父からの贈り物

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父からの贈り物

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今はネットから注文すれば何でも何処にいても届くようになった。そして今や300万人もの人たちが「荷物を送り届ける」という使命を全うしている。

──もしかしたらサンタさんの仕事も奪ってしまっているのかも知れない

私のおじいちゃんもその一人だ。毎日朝早くからみんなの家庭に荷物を届けている。いつも自転車で汗を滴ながら町内を奔走して、疲れたときは木陰で休憩しながらお茶を飲む。そんな毎日を過ごしている。

ある日奇妙な荷物を手にした。それは「ハル」という女性へ宛てた小さなぼろぼろの小包みである。茶色い包みは薄汚れていて紙の縁が綻んでいた。

ハルはごく普通の20歳の大学生。母親と2人で暮らしている。父親はハルが12歳の時に病気で亡くなった。父親は仕事人間でハルのことをほとんど構ってくれた記憶が無い。ハルは中学に上がってからも父親と喧嘩ばかりし、亡くなる直前までほとんど口も利かずに死んでしまった。どちらかというとハルは父親が嫌いだった。

ハルはおもむろに小包みを開くと中にはUSB メモリと一枚のメモが入っていた。メモには、

「ハル、これを使ってくれ 父より」

とだけ書かれていた。なんと差出人は8年前に亡くなった父親からだった。ハルはそっと小包みを机の中にしまいこんだ。

9月になり学校の健康診断を受けたあと、すぐに医務室に呼び出された。
なにかとても嫌な予感がする。
やっぱり悪い予感は的中し、翌日病院での精密検査でがんが見つかった。「原発不明がん」という治療法が確立されていない希少ながんらしく、ハルの治療の目処はたっていない。

──ハルは絶望の縁にたたされた。

そして、あらゆる治療法を探すなか「がんゲノム医療」というものを見つけた。がんの発症に関連した数百種類の遺伝子を網羅的に調べ、患者の治療や診断に役立てるという方法らしい。
調査の結果、いくつかの手掛かりにたどり着いたが、そのなかでも遺伝が関係していることがわかってきた。

ハルの体調は日に日に悪くなっていった。今は学校に行かないで病院に入院している。

──余命3ヶ月

ある日、小包みのUSBメモリのことを思い出して、パソコンでファイルを開いてみた。すると中には延々と意味の分からないデータの配列が書かれており、担当医の先生にその事を話してみた。
それほど興味無さそうに笑顔で覗きこんでいた先生の顔色が変わりはじめていくのが分かった。

「ど、どうして...」

そこにはハルのがん治療を特定する遺伝子情報が書き込まれていた。先生はこの情報をもとにハルの遺伝子の変異の原因を特定することができた。先生は奇跡だと言っていた。

──半年後

今日もハルはいつもと変わらぬ笑顔で大学に通っている。

8年前、原発不明がんで亡くなった父は、小さな小包みと娘への最後の望みをおじいちゃんに託した。

──愛する娘を守ってほしい

私のおじいちゃんは、今日も町内を駆け回りながらみんなに幸せを届けている。

今年も間もなくクリスマスを迎える。
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