上 下
80 / 104
第三章

再会 2

しおりを挟む
 薬を飲ませれば一週間程度で解毒できるそうだし、さっきまで吐いていた割には結構元気そうだ。
 念のためステップを踏み、回復を早める術を施した。
 聖舞師の能力はリエイムと身体を重ねた後も完全に消えることはなかった。
 一千人の兵士に光の壁を作ることはもうできないが、こうして少しの舞術ならまだ効果を発揮してくれる。
 存在を消されることと術力が消えること、二つも背負ってしまっては可哀想ではないかと気の毒に思った神が、もしかしたら少しだけ能力を残してくれたのかもしれない。
 最もこれまでの二年間は祈りを捧げるだけで、このたび初めて相手(馬)に対して使ったが。
「良かったですね、グラニ。もう変なものを食べてはいけませんよ。あと、脱走もしちゃだめです」
 怒られたのを自覚しているのかサニの顔をしきりになめる。
「……馬の名前は、まだ言ってなかったよな。なぜ知っているのだ?」
 後ろで怪訝そうな声がした。エンゾと一旦室内に入ったのを見届けて気を抜いていたが、もう馬を連れに戻ってきたようだ。
 馬に話しかける声を聞かれていたと知って、サニは固まった。
「……いえ、そんな気がしただけです。痛みに耐える顔が、とても勇敢グラニそうだったので」
「なんだ。良かったな、名前負けしてなかったぞ、おまえ」
 グラニはつまらなそうにリエイムに息を吹きかけた。いつかのやりとりを思い出したサニは笑いながら、グラニのたてがみを撫でる。リエイムは感心したように腕を組んだ。
「それにしても驚きの連続だ。この暴れ馬がこんなに人に懐いているところを、実に初めて見た」
「きっと、気が合うのでしょう」
「君、さっきサニと呼ばれていたな?」
「……はい。サニ・マラヤートと申します」
「こちらも申し遅れてすまない。俺は第二公子リエイムという」
「あ、えっと、存じております……」
「それは話が早い。最近馬丁が一人故郷に帰ると言って辞めてしまってな。良ければ城へ、馬の世話をしにしばらくの間通ってくれないか? ここが暇なときでいいから。俺もずっと城にいれるわけではないから、グラニを世話できるものがいなくて困っているのだ」
 サニは困った顔を作り、獣医に判断を仰ぐ。エンゾは快く頷いた。
「この馬もしばらくは解毒剤を正しく処方することが必要です。サニ、通って差し上げなさい」
「では明日から、さっそく頼む」
 サニは複雑な気持ちを表に出さないで、固い表情のまま頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

獣人王と番の寵妃

沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――

母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。 しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。

君の運命はおれじゃない

秋山龍央
BL
男女の他にアルファ、オメガ、ベータの三つの性差がある世界。 そんな世界にベータとして転生した男、ユージは、報われないと思いつつも親友であるアルファのアシュレイ・オッドブルに恋をしていた。 しかし、とうとうアシュレイは『運命の番』であるオメガの少年・キリと出会ってしまい…… ・ベータ主人公(転生者)×アルファ ・アルファ×オメガのえっちシーンはありません

お試し交際終了

いちみやりょう
BL
「俺、神宮寺さんが好きです。神宮寺さんが白木のことを好きだったことは知ってます。だから今俺のこと好きじゃなくても構わないんです。お試しでもいいから、付き合ってみませんか」 「お前、ゲイだったのか?」 「はい」 「分かった。だが、俺は中野のこと、好きにならないかもしんねぇぞ?」 「それでもいいです! 好きになってもらえるように頑張ります」 「そうか」 そうして俺は、神宮寺さんに付き合ってもらえることになった。

大型犬Subのしつけは射精管理が大事

三谷玲
BL
25歳ブラックIT企業に勤める佐分利<サブ>はSubと言われる支配されたい性を持っている。パワハラ上司の無茶ぶりや顧客の急な仕様変更で、服従欲を満たしているつもりだったが、ある日繁華街で堂本というDomのGlare<威圧>を浴びたことで、本当のCommand<命令>の心地よさを知る。堂本に懇願しDomとSubで互いの支配したい、支配されたい欲を満たすためだけの、セックスをしないプレイだけのパートナーになってもらう。 完全に犬扱いされて楽しんでいたサブだったが、DomのCommandの耐性がなくすぐに勃起してしまい、呆れた堂本に射精管理されることに……。 Dom/Subユニバース(SM要素のある特殊性のある世界)の設定をお借りしています。 わんこ攻め×女王様受け/Sub攻め×Dom受け/ノンケ攻め×襲い受け ムーンライトノベルズにも転載しています。

愛欲の炎に抱かれて

藤波蕚
BL
ベータの夫と政略結婚したオメガの理人。しかし夫には昔からの恋人が居て、ほとんど家に帰って来ない。 とある日、夫や理人の父の経営する会社の業界のパーティーに、パートナーとして参加する。そこで出会ったのは、ハーフリムの眼鏡をかけた怜悧な背の高い青年だった ▽追記 2023/09/15 感想にてご指摘頂いたので、登場人物の名前にふりがなをふりました

処理中です...