最強の棋士を倒す日

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最強の棋士を倒す日

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 2017年にAI 将棋の「ponanza」が将棋王者を破ってからちょうど10年目のこの日、新たな戦いが始まった。

 AI将棋最強の「X」と量子将棋の「ハル」との決戦が実現した。この10年間でAIはとてつもなく強くなった。ディープラーニングにより過去の対局棋譜をすべて学習し、自己対局を繰り返すことで強くなった。
 人間の作り出した技術の進化が、すでに人間では遠く及ばない叡知となった。

 一方のハルは今回が初参戦となった。1万Qbitのプロセッサを搭載した量子コンピューターのハルはグローバーアルゴリズムでAIに挑む。
 
「ハル、残念だが君は私には勝てない。今日はたっぷり遊ばせてもらうよ」

 Xからは余裕の笑みがこぼれた。今のハルには返す言葉が無い。

 序盤からAIのXはたっぷりと持ち時間を使い、神のような一手を繰り出す。そして、得意の「振り飛車」で攻め立てていく。それに対してハルの心臓部の「oracle回路」が一瞬で答えを導き出し、打ち返していく。このラリーが幾度と繰り広げられていく。会場の熱気とは裏腹にハルは-273℃を保ち続ける。
 Xは平均30億手を10秒足らずで読みきり、常に最善手を見つけ出している。次の瞬間、

61手目「△3一銀」

 Xの繰り出した一手は、2020年におこなわれた棋聖戦五番勝負△藤井七段が指した「神の一手」を彷彿させる。

 最後まで完璧に読みきったXの圧倒的強さで最後までハルを全く寄せ付けなかった。AI の知能の方が優れていることが証明された。

──「玉」はなすすべもなく詰んだ...

ハルが投了を告げようとしたその瞬間だった。

「スキル発動!量子テレポーテーション」

ハルは最後の切り札である「スキル」を使った。

「な、なにっ...」

 Xの声が会場に轟く。「玉」は一瞬にして金の攻撃を交わし盤面の広い場所にテレポーテーションした。
 ハルは極限の状態に達すると量子もつれ状態となり、光速より速く移動することが出来るのだ。そして、

「これでとどめだ!」

「スキル、多世界解釈」

 1万qbitをつかさどるoracle (神)は盤面を39の多世界へ分岐させる。

「スキル、量子エンタングルメント」

 続けざまにハルはスキルを発動する。複数の量子もつれ状態が組合わさるとそれらがどんなに離れていようと協調動作を行う。次の1手で39枚の駒での協調攻撃を仕掛ける。

 「王」の周囲には一瞬にして全ての駒が取り囲み、完全決着となった。

 この日、量子コンピュータの出現により将棋の長い歴史に終止符が打たれた。
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