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第三章
再会 2
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薬を飲ませれば一週間程度で解毒できるそうだし、さっきまで吐いていた割には結構元気そうだ。
念のためステップを踏み、回復を早める術を施した。
聖舞師の能力はリエイムと身体を重ねた後も完全に消えることはなかった。
一千人の兵士に光の壁を作ることはもうできないが、こうして少しの舞術ならまだ効果を発揮してくれる。
存在を消されることと術力が消えること、二つも背負ってしまっては可哀想ではないかと気の毒に思った神が、もしかしたら少しだけ能力を残してくれたのかもしれない。
最もこれまでの二年間は祈りを捧げるだけで、このたび初めて相手(馬)に対して使ったが。
「良かったですね、グラニ。もう変なものを食べてはいけませんよ。あと、脱走もしちゃだめです」
怒られたのを自覚しているのかサニの顔をしきりになめる。
「……馬の名前は、まだ言ってなかったよな。なぜ知っているのだ?」
後ろで怪訝そうな声がした。エンゾと一旦室内に入ったのを見届けて気を抜いていたが、もう馬を連れに戻ってきたようだ。
馬に話しかける声を聞かれていたと知って、サニは固まった。
「……いえ、そんな気がしただけです。痛みに耐える顔が、とても勇敢そうだったので」
「なんだ。良かったな、名前負けしてなかったぞ、おまえ」
グラニはつまらなそうにリエイムに息を吹きかけた。いつかのやりとりを思い出したサニは笑いながら、グラニのたてがみを撫でる。リエイムは感心したように腕を組んだ。
「それにしても驚きの連続だ。この暴れ馬がこんなに人に懐いているところを、実に初めて見た」
「きっと、気が合うのでしょう」
「君、さっきサニと呼ばれていたな?」
「……はい。サニ・マラヤートと申します」
「こちらも申し遅れてすまない。俺は第二公子リエイムという」
「あ、えっと、存じております……」
「それは話が早い。最近馬丁が一人故郷に帰ると言って辞めてしまってな。良ければ城へ、馬の世話をしにしばらくの間通ってくれないか? ここが暇なときでいいから。俺もずっと城にいれるわけではないから、グラニを世話できるものがいなくて困っているのだ」
サニは困った顔を作り、獣医に判断を仰ぐ。エンゾは快く頷いた。
「この馬もしばらくは解毒剤を正しく処方することが必要です。サニ、通って差し上げなさい」
「では明日から、さっそく頼む」
サニは複雑な気持ちを表に出さないで、固い表情のまま頷いた。
念のためステップを踏み、回復を早める術を施した。
聖舞師の能力はリエイムと身体を重ねた後も完全に消えることはなかった。
一千人の兵士に光の壁を作ることはもうできないが、こうして少しの舞術ならまだ効果を発揮してくれる。
存在を消されることと術力が消えること、二つも背負ってしまっては可哀想ではないかと気の毒に思った神が、もしかしたら少しだけ能力を残してくれたのかもしれない。
最もこれまでの二年間は祈りを捧げるだけで、このたび初めて相手(馬)に対して使ったが。
「良かったですね、グラニ。もう変なものを食べてはいけませんよ。あと、脱走もしちゃだめです」
怒られたのを自覚しているのかサニの顔をしきりになめる。
「……馬の名前は、まだ言ってなかったよな。なぜ知っているのだ?」
後ろで怪訝そうな声がした。エンゾと一旦室内に入ったのを見届けて気を抜いていたが、もう馬を連れに戻ってきたようだ。
馬に話しかける声を聞かれていたと知って、サニは固まった。
「……いえ、そんな気がしただけです。痛みに耐える顔が、とても勇敢そうだったので」
「なんだ。良かったな、名前負けしてなかったぞ、おまえ」
グラニはつまらなそうにリエイムに息を吹きかけた。いつかのやりとりを思い出したサニは笑いながら、グラニのたてがみを撫でる。リエイムは感心したように腕を組んだ。
「それにしても驚きの連続だ。この暴れ馬がこんなに人に懐いているところを、実に初めて見た」
「きっと、気が合うのでしょう」
「君、さっきサニと呼ばれていたな?」
「……はい。サニ・マラヤートと申します」
「こちらも申し遅れてすまない。俺は第二公子リエイムという」
「あ、えっと、存じております……」
「それは話が早い。最近馬丁が一人故郷に帰ると言って辞めてしまってな。良ければ城へ、馬の世話をしにしばらくの間通ってくれないか? ここが暇なときでいいから。俺もずっと城にいれるわけではないから、グラニを世話できるものがいなくて困っているのだ」
サニは困った顔を作り、獣医に判断を仰ぐ。エンゾは快く頷いた。
「この馬もしばらくは解毒剤を正しく処方することが必要です。サニ、通って差し上げなさい」
「では明日から、さっそく頼む」
サニは複雑な気持ちを表に出さないで、固い表情のまま頷いた。
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