深淵から来る者たち

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28、アビスゲート奪還作戦(後編)

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 衛星が91式戦闘攻撃機の射線軸に入った。
「フォックススリー、ハット」
 機体下につけられたミサイルが切り離されると同時にブースターに点火した。ミサイルに搭載したレーダーが標的である衛星をロックオンする。ミサイルが高速で衛星に接近していく。数秒後、直撃。ミサイルが4つめの衛星を吹き飛ばした。
 火球と共に宇宙空間に無数の金属とプラスチックの破片が飛び散っていく。そこを91式が推進剤の残留を残し通り過ぎた。
「ミサイル残弾ゼロ。引き上げる」
 ブラックナイト小隊の91式戦闘攻撃機が機首を変えた。
 艦隊の進行方向に点在していたレーダー衛星は掃討された。これによりアビスゲートからのロングレンジ攻撃の脅威は排除された。

「進行方面の衛星を撃破。遠距離レーダー網消滅しました」
「よろしい。艦隊、前進」
 ビクター・フレミング大佐が指揮する第一艦隊が進撃を再開した。
「ビッグアルファに近接していた浸食型駆逐艦(マーブルヘッド級)3隻が移動を開始。本艦隊に向かってくる模様」
「巡洋艦(マーブルヘッド)と他の小型艦の動きはどうか?」
「移動ありません」
 だがフレミング大佐の顔は浮かない。
「敵戦力が少ないのはいいことじゃないのか?」
 大佐の様子に気付いた艦長のピルスバリー大佐が声をかけた。
「まあ、そうなんだが……敵が戦力を割いて展開しているという事は、連中にそれなりの知性があるという事だ。それがこの戦闘にどう影響するか気になる」
「それくらいは、とな。いずれにしろ作戦は開始された。やるしかないだろう」
 ピルスパリーはフレミング大佐とは旧知の仲だ。ヘリウム戦争で艦隊戦を経験している老練な指揮官である。
「全艦隊に通達。戦闘態勢。火器に火をいれろ」
 艦長のピルスパリーは、CICに内線通話を入れる。
「戦術」
〈こちら、戦術〉
「総員第一種戦闘配置、砲撃戦用意」
〈了解! 砲撃戦用意〉
 待機状態だったデアフリンガー級航宙戦艦アンティータムの全戦闘システムが稼働した。高エネルギー粒子砲、対艦ミサイル、迎撃レーザーが作動し始めた。エネルギー攻撃兵器の各部にエネルギーが急速充填されていく。これで発射スイッチが入れば、反粒子の対消滅による膨大なエネルギーはビーム化される。

 艦隊は斜線陣のまま、接近する浸食艦隊に進路をとった。
「戦術、射程圏内に入り次第、砲撃開始」
〈了解〉
 アンティータムのレーダーが駆逐艦(マーブルヘッド級)をマークしていく。
 
 艦隊が緊迫したその時だった
「艦隊に接近する編隊を確認」
編隊?
援軍としてもそんな作戦も報告も受けていない
「所属は?」
「お待ちを」
 レーダー要員が困惑する
「友軍と自由同盟軍機の識別を確認しました」
「交戦中か?」
「……いえ。編隊が組まれたまま接近を続けています」
「何かの装置のトラブルでは?」
「チェックしましたが、レーダーシステムに異常はありません」
「呼びかけろ」
 通信手が接近中の戦闘機編隊に呼びかけようとした。その時、耳に僅かなノイズに気が付いた。
「どうした?」
「いえ、この宙域に多少の電波障害がありまして……大丈夫です」
 通信手は微調整して通信のノイズを消去する。電波障害がある宙域ではない筈だ。その違和感が気になっていた。
「こちら、アンティータム。所属と目的を知らせよ」
 戦闘機編隊からの応答はなかった。

 レーダー士官がレーダーを覗き込む。
「編隊、さらに接近中」
「編隊、呼びかけに応答しません」
 艦長は思案するフレミング大佐に声をかける。
「どう思う?」
「トブルクが援軍として91式を飛ばすには距離がありすぎるな。かといって周辺宙域の空母は、ビッグアルファ側面に移動中の第二艦隊のフォーミダブル。それと演習中の自由同盟軍艦隊を牽制する為に招集された艦隊の二隻の小型空母だけ。考えられるのは招集艦隊からなのだが……」
「何故、自由同盟軍機と一緒なのか気になる……か?」
「そういったところだ。威嚇してみよう」
「友軍だぞ」
「だが、自由同盟軍機もいる。これが何を意味するか」
「そうだな。危険な感じだよな」
 艦長はマイクを取る。
「CIC(戦闘指揮所)」
〈なんでしょう?〉
「接近中の編隊にレーダー照射しろ」
〈もう一度、お願いします〉
「接近してくるのが編隊は敵機の可能性がある。威嚇して様子をみる」
〈了解。接近の編隊にレーダー照射を行います〉
 戦術士官のランカスター大尉が戦闘システムを管理する部下たちに指示を出し始めた。
「よし、接近中の編隊に火器管制レーダー照射。冷や汗をかかしてやれ」
 だが、接近する編隊の行動の方が明確だった。
「ミサイル接近!」
 ランカスターの反応は早かった。相手の意図は分からないが射程圏外から発射されたミサイルは命中率が低い。だがアンティータムは巨体だ。命中の可能性は排除できない。
「ミサイル迎撃」
 接近するミサイルが射程圏内に入ると同時に迎撃ミサイル“インドラ”が発射された。
 レーダーでターゲットと迎撃ミサイルのポインターに注視した。ポインター同志が交差した。接近してきたポインターの数は、四つから二つに減っていた。撃ち漏らしたミサイルだ。
 即座に20㎜迎撃レーザー機銃“キーパー”が作動し、補足レーダーが接近するミサイルを捉えると自動追尾システムが作動した。有効射程圏内に入ったと同時にレーザーが発射されミサイルを直撃する。
 だがミサイルは爆破せず、そのままアンティータムに向かってきた。
「迎撃失敗」
 迎撃網を突破したミサイルは、アンティータムに直撃した。
 だが爆発は起こらない。
「被害状況は?」
〈船体を一部貫通しましたが不発のようです〉
「撤去は?」
〈可能かと思われます〉
「では、すぐに撤去しろ」
〈アイサー〉
 ピルスバリーは通話用の受話器を置いた。
「予感が当たったな。だがミサイルは不発。そこはツイてた」
 艦長のピルスバリーはそう言ったが、フレミングは、何故か違和感がぬぐい切れないでいた。
「艦隊は防空体制に入っている。しのげるかな」
「衛星の掃除を済ませたブラックナイト小隊をこちらに戻そう。防空を手伝わせる」
「91式の燃料が心配だ」
「ガス欠になったらこちらで拾ってやればいい」
「了解」
 ピルスバリーは、第二艦隊に移動中のブラックナイト小隊に連絡を入れさせた。
「あと、自由同盟軍の演習を監視している艦隊にも連絡を取れ」
「どうした?」
「攻撃してきたのはおそらく浸食された機体だ。そして編隊の中に自由同盟軍機もいる。これがどういう意味が分かるか」
 ピルスパリーは察した。対峙していた自由同盟軍艦隊と連邦統制軍艦隊の双方にがあったのだ。
 だがピルスパリーは疑問に思う。
 敵は、どうやって我々より先に艦隊と接触できたのか?

〈艦長!〉
 スピーカーから不発弾に対処しているダメージコントロール班からの連絡が入った。
「どうした?」
〈不発ミサイルの損害箇所から船内に異常発生〉
「どういう意味だ。正確に報告しろ」
 苛立ちながらピルスパリーは言う。
〈正体不明の粘液のようなものが急速に船内に広がっています。止められません!〉
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