションを完全に見失っていた。

「ヨッシャ、もう一点だ」

ハルはゴールネットに駆け寄り、すぐさまボールを手に取ってセンターサークルへ駆けて行った。

残り時間1分。1-1のドローが見え誰もが延長戦突入を予想していたその時だ。

センターサークルを超えて敵陣に入ったその時、成宮のドリブルを一瞬で交わして直ぐにキックモーションに入る1人の少年。

「ハル、この距離は無理だろう」

武藤が叫ぶが、既にハルの右足が物凄いスイングスピードで斜め45度の角度から振り下ろされた。

ハルのボロボロに使い古されたスパイクは、親指の付け根の部分が異様に擦り減っておりインフロントキックの練習量を物語っている。

美しい旋回運動から放たれたボールは大きな弧を描きながら青い空を舞い、その2秒後には右ゴールネットに突き刺さっていた。

一瞬、選手そして観客席の間に沈黙の時間が流れた。まるで1997年にロベルト・カルロスが対フランス代表戦で見せたフリーキックを見ているかの様だった。

そしてここで試合終了のホイッスルが鳴り、山形県予選を制した東山小が全国大会への切符を手にした。

「そんな、、、」

たった1人に負けた。選抜代表の成宮は絶対的な自信を持っていたドリブルをいとも簡単にカットされた事実を認めようとはしなかった。きっとまぐれだろうと高を括っていた。

しかしハルの天才的な足下のコントロール技術は、ユースでも通用するレベルだろう。若干10歳のハルの才能を見出した藤堂監督は、相手選手の驚きとは裏腹に、既に冷静な分析とプランを考えていた。

「ハル、来週から仙台で始まるジュニアの練習に参加してみないか」

「えっ！？」

ここからハルの新たな舞台が始まるのであった。

To be continued.