上 下
3 / 10

漆黒の世界に導かれて

しおりを挟む

「碧(アオ)」

このプロジェクトは君に任せる。先輩がそう言うと私の手は震え、全てが希望に満たされていた。

私の企画した「日豪共同によるクイーンズランド州クリーンエネルギー転換プロジェクト」がコンペを勝ち抜き、両国の合同プロジェクトとして採択された。全く信じられなかったが、最年少の私がビックプロジェクトを任されることとなり三名のチームメンバーも合流することになった。

そして私は息つく暇もなくすぐに現地スタッフに会うためにAN127便に飛び乗った...

──「碧(アオ)」

ハルは私の名を呼び後方を指差した。遥か先の海からブクブクと泡が出ているのが見える。するとその瞬間、カタカタと石と石がぶつかり合う嫌な音がしたと思ったら、直後に東日本を彷彿させる激しい衝撃が二人に襲いかかった。

「ハル、捉まるんだ」

石畳が波のようにうねり、その場でじっと四つん這いになることしか出来ない。無数の鳥たちがけたたましい叫び声をあげて島の周囲を飛び回っているが、空気中にもこの激しい振動が伝播しているようで彼らのぎこちない動きが、いっそう恐怖を引き立てている。

二人は恐怖の中を抱き合いながら、じっと時が過ぎるのを待った。この時間があまりにも長く感じられここに来てからの非現実的な出来事が走馬灯のように頭の中を過っていった。

◇◇◇

何時間経ったのだろうか。

大きな揺れはおさまり余震が続いているものの、立ち上がって辺りを見渡すと、先ほどの海面から黒い煙が上がっていることが確認出来た。どうやらこの辺一体は海底火山の巣窟であろうか、早く脱出しないとこの島自体が沈んでしまうのではないのかと悟った。

「あれを、見て」

ハルが指差すと石畳中央にあった青い石が無くなっており、そこには真っ暗な空洞が地下に繋がっていた。

「ハル、進むかやめるか二人で決めようか」

そう言い終わる前にハルは頷き、すぐさま踵を返して歩きだしたと思ったらこっちに駆け寄ってきて、

「やっぱり、一緒に行きましょう」

私の気持ちを悟ったのか、お互いの決心は同じ結論に達し、漆黒の世界へ足を踏み入れることになった。口を開けた遥か太古の漆黒は私たちを招き入れようとしている気がしてならなかった。

漆黒の世界を上から覗き込むが何も見えない。すかさずハルがポケットからスマホを取り出して僅かばかり残ったバッテリーでライトを点灯する。

そこには螺旋階段がどこまでも深く、地の底に導かれるかのように二人を運んで行こうとしていた。しかし、前に進むしかない。そう言い聞かせ二人は黒の世界に包まれていった。

To be continued.
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

何なりとご命令ください

ブレイブ
SF
アンドロイドのフォルトに自我はなく、ただ一人、主人の命令を果たすためにただ一人、歩いていたが、カラダが限界を迎え、倒れたが、フォルトは主人に似た少年に救われたが、不具合があり、ほとんどの記憶を失ってしまった この作品は赤ん坊を拾ったのは戦闘型のアンドロイドでしたのスピンオフです

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

謎の隕石

廣瀬純一
SF
隕石が発した光で男女の体が入れ替わる話

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

雪のしずく

優木悠
歴史・時代
――雪が降る。しんしんと。―― 平井新左衛門は、逐電した村人蓮次を追う任務を命じられる。蓮次は幕閣に直訴するための訴状を持っており、それを手に入れなくてはならない。新左衛門は中山道を進み、蓮次を探し出す。が、訴状が手に入らないまま、江戸へと道行きを共にするのであったが……。

処理中です...