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太古に眠る謎の少女
しおりを挟むハルは私の名を呼びながら何かに引き寄せられるようにライトブルーの球体に歩み寄っていった。空間全体がうっすらと水色に染まり、二人の歩く音だけが地下の広い空間に響き渡っている。何とも神秘的な光景は何もかも忘れさせるくらいに美しかった。
「アオ」とはポリネシア語で「光」を意味する言葉らしい。私は子供の頃、自分の名前の由来について良く母に聞かされていた。
あの時ハルが「アオ」の名を呼んだら扉は開いた。まるで何か魔法のような力が働いたのか、いやそんなはずはあるまい。
二人は太古の魔力に不安と僅かばかりの好奇心に包まれながら中央の球体を目指した。
空間の中心に近づいた時、水色に光る球体の中に人間のようなものが横たわっていることに気づいた。張り裂けんばかりに心臓の鼓動が高鳴り、ゴクリと息を飲み込みながら近づいて見た。
「まるで女性が眠っているようだね」
案外不安を見せず平気そうにハルがそう言うと、私も深く頷きながら「彼女」の瞳に吸い込まれるように見入っている。
まだあどけなさの残る美しい顔だちと、中世の騎士のような鎧を纏っている姿は、どことなく映画の世界を見ているようで不思議な感覚がする。
艶やかでみずみずしい唇は、今にも私たちに話しかけて来るのでは無いかと思われたが、彼女はその場でじっと眠ったかのように横たわったままであった。
◇◇◇
先ほどの地震の余震が続いており、天井からポロポロと石の欠片が降ってくる。このままここにいると石が崩れ落ちてくる可能性もあり、二人は一刻も早く地上に戻ることにした。
二人は階段を駆け上がりながら、彼女のことについて思いを巡らせていた。あれは太古のミイラだったのか、それとも現代に生きる人間だったのか全く想像がつかなかった。
「ちょっと、待って」
ハルが途中の美しい壁画をカメラに収めていた。まるでエジプトの太陽神「ラー」のような隼(ハヤブサ)の仮面を被った人物に見とれているようだ。
どうやらハルはこの絵が気に入ったのだろうか、さすが美大に通っているだけのことはあって、この絵に何かしらの共感点があるのだろう。
再び外に戻ると辺りは真っ暗となり、二人だけの世界は、より孤独に感じられた。
──今頃会社の仲間たちはどうしているのだろうか
ハルは南十字星を眺めながらうとうとと深い眠りについた。その横でハルの寝顔を見ながら水色の光に包まれた「彼女」の姿を思い出していた。
To be continued.
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